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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
4章.ギルド活動!(主人公視点:ドク)

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#8-2.千年ネズミとの戦いにて

「ドロシー、すまんが一通り済んだら小一時間くらいあいつらを休ませてやってくれ。ちょっと離れるから、その間頼むわ」

あらかたの準備がもう少しで済むということで、後をドロシーに任せることにする。

「解りました……ドクさんは?」

「いざトレインするって時に邪魔が入ると困るからな……今のうちに近くのネズミどもを潰しておく」

釘バットを手に、むん、と、構えてみせる。

それが面白かったのか、緊張気味な顔をしていたドロシーは口元を抑えて目を細めていた。

「それ、一人でやることですか? それこそ皆さんの力を借りればいいでしょうに」

「危険な事だからな。バーテンがレイスに噛まれてたのもあるし、もしかしたらまだどっかにレイスが潜んでるかもしれん。俺ならポーション使えば自力で回復できるが、他の奴はそうもいかんだろうから、人には任せられんな」

「でも、ドクさんだって範囲攻撃を持ってるわけではないですから、数に囲まれたら危険ですよ? テレポートも使えないみたいですし……」

「まあな。精々慎重にいくさ。そんな訳で支援をかけてくれ」

こんなのはただの前哨戦だ。実際に千年ネズミとの追いかけっこをするよりは、かなり楽なはずだ。

「解りました。お気をつけて」

支援依頼を受けて、ちょっと驚いたような顔をしながら、またにこりと微笑んでくれる。

そうしてすぐに祈りの姿勢に入り、両膝をついて奇跡を願う。

『愛しき女神よ、私の大切なこの人に、どうか女神のご加護を――グロリアス!』

祈りの言葉はすぐに届き、俺の足元から円環の光が包み込んでくる。

体が軽い。最初の襲撃の時にかけてもらったものと比べて、かなり効果が高いように感じた。

「……さっきと祈りの言葉が違うのな」

「個人向けの奇跡ですから……その、プライベート用ですが」

「なるほどな」

ギルドメンバーにしか使わない奇跡という事だろうか。

どこか照れてるように見えるドロシーだが、後を任せて周囲のネズミの駆逐に回ることにする。



「――ふん!」

釘バットを振る。ネズミの群れは吹き飛んでいった。

「どりゃっ!」

釘バットを叩き付ける。灰色の地面は赤色じみた汚い色に染まっていく。

「おん――どりゃぁぁぁぁぁっ!!」

釘バットで薙ぎ払う。まとわりつこうと飛びかかるネズミどもをばったばったと薙ぎ倒す。

「いちっ!?」

そして、噛みつかれる。足元からだ。奴らは足先からよじ登ってくる。

ズボンの中に入り込み、脛をかじりながら腹の肉に食いつき、そして首筋を噛み切ろうとしてくる。

一匹や二匹じゃない。来る時は何匹か同時。そしてそれに構ってる間に、さらに大量の群れが迫ってくるのだ。

「このっ――」

その場に倒れこみ、じたばたとのた打ち回る。

ぶつり、ぶちりと嫌な音を立てながら、俺の身体のどこかで気持ち悪い潰れる様な感触。

まあ、すぐに消え去るから良いのだが、死体が残ってる時代だったら色々悲惨だったかもしれない。


 トレイン予定の進路上近くにいたネズミを駆逐する頃には、月の位置も大分変わっていた。

後一時間か二時間もすれば、遠くの方から明るくなってくるのではないか。

なんだかんだ、夜間ずっと何がしかしていたので疲れも感じ始めていた。

――そろそろ、頃合か。

みんなの休息も終わった頃だろう。さあ、最後の戦いにいこうじゃあないか、と。

ぼろぼろになった司祭服をマントのように肩に掛け、噛み傷・引っ掻き傷だらけの足にポーションをぶっ掛けて歩き出す。



「皆、しっかり休んだか!? 各々やることは確認してあるな? 覚悟は決まったか?」

俺達の最後の希望たる物見台は、中々に勇壮な外見のように思えてきた。

この前で、みんなの前で最後の音頭を取る。

「作戦は簡単だ。俺が千年ネズミをトレインしてくる。できるだけ余計なもんは連れてこないつもりだが、それでも取り巻きの数は一万前後はいるはずだ」

「……」

一万もの取り巻き、と聞いて、皆一様に息を呑んでいた。

実際にそれを目にすれば圧巻だろうが、先に覚悟を決めてもらわないと、反応が遅れてはこちらも命に関わる。

「まあ、一万って言ったってネズミだ。石の一発も当たれば死ぬようなネズミだからな、物見台の上の奴らは、各々手元の武器や石でネズミの山に向けて攻撃し続けてくれ。どこに千年ネズミがいるのかも解らんから、狙いは難しくつけなくてもいい」

「俺達はそれで解りましたけど、上位職の人たちは……?」

ルーキーズの一人が挙手しながら質問してくる。

「その人らには各々伝えてあるが、ガードナイトの人には物見台の上への階段の死守を頼んである。ドロシーと茜は例によって物見台で支援とその護衛、バトルマスターの人は、俺からちょっと距離置いてバトルクライやなんかで援護してくれ。場合によっては肉弾戦になるかもしれんが……」

「構わんよ。この状況下、むしろ血湧き肉踊るというものだ」

ムキムキと腕の筋肉を見せながらニヤリと笑って見せてくる。この場では心強い限りだった。


「マジシャン二人は、俺やバトルマスターの人が力尽きたり危ないと思ったら、迷わず北側にある枯れ木や周りの森目掛けて火をつけろ。やる前に香水や化粧油を撒くのを忘れないようにな」

「くくく、我輩の活躍どころがいよいよ来たわけだ」

「あ、あくまでお兄さん達が危ない時にやるんですからね? 聞いてるんですかハイアットさん?」

……マジシャン二人は、まあ、ドロシー達が上手く扱ってくれるだろう。そう思いたい。



「さて、作戦開始だ……生きて帰るぞ!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「やってやるぜ!」

「アニキ、頑張って帰ろうな!!」

「いくぞぉぉぉぉぉっ」


 こうして、千年ネズミとの決戦が始まる。



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

千年ネズミのトレイン方法は、主には三つある。

一つは、餌を点々と置いていき、おびき寄せる方法。

チーズでも肉片でもパンでもいい。とにかく食い物になりそうなものを置いていく。

奴らは基本何でも食うが、栄養価の高いモノに優先して群がる習性がある。

それを利用して呼び餌として使い、その真下などに罠を置いていく。

所詮ネズミなので、そこまで賢くないため、何度でも罠にかかってくれる。

物資に余裕があって、罠の扱いに長けたハンターがいるなら有効な手段だが、今回は物資もないしハンターもいないので使えない。

マルタでもいれば違ったのだろうが……


 二つ目は、リンク状態になったネズミを利用する方法。

一度リンク状態になったネズミは、強力な仲間意識の元共に行動しようと、または群れに合流させようと近寄ろうとする習性がある。

これを利用し、リンク状態になったネズミを使ったブービートラップや方向誘導など、群れ全体の動きをある程度操作する事ができるようになる。

千年ネズミも基本的には群れ単位で動いているようなものなので、これはこれで有効な作戦なのだが……例によって有効な罠を多く設置できるような状況になく、何よりリンク状態のネズミを捕まえられる状況下にある場合、ほぼ確実に千年ネズミからターゲッティングされてしまうので、転移転送が出来ない現状、自殺行為でしかない。


 そして三つ目は……今俺がやっているように、自分を餌にネズミと追いかけっこするという、最も原始的かつ最低の選択であった。

山のような灰色の群れが俺のすぐ後ろまで迫っている。

時々波の様に上からバラバラとネズミが落ちてきて、俺の頭をかじろうとする。

既に腕とズボンの(すそ)には何匹か食いついてきていて、これが地味に重い。

「死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

何度も足をとられそうになりながら、背後の「チュウチュウ」という音の嵐に飲み込まれないよう、必死になって逃げ回っていた。


 支援の効果が低ければ、恐らくはここで捕まってお陀仏になっている。

ドロシーのかけてくれた支援の効果が今の俺を生かしてくれているのだと思えば、「ああ支援ってやっぱ馬鹿にならんのだな」と、わずかばかりの信仰心も感じるものである。

しかし、それでもギリギリだった。余裕なんてものは微塵もない。

幸い、俺の足止めとなるような横湧きやリンクしたネズミの横槍はなく、純粋な体力勝負となってくれている。

事前準備はやっぱり大切だよなあ、と、逃げながらにしみじみ思う。


 一々振り向いたりせず気配だけでなんとなくの群れの位置を把握して、本格的に浴びせ掛かろうとしてくるのを、走りながらの横飛びで避ける。

「あと少し――っ」

物見台の位置が見えてきた。流石に息が上がり始めていた。

もう少しで決戦場だ。戦いはこれからだというのに、俺の身体という奴は中々どうして、重さと苦しさを感じ始めていた。

「ちぃっ――」

足が重い。腕が重い。見れば裾にはかなりの数、ネズミが食いついてきている。

ズボンの股の辺りにまでネズミが群がろうとしていた。

軽く恐怖を感じる。これは、やばいのではないか。

侵食されそうになっている。ネズミに。ネズミの波に。ネズミの山に。

ジージー、というネズミのモノとも思えぬ奇怪な音に、頭がおかしくなりそうになる。

気がつけば、もう灰色の群れは、俺の頭上にまで広がっていた。

――ああ、これ、もう追いつかれてるじゃねぇか。


「――ドクさんっ!!」


 声が聞こえた気がする。もう上ばかりが気になってそれどころじゃないが、だが。

正面に、ちょっと頼りなさそうな剣士が一人。

俺の顔を見て、でかい口を開けていた。

手には大剣。俺に向けて一気に飛びかかってくる。

(すべ)り込め!!」

どうした事か。その言葉を聞くのと理解するのは、ほとんど同時だった気がする。

ヒュン、と耳に残る音を聞かせながら剣を振り上げる一浪。

俺は――少しばかり不恰好ながら、頭から地べたへとスライディングして、その真下を抜けていく。

「うおぁぁぁぁぁっ」

「――おらぁっ!!」


 強烈な閃光の余波が、俺の後ろから届いてくる。

衝撃も孕んだ光の後、ザン、と大剣が薙ぎ払われる音が聞こえた。

同時に、無数の爆発音。

――あの極炎マジシャンめ、炎系は俺が終わった時だって言っただろうに。

思わず口元をニヤつかせながら、その場に転がり込んで体にまとわり付いたネズミを振り払う。


『うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! エリアルバッシュ!!』

一浪の突入、クラッシュバーンに続いて、バトルマスターが飛び込んで大暴れする。

一瞬だけ押しとどめることに成功したらしく、俺が立ち上がるまでに灰色の山が襲い掛かってくる様子はなかった。

「怯んだぞ、今のうちにドクさんを運び込め!!」

「おうよっ!」

そうして、ブルーノとガードナイトが俺の両脇にきて、支えてくれる。

ちょっと足元がふらふらになっていたので、これはありがたかった。

「よくやったなアニキ」

「ここからは任せてくれよ!」

そのまま物見台まで運ばれてしまう。少し予定外だが、俺はもう、走れないのだろうか。

(ああ、そうか……もうダメだと判断されたから、魔法撃たれたのか)

見れば、足首や太ももの辺りが血まみれだ。

ネズミの血じゃない。自覚した途端、ジクジクとした痛みが走り、不意に足の力が抜けてしまう。

なるほど、走ることなど到底出来ないような状況になっていたらしい。全く気付かなかったが。


「マスター、頼みます!」

「ドクさん――解りました、そこに寝かせて!」

そうして、皆のいる前に寝かされる。顔のすぐ前に、ドロシーの顔が覆いかぶさってくる。

心配げな顔だ。「中々可愛い顔をするじゃないか」なんて妙な余裕が出てくるのは不思議だった。

「大丈夫、これ位なら――」

俺の唇に指先を当て、残った手の平を足の一本にあてがう。

「むっ……」

『女神よ、どうか――――(わたしのたいせつな)この方をお救いください。ディープヒーリング――』

口元から柔らかな感触、足先から温かな感触が伝わり、それが上から下、下から上へとゆっくり駆け抜けてゆく。

「ぐぁっ!」

そうして、『ズキン』という、強烈な痛みが身体を駆け抜けてゆくのを感じた。

「血流が修復されて戻ろうとしてるんです、もうちょっとだけ耐えてください……」

じ、と、俺に視線を合わせながら、ドロシーが胸の辺りへと手を向ける。

『清浄なる光により悪しき汚濁を、温かなる優しさにより冷たき悪意を、この手は全てを打ち消すもの――』

「ぐ……アンチポイズンか」

ドロシーの言葉と共に、胸にとくん、とくん、と、その手の平の鼓動のようなものが伝わってくる。

そうして一度だけ『ズン』とそれが重くのしかかり――光が俺の中に入っていったように見えた。

「これで、もしレイスに噛まれていたとしてもなんとか――」

走ってる時は気にする余地もなかったが、そういえばそんな懸念もあったんだったな、と、今更のように笑ってしまいそうになる。

――俺もまだまだ、余裕がないらしい。


-Tips-

カスタマイズスキル・システム(概念)

上位職プレイヤーに与えられる、ある程度の設定の余地が用意されているスキル・奇跡群。

既存のスキルや奇跡などを特定の言語を用いて設定から変更する事が可能で、これにより自由度の高いスキル選択が可能となっている。


オリジナリティが高ければ高いほどに、効力が高ければ高いほどにその使用制限は厳しく設定する必要があり、必ずしも思ったようなものを作り出すことが出来る訳ではないが、冒険者として活動する上で見えてくる各々のスキルの改善点を自分の手である程度調整できる為、また、自分専用の『必殺技』を生み出せる為、多くの上位職プレイヤーが活用している。


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