#5-1.廃村コーラル村にて
たどり着いたコーラル村の中心部は、ところどころ焼け痕が残っていて黒ずんでいた。
この部分だけ拓けているのも、この焼けた後で何も生えなくなっている所為らしく、廃屋は黒く歪んだまま、当時の凄惨な状況を残している。
「こんな風になってたのか……もうちょっとまともな廃墟かと思ってたが、これは……」
「襲撃を受けた所為でこんな風になったのかな? なんていうか、すごいね……」
廃墟マップという扱い上、この間行った『レイオス伯爵城』のような、ある程度原形をとどめたモノを想像していたが、これは想定外だった。
これまで通り過ぎた廃屋なんかは比較的形を残したまま樹木に埋もれていたが、そちらの方がまだ廃墟らしいと思える。
「……茜達は。姿は、ありませんね……」
胸の前で手をぎゅ、と握りながら、キョロキョロと周りを見渡すドロシー。見ているのも辛い仕草であった。
「少し探してみよう。例の『歌う亡霊』も中心部に居たっていう話なんだろ? 何かあるのかもしれん」
今の時点で歌らしいものは何も聞こえてこないが、そういうのが居るのなら、何かが隠れている可能性も考えられた。
具体的な説明はできないが、そんな気がしたのだ。
「そうですね……もしかしたら、近くにダンジョンとかがあるのかも」
何の根拠もないが、ドロシーも自分で自分を落ち着かせようとしている。
実際に何かヤバいものでも居たら俺達三人だけだと大変かもしれないが、今は行動する事が問題を解決する為に必要なものだと割り切ることにした。
「んん……軽く歩き回った範囲じゃ何もなかったね」
「焼けている範囲を見た限り、屋外には何もなさそうですね」
三人で中心部を見て回ったが、廃屋以外には特にこれといった何かがある訳でもなく。
ゴーストの襲来がやたら減った気がして、そこだけが不思議だったが、これ以上歩き回っても仕方ない気がしはじめて、最初の場所に戻っていた。
「廃屋の中を見るしかないか……崩れてこなきゃいいが」
「モンハウになってる可能性もあるし、ライトボムを用意しとくぜ」
懐から白いボール状の石を取り出す一浪。
「一浪さん、準備がいいですね。マジックアイテムまで持ってきてるなんて」
「そ、そうかな……へへっ」
ドロシーが褒めた所為か、一浪は照れ笑いしてしまう。
まあ、こういう風に雰囲気を柔らかくしてくれるのは、俺としてもありがたかった。
緊張気味にドアを開ける。
一歩離れて数秒様子見。特に何かが襲い掛かってくる様子はなかった。
再びドアの前に近づき、中を窺いながら足を踏み入れていく。
『優しき光を、闇の中へ』
廃墟の中は真っ暗でよく見えなかったのだが、ドロシーが後ろから奇跡を発動。
優しげな光を湛えた玉がふよふよと浮きながら、俺の正面を照らしてくれていた。
「……特に何も居ないな」
見渡せば、そこは家具もなく、床板が並ぶだけ。
ただ、その一箇所。一番隅の板だけが他と違う色合いで、張り方も異なっていた。
「隠し階段……?」
「というより、普通に入り口なんじゃないかな、これ――よっと」
後から入ってきたドロシーと一浪が口々に感想を述べる。
一浪なんかは床板に手をやって、とっかかりがないか探しているらしかった。
「お、やっぱあった。ドクさん、開けられるぜ――よい、しょっ、と!」
「……階段か」
一浪が板を開いた先にあったのは……人一人通れる位の狭い階段。
地下へと続く隠し通路のようなものだろうか。
これに関しては焼けた様子もなく、埃にまみれてはいるものの、足を乗せてみれば普通に踏みしめられた。
「いけそうだな……降りてみるか」
ぎ、ぎ、と不安な音を立てながらも、なんとか階段を降りてゆく。
「ドクさん、気をつけて……」
「踏み抜かないようにな」
ドロシーと一浪も後に続く。
不安定な足場。頼りになるのは俺の前の光る玉だ。
そうして階段を降りきると、狭い通路のようなものが待っていた。
特に枝道もなく、先にうっすら見える扉が一枚。
「……武器の用意だ」
扉の前にいくと、なんとなく嫌な予感がして、一度二人を手で制してから顔を見て確認し……扉に手をかけた。
ギィ、という古めかしい音。しかし、思ったよりも扉は軽く、そして――そこからあふれた光に、俺は、俺達は、つい目線を背けてしまい――
「……む?」
そうして、光に慣れた辺りで、がやがやとやかましい声が聞こえていた。
人だ。人がいた。幾人もの人が、愉しげに笑いながら酒を飲み、食い物を食い、談笑に耽っていた。
意味が解らない。何が起きたのかさっぱり不明だ。困惑していた。困惑したまま、俺達は固まっていた。
「――でよー、こないだ友達になったデュエリストさんがここに来てくれるって話なんだが、これがすげぇマッチョな人でさー」
「へぇ、そんな強そうな人なら百人力だな!」
「人数もまだまだ集まるみたいだし、心配なんて全くねーよ」
男達の会話が聞こえて、俺達は三人とも、ついそちらに意識が向きそうになっていたが――
「あれ? マスターじゃないですか? なんでここに?」
唐突にこちらに向けられた声に、ドロシーがぴくりと反応する。
「――茜!? ああっ、それにブルーノに崋山も! 三人とも、こんなところに――」
立っていたのは薄手の羽衣を身に纏った小柄な赤髪の女僧兵と、ぎらぎらとした目つきの男剣士。それから眠たげな顔をした女弓兵だった。
見た目、あまりタクティクス向けじゃない職業ばかりのPTである。
「いや、私達はここの酒場が気に入っちゃって、それで顔を出してるだけですけど……マスター達は何故?」
茜と呼ばれたモンクが、首をかしげながら可愛らしくはにかむ。
「私達は……その、貴方達が、危険な事になってないか心配で……」
ドロシーも、想定外の事態に若干困惑しつつも、当初の目的を説明しようとしていた。
「なるほど……すみませんマスター! なんか、ちゃんと説明しなかったのが悪かったみたいで! あの、でも、大丈夫ですから!」
どうやら迷惑を掛けた、と感じたらしい茜は、大振りにぺこりと頭を下げ、ドロシーに謝罪する。
あわせて後ろの二人も頭を小さく下げた。
「あ、いえ……そんな、いいのよ……私が勝手に心配しただけで。その、皆が好きにするのを邪魔したい訳じゃないから……」
自分の勘違いでメンバーに頭を下げさせてしまったと思ったのか、わたわたと頬を赤らめながら取り繕おうとするドロシー。
相変わらず想定外に弱い奴だった。
タクティクスやるようになって大分落ち着いたと思ったが、まだこういう所は残っていたらしい。
ある意味、貴重なシーンだった。
「――つまり、三人はここの酒場が気に入ってて、用事が出来たのもあって、ちょくちょく顔を出していた、と……?」
立ち話もなんだから、と、適当にあいていたテーブルに腰掛け、事の経緯の説明を受けていた。
「そうなんです。まだ告知されてないらしいですけど、ここって次の公式イベントが起きる所らしくって」
「俺達が参加してたっていうのを、後からマスターたちに話そうって決めてたんですよ」
「話の種としては最高でしょ? たまにはこういうのもいいかなって」
なんとも軽いノリであったが、三人は三人で、特に亡霊に引っ張られて、とか、そういう危ない理由ではなかったのだと解り、ドロシーはほっとしているようだった。
「亡霊になんかやばい呪いでもかけられたんじゃ、って思ったけど、そんな事はなかったんだね。ああよかった」
一浪も胸をなでおろしている。こいつはこいつでいい奴だなあと思える瞬間だった。
「最初は、『もう一度あの亡霊の娘の歌を聴きたい』って思ってきたんですけどね。でも、二回目に来た時にはもういなくなってて。その時にここを見つけたんです」
「まさか廃墟の地下にこんな酒場があるなんてなー」
「聞けば公式のイベントがあるって言うじゃない? ならやってやるぜ! って気分になっちゃってさ。ごめんね、なんか迷惑掛けたみたいだ」
「いやいや、楽しんでるようで何よりだぜ」
三人とも初対面だったが、友好ギルド同士なのをドロシーが説明してくれていたので、上手いところ打ち解けられていた。
見渡せば、確かに冒険者らしい出で立ちの奴が多い。
ただ、剣士とかヒーラーとかマジシャンとか、下位職ばかりに見えるのは、公式イベントとやらの難易度が低いことを示すのだろうか?
「イベントの話なんて、公式サイトには載ってなかったはずなんだけど……サプライズイベントなのかな?」
一浪も、この辺り疑問に思っているらしい。
公式関連の情報に聡いこいつが知らないのだ、少なくとも全体向けのイベントではないのだろう、とは俺も思うが。
-Tips-
モンク(職業)
聖職者系上位職の一つ。『僧兵』『槍兵』『ブルマ』などの呼び名が定着している。
アコライト系統の前衛職で、対魔・対霊・対アンデッド戦の物理面でのエキスパート。
支援能力は同じ聖職者系別系統の前衛職であるバトルプリースト/バトルプリエステスよりも劣り、奇跡の発動は自身への使用がやっとである。
主な使用武器は棒や槍などの長物で、これによる攻防一体の戦闘を得意としている。
最も特徴的なスキルとしてアンデッドを一撃で仕留める妙技『槍術ターンアンデッド』がある他、一定時間自動的に自身の傷が回復する奇跡『オートヒーリング』を扱うことが可能。
服装面がやや特徴的で、職業のカラーとして支給される服は好みの色の修道服と黒ブルマという組み合わせである。
また、髪型もストレートは禁止されており、外出時は必ずリボンなどで束ねたりする事を職業義務として課せられているなど謎が多い。




