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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
4章.ギルド活動!(主人公視点:ドク)

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#9-1.生存成功

 ボロボロと崩れてゆく世界の中、うすぼんやりとした感覚だけが残った。

俺達は誰一人動くことが出来ず、ただ、消え去った歌姫の跡をぼーっと眺めていた。


「――ありがとう」


 不意に、耳裏に残る、妙に響く声が聞こえた。

そうして、ぽうっ、と、俺達の回りに、さっきまで一緒になって戦っていた冒険者たちや村人の姿が浮かび上がる。

「これでようやく、眠れるよ」

声の主は、歌姫の恋人だった剣士だった。

眼を閉じたまま動かない恋人を腕に抱きながら、神妙な顔で俺達を見つめる。

「お前らは、一体……」

体は動かない。金縛りのようなものだろうか。他のやつらも、やはり動けないらしかった。

だが、口だけは開ける。声は発せられるらしい。


「俺達は、あの襲撃イベント(・・・・・・・・)に抗いきれず、全滅した冒険者。それから、この村の住民さ」

「俺らは、ネズミの群れに負けたんだ」

「最初の襲撃を退けたその日のうちに、ネズミの大群に襲われてな……」

「最初こそ凌いでたけど、急に百日ネズミがレイスになっちまってな……もう、どうしようもなかった」


 そいつらは口々に、自分達の身の上を語る。

俺達は口を挟む事も出来ず、じ、と、その言葉に耳を傾ける事しかできなかった。

いや、口を挟んじゃいけないような、そんな気がしたんだ、きっと。



「あれは、悪い夢だったんだ――夢で終わらなきゃいけなかったのに、いつまでも夢は終わらなかった」

「戦いの中で、この娘の『歌』が聞こえたんだ」

「その途端に、ネズミの眼が赤くなった……多分、ミレニアちゃんは悪気はなかったんだろうけどな」

「ああ、きっとそうに違いない。違いないが……それが、俺達の全滅の原因だったんだろうな」


 剣士の抱く歌姫は、眼を閉じたまま動かない。

そんな彼女に眼を向けながら、虚ろな存在となったさっきまでの仲間達は、どこか寂しそうに笑っていた。


「俺達は皆死んだ。死んだはずだったんだ」

「死んだはずだったのに、気がつけばこの村に囚われていた」

「悪い夢ばかり繰り返し見させられていたよ。天に上ることすらできやしなかった」


 そうして皆俯き、ぽつり、ぽつりと、事のあらましを語り始める。


「――死んだはずなのに、囚われていた?」

ずっと聞き手に回っているつもりだったが、気になる事は無視できなかった。

「ああ……ミレニアが、いいや、ミレニアの姿をした『何か』が、俺達を、過去に縛り付けていたんだ」

心底悔しげに、恋人を強く抱きしめる剣士。

もう動かなくなったミレニアは、しかし、どこか幸せそうな顔になっていた。


「関係の無い人まで巻き込んでしまった。元々ここにいた人たちだけじゃない。偶然ここに来た人まで巻き込んで、ソレは行われていたんだ」

剣士が見渡すと、うすぼんやりとした何人かが、困ったように視線を落としていた。

「……さっき俺たちが見ていたのは、幻覚だったのか?」

「ああ。この村に訪れた者を無差別に巻き込む、過去を演じる為の舞台のようなものらしい。俺達は、いつの間にかそこに囚われ、同じ過去を何度も繰り返させられていたんだ」

――過去を繰り返す舞台。そこまで聞いて、ようやく俺は理解した。

見れば、ドロシーも一浪も気付いたのか、はっとしたような顔をしている。

「……そうか。正式実装直後の襲撃イベント。さっきのは、その再現だったのか……」

だから、こいつらは下位職や、装備品の型が古い奴ばかりなのだ。

最初の襲撃の時、ロクに基本も知らない奴ばかりだったのも仕方なかったのだ。

正式実装直後なんて、初心者ばかりだったんだから。


 今の時代なら当たり前のように初心者に教えてくれる奴が現れるが、当時はほとんどが初心者ばかりで、そいつらに何かを教えてやれるほど、上級者は育っていなかった。

皆自分の事で一杯いっぱいで、教えられるようなほど余裕がある奴なんて少なくて。

だから、初心者は些細なことが原因で殺されたり、死んでしまうことが多かったのだ。

今はそういった経緯から、初心者は出来る限り各ギルドや中級以上のプレイヤーが見つけ次第保護するのが常識になっているが、全て初期の犠牲の上に成り立っているシステムと言える。


 納得がいった。

そういえば、当時は死体が中々消えなくて、別の意味で眼のやり場に困ったな、と。

白い骨がいつまでも残っていたのはそういう事だったらしい。

さっきまで追い詰められすぎてそんなところにまで頭が回らなかったが、それすら、舞台とやらに乗せられて追いたてられていた事になるのか。

そうなると、俺達は皆して役者のように劇を演じていた、滑稽な奴らになる訳だが。


「だが、それももう終わりだ。この辛すぎる悪夢は、ようやく終わったんだ」


 劇から解放された演者はどうなるのか。

舞台ならばカーテンコール。観客の喝采を前に挨拶するところだが。

そうなるとこれは、その舞台挨拶のような状況なのだろうか。

確かに全員揃って、そして、俺達の顔を見ている。


「――もう一度言わせて欲しい。ありがとう。貴方達のおかげで、ようやく眠れるよ」


 そいつらは頭を深く下げ。そして、嬉しそうに笑っていた。

消えてゆくのは自分達だろうに。

それほどまでに辛い日々だったのだろうか。

酒場ではあんなに愉しそうに笑っていたこいつらが。戦いの中、あんなに頑張っていたこいつらが。


「ありがとうアニキ」

「ドクのアニキのおかげで、俺達、何にも知らずに消えるなんてことはなくなったぜ」

「次の世界なんてものがあるかはわかんないけど、きっと次は(・・)楽しめるよな?」

「みなさん、ありがとうっ」

「わたし、きっと次ではドロシーさんみたいなプリエステス様になりますからっ」

「一浪さん、最後の方、かっこよかったですよ! 惚れちゃったかも!?」

「いやはや……こんな事言うのは柄じゃないがね。恩にきるぜ。次に会うことがあったら、また頼む。今度は、助ける側になりたいがな」


 口々に礼の言葉を言うこいつらに、俺達はなんて返したら良いか解らなかった。

こいつらは、俺たちが救えなかった(・・・・・・・・・・)奴らだ。

このゲームでは、死んだ奴がどうなるかは誰にも解っていない。

死んでも別のプレイヤーとして継続してプレイする事ができると聞いた事はあっても、実際にそれがどのようなことになるのかを説明できる奴は未だにいないのだ。

誰にも解らない。こいつらがこの後どうなるのか、誰にも。


 だから、笑って見送る事なんてできやしなかった。

笑っているこいつらに、どんな顔をしたら良いのか、解らなかったのだ。


「――すまない、最後にちょっといいかな」


 ピシリピシリと空間のひび割れが酷くなっていく中、一通り礼を言い終えたのか、一浪と同じくらいの若い戦士が俺達の前に立つ。

あんまり見覚えは無いが、一緒になって戦ってた奴なんだろうと思う。

「今もまだいるか解んないけどさ……もし『カイゼル』って奴に会ったら、よろしく伝えておいてくれないかな? デュエリストをやってる奴なんだけど……」

「……カイゼル?」

唐突に出た聞き覚えのある名前に、つい、声が上ずってしまう。

「襲撃イベントの防衛に誘ったんだけどさ……そいつだけ、その日にはこなくて。いや、こなかったからきっとそいつは無事に生き残ってくれてると思うんだけど……だからさ、『気にしなくて良いから』って、もし俺達のことを気にしてるようだったら、そう伝えておいてくれないかな?」

「どんな顔なんだ? 名前だけじゃ、被りもあるかもしれんしな」

「スキンヘッドのいかついおっさんだよ。筋肉質でちょっと強面なんだけどすごくいい奴でさ。『ロカが言ってた』って伝えてくれれば多分解ってくれるんじゃないかと思うけど……やっぱ、時間が経ちすぎてるかな?」

どうやら俺の思い当たりで正しいらしい。

あの親父め、意外とハードな過去を持ちやがって。

「オーケ、任せとけ。ていうか、俺の知り合いだわそいつ」

「マジで!? 世間は狭いんだなあ……ありがと。もう十分だわ」

感謝感謝、と、かなり軽いノリで手を振りながら、にこやかあにそいつは下がっていく。


 そうして全員が再び俺達を見て、にこり、声も無く微笑んで――ボロボロと崩れゆく世界と一緒に、背景のように消えていった。


-Tips-

偽造天聖歌アヤマチノエンゼルソング(奇跡)

効果:生命変異(プレイヤーに対しては身体能力の向上・モンスターに対しては上位同系統モンスターへの永続変異)

本来ごく一部の女神と熾天使(してんし)のみが歌う事の出来る天聖歌(ゴスペル)を、一介の創造物に過ぎない人間が真似て歌う事によって発生する負の奇跡。

あくまで真似ているだけで、本来の歌詞を構成する言語は人間には決して発声できない為、このような事になる。


同系統の奇跡である神聖詩(ゴスペル)と異なり本人の意思で発動する事はほぼ不可能で、主には歌い手の感情が大きく揺さぶられた時などに発動する。

半ば暴走に近いもので、状況次第では非常に危険である。

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