#5-1.謎のバケツ騎士団
大きな声に驚かされ、振り向いた先にいたのは……バケツのようなフルフェイスの兜を被った全身鎧の大男だった。
いつの間にか集まったのか、同じような格好の人ばかりがぞろぞろとその後ろに控えている。
なんかちょっと怖いというか異様というか。気が付けば逃げ道が無い状態。
「誰よ貴方たち?」
マルタさんが訝しげに大男の前に立つ。
身長比がすごい。マルタさんもそんなに小柄っていうほどじゃないのに、すごく華奢に見えてしまう。
装備の違いも大きいのかもしれない。
マルタさんは軽装だけど、相手は重装備。全身鎧なのだから、その分大きく見えるのかも。
「我らはこの街の治安を預かりし騎士団『ナイツ』!!」
「……ナイツ? そういうギルドなのかしら?」
「そう受け取ってもらって構わん。まあ、実際には崇高なる使命の下結成された同志の集い、というのが正しいところだが」
何やら難しい単語がいろいろ聞こえてきたので、頭が痛くなってきた。
見ればエミリオさんもマルタさんも複雑そうな顔をしている。きっと同じことを考えてるんだと思う。
「その、崇高な使命を持ったナイツの人たちが私たちに何か用かしら?」
それでもまじめに話を進めるマルタさん。
いやまあ、話しかけられた以上無視するのも難しそうだし、何より相手の数も多いしで、話を聞かざれるをえないのかもしれないけれど。
一応、緊急脱出用に転移アイテムは用意してあるけど、プレイヤー同士であんまり確執を作るのもよくないし、話だけでも、というつもりなんだと思う。
「我らが用があるのは君たちではない。そのクリスタルだ」
大男が指さすのは、私が手に持ったエレナクリスタル。
どうやらこの人たちもこれが目当てだったらしい。
「あらそう。目的がかち合ったのね。でも、このクリスタルはこちらが確保したものだわ。地面に生えてる状態ならまだしも、引き抜いてアイテムとして入手した以上、取得権利は私たちにある、と考えるのが常識ではなくて?」
じろ、と、大男を下から睨むマルタさん。
だけれど、大男は怯みもしない。肝が据わってるのか、それとも甘く見ているのか――
「本来ならな。だが、この街は先ほども言ったように、我らナイツが管轄している。故に、この街で取得できる全てのモノは我々の管理物である、という事だ」
「狩場の独占はノーマナー行為よ?」
尊大に笑いながら見下してくるこの大男に、マルタさんは聞いてる私の方までぞわりとするような冷たい声で追及する。
私たちには絶対に向けないような声。
だけれど、それすら気にしないのか、あるいは声の変質に気づいていないのか、大男は嘲るように両手を広げながら語る。
「勘違いしてもらっては困る。君たちが狩場だと思い込んでるここは、すでに『狩場』などという低俗な存在ではなくなっているという事だ」
「なんですって……?」
「この『ラム』の街は我らナイツ、もっと言うならば、我らの主が所有している。所有者の許可なく侵入し、狩りを行ったり物品を物色していくなど、その方がノーマナーというものではないか?」
家主の理論、とでも言うべきか。
この人たちは、どうもこのマップを自分たちの所有物なのだと思い込んでいるらしくて、だからマルタさんの意見と食い違ったことばかり主張しているらしかった。
「……はぁ。平行線ね。お話にならない」
呆れたように大きくため息をついて見せ、私たちの方を向くマルタさん。
「いつからこのマップは、というか、モンスターの棲むマップを個人が所有できるようになったのかしら? 私はそんな話聞いたこともないわ」
「あはは……」
「困っちゃうね、ほんと」
正直「面倒くさい人たちと出くわしちゃったなあ」という気持ちの方が強かった。
できれば関わりたくない部類の人たち。
なんか事故的に遭遇してしまったけれど、何もなかったことにして帰ってしまいたい。
クリスタル、全然集まってないから帰れないけれど。帰ってもまた来たら遭遇しそうで嫌だし。
「悪いけど、『そういう』ロールプレイがしたいなら身内だけでやってくれないかしら? 他人を巻き込むのは感心しないわ」
もうまともにとりあう気もないのか、マルタさんは面倒くさそうに大男に意見する。
挑発しているというよりは、本当にもう、面倒くさいんだと思う。
「君たちが我らをどう思おうとそれは君たちの勝手だがな……参ったな、ここでそのクリスタルを渡してくれれば、我らは君たちに危害を加える気はないのだが……」
「それ、遠回しに『渡さないと危害を加える』って脅してるだけじゃないの」
「無論、そのつもりで言っている」
「……」
どうやら相手も譲る気はないらしく、段々と剣呑な状況になっていた。
マルタさんはもう、呆れを通り越して絶句。
いや、私も正直なんて言ったらいいのか解らなくなっていた。多分、エミリオさんも。
それからだんだんと、またぞわりとした感覚がマルタさんから滲み出てきているように感じて……すごくこの場から離れたかった。
それを感じてか、大男も、その後ろの人たちも、剣を手に、鞘から引き抜こうとしている。
話し合いだけで済まないのなら、もしかしたら……この人数相手に、私たちは戦わないといけないのだろうか?
対人戦闘なんてした事ないし、仮にやったとして、私は人を傷つけられるのだろうか?
なんとなく、胸の鼓動が高まっていくのを感じる。多分、緊張しているんだと思う。
喉が異様に乾く。ここからどうなってしまうのか、それが、どこか怖く感じてしまい、身震いしてしまった。
-Tips-
ロールプレイ(概念)
えむえむおー世界においては、プレイヤー個人個人が自分の思い描いた理想の自分や希望通りのなにがしかを獲得していることが多く、その理想や願望に沿った形の生き方を選ぶ者も多い。
これを『ロールプレイ』と呼び、ゲームの楽しみ方の一つとして広く認知されている。
ロールプレイには、主に以下のようなものがある。
1.現実世界より優れた・違った存在としての『自分』を演じるもの。
・現実世界では不細工な女性がゲーム世界で絶世の美女になり、恋多き女を演じるロールプレイ。
・現実世界では性別と精神構造に不一致があった男性が、ゲーム世界では精神構造に見合った女性キャラクターを演じるロールプレイ。
2.物語や自分の中の妄想などを基に、その中の登場人物になりきるもの。
・人気小説の主人公になりきり、設定に準拠した行動や言動で生活するロールプレイ。
・自分の中の妄想主人公になりきり、ヒロイン(ゲーム内には存在しない)を探し続けるロールプレイ。
3.仲間内での約束事を決め、そのルールの中で決められた役割を演じる、やや遊びとしての側面が強いもの。
・「激戦のさなか敵軍を探索し、殲滅する為森を徘徊する」という設定のサバイバルゲーム。
・一人の美少女プレイヤーを「姫」と呼びながらこれを守ったりちやほやしたりしつつも手を出したりせず、ひたすらに愛でるだけというロールプレイ。
4.魔物や悪人などになりきり、いたずら行為に及んだり意図して犯罪者としての生活をすること。
・モンスターになりきり意中ないし不特定多数の女性プレイヤーに襲い掛かったり驚かせたりするロールプレイ(後者は当然犯罪行為である)。
・不良プレイヤーとして犯罪行為に手を染めるロールプレイ(いわゆる悪人プレイ)。
えむえむおーそのものが『理想の自分』と『夢をかなえられる世界』の両立がなされている事が多く、多かれ少なかれプレイヤーは自身の願望や欲望に沿って何らかのロールプレイを楽しんでいるものと言われている。
この為、ロールプレイそのものは比較的受け入れられやすい土壌が出来上がっているが、当然ながら他者に迷惑をかけたり、その場の空気を台無しにするようなロールプレイはしない・押し付けないのがマナーであり、注意が必要である。




