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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
4章.ギルド活動!(主人公視点:ドク)

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#7-1.チウチウパニック!!

 賑わいも最高潮に達した頃合だった。

ドロシーと二人、静かに昔話なんかに興じながら楽しんでいた中、それは起きた。

「親父さん? おい、親父さん、どうしたんだ?」

先ほどネズミに手をかまれていたバーテンが、のっそりとカウンターから出てきて……そして、倒れたのだ。

「うぅ……あ、あぁ……」

虚ろな眼のままうめき声をあげ、苦しげに首の辺りを引っ掻きまわし……そのまま、やがて動かなくなる。


「どうしたんだ?」

「いや、親父さんの様子が変で……急に変な声をあげはじめてさ」

「なになに?」


 賑わいの中起きた突然の出来事に、何事かと冒険者達が集まってくる。

俺とドロシーも気になって駆けつけたが……バーテンの様子がどうもおかしいのには、すぐに気付いた。

「ドクさん、これ……」

ドロシーも何か勘付いたらしく、緊張気味に俺の顔を見る。

「おーい、大丈夫か親父さーん?」

不意に触ろうと近づく若い冒険者。

「――そうかっ、ネズミっ!! おい、そいつにさわるなっ!! 近づくんじゃねぇ!!」

バーテンがネズミに噛まれていた、というのが気になっていたが、それでようやく理解できた。

理解できたというのは最悪に近いのだが、その方向でしか納得がいく結論が出なかった。

「えっ……?」

不意に大声を出したからだろうか。

近づいていた冒険者はぼんやりと俺の方を向いて、固まってしまっていた。

しかし、そうこうしているうちにバーテンはのっそりと起き上がり――虚ろな眼を、にたり、歪ませた。

口からは涎。明らかに異常な様子のまま、近くにいた冒険者へ顔を向けた。


『うがぁぁっ!!』

「スタンアロー! 茜!!」

「――ホーリーバッシュ!!」


 そして、襲い掛からんとしていたところを、崋山(かざん)の矢が打ち抜いて足止めし、その間に割って入った茜の一撃によって叩きのめされる。

『ぐべぁっ!?』

人のものとも思えぬ(ただ)れた声をあげながら、元バーテンはぐちゃりとその顔面を床にぶちまけていた。

「あぁっ、い、いきなり何をっ!?」

「そのバーテンは『レイス』に噛まれました! 気をつけてくださいっ、霊象化(れいしょうか)します!!」

茜に詰め寄ろうとしていた冒険者らに、ドロシーが声を張り上げ、注意を引く。

「れ、レイス……?」

「赤い眼のネズミです! 気をつけて!! 噛まれた人は、すぐに治療しないと……魂を抜かれて、『霊象レイス』になってしまいます!!」

「た、魂をっ!?」

「ネズミっ? そ、そういや親父さん、さっきネズミに……」

ざわめく酒場。

パニックの一歩手前というのがよく解る状況下だった。


「――とにかく、その死体から離れろ! そいつはもうゾンビになっちまったから手遅れだ。その内身体から霊象レイスが出てきて襲いかかってくるぞ!」

狭い酒場だ。一度霊象レイスが大暴れでもすれば、瞬く間に奴らの仲間が増えて手に負えなくなってしまう。

俺の言葉と共に死体から離れていく冒険者たち。だが、コレだけでは足りないのだ。根本的な解決が必要だった。

「人々を安穏へと導く光よ。魂を浄化する破邪の輝きよ。今この迷いし者に、温かなる救いを与えたまえ――」

幸い、今はドロシーがいた。既に奇跡の発動の為祈りを捧げている。

一緒に来てくれて本当によかった。俺達だけじゃ、かなり骨が折れていたはずだ。


『う、うぅっ――ゴバァッ!!』

やがて、ゾンビの口から半透明の赤い人型が飛び出てくる。

『クカカカカカカカカカッ』

骸骨顔がにたりと笑い、骨ばかりの手が、近くにいたドロシーに向かい一気に襲い掛かり――


『――ホーリーライトレイ!!』


 ドロシーの祈りの方が一歩早く終わり、その祈りは霊象レイスが届く直前に具現化する。

眩い光の球が、祈りを捧げていたドロシーの正面に突如現れ――


『グギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!』


 酒場を貫くかのような光輪。

つんざくような悲鳴と共に、霊象レイスは光の中にかき消されていった。

まさに狙い撃ち。出落ちのような儚さだが、開幕で仕留めきれないと被害甚大になるのでナイスといったところである。


「だ、誰かきてくれぇぇぇぇぇっ!!!」

霊象レイスが消え、呆然としていた酒場の奴らにきちんと説明をしようとしたところで、今度は酒場の外から叫び声が聞こえた。

「なんだっ! どうした!!」

――ただ事ではない。何かが起きようとしている。

そう感じて、武器を手に飛び出すと――そこには、必死に地上階からの扉を押さえようとしている冒険者と村人の姿があった。


「何が起きた? 襲撃か!?」

すぐに駆け寄り、一緒に扉を押さえつける。

「ああ……なんか、急に灰色の波みたいなのが襲い掛かってきて、村が飲み込まれて――」

「お、俺は見てたから解る。ありゃあ、百日ネズミだ! 百日ネズミの群れが襲いかかってきたんだ!!」

扉の外から聞こえる妙な高音。そして、ガリガリという何かが削れる音。

なるほど、この二人の言うように、大量のネズミが上階にいるらしい、というのは解った。

「宿屋の外は?」

「解らんっ! 俺達、夜風に当たりたくて外にいただけなんだ! そしたら――」

「俺達は運よく逃げ込めたけど、迎撃しようとしてた戦士の人は、きっと……」

二人、顔を見合わせて、申し訳なさそうに眉を下げていた。

こいつらが悪い訳ではないのだろうが、人の不運を助けられなかったのは思うところあったのだろう。

「……とにかく今のままじゃまずいな。ドロシー、酒場の方から力のありそうな奴を何人か、頼む」

「解りました」

傍にいてくれたドロシーに増援を頼む。


 幸い、今のままならしばらくは持ちこたえられるはずだ。

その間に転移して逃げるなり、対抗策を考えれば問題ない。

百日ネズミは確かに数が多いが、範囲魔法やマジックアイテムで容易に蹴散らせる。

初動こそ肝心なのだ。そういう意味では、先にそれに気付いてこうして塞いでくれていたこの二人には感謝しても仕切れない。

俺達だって、無数のネズミにいきなり飛びかかられたらどうなるか解ったもんじゃないのだから。


「皆さん、落ち着いて聞いてください! 襲撃の第二波です。大量の百日ネズミが襲撃してきました。今、上階からの出入り口をふさいで物理的に遮断していますが、人手が足りません! どなたか、力を貸してくれませんか!!」

開ききりになった酒場の扉の向こうから、ドロシーの声が聞こえる。

どうやら先に事実を伝えて、パニックを抑えようとしているらしい。

隠し通すのが難しい以上、これは最善とも言える判断だと俺は思う。

「解った、俺でよければ」

「私も力を貸そう」

すぐに力自慢の大男達が名乗り出てくれる。皆いい奴らだった。


「しかし、押さえてる間はこないとはいえ、このままだと劣勢だな……」

入り口の押さえを他の奴らに任せ、俺とドロシーは一旦酒場に戻る。

一浪や茜達黒猫のメンバーも中心にすえて、事態の打開を考えていた。

「ルーキーも多いし、あんまり危ないようなら転送陣で逃げるほうがいいと思うけどね」

「私もそう思ってさっき出そうとしたんですが、どういう訳かこの酒場、転送陣が出せないようになっていまして……」

逃げの提案をした一浪だったが、ドロシーは困ったような顔で首を静かに横に振っていた。

「何だそりゃ?」

「何らかの制約が掛かっているのか……イベント中だから逃げられないとか、そういうアレなのかもしれませんね」

槍の柄を床につけながら、茜が腕を組みながら唸る。

「だとしたら、俺達は完全にこの酒場に閉じ込められた形になる訳か。このまま篭城するか、一気に飛び出して殲滅するかの二択だな」

逃げ場なしとするなら、いずれにしても倒しきらなければならないのだろう。

そんなイベントは今まで見た事もなかったが、新たに企画されたものなのだろうか。

いずれにしても、企画者の底意地の悪さが垣間見える展開だ。

この酒場以外にいた奴らは無事なのだろうか。それが心配でならない。


「んー……どうしたもんかねえ」

作戦会議には、当然その場に居合わせた冒険者や村人も関心を向けていた。

前衛職が多いが、ちらほらマジシャンの姿も見られる。

範囲攻撃に乏しい下位職連中の中では比較的頼もしい存在だ。

一浪も俺も範囲効果のマジックアイテムを複数持ってるので、一時的には役に立てるだろう。

「とりあえず、手持ちのアイテムを分けるか」

「そうだね、俺とドクさんの手持ちを分けるだけでも、戦力的にかなり強化されるだろうし」

百日ネズミは光に弱い。ライトボムやフラッシュメモリは本来殺傷力皆無の目くらまし用アイテムだが、この手の光に弱いモンスターには効果が大きく、即死させる事もできる。

「いいか、投げつければその場で強い光を発する。皆で一斉に投げるんじゃなく、光が収まった時に投げるんだ」

「は、はい……」

「着弾するとそこで強い光が出るから、視界を奪われないようにね。はい、どうぞ」

「ありがとうございます……」

これらは、攻撃に参加しにくいレンジャーや、囲まれるとサンドバック化しやすい剣士に優先して配った。

たった七つだが、ないよりはマシなはずだ。

使いきる前に殲滅できれば理想的なんだが。


「マジシャンは二人か……お前らは何系の魔法メインなんだ? どのくらいまでなら使える?」

この場においては貴重な火力職であるマジシャンの傾向は、予め理解しておきたい点である。

「わ、私は風系と光系の魔法メインです……単体ではシルフィス・ブラストが、範囲ではニードルライトが得意です」

一人はサクヤよりやや大人びてる金髪ツインテールの女の子。

こっちは初級位の、そこそこ使い勝手のいい魔法をメインにしている辺り、中々頼りになる。

「ふっふっふっ、我輩は煉獄の魔法使いである。極炎魔法クラッシュバーンを中心に、一撃必殺のフレイムアロー、究極無双のファイヤーウォールなど最強のラインナップを――」

もう一人の色白眼鏡の男は正直微妙だった。いろんな意味で微妙だった。

「いや、炎系の出番は多分ない。隅っこで座っててくれ」

「えぇっ!?」

かわいそうだが戦力外通告はしっかりしておく。

こんな狭い、しかも木造建造の店や通路の中で炎系の魔法なんて使われでもしたら、即刻火の海だ。

そうじゃなくても酸欠が怖すぎる。

「ここで下手に使うと俺達の命に関わっちまうからな。悪いが、ここを脱出できたらそこで活躍してくれ」

そのままだと変に落ち込ませてしまうだろうし、そうならなくとも暴走されたらたまらんし、と、一応フォローも入れる。

「それはつまり、脱出した暁には、我輩が最終兵器として獅子奮迅の戦いを演じる、という事かな?」

……変な奴だが、ポジティブ思考なのはまあ、いい事だと思う。思うことにした。

「好きに受け取ってくれ。とにかく、今は炎系は撃つな。最後までとっとけ」

そしてできるなら最後にも使わないでくれ、と、これは心の中だけで思っておく。

「了解した。では水系の魔法で援護するとしよう」

……できるなら最初からそう言え、と突っ込みそうになったのは俺だけだろうか。


 

 とりあえず、現状での戦力は俺と一浪、ドロシーと黒猫の三人、マジシャン二人、バトルマスターとガードナイトが一人。

それ以外は全員ルーキー。

うち剣士系とレンジャーの数名にはマジックアイテムを渡してある、が、それ以外の奴は前に出させるにはかなり心許ない。


「作戦だが、まず、入り口を開放して地上階に上がれるようにするぞ。ガードナイトさんが前に出てくれ。その後に俺とバトルマスターの人が。それに続いてマジシャン二人が出て、ネズミを一気に潰してほしい。一浪と……ブルーノだっけか? お前らはマジシャンの護衛だ」

いつ終わるかも解らない襲撃イベントだ。

最悪、この村でかつて起きたように、全滅するまで終わらない可能性もある。

そのあたりを考えて、やはり前に出ることにした。現状打破こそが最良の手段、という考えだ。

これには酒場に集まっていたほかの上位職の人らも頷いてくれた。ありがたいことだ。

「で、でもそれだと前に出た人たちが魔法の巻き添えになってしまうかも……」

杖をぎゅっと握り、心配げに聞いてくるツインテ娘に、俺はニカリと笑って見せた。

「安心しろ、今言った奴らは魔法の巻き添え喰らっても大してダメージはうけねぇよ。なあ?」

「風魔法ならエアロカッターまで耐えられるな」

さすがガードナイトともなると上位の風魔法まで余裕で耐えるらしい。

「俺もニードルライト位なら数発は耐えられる自信がある」

バトルマスターは魔法にはあまり強くないが、バイタル面でしぶとい分簡単には沈まない。こいつも安心だ。

「女の子の攻撃なら喜んで受けるぜ」

ブルーノはちょっと危ない奴だった。

「お、俺……耐えられるかな?」

一浪は……まあスルーしておく事にする。


「他のやつは上の階に出てからが本番だ。階段を制圧したらすぐに出られるようにしておいてくれ。ドロシーと茜はレイスに注意しつつ、この酒場を拠点に支援を頼む。ヒーラーの人も、治癒では手伝ってくれ」

「解りました」

「基本はさっきと同じ訳ですね」

第一波の際も同じようにやっていたため、この二人+ヒーラー数名がいるなら大丈夫だとは思う。

「すまないがそこの剣士さん二人は、打ち漏らし対策と戦えない人の護衛で酒場に残っててくれ。後方に襲撃が起きないとも限らないから、そしたら一人はすぐに俺達の方に駆けつけて、それを教えて欲しい」

「りょ、了解です」

「結構重要な役割ね……」

隅っこの方で黙って話を聞いていた剣士二人に役目を投げつける。

割と暴投気味だが、雰囲気からするに二人とも仲はよさそうだし、素人っぽさはあまり感じないので任せることにした。

一部除けばよく知りもしない奴ばかりの中だ。直感で信じるしかなかった。

一人はフラッシュメモリを渡してあるから、ネズミ位ならなんとかなるだろう。ドロシー達もいるし。

「戦えない人らは、足元や頭上に注意して、なるべく余計なものがない場所に立っててくれ。戸棚の近くとか穴の空いた壁の近くとかは近寄らない事。ネズミを見たらすぐに戦える奴に声をかけて、なるべく離れてくれ」

「も、もし噛まれたら……? その、霊象なんとかになってしまうんでしょう?」

「赤い眼のネズミには気をつけてくれ。それ以外の奴は、噛まれても痛いか、病気になる位だ。どっちも薬が手持ちにあるし、ドロシーが奇跡でなんとかする事も出来る」

解毒や治癒に関してはドロシーに一括して任せることにしていた。

俺は最前線で指揮を執りたいし、茜にはドロシーの護衛と……最悪に備えての最終兵器的な意味もあって、極力警戒以外には余計なリソースを割かせたくなかったのだ。

治癒に関しては手が足りなければ仕方ないだろうが、それ以外はあまりやらせたくない。

「皆さん。万一赤い眼のネズミに噛まれたら、すぐに私に声かけしてください。一応進行を遅らせる為の奇跡も扱えますから、今日中に意識を失う事はないはずです。イベントが終わるか村から脱出したら私がすぐに転送陣を出しますので、街の教会でハイプリエステス様に浄化していただければ確実です」

ドロシーの声掛けに、酒場の全員が小さく頷く。

皆神妙な顔立ちだ。緊張しているのがよく解る。不安な部分もあるのだろうが……そこまで悪い空気ではなかった。


-Tips-

レイス(モンスター)

恐怖の魂感染ネズミ。

見た目こそ赤い眼をした小さなネズミだが、その牙に傷つけられた者は魂が感染し、一定時間経過でゾンビ化し、やがて肉体から魂が離脱、最終的には『霊象(れいしょう)レイス』となってしまう。

それ以外は普通のネズミと大差ない儚い存在であるが、この『魂感染』の能力一点のみで現存するすべてのモンスターの中で最も忌み嫌われており、プレイヤーの中にはネズミ恐怖症を発症させる者もいるほどである。


種族:動物 属性:闇

備考:特殊能力(魂感染)

光耐性-200%、聖耐性-150%、炎耐性-40%


霊象(れいしょう)レイス(モンスター)

レイスに噛まれた人間が感染する事によって陥る最終的な状態。

ゾンビとなった後にその身体から抜け出る霊魂的な存在であり、この状態で他の人間に触れると即座にその相手を同族に魂レベルで変異させてしまうという、恐怖の『同族化』の特性を持つ。


物質としての肉体も持たない為地形の影響も受けず、物理的な攻撃も効果がないなど霊種族モンスターの特徴を強く持つが、同じように強烈な光や神聖な攻撃の前には無力である。


尚、ゾンビになった時点で例えプレイヤーであろうともすでに人間扱いはされておらず、ゲーム的には倒してしまって差し支えない存在である為、被害者に対しての遠慮や情けは不要である。


種族:霊 属性:毒

備考:特殊能力(同族化)

光耐性-180%、聖耐性-180%、炎耐性-100%

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