#6-1.ねこいぬいぬおおかみこうさぎどらごん
翌日の事だった。
私は、たまり場でドクさんやレナさん(すごく珍しい)に、昨日あったことなんかを説明していた。
あの後、たまり場に戻った時にいたのは運営さんだけで、報告もしたし報酬も貰えたのだけれど……ナイツの人たちとかバケツ姫の事とかを聞いても「そうなんですかー困っちゃいますねー」と、曖昧な言葉で濁してそれで終わりになってしまったのだ。
マルタさんもその態度を訝しがっていたけれど、私としてもそのあたり気になったので、こうやってドクさん達にも意見を聞こうとしていたのだった。
「――なるほど、急にモンスターの配置が変わっていた、というのも気になるけど、その『ナイツ』という人たち、何かありそうだね」
ずっと腕を組んで、岩場の頂点から話を聞いていたレナさんは、顎に手をやりながら感想を呟く。
「ただの変わり者の集団、とも思えんなあ。そいつら、ラムを拠点にしてるって言ってたんだろ?」
ドクさんも思案顔だったけれど、すぐに岩の上に置いていたコーヒーを飲み始める。
「あ、はい。『お城でお茶でも』って言ってましたし、お城を拠点に、ラム周辺で活動してる人たちなのかなあって」
私も答えながらコーヒーを飲む。美味しい。
「かなりハイレベルじゃねぇか。あの城には上級モンスターもうようよいるし、何より『黒騎士』がうろついてるんだぜ。週一で湧く」
「黒騎士……?」
聞き慣れない単語。
そういえば、ラム自体はモンスターがうろついていたけれど、お城の方はどうなんだろう、と、別の疑問が浮かんでくる。
「『黒騎士バルバス・バウ』。ラムのお城のボスモンスターだよ。巨大な赤馬に乗った黒い鎧の騎士でね、まあ……すごく強い」
「物理防御は全ボス中でも上位クラスだし、基本AIが優秀らしくかなり嫌らしい戦い方をしてくる。ボスの能力持った上級プレイヤー相手にするようなもんだな」
「それは……なんか、すごそうですね」
説明だけ聞いてもよくわからないけど、ボスモンスターと聞くとマタ・ハリが真っ先に浮かんでしまい、ちょっと憂鬱な気分になる。
しばらくは、ボスモンスターはいいかなあって。おなかいっぱいなんです。
「まともに真っ正面から相手すると痛い目を見るタイプのボスだな。マントラップとか罠にはめて遠距離からがすがす削り殺すのが倒すコツなんだが……近接戦闘だと何人犠牲者が出るか解らん位には強い」
「つまり、そういうボスがいるのにあの人たちはお城を拠点にしている、という事ですか?」
ドクさん達が疑問に思っている点が、ようやく私にも掴めてきた気がする。
そんなに強いボスがいる場所を拠点にしていて無事なあの人たちは何者なのか、とか。
「私が見た限り、バケツ姫以外はごつい鎧をつけた、いかにも前衛とか盾職やってますみたいな感じなんですが……」
「魔法や罠を使うようなタイプには見えなかったってことか。ウィザードなら偽装で重装鎧着る奴も全くいないでもないが……まあ、実際に見てみないとなんとも言えんな」
もしかしたらそういう罠とか魔法とか使わなくてもごり押しできてしまうくらい強い人たちなのかもしれないし、ボスそのものとは戦わずに逃げて回っているのかもしれないけれど……でも、そんなところでのんきにお茶なんてできるのかな、と思うと、何か裏があるように感じてしまう。
昨日から変に疑心暗鬼というか、何か複雑な問題が起きてるんじゃ、とか考えてしまっている自分がいる。
「なんにしても、サクヤ達が無事でよかったよ。相手ともそれなりに友好的に別れることができたようだし……」
「だなあ。マルタ辺りは下手したら暴発しかねんし、そういう意味ではサクヤ達も相手も何事もなかったというのは運がよかったぞ」
とりあえず、謎は謎のまま、話の方向が少しずつ変わっていくのを感じた。
「でも、あの人たち、そういうロールなのかもしれませんけど、上から目線というか、ちょっと怖かったです……バケツ姫はいい人っぽかったですけど」
正直、ナイツの人たち……特にトーマスさんなんかは、ちょっと慣れないなあっていう気持ちがある。
そういうフリなのかもともとそういう人なのかは知らないけど、好きになれないタイプ。
「それがそういうロールなんだとしたら、お姫様の方も解っててそういうキャラなのかもしれんがな」
「結構本格的っぽいよね。色んなロールがあるけど、そこまでいくともうなんていうか、劇団か何かみたいだね」
二人とも、その辺りはいろいろ思うところがあるみたい。
でも、二人にとってはどちらかというと面白い人たちみたいな扱いなんだと思うけど、実際に会って威圧感たっぷりに話しかけられると引いてしまう。
私だって、ゲーム内では現実の私とは違う自分を演じてるっていう自覚はある。
だから、それも含めてロールが恥ずかしいっていう気持ちはないのだけれど……あの人たちは、なんとなくそういうのとは別の、うすら寒い何かを感じてしまって、見ているのが辛い。
感覚的には、そう、道を歩いていたら変な独り言ぶつぶつ呟いてる人に遭遇してしまったみたいな、そんな感覚なのだ。
……私は、もしかしたらすごくひどい子なのかもしれない。
「お姫様ごっこ、してみる?」
「えっ!?」
私の顔をじ、と見ながら、レナさんが突拍子もないことを言い出す。
「それはそれで楽しそうだな。サクヤがお姫様役な」
「えぇっ!?」
ドクさんもノリノリ。なにこれ。なんで突然こんなことに?
「やあやあ姫様、サクヤ姫、本日はすばらしいハレの日ですなあ」
戸惑っているうちにお姫様ごっこが始まってしまったらしい。
ドクさんがトーマスさんっぽい口調で私に話しかけてくる。お姫様って……お姫様って!
「え、えーっと……そ、そうですね」
「姫様、もっとお姫様らしい口調で話してみてください」
レナさんも楽しそうだった。すごく辛い。
「うぅ……ほ、本日は、とてもよいお日ごろで――」
「――ぷっ」
「ぶはっ」
――そして頑張ってお姫様言葉をひねり出したらこれである。二人揃って噴き出していた。死にたい。
「……うぅ」
恥ずかしいやら悲しいやらやるせないやらで、膝を抱えて縮こまってしまった。
なんかもう、話したくない。このままじっとしていたい感じ。
「サクヤにお姫様は無理だな」
「まあ、サクヤはお姫様というより可愛いマスコットだからね」
どうやら私はギルドのマスコットだったらしいです。
「でもマスコットはどっちかっていうとプリエラじゃね?」
「それもそうだね。じゃあサクヤは……なんだろう?」
どうやら私はギルドの……よくわかんないなにからしいです。
「サクヤは見てるとこっちが楽しくなるからムードメーカー的な何かか?」
「それは一浪の方じゃないかな……どちらかと言うと癒し系の小動物的な――」
どうやら私はギルドの癒し系小動物だったらしいです。
「子ウサギか?」
「子犬じゃないかな? サクヤ的には何がいい?」
「……猫で」
私は猫。気高いシャムネコが好きなのです。あのふてぶてしさとかが好き。
「なるほど、猫か」
「猫かー」
なるほどなー、と、しみじみ二人して私を見てくる。
何がなるほどなのかは解らないけれど。
「プリエラは犬だな」
「一浪も犬系だよねー。マルタは?」
「マルタさんは猫な気がします」
「あいつは狼だろう」
動物トークになってきたのでそちらでもいいかなあ、と、話に乗ることにした。
からかわれるのは嫌だけど、話題に乗るのは嫌いではないのです。
「ラムネは何かな?」
「ウサギだな。子ウサギだ」
「あ、ちょっと解るかも……」
あのふわふわした髪質とか、小さくていつも隅っこにいるのとか、なんとなく……そう、ケージの隅っこで丸くなってる子ウサギのよう!!
ドクさんよくわかってる! ラムネ君はウサギ!! もふもふの子ウサギ!!
「あの……セシリアさんは?」
段々ノッてきたので自分から聞いたりしてみる。
プリエラさんに一浪さん、マルタさんにラムネ君ときたら、次はセシリアさんしかいないでしょう! という軽い気持ちで。
「あいつは……ドラゴンかな」
「オロチかもしれない」
まさかの巨大生物だった。
「セシリアさん、あんなにいい人なのに……」
私の中のセシリアさんは日向ぼっことかよくしてる猫さんのイメージなのに。
この二人の中のセシリアさんっていったい……
「あいつはアレで化け物じみた強さだからな。なんとなく小動物っていう印象がない」
「本気になってる時に立ち会うとその恐ろしさが解ると思うけど……セシリアも、あんまり本気では戦いたがらないからそういう機会もないかな?」
どうやら私は、まだセシリアさんの本気を見ていなかったらしい。
見たいような、印象が変わってしまうなら見たくないような……複雑な気分。
「前に本気出したのはプリエラが不良プレイヤーどもに誘拐された時だな」
「その前はラムネがサキュバスの群れに誘拐された時だね」
「えぇぇ……」
プリエラさんもラムネ君も結構大変な目に遭ってるらしい。誘拐は怖い。
「あいつ本気になると重力無視するからな……ていうか物理法則無視するからな」
「一人魔法大戦だからね。マジョラムと魔法の撃ちあいしたら面白いことになりそう」
「まあさすがにマジョラムを一人で相手するのは無理だろうが……無いとは思うがサクヤ、あいつが本気出したら迷わず逃げるんだぞ。生半可な魔法耐性じゃ付け焼刃にすらならん」
「は、はぁ……」
どうやら本当にすごかったらしい。
憧れるけど、そこまで強くなるにはどうしたらいいのかが全然想像がつかない。
同じ魔法系のはずなのに……それとも、バトルメイジになれば私もセシリアさんの後を追いかけられる位にはなれるんだろうか。
「基本的に魔法職は暴走した時の破壊範囲が他と比べてすごいからね。前に暴走したウィッチを見たことあるけど、半狂乱になって街にメテオストーム落とそうとしてて大変なことになってた」
「えぇ!? ま、街に魔法って……」
中々にシャレになってない。だって、街には人だって住んでるし、通りには露店だって出てる。
買い物客だって、そこで暮らすタウンワーカーやNPCだっているはずなのに――そこに魔法を落とすなんて、信じられない。
「失恋が原因だっけか? 彼氏の浮気現場見つけて街もろともぶち壊しにしようとしてたって話だな。半年くらい前だよなあれ?」
「うん、そうそう。さすがドクさんだ、よく覚えてるね」
彼氏の浮気で街が危ない!!
理由がどうしようもなさ過ぎて脱力するけれど、この二人があっけらかんと話してるのを見るに、特に何事もなかったのだろうか?
「その……浮気が理由で街を壊そうとして……どうなっちゃったんですか? メテオストームって、確か超広範囲魔法ですよね?」
私の記憶が正しければ、メテオストームは術者の魔力次第では半径数百m~数kmが焦土と化す超魔法……だったはずだけれど。
今のところ、そういう悲惨なことになってる街は見たことがない。
「その時はメイジ大学のアークメイジが運よく居合わせててね、魔法そのものを無効化して事なきを得たんだよ」
「へぇ……アークメイジ?」
そういえば、大学の組織図の名誉職欄にそんな風に書かれていたのがあったような……うろ覚えではっきりしない。
「メイジ大学の組織の内訳は解らないけど、以前は学長がアークメイジだった頃があったんだよ」
「メイジ系列の最上位職らしいな。どうすればなれるのかは解らんが」
この辺りは二人も解らないらしい。ちょっと気になる。
「んん……今の大学の学長は、確かウィザードだったはずですから――そのアークメイジの人は、どうなったんでしょうね?」
「解らんな……教会の初代マスターもミゼルと同じハイプリエステスだったが、いつの間にかいなくなっていたらしいし――一定期間で代替わりするのかもしれんな」
ミゼルさんという人の事はよくわからないけど、それを参考に考えると、アークメイジの人も代替わりして今の学長に替わった、と考えるのが妥当なのかな、と、いう気になる。
実際は解らないけど、この場で納得するにはそれで十分。
-Tips-
黒騎士バルバス・バウ(ボスモンスター)
ラムの中心に位置する古城のボス。
巨大な黒鎧に包まれた黒い影のような姿をしており、常に相棒となる巨大な赤馬の背に乗り城内を闊歩し、侵入者を容赦なく蹴散らしてゆく。
主な武器として、手に持った長大な大剣を片腕で扱うが、そのほかサブ・ウェポンとしてクロスボウを携帯、また、馬による蹴りつけや轢き殺し、盾の投げつけなども狙ってくるため、近距離のみならず中距離でも安全圏とはいいがたい。
この他、単純な防御性能が全ボス中でも上位に入る為、単独で戦いを挑むのは自殺行為に等しい。
馬の機動性もあり、また、城内のモンスターも上級モンスターが多数存在するため、発見されたが最後、逃げ切るのは困難である。
上級ボスにありがちな取り巻きの大量召喚こそないが、それを補って余りある本体の総合能力の高さ、とりわけ上位プレイヤー並みの自由度の高い思考ルーチンが実に厄介な難敵である。
ただし、ドロップするアイテムはいずれも優秀かつ需要が高いものばかりで危険度に見合うだけの価値がある為、腕試しとばかりに挑戦する者も少なくはない。
種族:悪魔 属性:無
危険度(星が多いほど危険):★★★★★★★★
能力(星が多いほど高い)
体力:★★★★★★★
筋力:★★★★★★★★
魔力:★★★★★★★★
特殊:★★★★
備考:闇耐性100%(無効化)、全状態異常耐性90%、炎耐性30%、水耐性30%、雷耐性30%、聖耐性-60%、光耐性-100%




