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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
17章.ネトゲの中のリアル(三人称視点)

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#アフターストーリー1.三週間後の彼ら


 ゲーム世界『えむえむおー』にて。

本日、大規模アップデートが実装された。

これは複数のアップデート内容をひとまとめにした山盛り更新祭りで、その中でも特に大きなものが三つ。


 各サーバー間を繋げていたレッドラインなどの『接続マップ』を簡素化し、より世界間を往来しやすくしたアップデート『ワールドアクティベート』。

初級者向けマップから古参・廃人向けマップまで新規に大幅に追加するアップデート『アブソリュートダンジョン』。

そして何より大きなものとして、『霊人(れいど)』や『鬼人』、『獣人』など、人間以外の知的生物を多くプレイアブルキャラクターとして選択可能になった『プレイアブルワークス』。


 また、これらとは別に、かつては犯罪者が就くことになっていた『シーフ』『バンディット』『アサシン』などの職業が、新たに一般職として採用され、義賊プレイや暗殺者プレイなどのロールも楽しめるようになっていた。

各サーバー間が接続されただけでも大きな変化だったが、こういった変化が矢継ぎ早に行われた結果、プレイヤー達は新たな世界に適応しようと、様々な冒険を始めるようになっていく。


「いやあ、一気に人外さんが増えたおかげで、姿を変える必要がゼロになっちゃいましたよー」


 そして、たまり場の岩場で今くつろいでいるのが、エルフ姿の運営さんであった。

ドクと一浪が雑談していた時に現れたのだが、今はもう、イリュージョンで変えたりせず、素の姿に白装束という出で立ちであった。


「エルフも普通にそこら辺うろつくようになったもんな。森林地形だとたまに鉢合わせるから焦る」

「そうなんですよねえ。森林マップには注意ですよ皆さん。同胞たちが弓片手にモンスター狩ってたりしますから~」


 のへ~、と線目のままにくつろぐ運営さん。

ドクも懐からコーヒーを取りだし、ずず、と啜りだした。


 新規アップデート『プレイアブルワークス』の該当種族の中には、亜人種族も多く含まれている。

例えば運営さんの様なエルフもそうだし、かつては敵として扱われる事の多かったゴブリンなどもプレイアブルとして選択できるようになっていた。

その結果、「人外になりたい」という願望を持つプレイヤーがそれらの種族になったり、異世界の人外種族プレイヤーがそのままリアルでの自分と同じ種族を選択したりと、様々な要因で亜人や獣人、魔族のプレイヤーが増えていった。


「でも、同胞とは言っても世界によってエルフの概念も結構違うみたいでしてね? 私みたいに魔法も弓もみたいな子も居れば、『エルフは弓だけ扱う種族だから』『魔法使うのはハイエルフだから』みたいなすごく細かく分けてロールする子もいるんです」

「世界ごとの文化が違うとかそういうアレか?」

「そういうアレみたいです。それがちょっと面倒くさくてー」


 接してみて解る異世界人との文化の違い。

比較的異世界の情報が入りやすいレゼボア人であっても、やはり直にその文化の違いに触れると違和感というのはやはりあるものなのだ。

今、プレイヤー間で多く問題になっているのは、そういう関わりを持ったが故に発生した「文化や習慣の違いによって起きる摩擦」であった。


「同じ人間でも無茶苦茶好戦的でローズ真っ青な奴とかいるもんな」

「ローズ真っ青ってすごいパワーワードだね……」

「奇跡の効果が爆上がりしたのもあって、『腕一本断ち切られるくらいなら構わん』っていう人、増えちゃいましたよねぇ」


 割とこれも切実な問題らしく、運営さんも困り顔であった。

何せ、異世界人はレゼボア人から見て色々と濃いのだ。

自分を本気で英雄だと思い込んで英雄的行動を取ろうとするプレイヤーもいるし、そうかと思えば魔王の側近ロールをはじめ街々を襲撃しようとしてくる魔族プレイヤーもいる。

王城に居座るただの王様ロールプレイをしていた中年男が、今では同じように各始まりの街で王族ロールプレイをする異世界プレイヤーと意気投合し『外交』が成り立っている始末である。

リーシア周辺では「変わった人」と言われるくらいの人が、他のサーバーでは当たり前にいるのだ。

これには三者ともが深いため息をついた。


「俺達って、結構キャラ薄かったんだな……」

「ああ、こないだ『エイゼン』の奴とPT組んだが、あの街の奴らすげぇぜ。神話の世界に生きちゃってたよ」

「『ラムザード』もすごかったですよ~、王様ロールやってる人の命令で兵隊ロールやってる人が自爆特攻とかしてましたもん……見てて胃が痛くなっちゃいましたよ……」


 ゲームに本気になるプレイヤー、多過ぎ問題である。

本気になり過ぎて自分の命すら平気でかなぐり捨てる様を見て、運営さんはまた胃のむかつきが再発していた。


「ロールはあくまでロールっていうの、レゼボアだけの価値観なんですかねえ」

「解らんな……解らんが、もしかして俺達はゲーム世界を舐めてたんだろうか?」

「あんまり理解したくないよね。同じ人類種族なのに考え方が違いすぎる……」


 三人ともがまた深いため息。

だが、よくよく考えれば魔族も結構エキセントリックな性格の者ばかりなのを思い出し、ドクは「やっぱレゼボア人は大人しすぎただけなんだろうか」と、自分達の在り方を真剣に悩んでしまう。

彼は、人々を笑わせたかったのだ。

多くの人を安心させ、楽しませたいという気持ちもあった。

だから、キャラが薄いなどと思われるのは致命的な問題なのだ。


「よし一浪」

「うん?」

「とりあえずこれからはハゲヅラを被ろう」

「何言ってんのドクさん!?」

「文脈無茶苦茶ですよ!?」


 二人から突っ込まれてしまう。

レゼボア人相手ならこれでいいのである。

これだけで笑いが取れる。

だが、異世界人相手ではこれでは足りない。足りないのだ。

手に握ったコーヒーパックを握りしめる。

中身は空かと思われたが、ぶしゅ、とわずかばかり中に残ったコーヒーが彼の頬に飛び散った。


「実際に被るところまでやってやっと対等だからな」

「そこまでやらないとダメなのか?」

「確かに異世界の人達って濃いですけど……濃いですけどぉ。でも、それに合わせちゃったら終わりなんじゃ……」


 何故それに合わせる必要があるのかと一浪は疑問に思う。

運営さんなど涙目になって「それは流石にやりすぎなんじゃ」とドクを止めようとしていた。


「何言ってるんだ二人とも。俺達だってこのままじゃ『あいつらキャラが薄すぎる』って笑われちまう! 俺は、笑わせるのは好きでも、笑われるのは好きじゃないんだ!!」


 立ち上がり、ドクは駆け出した。

唖然とする二人をそのままに、倉庫までハゲヅラを取りに。

彼が「こんな事もあるかもしれない」と思い前もって知り合いのスミス(マルコス)に用意させたハゲヅラが、今輝く時を見たのだ。




「流石にないね……」

「ドクさん、なんでそんなものを……?」


 そして、ドクは颯爽とハゲヅラを頭につけたままたまり場に戻り――ログインしていたプリエラとドロシーの二人からジト目で呆れられ、意気消沈した。


「これで笑いを取ろうと思ったんだ」

「面白くない面白くない」

「髪が薄い方をどうこういうつもりはありませんが、自分の好きな方がそんな格好をするのはちょっと……ドクさんが素でそうなってしまっても、私は笑う気が起きませんが……?」


 冷静な意見にドクの心は早くも折れそうになっていた。


「こんにちは~……うわ」


 そしてトドメを差したのはサクヤであった。

ログインして真っ先にドクを見てドン引きし、声を上げてから「しまった」とばかりに口元を隠す。

しかし、隠せていなかった。丸聞こえであった。手遅れである。


「やっぱり引くよなあ」

「それほど面白くもないですしー」

「ドクさんはこれが面白いと本気で思ってるの?」

「私はやめた方が良いと思うのですけど……」

「ご、ごめんなさい、私もこれはちょっと……何かの罰ゲームですか?」


 その場に居た全員に引かれ、ドクは「そうか」とだけ言っていつも岩場に座り込む。

そしてまた懐からコーヒーを取り出し……ストローを挿そうとして、手が震えてしまって上手く挿せなくなっていた。


「う……く……俺は、俺は、皆を、楽しませられたらと……!」


 男泣きであった。

グラスが眼元を隠していたが、この男、マジ泣きしていた。



 そんな中、一筋の光明が舞い降りた。

逆境に抗う限りこんなどうでもよさそうな場面でも降り注ぐのが光明である。

尚プリエラは加担していない。


「やあ皆、何を話し――ぶふぁっ!?」


 マスター・レナックスであった。

珍しく呼ばれずとも現れた彼女だが、ドクのハゲヅラ姿を見て噴き出したのだ。

これに、ドクは驚く。


「ま、マスター……?」

「ぷっ、くく……ど、ドクさん! 何をやってるんだいそれは!? 君は私を……私を殺す気か!!」


 笑いが止まらない。

口元を抑えても笑い声が漏れ出てしまう。

ついには腹を抱えてしまう。


「ぷく……あははははははははははははははっ! ちょっ、なんでっ、はっ――はーっ!! ハゲヅラって! ハゲヅラってちょっ――」


 それは、シルフィードというギルドが発足されて初めての事であった。

レナが爆笑している。こんな事はその場にいたメンバー全員にとって、初めてであった。

当のドク本人も唖然としてしまっていた。何が起きているのか解らず、ぽかんとしていた。

だが、ようやく笑ってくれた人がいた。

その事実に気づき、ドクは顔を綻ばせる。


「お、面白いのか? これが?」

「ひーっ、ひーっ、そ、そんな格好したら、面白いに決まってるじゃないか! 君は何をやってるんだい!? なんでそんな恰好を!」

「お、面白いのか……面白いのか! そうか!!」


 それは、彼の自尊心を強く満たした。

消えかけていたやる気の灯が強く灯り、爆発的に燃え上がる。


「どうだお前ら、笑ってくれる奴もいるぞ!!」

「あ、ああ、そだね……」

「マスター、どうしちゃったの……?」

「レナさん……何か悪いものでも食べたのでは……」

「大丈夫ですか? メンタルリザレクションかけましょうか……?」


 他のメンバーはと言うと、酷い言い様であったが。

だが、ドクは気にしなかった。


「あら、皆もう来てたのね。ごきげ――ぷっ!」


 被害者その2はマルタであった。

ドクの顔を見て噴きそうになり、思わず口元に手を当てる。

こちらは間に合っていた。

普段鉄面皮な少女が、今はリスの様に可愛らしい顔になっている。


「マルタ、お前もか……」

「マルタさん……」

「これ、もしかして特定の人には面白い何かなんでしょうかね……?」

「解りません。何が面白いのでしょうか……?」


 首を傾げる外野勢。

最早推理クイズの様相を呈していた。

ドク自身、なんでウケるのかよく解らない。

だが、ウケる事自体は嬉しかった。


「面白いのかマルタ」

「おも……面白くなんて、ないわ」


 必死になって堪え、目を背ける。

言葉も否定。だが、ずずい、と頭を前ににじり寄ると、マルタはすぐに我慢しきれなくなった。


「ぷっ……ぷはっ、あっ、ああっ! はっ、はっ――ぷはっ」


 レナの様な爆笑ではなかったが、それでも大変珍しいマルタの破顔と笑い声であった。

外野一同酷く歪なものを感じていたが、それはそれとして「やっぱりこれが面白いんだ」という疑問に不思議な気持ちにさせられる。


(もしかして俺が間違ってたのか……?)

(私が変なの……? いやいやそれはないよねえ)

(私的には何が面白いのか解りませんわ……)

(レナさんとマルタさんの笑うポイントが今一解らないですねえ~)

(これならララミラとバリバリのやりとりを見てた方が面白いと思うんだけどなあ)


 その後、第三の被害者ラムネも同じように笑ったが、なぜそうなったのかは誰にも分からないままだった。



 そんな彼らを偶然遠巻きに見たセントラニアヌスの冒険者達が、自分の始まりの街の酒場で「あいつら未来に生きてやがるよ」と酒の(さかな)にして盛り上がっていたのは、彼らには知る由もない。


 

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