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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
17章.ネトゲの中のリアル(三人称視点)

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#4-3.魔法大戦


『くははははっ、いいな、いいぞ娘よ! それくらいは戦えねば困る。そうでなくては、この舞台(・・)に上がった意味がない!』

「舞台、ですって?」

『そうともよ! ワシをはじめ、いくらかの者は運営サイドとやらの依頼を受けてこの場にいる。だが、ただ言われるまま従っている訳ではないのだ』

「条件がある、という事かしら?」

然様(さよう)。察しが良いな。ワシは、この世界で第二の生を手に入れた。だが、それだけでは物足りぬ!』


 からからと笑いながら、しかしその眼はギラついた野心に満ちていた。

どんな野望を口にするのか、自身の魔力を練り込みながらも上位ボスモンスターの願いを知りたいという好奇心に駆られ、セシリアはその言葉を待つ。


『今度こそ、我が娘と共に平穏な日々を手に入れるのだ! ボスモンスターなどというシステムに縛られた舞台装置ではなく、この世界の住民としてなぁ!!』

「……えっ?」


 その願いは、どちらかというと味方側がよくする主張のようで。

野心のままに悪党面になる『魔導虐殺王』という肩書きの男にはおおよそ似つかわしくない、そんな願いであった。


「ボスモンスターが、プレイヤーになりたがっているという事?」

『応ともよ! お前達プレイヤーの相手をしてやるのも悪くはなかったが、もう()いてしもうた! そして、娘ともども暮らすならば、モンスターなどという矮小な存在よりは、プレイヤーのような自由な存在の方がよかろう! 城も都合よくあるしな!』


 はるか遠くの王城を見やりながら、魔導虐殺王は自らの願望を愉しげに、本当に楽しそうに語るのだ。

これにはセシリアも「そうなの」と、呆れたように苦笑いするしかできなかった。


(てっきり世界征服とか、欲望を満たすためにプレイヤーを奴隷にできるシステム実装とか、そういうのを望むのかと思ってしまったわ……)


 存外俗物ではなかったというか、暴君故に望む物がほとんど叶えられたが故にこのように慎ましやかな願いに収まったのか。

いずれにしても、それ自体は別にセシリアも否定するようなものでもなく、まっすぐにマジョラムを睨みつける。


「良い願いだと思うわ。叶いそうなのかしら?」

『あの小娘は確約してくれたがな。だが、本当に叶うかどうかは分からぬ。まあ、叶わぬなら、叶わせればよい。弱体化したとはいえ、ワシにはその力があるから……のう!』

「……っ」


 会話の途切れ目。 

また暴力的なまでの魔力が空間に侵食し、酸素が飴色に熱せられる。

融けてゆくのだ。空間が、ベロリと剥がれ落ちるかのように融け、その裏にある真っ黒な何かがマジョラムの周囲を支配してゆく。

見るもおぞましい、魔力による制圧。


『抗って見せよ。プロミネンスを防いで見せたお前ならあるいは――生き延びられるやもしれんぞ?』


 帯電する空気。

ただそこにマジョラムが在るだけで、周囲の空間が電気の壁に呑み込まれてゆく。

ただ風が吹くだけで、それが瞬く間にセシリアの周囲にまで伝搬し――全てが雷撃の渦の中に収まっていた。


「は……これはっ」


 思わず息を飲む。

雷撃そのものは『斥力結界』で防いでいたセシリアだが、それが常に干渉し続けてくるのだ。

斥力フィールドと比べ消費こそ抑えられる防御魔法だが、流石に常時となるとガリガリと魔力が削られてゆく。


『ふははははっ! どこぞの至高神が得意とする雷豪雨よ! もっとも、ワシの扱うこれは範囲を収束させ、狭範囲を制圧する空間制圧魔法だがのう!』


 (いかづち)だけではなく、(いなづま)も地形そのものを削り取ってゆく。

すぐに、セシリアが立っている地形も破壊され、足元からぐらつかせられた。


『――グラビトン!』

『……ほうっ』


 重力制御で中空に浮かび、辛うじてその影響を避ける。

しかし、地面と空中双方から繋がるようにして走る電撃に、尚も結界は削られ続けていた。


『防御一辺倒では、勝つ事も出来んぞ……?』

「それは、余計な心配だわ……」


 頬を走る珠の汗。

誰もが醜くなるはずの必死の形相はそれでも尚美しく感じられ、マジョラムは感嘆の息を漏らす。

強い。ただ強いだけでなく、美しい。

これほど美しい娘はそうそういないのではないか。

そう、自身の娘以外では、そうはいなかったと、彼は思ったのだ。


『ワシの妾になれ。この世界での妾一号だ。悪く無い話であろう?』

「勝ってから言うべきセリフね」

『勝ってからでは、消し炭にしかならんではないかぁ?』


 あくまで試練を与えている程度の気持ちのマジョラムにとって、もはやこの目の前の美女は、ただのコレクション欲のはけ口に過ぎなかった。

そう思うと壊してしまうのが惜しくもあり、魔法の威力を弱めてしまいそうになるが……しかし、セシリアの目が未だ死んでいないのを訝しがり、マジョラムは考えを改める。


(こやつ……まだ何か隠しておるようだ)


 それが何なのかは解らないが。

己が望むままにならぬなら、なるようにしてしまえばよい。

それこそが、王としての彼の在り方。

彼自身が死ぬまで貫き通した生き様であった。


『そうれ! ハイパワーで行くぞ!』

「……っ」


 ズン、と、より強い電撃が空間を覆い尽くす。

結界が侵食され、その都度新規の結界がその内側から展開され、なんとか魔法を押し出そうとするが、それすら叶わず押し込まれてゆく。

時間の問題であった。

ただの物まね魔法で死ぬようならそこまで。

そう、現代の魔法遣いなどその程度なのだと、マジョラムは試すようにセシリアを見やる。

……自身の足元になど、微塵も意識を向けずに。


「限界、ね」

『くかかかかかっ、脆い、脆すぎるのう! ワシの女になっておればいくらかは時間を稼がせてやったというに!』

「いいえ、十分よ」

『うん……?』

「時間稼ぎは、もう十分だと言ったの」


 防ぎ続けた結界は砕け散る。

直後に電撃がセシリアに襲い掛かるが、防御が溶けたと同時に、破壊魔法の発動が可能になった。

雷撃に全身を貫かれながら、口元をにやけさせ、セシリアはそれ(・・)を呟く。


『エルギム……トゥース!』


 その唇がただ雷撃に痙攣しただけではないとマジョラムが気づけたのは、わずか一秒後。

しかし、それが何なのか解らず、全身を覆う様に防御結界を無数に発動しようとして……それが遅すぎた。


『なん――ふごぉぁっ!?』

《グシャッ》


 彼自身の思考力より一歩早く、足元から発動された血みどろの牙。

既存の防御結界を容易く破壊し、その足を飲み込んでいく。


『くっ、こんな罠が――おのれぇぇぇっ!!』


 驚きながらも、すぐさま足下に魔法を撃ち込み、片足諸共吹き飛ばし数歩後ろへと飛び退く。

そのまま治癒の魔法を使い、吹き飛んだ足を再生させようとしたのだが……直後、また牙が飛び込んできた。


『あっ、がっ――』


 残った足に対しての追撃。

そのまま、その場に転倒してしまう。

当然のように今度は胴体へと、そして頭部へと牙が迫り……今度こそ、マジョラムは飲み込まれていった。



「はぁっ……はぁっ……」


 対してセシリアは、息も絶え絶えにその場に膝をついていた。

たまたまである。たまたま雷撃耐性装備をつけていたおかげで、即死は免れていた。

それでも継続的に流され続けた電流で死にかけたが、そこは魔法耐性で辛うじてレジストしきり、生き延びる。


(後……少しだけ、続いてたら、まずかったわ)


 もしマジョラムが被害を顧みずそのまま魔法を展開していたら、死んでいたのは自分の方。

一度きりの魔法と思い込み飛び退いてくれたからこその勝利と思いながらも、今にも爆発しそうなほど過剰に暴れ回る自身の心臓を押さえつけるように、胸を強くわしづかみにする。

鋭い痛みが胸に走り、しかし、それでも苦しさから解放されない。



……しかし。

ボスモンスターが倒れれば、通常、その場にドロップアイテムが何かしらドロップされるはずである。

それが、まだ(・・)なかった。

渾身の一撃と思ったセシリアだが、次第に顔色が薄くなってゆく。

まだ、死なないのだ。

瀕死かどうかも解らないが、確かに生きている。


『……ふん。思いの外驚かされたぞ、娘よ』


 声は、真後ろから。

――確殺を願うなら、追撃を喰らわせるべきだった。

そんなできもしない後悔が、過呼吸で麻痺しかけている脳髄に染みるように広がってゆく。


「まさか、転移までできるなんて」

『ワシを誰だと思っておる? シャルムシャリーストーク最強の魔法使いぞ? お前達現代人の使っておる転移や転送魔法の、その基礎を生み出したのは誰だと思って居る? ワシだぞ(・・・・)?』

 

 できぬはずがなかろう、と、再生したばかりの先ほど千切れた足を振り回しながら、セシリアの前に立つ。

カラカラと笑いながら。周囲に大量の取り巻きを召喚しながら。


『とはいえ、ワシの肝を冷やさせたのもまた事実。いや、見事である。三年ほど前にも、システムの補助がろくにない状態でワシに挑み、見事腕を切り落とした者達がおったが……お前らのその気骨だけは、褒めて遣わすぞ?』


 ワシには遠く及ばんが、と、冷たい視線を向けながら。

最早興味を失ったのか、無造作に杖を振り下ろし、取り巻きをけしかけた。


(あっ……)


 一斉に襲い掛かるモンスターの集団。

既に防御結界を展開する力も失った彼女には、抵抗する術すらなく――



-Tips-

雷豪雨(らいごうう)(スキル)

異世界の至高神『エイゼン』の究極奥義。

本来は全世界を雷撃の雨で包み込む『神威』で、単純な破壊力のみならば全世界最強の破壊範囲を誇る。


マジョラムはこれを魔法で再現し、「範囲が広すぎて無駄である」という理由で狭範囲に収束させるアレンジを加え、威力を更に極大化させることに成功している。

更にオリジナル要素として雷撃の質を変える事で攻撃と共にメンタルを削ったり判断力の低下をひき起こさせたりするなど、『耐えられてもただでは済まない状態』に陥らせる事に重きを置いており、長期的な戦闘を重視した搦め手スキル的な存在として気に入っている。



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