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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
17章.ネトゲの中のリアル(三人称視点)

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#6-1.時止め+団長蹴り=マップ兵器


 王城・正門前。

数多の竜牙兵の集団と防衛サイドがぶつかり合う中、マジョラムの視線は別に向けられていた。

城をつぶさに見やり、その価値を値踏みしていたのだ。


(あの塔の上にはワシの国の国旗でも飾らせるか)


 目の前の死闘など気にもならぬとばかりに、剣劇の音や喊声(かんせい)、悲鳴などには耳も向けず、顎に手をやり城を眺めていた。

彼にしてみれば、この城はもう自らの手に渡ったも同然であった。

自らが欲したのだ。ならば手に入って当然だと、彼はそう考えていた。

……その邪魔をする者など、もういないだろうと。


 実際問題、目の前で竜牙兵の軍勢相手に死闘を繰り広げている冒険者たちなどは、マジョラムから見ればなんとも儚い脆い木の枝程度にしか見えておらず、妨害者どころか敵にすら見えていなかった。

なんとなく防衛していたようだからなんとなく軍勢をけしかけただけで、初めからそういった者達も含めて「ワシの奴隷」程度の認識でしかなかったのだ。

だからして、目の前の荘厳の城以上の価値を、冒険者たちに見出してはいなかった。


「……む?」


 だが、そのつもりであったマジョラムはしかし、ある時不意に「なんだ?」と首を傾げた。

妙な気配。そうとしか形容できない何者かの存在を感じ取ったのだ。

目の前の冒険者の集団からではない。その奥。

門の奥から、少しずつ近づいてくる。


(なんだこれは……途方もなく強い様な、しかしそれでいて何も無いかのような……)


 居る。間違いなく居る。

だが、そう感じ取った直後どこにも居ないようにも感じられ、存在がはっきりしない。

確実に迫ってきているのに、それが何なのかが全く分からない。

こんな事は、彼にとっては初めてだった。

存命時ですら、自分以外の『魔王』と対峙した事など一度や二度ではないし、その都度面倒ごとは絶対的な魔力で捻じ伏せてきた男である。

だが、そんな彼を以てしても、自分に今迫ってくる存在の正体が掴めずにいたのだ。


「……むう。何やら厄介な輩が来ておるらしい。煩わしいのう」


 面倒くさげに杖を振り回しながら、適当に取り巻きを召喚する。

こんなものでどうにかできるとは思わないが、足止めし、あわよくばその『何者か』の戦力を見極めようとしたのだ。




「苦戦しているようだね」

「まあ、竜牙兵も強いといえば強いモンスターだからね。単体ならともかく集団で来られたら、集団戦に不慣れな冒険者では太刀打ちできないでしょうよ。見た感じドラゴンスレイヤー持ちも後方に控えてるみたいだし?」


 城から出て、門の正面を向かう最中。

団長とアムレンシスは、必死の思いでモンスターと激突するプレイヤー達を見やり、今の状況を把握した。

今はまだ、辛うじて防げている。

プレイヤー達も熟練のプレイヤーが多いらしく、必死になっている分だけ思い切りが良く、善戦していると言えた。


 だが一方で「そうは言っても長くは保つまい」と、団長は分析する。

何せ敵の数が多すぎる。

冒険者は通常、多くても10人程度の仲間とPTを組むのが主で、ボス狩りギルドやタクティクスギルドのように特別な目的が無い限りは、ギルド単位であってもそんな大人数で活動する事は稀である。

だからして、大規模集団戦での連携が甘い。

熟練した、強いプレイヤーが一人いたとしても、その一人が突出してしまった時にそれを客観的に見てサポートできるプレイヤーが少なかった。

特別連携を取ってくるわけでもない従来のモンスター相手ならそれでも通用したが、今彼らが対峙している竜牙兵はどうにも特別製らしく、なんとも器用に連携を取り『兵隊の動き』ができてしまえるのだ。

この差が大人数になってくると利いてくる。

一対一なら互角以上に渡り合える熟練のプレイヤーが、二体同時に襲い掛かられ為すすべもなく狩られる。


 さらにプレイヤーの、人間だからこそ受ける心理的な圧迫感もマイナス要因として働く。

最初こそいい。「モンスターなら倒せるはずだから」と、竜牙兵相手に挑みかかり、倒しているうちはテンションも上がる。

だが、隣で戦う仲間が傷つき倒れればそれだけ心理的に重い負荷がかかり、押しつぶされそうになっていく。

心にのしかかる重みは、判断力や精神力に直に影響する。

何事もなければ間に合った回避の判断が、わずかな躊躇によって間に合わなかったりする。

その所為で一人、また一人と削られていくのだ。


 そしてその状況は今、より深い絶望により深化していった。

大量の増援。

100体でも多かった竜牙兵が更に増えたのが、団長達からも見えたのだ。


「こうも数が多いと、正面突破では時間がかかってしまうねえ」

「面倒くさいわね。竜牙兵って時間経過で消滅しないから、時間操作しても中々朽ちないし」


 マジョラムを早く倒さないとまずいのは二人には解っていた。

だが、その為にはこの取り巻きをなんとかしないといけない。

ではどうするか。


「仕方ないな。少し手荒に行くか」

 

 左肩をコキリと鳴らしながら、アムレンシスが団長の真後ろに動く。

隣りに立っていたのにわざわざ移動したため「どうかしたのかね?」と首をかしげていた団長であったが。

アムレンシスは「面倒だから一気に行くわよ」と、左足を上げた。


「……えっ?」


 団長には、アムレンシスの考えている事が解らない。

だが、彼女の中ではすでに決定されていて、そして実行に移されようとしていた。


「――飛べ!!」

「うぉぉぉぉぉぉっっっ!?」


 直後である。

がつん、と、自分の背中から強烈なショックが与えられ、身体が浮いた。

何事かと感じた瞬間、団長は世界が止まったのを感じたのだ。

時間停止魔法『タイムカウント』。全ての時を停止させる時属性魔法である。

だが、その意図するところを理解するより早く吹き飛ばされ、止まっている竜牙兵の群れへと突っ込まされる。


「へぶっ!? ぐあっ! げふぅっ!」


 当然団長はダメージを受ける。

止まっていようと何だろうと物体に激突すれば相応に被害は受けるのだ。

しかし、身体は止まらない。止まってくれない。

時の魔法で威力ブーストされたアムレンシスの蹴りによって、彼は今、一つの弾丸と化していた。


-Tips-

あむれんしすきっく(スキル)

正面から相手を蹴りつけるアムレンシスの数ある必殺技の一つ。

本人曰く「特別なコツ」により蹴りが見舞われるその一点に威力・破壊力の全てが集中されるようになっており、一撃で山を崩し海を切り裂き宇宙を破壊するほどの攻撃力を誇る。

スカートの時には躊躇われるため使用できない。


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