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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
プロローグ.シルフィード (主人公視点:ドク)
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#4-2.第一回新人をギルドに引き込もう会議

「……」

「……」

残った俺と一浪はしばし沈黙していた。なんとなく、話すことも無かったのだ。

「さてと――」

そして、おもむろに一浪が立ち上がる。

「どこにいくつもりだ」

俺はその背に向け声をかける。

「え? いや、ちょっと街に」

「いいから待ってろよ」

「いやでも」

「覗きがばれたらお前――ギルドから蹴られるぞ?」

ぎくりと動きが止まった。図星だったらしい。

「ち、ちげぇし!? プリエラ達が戻ってきたときの為にお菓子とか用意しようと思っただけだし!!」

わたわたと変な動きをして弁解し始める。わかりやすい奴だった。

「いいから座ってろ」

「……解ったよ」

何を言っても無駄と思ったのか、素直に俺の前まで戻ってきて座る。


「まあ、俺も何度か覗こうと思ったことがあったんだ」

「だから俺は――ってあんた覗いたのかよ!?」

しょんぼりとしていた一浪をなんとなしに不憫に思いフォローしようとしたのだが、一浪は別のところが気になるらしい。

「覗いてねぇよ。未遂に終わったけどな」

「覗こうとはしたのかよ」

「当たり前だ。俺だって男だぞ」

可愛い女の子が風呂に入っていると聞けば覗きたくなるのが男というもののはずだ。少なくとも俺はそう思っている。

だからそれ自体は否定しない。

「だがな、いざ覗こうと女風呂に近づいた時、プリエラが俺の気配に気づいたのか、いきなり俺の名前呼びはじめやがってよ」

「マジかよプリエラ怖ぇ」

「あいつの勘の鋭さは馬鹿にならんぞ。普段ぽけぽけしてるように見えてかなりの部分を直感だけで生きてるからな」

そう、俺が一浪を止めたのは覗きに反対するからじゃないのだ。

プリエラがいる時にやったら十中八九バレる。そしてバレたら吊るし上げられた挙句ギルドから蹴られる。

「俺だって、そんな馬鹿なことで仲間を失いたくは無いからな……」

「すまなかったドクさん!! 俺が間違ってたよ!! あんたいい奴だっ」

解ってくれたらしい。

一浪は感極まって涙まで流しているが、これは端から見るとかなり気持ち悪い光景なのではなかろうか。



「それはそうと一浪よ、実際サクヤを見てどう思った?」

とりあえずこんな光景他のメンバーに見られて変な勘違いでもされては困るので、話題を変えることにする。

都合よくサクヤの話が新鮮だ。使い勝手も良かった。

「んー……そうだなあ」

一浪はというと、顎に手をやりながら考えていた。

「まず面白い子だって事か。なんかコミカルだ」

「うむ」

「そんでもって必死すぎて可愛い。自分が初心者だった頃の事思いだすぜ」

「そうだな」

「ドクさんが何考えてるのかは解ってるつもりだ。俺は良いんじゃないかと思うぜ?」

ニヤリと俺の顔を見てそう答えた一浪に俺も満足し、頷いた。

「そうか。プリエラもマルタも反対はしなかったからな。今度マスターが来た時にでも――」

「呼んだかい?」

直後、俺のすぐ後ろから声。

「うおぅっ!?」

流石に驚かされた。不覚にも変な声をあげてしまう。

「……マスターじゃねぇか」

振り向けば小柄な銀髪の戦乙女。青いラインの入った真白のロングスカートが揺れる。

我が『シルフィード』のギルドマスター・レナックスであった。


「や、久しぶり」

しゅた、と手を挙げながらにこやかあに笑ったかと思えば、俺達の間に座った。

「ほんと久しぶりだな」

「一月ぶり位じゃね? 今まで何してたのさ」

目線が丁度良い高さになった辺りで、俺も一浪もマスターに言葉をかける。

「はは、ごめんね。色々と探しものがあってさ。まだ見つかってないけど……なんとなくふらっと気が向いて」

気が向いてで本業のギルド運営に戻る辺り、このマスターは実にてきとーな奴であった。

「サブマスターに全部押し付けてそれはひどいんじゃないのかマスターよ」

「頼りになるサブマスターがいるからこそ、マスターの私は安心してギルドを離れられるんだよ? サブマスターさん?」

そのてきとーさを皮肉ろうとした俺の顔を、下から覗き込むように微笑みかけるマスター。

「むぐ……こやつめ」

意外とそういう仕草にはドキリとしてしまう。中々に(したた)かな奴だった。

「マジかよドクさんいつの間にサブマスターになったんだ!?」

どうやら一浪は俺がサブマスターだった事を知らなかったらしい。

「最初からそうだよ……ていうかマスター不在の間いつも俺がイベントとか企画してたじゃねーか」

愕然としてしまう。

マスターが居ない間ギルドを運営してたのは俺だというのに、俺の努力はギルドのメンバーに認められていないという事だろうか?

「ああ……あの『チキチキ女の子だらけの水着狩り大会――ポロリもあるよ』とか『黄金のカブトムシ争奪戦! この夏輝くのは君だ!!』とか企画したのドクさんだったのか……」

「ぷぷ、相変わらずダサいネーミングだね」

マスターは酷い奴だった。折角頑張って考えたというのに。

「でもうちのギルドで企画したイベントって大体参加者男ばっかだよな。水着大会の時も虫集めの時も女で参加した奴一人もいなかったぞ」

「ああ、女子は勝手に皆で狩りしてたり花火大会見に行ったりで悲しい思い出になったな……」

思い出しながらにへこんでしまう。

ギルドの皆で少しでも交流を温められればと考え企画したイベントは、その実失敗に終わる事の方が多かった。

狩りに誘えば来る奴は多いのだが、そればかりではつまらないだろうと考え色々とアイデアを出しているのに、今一報われない。

「ドクさんは実行役には向いてても企画者には向かないんだよ。そういうのはセシリアとかプリエラの方が向いてる」

何が楽しいのかクスクスと笑いながら、マスターは持論を展開する。

「私もドクさんも戦うくらいしか能がないんだからそれを活かせば良いんだよ」

とても集団のリーダーとは思えない脳筋発言だった。

「あんたはそうだろうが俺は違うんだ。こう見えて理数系なんだ。理論的に物事を考えるタイプなんだ」

「どうみても感性特化の変人だろうが」

一浪も賛同はしてくれない。俺は孤独だった。集団の中にあって孤独であった。



「まあ、いてくれるなら都合が良い。マスターよ、一つ相談があるのだが」

とりあえず、折角なので先ほどの話をマスターに振ってみることにしたのだが。

「なんだい? お金なら生憎とそんなに手持ちはないんだけど……」

「困ってねぇよ!? ていうかあんた一人でボス蹴散らすんだから金なんて腐るほどあるだろ!?」

「そんな事は無い。いろんな町や村で投資に使ったら即尽きたよ」

どうにもこのマスター、俺という人間を見誤っている気がしてならない。

「それで、ドクさんの『相談』というのは、さっき私の名前を呼んでた事と何か関係が?」

このまま茶化されるのかと思ったが、とりあえずは聞いてくれる気ではあったらしく。

じ、とこちらの眼を見ながら、俺の言葉を待ってくれていた。

「実は――」



-Tips-

ハラスメント(ルール)

『えむえむおー』世界においては現実世界と比べかなり縛りの無い生活を送ることが可能であるが、それでもプレイヤー間での軋轢(あつれき)を避ける為、最低限のルールは用意されている。

ハラスメントとは、相手の気持ちを考えない一方的な行い、嫌がらせをさす問題行為である。

性的な嫌がらせをしたり強要したりする『セクシャルハラスメント』が問題として最も多いが、その他公共の場での他者を顧みない行い『モラルハラスメント』やゲーム内での力関係を根拠に押し付けてくる『パワーハラスメント』なども問題視されている。


これらを行ったプレイヤーは、被害を受けた・あるいは受けそうになったプレイヤーの通報によって運営サイドから吟味され、最高で永久追放の処置を受けることとなる。

また、財産などは罪量に応じて没収され、それまで積み上げた知識や経験も忘却させられるため、そのプレイヤーにとっては死にも等しい扱いを受ける事となるケースも少なくない。

ハラス、ダメ、絶対。

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