#6-2.襲撃終了-完全勝利!!-
まずは、敵が団子状になって固まっているモンハウに向け、『フラッシュメモリ』を投げつけてやる。
これは名前の通り、あらかじめ記憶させた光を衝撃と共に放つマジックアイテムだ。
攻撃力は皆無だが、効果は絶大。
『ぷぎぃっ!?』
『ぴぃぃぃぃぃぃっ!?』
『ふぅぅぅぅっ!! ふぎゃぁぁぁぁっ』
モンスターどもはばたばたと倒れ失神してしまう。
「うぉっ、目が――お、俺っ、一体どうなって――」
……一部巻き添えにしてしまったが、結果として救い出せるし、まあ、よしとする。
「よーし今だ! 敵は動きが止まったぞ! 一気に行けーっ!!」
これで安全にモンハウを駆逐できる。
俺がまずモンハウに突入する事で、それを見ていたルーキーどももハッと我に返り、武器を手に、一気に駆け出してくる。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
「動かない敵なら怖くねぇっ! 覚悟ぉぉぉぉっ」
「でりゃぁ! 死ねぇっ! このっ、このっ!!」
スタンした敵相手に調子に乗るのはどうかと思うが、劣勢のままでは全体の士気にも関わるというものだ。
ここは勝たせたほうがいいに違いなかった。
たとえ後になって調子に乗るとしても、とりあえずは今、このイベントを切り抜けられれば良いのだ。そう割り切ることにした。
「いやー、アニキのおかげで余裕で勝てちゃったぜ!」
「俺達だけだとあの嫌なウサギの所為で何にも出来ないままやられちまってたかもしれないし」
「ありっとござっしたー!!」
そのままの勢いで襲撃を押し返した後、ルーキー達が俺のところに集まり、やんややんやとお礼をいいはじめた。
「お前らが無事ならそれでいいさ。死んだ奴はいないな? 怪我したら宿屋の前に戻るんだぞ。俺の知り合いの『ドロシー』って娘が支援してくれるからな」
「解りました!」
素直で大変よろしい。
最初はどうなるかと思ったが、なんだかんだ号令をかければその通りに動くし、悪い奴らじゃなかった。
「上位職の人なんて初めて見たけど、こんな頼りになるんだなあ……」
「プリーストさんだっけ?」
「バトルプリーストだよ」
「バトルプリーストかあ。どんな職か知らないけど、すごく強いんだろうなあ」
「俺も早く上位職になりたいぜ」
こうやって囲まれて口々に褒められるとなんとなくむずがゆくくすぐったいが、それにしてもこいつら、無知すぎやしないだろうか。
今どき、こんなに何も知らない奴らばかりが集まったりするものだろうか?
色んな疑問が浮かんで……そして、不自然にかき消されていくような感覚。
何かがおかしいとさっきまで感じていたはずなのに、次の瞬間にはもう「そんなの気のせいだ」と自分で思い込んでしまう。
本当にそれが気のせいなのだろうか? 気のせいだという事にしてしまって、いいのだろうか?
しばらくの間釈然としないままに警戒していたが、やがて誰かが「どうやら他の方面の襲撃も終わったらしい」と話しているのが聞こえ、イベント終了ならば、と、全員で中央に戻った。
時間にしてみればほんの二時間程度の攻防。
俺のところだけじゃなく、他の防衛に当たってた奴らに聞いても「精々がメタルバウ位だった」という話で、正真正銘の初心者用イベントだったことがはっきりした。
「皆、お疲れ様でした! 今夜は村の皆のおごりです! 冒険者の皆さん、心行くまで楽しんでいってくださいね!」
酒場では今、防衛成功を祝して宴会が開かれていた。
村人達の好意で、飲み食い自由、宿も無料なのだという。
迎撃自体は大した事なかったが、ルーキーたちを引っ張っていくのはそれなりに疲れたので、ありがたい休息タイムだった。
「あ、ドクさん……」
「ようドロシー。楽しんでるか?」
山盛りのカレーの皿を手に座るテーブルを探していると、丁度ドロシーが腰掛けている席の隣が空いていた。
「ええ、まあ……」
すぐに「どうぞ」と手でジェスチャーされたので、ありがたく座らせてもらう事にする。
「酒は?」
「あ、未成年なので……」
ゲーム世界では年齢設定なんて好きに出来るだろうに、結構真面目な奴だった。
まあ、こういう席で迷わずコーヒーを飲んでる俺が言うのもアレなんだが。
「いや、中々に貴重な体験をさせてもらったぜ。今なら幼稚園の先生にでもなれそうだ」
「ふふっ、ドクさんのところはルーキーばかりだったらしいですね。一浪さんのところはそれなりに上位職の人たちもいたらしいですけど……」
「それでも強くてメタルバウが出たくらいだろ? 一浪なら瞬殺しちまうぜ」
鉄の機竜なんて鉄を切れる腕前になれば紙のように細切れになるただのでかぶつだ。
そして一浪は、鋼やクリスタル位なら真っ二つに出来る腕前はある。
他の前衛には堅く厄介な敵でも、剣士系ならばそういった芸当も可能なのだ。
「私も、久しぶりにたくさんの人に支援をかけました。ギルドの人たちと狩りをする時もそれなりに忙しいけれど、こんなに支援ばかりかけたのは初めてかも……」
「まあ、中々ない体験だよな。ヒーラーの数も少ないみたいだし」
「途中からは茜にもヒーリングを手伝ってもらったりしてました。とにかく、怪我をする人が多くって」
ドロシーの言うとおり、とにかく今回のイベントの参加者は、回避する事を知らない奴が多すぎる。
棒立ちのまま敵の魔法をモロに浴びたり、攻撃されそうになっても自分を守ろうとしたりせず、ただそれをぼんやり眺めていたりする。
何も考えてないように見えてしまうが、もしかしたら本当に回避するという事を知らない奴らなのかもしれないと、今になって思い至った。
「何にしても、二人が中央にいてくれてよかったぜ。支援かけてもらって喜んでる奴多かったしな」
「そうですね……それに、死者もいなかったらしいですし。忙しかったですけど、無事に終わってよかったです」
ほう、と、一息つきながら、木のコップに唇をつけるドロシー。
「それは?」
なんとなく気になって、聞いてしまう。
小さな唇が中の液体を飲み下し……そして、そのまま上目遣いで俺の方を見ていた。
「ココアです。私、子供の頃からこれが好きでして」
「温まっていいよな」
「……はい」
嬉しそうにはにかむと、結構可愛い笑顔だった。
-Tips-
アコライト(職業)
聖職者系下位職業の一つ。通称『アコ』『対魔士』『ブルマ』。
灰色の法衣にブルマ、杖という謎のカラーで、同系列の上位職ともどもブルマ呼ばわりされている。
ヒーラーが治癒・支援系奇跡のエキスパート予備軍ならば、アコライトは攻勢奇跡のエキスパート予備軍で、ひたすら戦闘向けの奇跡ばかり扱えるようになっている。
代償としてか治癒や支援系の奇跡は苦手で、重い防具を装備出来ない為か、攻めには強みがあるものの守りに若干の難がある。
特徴的な奇跡としてアンデッドや霊に対しダメージを与えられる『ホーリーライト』、
自身の腕力や脚力を一次的に上昇させる『セルフグロリア』、
自身にダメージを与える事によって呪いや一部の病気、精神系の状態異常を治癒する『ディバインヒール』などがある。
また、上位職として『モンク』『エクソシスト』がある。




