#3-1.運営さんの依頼
「どもー、運営の方からきましたー」
照明用の魔法のグリモアを買う為に狩りを続けることこの数日。
もうそろそろお金たまったかなー、と思ったあたりで、たまり場で寛いでいる時に、運営さんが現れる。
相変わらず可愛らしい白色統一のミニスカ、ブラウス、ベレー帽、編み込み靴。
靴下まで白い辺り、ドロシーさんと真逆に思えてしまう。
「お久しぶりです、運営さん」
「こんにちは。久しぶりに見たわね」
たまり場にいたのは私の他に、狩りの後だったのでそのままお喋りしていたエミリオさんと、なんとなく座っていたのだというマルタさんの二人。
エミリオさんは運営さんと会った事がないと言っていたのだけれど、初めてのその姿に驚いていた。
「ふわー、この人が運営さんなの? へぇ、へーっ」
じろじろと周囲から色んな角度で見て回ってる。
別にそんな、角度変えても白い服は白い服のままだと思うのだけれど。
「こちらの方は? シルフィードさんの新入りさんなんです?」
自分の周りをくるくると回る不思議な剣士の姿に、運営さんは首をかしげながらマルタさんを見る。線目のままで。
マルタさん、ちょっとだけ考えるようにして返答。
「ええ、昨日入ったばかりの子よ」
マルタさんは嘘つきだった。
「そうなんですか? 初めまして! 私こちらのギルドにお世話になってます者で、よく『運営さん』と呼ばれています。どうぞお見知りおきを~」
「うぇっ!? ま、マルタさん、ちょっと!!」
運営さんはあっさり信じ込んでしまう。焦ったのはエミリオさんの方。
というか、私も驚かされる。
「いえあの、エミリオさんは私のお友達で、ギルドの人ではありません、よ……?」
これ以上混乱させるのも悪いし、すぐにフォローに入る。
「あれ? そうなんですか? もーマルタさんったら! からかわないでくださいよー。私、人に言われたことすぐ信じちゃう純粋な子なんですからー」
ちょっとあざとく見えるけど、頬を膨らませ、コミカルに抗議する運営さん。
「……純粋? 誰が?」
そしてマルタさんは冷ややかだった。
「えー、私以外に純粋って言ったらそこのサクヤさん位でしょう?」
運営さん、食い下がる。というか私を巻き込むのはやめてほしい。
「サクヤ『は』純粋かもしれないけれど、運営さんはそうは思えないわねぇ」
暗に腹黒だと言ってのける、この切れ味の鋭さ。
これが無表情で繰り出されるのだからマルタさん怖い。
「まあ、女は秘密の一つや二つ持ってるもんですからねぇ。それはおいといて――」
運営さんもさほど傷ついた様子も無く、線目のままによによと私の隣に腰掛ける。
「本日は、サクヤさんにお仕事の依頼をしたくてこうしてきたのです」
久しぶりに、と、白いベレー帽を取ってぽむぽむ弄りながら、説明は続く。
「今回サクヤさんにお願いしたいのは、『エレナクリスタル』の採集です。『廃都ラム』ってご存知ですか? リーシアから転送三回の場所にある廃墟マップなんですけどー」
とんとん拍子で話が進んでしまう。
エミリオさんも話が始まってからは私の隣に腰掛けてきたので、運営さんとエミリオさんに挟まれる形に。
「いえ、行った事はありませんね。廃墟マップですか……」
「『メイガスの塔』の南よね。確か、大きなお城が中心にあるところでしょう?」
私には覚えが無かったものの、マルタさんは知っていたらしい。
お城がある廃墟っていうとレイオス伯爵城が一番覚えがあるところだけれど、やっぱりアンデッドの巣窟なのだろうか。
「そうそう、さすがマルタさんはよくご存知ですね! そのラムが一番手っ取り早く採取できる場所なんです。七つほど、掌大のモノを取ってきていただければ十分ですのでー」
「私はそのエレナクリスタル自体がなんなのかわかんないなあ」
「私もです。どういったものなんですか?」
エミリオさんが解らない事を聞いてくれたので、ありがたく私も乗っかる事にした。
当たり前のように運営さんの口から出たけれど、新人には解らないのだ。
「私も初めて聞いたわ。なにそれ」
マルタさんも知らなかったらしい。いよいよ以って謎の物体だった。
「えーっと……これ言っちゃっていいのかな? ううん、説明が難しいんですけど、新実装されたアイテムらしいです、よ?」
運営さん、いい淀んで詰まった挙句にはっきりとしない説明をして、なんだか怪しい。
「サクヤ、断ったほうがいいわ」
間おかずしてマルタさんがばっさりと斬り捨てる。
でも、解らないでもない。
だって、運営さんがはっきりとしない依頼って、なんだか怖い。
「ちょっ、待ってくださいよマルタさんっ! そんな横からいきなり……こちらにも色々と事情がありまして」
流石にいきなり拒絶されそうになったのは焦ったのか、運営さんは手をわたわたさせながら言い訳を始める。
「待たないわよ。事前の説明を怠ってサクヤに何かあったらどうしてくれるの? そのエレナクリスタルとやらが危険な物質だったら貴方、どうやって責任取ってくれるのよ?」
「うぐ……き、危険な物質じゃないですよぅ。ただその……ある種の病気に良く効く、特効薬の材料になるというか」
「もっとはっきりと仰いなさいな。人に依頼する態度でなくてよ?」
何故かお嬢様口調になるマルタさん。
表情はさっきからそんなに変わってないはずなのに、口調の変化だけですごく重い威圧感があるように感じられるから不思議。
「うぐぅ……わ、解りましたよ。きちんと説明しますから。そんな怒らないで」
空気の重さに耐えられなくなったのか、運営さんは待ったとばかりに手を前に出して、弱ったように眉を下げて頭を垂れた。
マルタさんもそこでそれ以上追及するのをやめて、運営さんの説明を待つ。
「まず、エレナクリスタルですけど、つい先日の『マイナーパーツアップデート』で実装された新アイテムです。廃墟マップや洞窟にしか発生しない結晶石で、緑色の光を放っています」
しずしずと立ち上がり、説明を始める運営さん。
手振りも込みで、大体の結晶のサイズが示される。
「最大でも腕一本位のサイズにしかなりません。路端のキノコみたいに普通に地面に生えてるものでして、引っこ抜くのも同じ感覚でできちゃいます」
「取ったら消えちゃうんですか?」
「一時的には。ですが、植物同様一定時間経過でランダムリスポーンしますので、とり過ぎで絶滅とかそういうのは気にしなくておっけーだと思います」
「薬草取りに行く感覚でよさそうだね」
「そうですね」
とりあえず数に限りがある訳で無いなら、それ自体は気軽な存在なのだと思えた。
その気になればいつでも採れるのだろうから、後は場所の問題なんじゃないかなって。
「私としては、『マイナーパーツアップデート』とやらが実装された事自体が初耳なんだけどね……いつの間にそんな事されてたのよ? 一浪君だって何も言ってなかったわよ?」
「んー、プレイヤーが察知するのは難しいと思いますよ? 私自身、言われなければ多分解らなかったでしょうから……いつの間にか、世界が書き換えられてるんですよ」
やってる事はとんでもない事のように感じるけど、さらっと説明されてしまうのはゲームだからだろうか。
いつの間にか自分の日常が書き換えられてても、私達は気付けないのだろうか。不安になってしまう。
「ただ、このアップデート、細部でかなり変更点が多くて。例えば、一部旧型装備の性能が微妙に上方修正されていたり、敵がドロップするアイテムの内容や確率に変化があったりもします」
詳しくは情報サイトを参考にどうぞ、と、軽くなげながらも、運営さんは指を一本、顔の前に立てる。
「ですが、その中でも一番大きいのは『状態異常:グール化』と『状態異常:吸血鬼化』でしょうかね。どちらも早期に回復させないとアウト。モンスター化してしまいます」
怖い。この人すごく怖い事さらっと言ってる。
モンスターに変化とか洒落になってない。
「今まではそういうのって、その場にハイプリエステスがいないと不可能とかそういう無理ゲーな条件下じゃないと直せなかったわね? レイス化とか」
「そうなんですけど……今度のアップデートから、その手の『モンスター化する状態異常』を治したり、発症を遅らせることが出来るアイテムやその材料が実装されたんです」
そこにきて、ようやく話が繋がったように感じた。
「つまり、エレナクリスタルがその材料なんですか?」
「ええ。アルケミスト・アカデミーでも実証されましたので、恐らくは確定かと。ですから、私達としてもサンプルとしていくつか持っておきたいんですよ」
運営さんの依頼。それ自体はすごく大切な事のように感じる。
けれど、行く先は全く知らない廃墟マップ。
情報は人に聞けばいいとしても、色々怖いことがあるかもしれないと思うと、すぐには踏み出せない。
「報酬は金貨五千枚。追加として装備アイテムも用意しています。受ける受けないはサクヤさん次第ですけど、採集クエストでこのクラスの報酬が支払われる事はそうそうない、とだけお伝えしておきますね」
つまり、それだけ特別な、あるいは時間が迫っている、という事なのかもしれない。
「お急ぎですか?」
「それなりに。できれば今日この後にでも向かってもらえればありがたいです。無理なら……他の方にお願いしますが」
やっぱり急ぎらしい。ちょっと躊躇ってしまうけれど、いつも余裕ある運営さんが焦ってるようにも見えて「早く結論を出さなきゃ」と、こちらでも焦ってしまいそうになる。
-Tips-
アンデッド(種族)
『えむえむおー』世界における不死系モンスターの総称。
『死なない死体』ではなく『死ぬことのできない死体』という意味での不死であることが多い。
その名の通り死体でありながら動きまわり、生者を中心に襲い掛かる。
所詮死体な為非常に不潔なことが多く、ほとんどのプレイヤーは敵としてはともかくとしても存在としては嫌っているが、極稀に愛好している者もいる。
知性が乏しいものが多いものの元人間のアンデッドは犬や猿程度の知恵は持っていて、人に慣れる。
このため、非常に悪趣味ながらペットとして飼うことも可能である。
モンスターとして見た場合の傾向としては、多くが火属性・聖属性・光属性に弱く、闇属性を無効化・吸収する。
毒や病気、呪いといった状態異常は無効化するが、麻痺やスタンは効果があり、ヒーリングなどの本来治癒に使う奇跡によって大ダメージを受ける。
ゾンビのようにのったりと歩く者もいればグールのように人とそん色ない運動性を持つ者、スケルトンのように骨だけの者もおり中々に多様であるが、一貫して聖職者に弱く、これに該当する職に就いている冒険者相手には攻撃力が激減する。
アンデッドと混同されがちな存在として吸血鬼と霊種族があり、前者は『死ぬことのない生者』としての不死種族、後者は実体を持たない精神体である為別扱いとなる。
ドロップアイテムは個体差が非常に激しく、生前身に着けていた衣服や装備品のパーツ、骨や歯などがほとんどであるが、稀に宝石や貴金属などを落とす個体もおり、夢がある。
この為、聖職者系の冒険者はアンデッド狩りを中心に生計を立てていることが多い。




