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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
4章.ギルド活動!(主人公視点:ドク)

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#4-1.亡霊の住まう村

 潮干狩りから三日ほどが経った。

そろそろミルクいちご同盟の連中も銀真珠が集まった頃なんじゃ、と、たまり場で雑談のネタにしたりしていた時の事だった。


「あら、皆さんおそろいで……こんにちは」

黒猫耳黒猫尻尾、黒のひらひらドレスというなんとも狙いすぎな出で立ちで、ドロシーが現れた。

いつも来る時には連れてくるローズの姿は無く、珍しく単独でのご来訪らしい。

いつもの司祭服ではないし、プライベートだろうか。

「よう」

「こんちわー」

「おひさー、元気してたー?」

その場で雑談していた俺と一浪、プリエラの三人もにこやかぁに挨拶を返す。

「はい、おかげさまで……レナさんは、今日はいらしてないようですね?」

礼儀正しく返すも、キョロキョロとたまり場を見回すドロシー。

当然、探したところでマスターはいない。

「多分どっかにいるんだと思うが、どこにいるのかは解らんな」

もうログインしていてもおかしくない位の時間にはなっていた。

俺が知る限り、マスターは大体俺がログインする一時間前にはログインしている事が多いので、今頃はどこぞをほっつき歩いてるのだろう。

「マスターに何か用事なのかい?」

一浪の問いかけに、ドロシーは頬に手をやりながら、眉を下げる。

「ええ、そうなんです。実は最近、私の所のメンバーが、狩場で変わったモノを見つけまして……」

「変わったモノ?」

「ええ……ほら、中級以降の狩場になると、モンスターも段々と人間に近い知性を持ったりするじゃないですか? 人間とそう大差なくコミュニケーションをとることができる相手もいる位で……」

「なるほどな、そういうのが、狩場にいたって事か」


 狩場のランクが上がれば上がるほど、そこに生息するモンスターの知性も高くなっていく傾向が強い。

人とそう大差ない知性となると中級以上の魔族だとか亜人だとかの非人類種族の敵対者がこれに該当するのだが、そういった相手は時として会話によってコミュニケーションを図ることが可能で、口先が上手かったり、相手の機嫌がよかったりすると戦闘を回避する事や、その場限りで共闘する事も可能だったりする。

勿論、多くの場合は敵対生物扱いに違いないので戦闘になるのだが。


「廃墟マップの『コーラル村跡地』をご存知ですか? 元々はタウンマップだったのが、モンスターの襲撃を受けて廃墟となってしまった場所で……」

小さく頷きながらも、俺のところまできて地図を渡してくるドロシー。

見れば、リーシアのずっと西、かなり深い森の中にバツ印がつけられていた。

「名前だけは聞いた事があるぜ。テストが終わって、正式に開始されたのと同じ年に襲撃された村だろ? 防衛に当たってたプレイヤーの大半が犠牲になったっていう」

正確には『行方不明のまま所在解らず』というのが全体の見解だが、当時を知るプレイヤーのほとんどは、そいつらは襲撃に抗いきれず死んだのだろう、と思っていた。

「今ではあまり実入りのない場所として、滅多に人が近づかなくなっているらしいのですが……好奇心で入り込んで、適当に霊種族のモンスターを狩ってたところ……村の中心部にたどり着いたあたりで、歌声が聞こえたそうなんです」

ここまでドロシーが話して、プリエラが青ざめているのに気付く。

「……辛いなら、どっか行ってていいぞ?」

プリエラは怖いものとか幽霊とかそういうのとものすごく相性が悪い。

怪談をするだけでも取り乱すほどなので、無理に同席させるのは可哀想過ぎた。

「う、うん。ごめんね……ちょっと教会行ってくる……」

既に気分が悪いのか、口元を抑えながらそろそろと立ち上がり、ぐったりした様子で去っていった。


「……相変わらず、プリエラはこういうのがダメなんですね……」

「ああ、未だに治らんな。プリエステスが一番活躍できる相手なのにな、亡霊だの幽霊だのって」

霊種族モンスター相手に絶大な力を発揮できる聖職者系ジョブは、その手のモンスターが湧くマップでは鬼神の如き活躍が期待できる。

この時ばかりはただの支援プリですら下手な前衛職よりも強いほどなのだが……プリエラは、折角の強みを自分の苦手意識の所為で完全にふいにしていると言える。勿体無い。


「――それで、その歌声の主は何だったんだ?」

プリエラのことで話題が逸れてしまったので、軌道修正する。

ドロシーも多忙な中折角来てくれたのだ、あまり無駄話もできまいと思っての事だった。

「村娘の格好をした亡霊です。楽しげに歌っていたのですが、彼らが近づいたのに気付くや『殺さないで』と泣き出しながら命乞いを始めたようで……」

「そいつはまた……」


 亡霊だの死霊だのの霊属性モンスターというのはかなりの確率でおかしくなってる事が多いのだが、人並に理性がある亡霊というのは珍しい気がした。

なるほど、確かに『変わったモノ』だなと、納得できる。


「既に死んでるのに『殺さないで』ってなんか矛盾してるね」

「ええ。でもそれって、自分が死んでいることに気付いてないから出た言葉でしょうから……そういった経緯から亡霊だと判断したようです」

「なるほどなあ……」

自分が死んだことに気付いていない霊を、ゲーム内では亡霊と呼んでいる。

基本的にはモンスター扱いなのだが、これがどういう経緯で発生しているのかは今のところ誰にも解っていない。

ただ、プレイヤー間では色んな説が出ていて、プレイヤーやNPCが死ぬ事によって発生するのだと主張する奴もいれば、元々そういう存在として、敵対生物扱いで湧くように設定してあるに過ぎないと主張する奴もいる。

変わりどころでは「彼らもNPCの一種だ」という、変則的なNPC設定説を掲げる奴もいるが、まあ、どれも明確にこれと言える証拠が無かった。

当然と言えば当然で、ゲーム内で死んだ奴はプレイヤーだろうがNPCだろうが一定時間経過すると存在が消滅してしまう。

骨すら残らない。身につけていた遺品も消えてしまう。

ソレ(・・)が次にどんな状態になるのかは、誰にも解らないのだ。

一応、プレイヤーに限って言えば記憶も装備も経験も全ロスト状態で次の人生が始まるらしいが。


「もしそいつが本当に理性の残ってる亡霊なんだとしたら……今まで誰も解らなかった霊属性モンスター発生のメカニズムがはっきりする可能性もある訳か」

このゲーム、多方面にわたって未だにはっきりしていない部分が多く、考察や各種研究がかなりの数、同時進行で進められている。

そういった『明らかになっていない謎』は、運営サイドに問い合わせてもほとんどの場合返答が返ってくることはない為、知りたいのならばプレイヤー自身が手探りで調べるしかない。

今回の場合、自力で調べるのが困難な問題を、この一件で解決できてしまえるかもしれないのだ。

これはかなりでかい。リアルで公表すればプレイヤー間で激震が走る事になるかも知れないのだ。

「……その可能性は十分にありますが、ドクさん、そういったことに興味のある方でしたっけ?」

なんとなく話の輿を折られたように感じたのか、ドロシーは困ったように苦笑いしながら俺の方を見ていた。

「いいや、全く興味は無いぞ」

なので、しっかりとその懸念をへし折っておいた。

確かにはっきりすればそれなりに話題にもなるだろうし知名度も跳ね上がるだろうが、そんなものよりはずれレア装備の方が心が躍るのが俺という男だ。

「そうですよね……よかった。ドクさんがそういう事に興味がある方だったらどうしようかと」

「イメージ違っちゃうもんな。そういう学者肌な事はドクさんには似合わないよ」

ドロシーだけじゃなく一浪まで心から安堵したように息をついていた。

――一応俺、科学教師なんだけどな。メカニズムの解析とかは本職に近いんだけどな。


「そんで、それからどうなったんだ?」

「その亡霊があんまり泣き止まないようなので、戦う気も失せてそのまま置いて逃げたらしいです」

結末は割とあっさりとしたものだった。

「ただ、亡霊を見た人たちは皆言うのですが『歌が綺麗だった』とか『まるでヴォーカリストみたいな歌声だった』って賞賛してたんです」

「亡霊がヴォーカリスト並の歌を歌えるのか……そいつはすげぇな」

「すごい時代になったんだねえ」

歌なんて上手く歌える奴の方が珍しい昨今、亡霊にそれができてしまえるというのはちょっとした驚きだった。

「それ自体は笑って話せる話ではあるのですが……ちょっと気がかりがありまして」

その話もそれで終わるかと思いきや、ドロシーはじ、と俺の顔を見つめてくる。

「どうしたんだ? まだ何か続きがあるのか?」

「ええ……その亡霊と遭遇した人たちなんですが……ここのところずっと、同じメンバーだけでコーラル村跡地に出かけているらしくて……」

嫌な予感がする。どうにも、面倒ごとの予感だ。

ここにきて、ようやくドロシーがマスターを頼ろうとした理由が見えてきた気がした。

「それってもしかして……」

「正確なところは解りませんが、亡霊に惹き付けられているのではないかと思いまして……本人たちに確認しようとしても、私がログインした時には既に出かけた後、という事が多く、戻ってきた時に聞いてもはぐらかされるばかりでして……」

こんな事は初めてなんです、と、俯きながら漏らす。

仲間に支えられながら、頑張って頑張ってアットホームな雰囲気を作ったりして仲間を増やしていったこいつにとっては中々に堪える事態に違いない。

でも、こういう時に限ってマスターはいないし、来ないのだ。


「仕方ねぇ。マスターの代わりに、俺と一浪がちょっと行って調べてくるよ」

大切な元仲間の悩み事だ。一肌脱ぐのも悪くあるまい、と、腰を上げる。

「うぇっ!? 俺も!?」

驚きながら、一浪もあわせて立ち上がる。

「ま、まあ、いいけどさ……黒猫さんのとこには結構お世話になってるし」

若干照れくさそうだが、それでもこいつの付き合いのよさはありがたい。こいつに何度救われたことか。

「……ドクさん。一浪さん。ありがとうございます」

はっとしたように俺達の顔を交互に見ていたが、やがてじわりと目端が光り、涙ながらにぺこり、頭を下げてくる。

「気にするなよドロシー。それよりも、問題は場所だぜ。コーラル村なんて名前くらいしか知らなかったし、多分、転送用のメモなんて取ってる奴いないだろ?」

リーシアから大分離れている場所に向かうのに、転送陣なしはかなりきつい。

その、亡霊と出会った奴らはメモを取っていたのかもしれないが、そうじゃないならコーラル村まで徒歩で向かう羽目になりかねない。

日数的にもかなりかかるだろうし、色々計画的に考える必要がありそうだった。


「あら、コーラル村跡地の転送陣なら、私が持ってますよ?」


 どうにも不味い方向に雰囲気が転がりそうな時だ。

唐突に、あっけらかんとした声が響いた。


-Tips-

コーラル村跡地(場所)

リーシアから西に25マップほど歩いた先にある廃墟マップ。


鬱蒼とした森に埋もれた元タウンマップで、まだタウンマップとして栄えていたベータテスト時にはリーシア直近の村『アスミス』と交互での直通転送サービスが存在し、周辺の森林マップを利用した食材や木材、調合材料などを集めるのに適した拠点として活用されていた。


村人も多く、これらと交流したり交際するプレイヤーも少なからず存在していたが、正式サービス開始の半年後に、公式によるアナウンスで襲撃イベントが行われ、防衛に当たっていたプレイヤーもろとも住民が皆殺しにされ、以降怨念渦巻く廃墟マップとしてその存在を残している。


廃墟マップとしては霊種族、特にゴーストが非常に多く、いたるところがモンスターハウス状態になっている。

家屋の内部や村の外周部などは特に密集度が激しく危険なため、ゴースト狩りを楽しめるプレイヤー以外にとって旨みらしい旨みはほとんどないに等しい。

主なモンスター:ゴースト、ラルヴァ、ペスト、マンドレイク、レイス

ボスモンスター:???

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