#3-2.敵に回すと怖いハンター
「なんでサクヤなの?」
だけれど、ここでマルタさんが横から入ってくる。
「サクヤさん、最近は色んな所を回ってると聞きまして。技量も十分上がってきてるようですし、そんなに心配は無いかな、と」
あせあせしながら、マルタさんの方に向き直り、少し困ったように半笑いになる。
「……解せないわ。サクヤ、無理に受けないほうが良いと思う」
それを見てか、マルタさんはピシャリとそれだけ言って立ち上がった。
「えっ、でも……」
「運営さん。貴方、まだ何か隠してるでしょう?」
そうして運営さんに詰め寄るのだ。
「うぇっ!? な、何も隠してませんって。言うべき事は全部言いましたって!」
突然の流れに、運営さんも驚いたように目を見開きわたわたと手を前に出す。
表情こそ変わらないけれど、解る。マルタさん、怒ってる。すごく怒ってる。
「うわ……」
「ま、マルタさん……?」
私もエミリオさんもどうしたらいいか解らない。
突然の重苦しい空気。誰か助けて、と、助けを求めてしまいそうなそんな状況だった。
「それなら、『言うべきじゃないこと』も話しなさい?」
「うぐ……」
ぐい、と、運営さんの襟を掴んで引き寄せる。
マルタさんと運営さんの顔が、まるでキスでもしてしまいそうなくらいに近づき、運営さんは焦ったように顔を逸らした。
「は、話します、から……放して、くれませんか?」
心底困った様子で、運営さんギブアップ。
「そう、ならいいわ」
マルタさんもすぐに手を放し、くったりとその場に座り込んだ運営さんを見下ろしていた。
「……と、とりあえず、サクヤさんを選んだ理由は嘘じゃないですよ。私だって、別に誰でもいいと思ってお仕事の話を持ってきてる訳じゃありません。日常的にどんな狩りをしてるだとか、交友関係がどうとか、そういうのを調べた上で、今の時間帯でお仕事に乗ってくれそうな人を優先してピックアップしてるだけですから」
「つまり、エミリオの事は知っていたという事ね?」
「う……」
抗議めいた目で見上げながら説明をしていたけれど、マルタさんの指摘に、運営さんは再度、話し難そうにそっぽを向く。
運営さんも嘘つきさんだった。大人ってみんな嘘つき。
「まあ、能力面でサクヤを評価した、という点は間違ってるとは思わないわ。採集とはいえラムはそれなりに危険な場所だし。不慣れな人に任せるのは怖いでしょうからね」
「そ、そうですよ。廃都ラムはゾンビやお化け蝙蝠などがいますから……でも、難易度的に初級者くらいの人なら丁度良いかなあって」
批判しながらも、とりあえず一部では認めるようなマルタさんの台詞に、運営さんもちょっとだけ勢いを取り戻す。
「でも、ラム位なら貴方一人でもいけるはずだわ。それこそ人に任せるまでもなくできる。こうやってお話してる間にね」
だけれど、その勢いをマルタさんが封じ込める。
なんだろう、このもぐらたたきみたいな壮絶に何も始まらないループ。
「いやあ、その、それは――他はともかく、廃墟マップはちょーっと、行きたくないというか……」
「何故?」
すごくいいづらそうに口ごもる運営さんに押しかかる言葉の重圧。
「……ゾンビ、ダメなんです。子供の頃映画で見てからもう、そういうの全然ダメで」
観念したようにうなだれながら、運営さんはそんな哀しいことをぽそり、呟くように言う。
「あら、そうなの?」
マルタさんの声の重みが、ちょっとだけ緩んだ気がした瞬間だった。
「うぅ……他の人には内緒にしてくださいよ? 笑い話にでもされたら私、立ち直れません……」
「まあ、隠しておいたほうが良いでしょうね……」
どうやら運営さんにとってはあまり触れて欲しくない弱点だったらしく、線目の端から涙が零れ落ちていた。
「は、恥ずかしい……っ、人に弱み握られちゃったよぅ……」
そのまま顔を手で覆うようにして座り込む。
普段明るい運営さんの、ちょっと可愛く感じるエピソードだった。
「……とりあえず、依頼、受けることにしますね」
お話的に、なんとなく空気が悪かったのもあった。
ここまで話して依頼まで蹴ったのでは運営さんが流石に可哀想、という、ちょっと同情的な考えから、依頼を受けても良いかなあって思うようになったのだ。
「えっ、本当ですか!?」
運営さん、文字通り飛びあがって私の手を取る。
さっきまでへこたれてたのにすごい変化。
「別に変な事企んでる様子もないし……大丈夫かしらね」
そのままやんややんやと手を上下する運営さんと、されるがままの私。
マルタさんもこれ以上は反対するつもりもないらしかった。
「ありがとうございますサクヤさんっ! いやー、良かったー、断られたらどうしようかと思ってましたー」
「いやそのっ……わ、私だけじゃなくて、誰か協力者とか募ってもいいんですよね?」
「勿論ですっ、何人で参加してくださっても構いません。参加した分だけ報酬は払いますよ。流石に五人とか十人とかなると目減りしますけど」
私一人で受けるの前提みたいに話してたので心配になったけれど、私はもう、一人で狩りをする事はあんまりないのだ。
初めての場所なら尚の事、一人で行くのは避けたかった。
「それじゃその、エミリオさん、一緒に来てくれますか?」
「もち。サクヤ中心で話が進んでたし、誘われなかったらどうしようかと思ってたよ」
にや、と悪戯っぽく笑ってくれる私の相棒さん。頼りがいがあった。
「私も一緒に行くわ。ラムなら何度か行った事あるし」
少しの間何か考えるように顎に手をやっていたマルタさんが、私に視線だけ向けてそんなことを言う。
すごくありがたかったけれど、意外な参戦だった。
「助かります。マルタさん」
「一緒に狩り行くのはじめてだねー、よろしくね、マルタさん」
私もそうだけど、エミリオさんも笑顔で受ける。
実際問題、知らない人だけで歩くのは不安だったし、知ってる人がいるのはそれだけで安心感があった。
「――勿論、運営さんが該当マップまで送ってくれるのよね?」
流し目ながらに。
準備の為立ち上がる私達を横目に、マルタさんは運営さんにちら、と、視線を向ける。
「うぇっ!? そ、そこまでサービス必要です?」
運営さん、突然の流れ矢にびくん、と、身を震わせていた。
本当に不意打ちだったんだと思う。安堵したところに突然の不意打ち。怖い。
「当たり前じゃない。転送三回分よ? 私はともかく、初級者には結構な出費だわ」
「ていうか、その分の経費も勿論出しますけど……」
「……まだ何か隠してるような」
「出しますっ、ラムまでの直通ポタ出しますからっ! さあ皆さん早く準備してきちゃってください!!」
私には「これ以上の追及は勘弁して」と言っているように聞こえてしまった。
そんな悲鳴じみた運営さんの様子に、マルタさんはどこか勝ち誇ったように「そう」とだけ言って、悠々と街へと歩いてゆく。
「い、いいのかなあ……」
「マルタさん相手に口げんかだけはしないようにしとこう……」
エミリオさんと二人、マルタさんの怖さを思い知りながら、敗者の如くその場にへなりと座り込む運営さんをそのままに、街へと向かった。
-Tips-
ガードナイト(職業)
ガード職系上位職の一つ。通称『盾』『壁』『囮』。
その通り名の通り防御特化の職であり、PTやタクティクス戦においては敵の攻撃や魔法を盾で防ぐことを是とする。
多様な防具選択が可能で、スキルによって対魔法防御も底上げできるために非常に硬い。
重装によって鈍足になりがちだったガード時代とは異なり、『ナイト』系列でもある為馬に騎乗することによって機動性を高く維持することも可能で、さらに通常時よりも高所からの攻撃・防御が可能となっている。
反面上位職にも関わらず攻撃スキルはほとんど存在せず、ガード時代のシールドバッシュが最も効果的なものとなっている為、ソロプレイには全く向いていない。
総じてガード系のプレイヤーに求められるのは防御力とPTプレイでのコミュニケーション能力であり、それらを持ち合わせていないと様々な局面でつらい思いをすることになる為重要である。
主なスキルとして魔法耐性を大幅上昇させるパッシブスキル『マギカキーパー』、
呪いや病気などの効果や進行を一定量減衰・遅延させられるパッシブスキル『フィットキーパー』、
敵の攻撃を受けることによってテンションが跳ね上がっていくパッシブスキル『アドレナリンMAX』などがある。
ほとんどパッシブスキルである。




