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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
5章.正体不明のお姫様(主人公視点:サクヤ)

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#1-2.奢りという言葉には弱い少女サクヤ

「フレアツールの素晴らしいところは、その応用方法の多様性にある。まあ『百聞は一見に』というからな、見てみるがよい」

試験場。普段は魔法の試し撃ちとかに使う場所で、ここで覚えたての魔法を練習したりする。

週に一度、正式なマジシャンやウォーロックになる為の制式試験と、上位職にクラスアップする為の昇格試験が行われるのもここ。

そのほか、実際に魔法を使ったり体を動かすような事は大体ここでやると覚えておけばいい、と入学した時に教わった。

練習以外で来る事はあんまりないけれど。

『世界に溢れる炎の呼び子よ、我らが世界を明るく燃やせ。我らが世界を熱く燃やせ――フレアツール!』

かぁっ、と、ハイアットさんの眼鏡が怪しく光ると、前に突き出した杖の上に火の玉がボウン、と発生する。

「おお……こ、これがフレアツールなんですか?」

杖の先の炎は、杖を焼いたりはせず、そのままに球形を維持しようとくるくるその場で燃え盛っていた。

なんというか、他の炎系の魔法にはあんまりない光景な気がする。私は見たことがない。

「ふふん、まあ、これが基本形だな。このように杖なり棒切れなり、対象とした場所に発生し、その場に留まり続ける」

ぶんぶんと杖を振り回す。けれど、炎はブレながら杖に追随し、常にその先にあった。

振り回されすぎて消えたりすることもないみたいで、火の粉を落としながらもすぐに元の形に戻っていく。

「んん、確かこの辺りに……おお、あった」

それからハイアットさんは空いた手で懐をもぞもぞとしはじめて、やがて紙切れを取り出す。

「それは?」

「なに、ただの油取り紙だよ」

特別何か効果のあるものではないらしくて、ちょっとがっくりくる。

「まあ、こういう燃えやすいものを、この炎に近づけると――」

だけれど、ハイアットさんは紙をその辺にぽい、と落とし、落ちた紙に向けて杖先を近づけていく――炎の先が、紙に触れた途端、紙は炎に焼かれ、黒く白くなっていった。

「あ……燃えるんですね」

然様(さよう)。これが炎属性の特徴だな。フレアツールは、松明のように火種として役立てることが可能なのだ」

そんなに大きな紙ではなかったのですぐに燃え尽きてしまったけれど、なるほど、これならいざという時に便利かもしれない。

火種として使えるという事は、いざという時にこれで攻撃する事も可能な訳だし、ハイアットさんの言っていた『拡張性の高さ』というのもちょっと頷けた。

「まあ、これは時として負の特徴にもなるがね。人に向けば火傷させかねないし、知らぬ間に服や荷物に炎が燃え移る、なんて事にもなりかねない」

「取り扱いが難しい魔法なんですね……」

炎として出ているのなら、当然酸欠にも気をつけないといけないし、やっぱり使いにくい魔法かもしれない。

ただ、役に立たないというよりは、使用者の気の配りよう、考えようが大事な魔法という印象を受ける。


「単純な光源として扱うのならライト・ウィスプの方が有用だろうね。だが、小さな虫や蝙蝠、小動物なんかは炎を避ける性質があるから、そういうのを避けたい時にはこちらの方が便利だ。ライト・ウィスプは光るだけで、そこには何の接触判定もないからね」

ポワン、と、空いた片手でライト・ウィスプを発動させて手の平大の光の玉を宙に浮かせるハイアットさん。

フレアツールは詠唱してたのに、こっちは無詠唱どころか魔法の名前すら声に出さない。

それも別属性と同時発動とか何気にすごいことをやってる気がするけど、今は説明に集中しないといけない気もした。

「どちらか一方というより、状況で使い分けたほうがいいってことですか?」

「そうだね。ただ、我輩としては炎属性であるフレアツールを一押ししたいが……正直、初級狩場をうろついてる程度の腕前なら、気にすべき事、考えるべき事が多いこれを使いこなすのはしんどいかもしれぬ。メイジかバトルメイジかは解らぬが、上位職に就ける位になってから覚えたほうがいいだろうな」

お値段は安いけれど、実用性を考えると使い勝手よりも私の技量不足の方がネックになってくるらしい。

ハイアットさんの指摘がどこまで正しいのかは解らないけど、なんだかんだ、魔法の説明をしてる時は嘘を言ったりからかったりはしない人だから、信頼できる。

「解りました。参考にして、もうちょっと考えてみて、それからどっちを使うか決めます」

とりあえず、今見たもの、ハイアットさんからの説明、指摘、それと私自身の技量と緊急性、そして何よりお財布を加味して、もう一度考え直す事にした。

「うむ。まあ、照明用の魔法はあればあったで狩場の幅が広がるから便利だとは思うがな。焦らず考えるといい」

「はい。ありがとうございました」

「うむ。ではな」

ぺこりとお辞儀すると、満足げにニヤリと笑って、ハイアットさんは実習室から出て行く。

私はというと、さっきの魔法の光景を思い浮かべて、イメージし終えてから出た。



 結局、熟慮の末、ライト・ウィスプが買えるまでお金を貯めることになった。

フレアツール自体は私の技量待ちみたいな感じで。

ライト・ウィスプがあれば必要ない気もするけれど、教わってからなんとなく気になってしまったのだ。

こうなると、後は狩場にするダンジョンの選定もしたいところだけれど――


「むむむ……よし、いこっ」


 大学から出て、空を見てみればさっきよりもちょっと暗い曇り空。

まだもうちょっと位なら大丈夫かな、なんて思いながら歩く。

目的地は……依頼酒場。

冒険者の沢山集まる酒場なら、沢山の情報が集まる。

効率のいい狩場についての情報や今現在危険な事になっている狩場の噂みたいな、冒険者が欲しい情報がその時その時、生で手に入るのが強み。

コミュニケーション能力が洗練されてないとそういう人たちと話を合わせるのがちょっと難しいけど、今日の私は強気。頑張ろうと思う。


「あれ? シルフィードの新人の子じゃない?」

頑張ろう、と、ちょっと気合を入れて踏み出した途端、横から声が掛かる。

なんとなく、この踏み出した足が哀しい。私のやる気、返して。

「……返してください」

つい、声に出てしまった。

「え? なんて?」

相手の人も眼を白黒させている。

まあ、いきなり変な事言ったらそうなるよね。

「あの、なんでもありません……」

とりあえず誤魔化す。


 今更だけど、私に声をかけてきたのはちょっと思いあたりがないお姉さんだった。

髪の色は赤なんだけど、知り合いの中にはこの髪色で腰位まで届くほど長い人はいないし。

着ている服も、泡模様なオレンジのワンピースにちょっと可愛いサンダルという、あんまり見ない格好。

個人的にはポニーテールのリボン部分がちょっと気になってしまう。

全体的に可愛い系の服装なんだけど、眼鏡が細い大人っぽいのだったり、お化粧が大人びてたりで微妙にミスマッチなのも残念かな、なんて余計な事を考えてしまう。


 そうこうしてる内に、ずずい、とお姉さんが近づいてくる。

ちかいちかいちかい。

「……へぇ、マジシャンっていつも似たようなローブばっか着てると思ったけど、ちゃんと中に普通の服着てるのね。ちょっと可愛いじゃないそれ」

ちら、と、私のローブをまくって、その下のノースリーブをじろじろ見てくる。

恥ずかしい。街中でこれは、かなり恥ずかしい。

「あ、あの、やめ――っ」

「うーん……こうやって隠してるとあんまり前に出てこないけど、むしろ出過ぎないからいいのかしら? 中々奥が深いわねぇ」

お姉さんは一人、勝手に何かに納得しながら私のスカートまでまくろうとする。

「いやっ、そ、それはちょっと――」

――それはっ、それは流石に勘弁して欲しいっていうか!

人前だしっ! 街中だし!!


「何してるのローズ? 街中よ?」


――かくして救世主現る。

窮地に陥っていた私を助けてくれたのは、最近見慣れてきた黒髪黒猫耳黒猫尻尾のプリエステス。

黒いふりふりなドレス姿のドロシーさんだった。


「……うん? ローズ……さん?」

「いやー悪い悪い! なんかこう、可愛い服見てたらつい探究心が芽吹いちゃったって言うかー……あれ? どしたの?」

そういえば「なんとなく覚えがある声だなあ」なんて思っていたところだった。

ドロシーさんの呼んだ名前。それから、ちょっと悪戯っぽく笑う顔に見覚えが。

「っ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

――そう、ローズさんだった! 『あの』ローズさんだ!!

「うわっ、な、何よいきなり!?」

「あああ、す、すみませんっ! すみませんでした!!」

急に親近感というか、慣れが前面に出てくる。

知らないと思っていたお姉さんが実は普通に知り合いの人だった。これは恥ずかしい。

ドロシーさんとローズさんも、突然大声を出した私に驚きながら、二人して顔を見合わせている。



「――ぷくっ。わ、私を見て誰か気付かなかったのかー、それならそうと言ってくれればいいのにさー」

そして事情を説明すると、二人して笑い出していた。

「ふふっ……ま、まあ、戦ってる時の姿しか知らないと、どうしてもそちらのイメージで覚えてしまうものね」

「うぅ……すみません」

まさにドロシーさんの言っている通りだったのだ。

戦ってる時の軽鎧にショートパンツ姿ばかりがイメージとして固まっていたので、まさかこんな普通の……可愛い系の服をチョイスして街を歩いてるなんて思いもしなかったのだ。失礼かもしれないけど。

「ちぇっ、ひどいなあもう。私だって人並にお洒落くらいするし! 戦ってない時は女の子してるし!!」

「あれ、でも前に見た時は、ローズさんの髪ってグレーカラーだったような……」

髪の色も違うし、ショートだった髪がすごく伸びてるのが、解らなかった一番の理由な気がする。

まあ、お化粧とかしてるのもあるんだろうけど。

「うん? ああ、これ、ウィッグだから」

もそもそと頭のてっぺんをいじって、ぱさりと赤髪の束を外してみせる。

ここにきて、ようやく見覚えのあるローズさんになった気がした。

「おおぉ……そ、そういうのもあるんですね。なんでもあるなあ」

「元々は無かったらしいけどね。ファッション関係って拘り強い人が多いのか、プレイヤーが色んな知恵振り絞って現実風に仕上げてるみたいよ?」

「ふわぁ……すごいんですねぇ、人の叡智って」

なんにもないところから材料集めや工夫の末にこういうのができあがるんだと思うと、中々に感慨深い気がする。

椿油とかもそうだけど、そういうのを思いついて実際に実行に移せる人ってすごいなあと思う。


「サクヤ、私達は色んなお店を見て回ってたんですけど、どうです? ご一緒に、お茶など」

「ちょっと一休みしようと思って。美味しいパフェ食べさせてくれるお店があってねー?」

とっても魅力的なお誘いだった。

パフェ。ああ、なんて魅惑的な言葉。

「あ、で、でも、私今ちょっと……」

でも、そんな心の贅肉にお金をかける余裕なんてないのです。

ただでさえこの黒髪という最上級の贅沢にあらん限りのお金を費やしてるのだから、それ以外の贅沢は我慢すると決めていたのです。

だから、そんな誘惑には――

「もちろん、お誘いした以上は(おご)りますよ?」

「是非ご一緒させてください」

――私は誘惑に弱い子だった。甘いものには勝てなかった。


-Tips-

ウィザード(職業)

魔法職系上位職の一つ。『魔導師』などの呼び名がある。

ウォーロック系統の前衛・中衛職で、万能型。

蒼系のローブや魔導プロテクトなど、この系統の職業としてはやや防具にこだわりが感じられるのが職業カラー。

それ以外はメイジ・バトルメイジに近い。


魔法職でありながら前衛としても戦える点はウィッチと似ているが、超広範囲魔法は『メテオストーム』ではなく『サンダーストーム』である。

また、箒などは使わずに杖や剣で戦い、転移魔法を用いて瞬間移動を行う点も異なる。


扱える魔法の系統も攻撃力が高めのウィッチと異なり状態異常や付与効果などが重視されたものが多く、搦め手によって翻弄する戦術が活かせるならば対人戦闘では無類の強さを発揮する。

反面、サンダーストーム以外の超広範囲魔法を不得手とする為、火力面においては他の魔法系上位職には一枚も二枚も劣ってしまう。


特徴的なスキルとして、ウィザードの代名詞たる超広範囲雷属性破壊魔法『サンダーストーム』、

瞬間移動による高速行動が可能となる転移魔法『テレポーテーション』、

剣や杖に付与する闇属性付与魔法『セイントスレイ』などがある。

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