#12-1.流星堕ちる
世界は、大きく変わろうとしていた。
ただ与えられるだけの人生。
ただ歩むだけのレールを進む日々。
それらをかなぐり捨て、新たにレールを自ら生み出し進みたいように進む。
そんな世界を、人々は望むようになっていた。
自分達の為に頑張っている人がいた。
彼らはそれに気づき、そうして思ったのだ。
――あんな風になりたい、と。
レゼボアという世界のルールで見れば、彼らは間違いなく暴走していた。
ゲーム世界のルールで見ても、彼らは運営サイドの予想もつかない行動をとっていた。
だけれど、それら全てが、彼らの望んだ事だった。
彼らはようやくにして、支配されるだけの人形から、自ら考え行動する人間へと成ったのだから。
アルケミスト・ギルド近郊にて。
「あはははは! サリー様特製エネミーブレイカー! くらえぇぇぇぇぇぇぇぃっ!!」
『じょっ、冗談じゃないわよ! 防衛衛星!!』
《バボーン!!》
気の抜ける間抜けな爆発音とともに、シルバースターライツのいる空域が一気にはじけ飛んで行く。
連鎖的に爆熱・膨張し、熱波が周囲に飛び散る。
『くぅっ……』
急激な灼熱地獄。
衛星ガーディアンによって爆発の威力そのものは防ぎ切ったシルバースターライツであったが、高温には耐えきれず、逃げるようにその高度を高めてゆく。
「逃がす訳ないじゃ~ん!」
しかし、それを見やるマスター・アリーナはにやりと笑いながら指をぱちり、鳴らす。
それを合図に高度を上げようとしていたその頭上に、きらりと一筋の光。
『――ぐぎぇっ!?』
がつん、と派手な音と共に精霊少女の鼻先が潰れてしまう。
激痛に顔を歪めながら鼻を抑え、熱波に苦しみながら地上を睨みつけた。
『空間封鎖とかっ!? なんで人間がこんな――っ』
「くふふふふっ、錬金術は何でもありなのよ? 空間制御くらいよゆーよゆー!」
ループだってお手の物なんだから、と、またぱちりと指を鳴らす。
『えっ……ちょっ――』
「逃げ場を封じられた時点であんたは負け確定! 喰らいなさい! クロスデルビコン!!」
突如精霊少女の周囲を取り囲むように現れたいくつもの薬瓶。
小さくシールに『触るな危険』『開けるべからず』『死にたい奴だけかかってこい』など手書きされている瓶たちが……一斉に弾けた。
『きゃーっ、ちょっと、なにこれなにこ――ぐほぁっ!?』
弾けたのは瓶だけではない。
その中身が同時にその空間に弾け、展開されていったのだ。
「その薬は私が開発した最強の精神下剤『クロスデルビコン』。生きているだけで生きているのが死ぬほど辛くなってくる対生物薬学兵器よ!」
ズビシィ、とガスマスクをつけたままにドヤ顔になるアリーナだったが、シルバースターライツはそれどころではない。
『うぐっ……ヒーリング、キュアー! 治らない、気持ち悪いのが全然治らないよぉぉぉぉぉっ!!!』
「――今よパフ!」
「おっけー任せて!!」
対空攻撃用のカタパルトを使い、三人目の錬金術師パフが、頭大の卵を打ち出そうとしていた。
「く、ら……えぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
『ひっ――』
混乱したまま上空で身を震わせていたシルバースターライツの元に撃ち込まれる卵。
それは彼女の目の前で割れ、そして――
『シギャァァァァァァァァァァァッ!!!』
『ひっ、ひぃっ!? 何なのこれ? こんなの私知らな――ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』
精霊少女は哀れ、卵から飛び出した巨大な『口』に丸飲みにされていった。
そのまま、地上へとドロップアイテムが落下してくる。
「――時空の歪みが世界によって修正されるのを利用した生物兵器『時空の卵』。飲み込まれると死ぬ!」
「相変わらずどこが生物なのか不明な兵器ね……」
「パフ姉さんの創るアイテムってどこか哲学的っていうか、現代アート的っていうかー」
「ああもううるさいうるさい! 勝ったから良いのー!! なんか黄色い霧も消えてるし」
「あ、ほんとだー」
「ようやくこれでガスマスク外せるわ……ぷはっ」
戦闘が終われば姦しい雑談が始まるが、確かに黄色い霧が消え去っていたので、皆ひとまずは一息つける状態になっていた。
そうして視線を向けるのは、戦闘直前に安全なところに退避させた少年商人。
「ラムネ君、大丈夫だった? もうガスマスク外して大丈夫だからねー」
「怖くなかった? お姉さんが抱きしめてあげようか!?」
「ラムネ君を狙う不埒なモンスターはお姉さんたちが撃破したから!」
三人ともがデレデレであった。
これには正気を取り戻した他のアルケミストや冒険者たちも苦笑いである。
「僕は大丈夫だけど……ギルドの人達が心配かも。さっき、向こうからすごい音がしたんだ」
「ほほう。つまりラムネ君は私達の勇姿を見ていなかった……?」
「その……ごめん」
「いやいやいや! いいんだよ~しょぼくれなくっても!」
「戦闘シーンなんてつまんないもんねー! お喋りしてる方がずっと楽しいよ!」
「そうそう! あんなパンツ丸見え女なんて見てても何も楽しくないから! 平和が一番だよねえ~」
ラムネ少年の一喜一憂がアルケミスト三姉妹にとっては何より重要であった。
彼を笑わせる為なら、自分達の活躍を完全スルーされていても涙目になりながら笑って振舞うのだ。
ある意味健気であった。いじましかった。しかしその努力はあまり伝わっていない。
「他の地域、どんな事になってるんだろうね……」
「とりあえずここは落ち着いたから、他のところも見てみようか?」
「皆で固まって移動しようねー。ほらラムネ君、手を繋いでいこっ」
「あーサリー! ちょっと、抜け駆けはダメよー!」
こうして、地上部で最後まで戦いが続いていたアルケミスト・ギルド近郊も戦いが終わった。
-Tips-
シルバースターライツ(ボスモンスター)
『星降る丘』に生息する上位の精霊種族ボスモンスター。
銀色の星型の流星に乗った少女の出で立ちをしており、大変可愛らしい為プレイヤー間でも人気のあるボスモンスターである。
普段はのほほんとしており、一人で歌を歌ったり詩を読んだり星座を読んだりととてもロマンチストな一面が窺える。
ボスモンスターとしては理性的かつ良識のある方で、逃げるプレイヤーは追わない・攻撃したら即死するような弱者や負傷者は攻撃しない・命乞いしたプレイヤーは見逃すなど、とても優しい。
一方で羞恥心が強く、また潔癖症の為同性異性関係なしに性的な視点でみられる事を極度に嫌う為、そういった視点で見る相手に対してはプレイヤーでもモンスターでも関係なしに容赦なく制裁を下す苛烈さを持ち合わせている。
ボスモンスターとしては精霊種族最強で、全モンスター中でも全力状態のマジョラムを除いた最上位の魔力と自在に召喚し使役できる使い魔『衛星ガーディアン』を無数に展開しての攻撃や防御が可能な点、常に上空に位置し基本的に降りてこない点などから、全ボスモンスター中屈指の倒しにくさを誇る。
その上でヒーリングによる治癒やグロリアス・エンゲージなどのブーストも扱う為、本気になった彼女を倒す事は上位プレイヤーでも至難の技とされている。
その分だけドロップアイテムは非常に優秀で、周囲の死亡したプレイヤー全員が消滅するまでの間の猶予時間に復活可能な『トネリコの実』や魔法職プレイヤー垂涎の品となる『シルバースターロッド』などをドロップする為、上位のボス狩りギルドと熾烈な戦いを繰り広げる事もあると言われている。
種族:精霊 属性:光
危険度(星が多いほど危険):★★★★★★★★★
能力(星が多いほど高い。☆は★10個)
体力:★★★★★★★
筋力:★
魔力:☆★★★
特殊:☆
備考:光属性耐性200%(吸収)、聖属性耐性150%(吸収)、地属性耐性100%(無効化)、闇属性耐性80%、物理属性耐性50%、全状態異常耐性70%
取り巻き:衛星ガーディアン×10




