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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
16章.あーるぴーじー!(主人公視点:ドク)

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#13-1.タウン・ディフェンス


「敵の攻撃始まったぞ! 湧いてきたのは西と東の陣! 強襲班任せた!」


 昼過ぎ、陣地にて甲高い男の声が響く。

二度のウェーブを経て、現在14時半のウェーブが始まっていた。

この時間帯のメンバーは20人ほど。


 やはり時間が早すぎたのか、10時半のウェーブでは人数が足りず、防衛は失敗してしまった。

幸い死ぬ奴はほとんどおらず、クリスタルを破壊されての敗北だった為、12時半のウェーブには参加できたが……この時も敗北したものの、二回分の反省点を活かし、いくらか突破の道筋が立っていた。


 その鍵となるのが敵陣を強襲する『強襲班』である。

ウェーブが開始されると敵陣地からモンスターが大挙して押し寄せてくるが、陣地に残るモンスターはそこまで多くはない。

その分いくらか強い奴らが残っているのだが、これは極論、無視してしまっても問題なかった。

勝利条件『逆転勝利』を満たす為には、モンスターの湧く敵陣の制圧さえできればいいのだ。

敵陣の制圧に、モンスターの殲滅は必要ない。

敵陣のクリスタルを壊せばいいので、特攻を仕掛けてクリスタルを破壊、その後速やかに離脱という戦術を選択できる。


 最大の問題は、敵陣に奇襲を仕掛ける前にウェーブで湧いたモンスターに発見されたり、落としきる前にウェーブで新たなモンスターが湧いてしまい敵陣がモンハウ化することの二点だが、これらも意見を出し合い検討と検証の結果解決する手段を見つけていた。

やはり、失敗してもいいという前提はその分だけ色々な情報を収集できて楽である。


「んじゃいくぞ、覚悟はいいか!」

「とっくに! 中央突破なら誰にだって負けないわ!」

「十分だよ、任せな!」

「くくく……いい覚悟だ。頼もしいじゃないか。無論、私も覚悟はできているが、な」

「問題ないようだな、よぉし……」


 強襲班のメンバーは転送・支援役の俺と、敵陣の突破口を作るローズ、足止め担当のレプラ、そしてクリスタル破壊担当のソードマスター(男)。

ちょっとハイアットみたいな口調だが、二回目のウェーブで参加した際に結構強い奴だったので頼りになる。

何よりクリスタル破壊においてはクリスタル特攻を持つソードマスターは最重要メンバーだった。


「頑張ってくださいね、皆さん」


 ドロシーの支援で防御面も火力面も増強済み。

作戦は俺達だけじゃなくこの場に居る全員が頭に入っている。

やれることはやった。後はただ、突っ込むのみである。


「んじゃ、行ってくるわ」


 ちゃ、と手を挙げ、余裕をにじませながらに転送陣を展開。

三人ともすぐに駆け込み、俺もまた、最後にドロシーの顔を一目見て、そしてその力強い微笑みに満足して転送陣に乗り込む。


 このイベントには、攻略ポイントがある。




 転移した先は、敵陣クリスタルの前。

そう、目の前である。

個数分壊してしまえば攻略完了のイベントで、その条件となるオブジェクトの目の前に転移・転送できる。

これほどバランスブレイカーな抜け道もあるまい。


「――しゃぁっ!!」

『うごっ!?』


 即座にクリスタルに駆け寄り、一撃を喰らわせるソードマスター。

少し離れた場所でぼーっとしていた巨大な一つ目の人型モンスター――サイクロプスが、突然現れた俺達に気づいてつぶらな瞳を震わせる。

10メートルクラスの巨体も、手に持った巨大なハンマーも、何一つ活かせず呆然としていたのだ。ありがたい。


《カキィンッ》


 小気味いい音を立てながら、ソードマスターの白刃(はくじん)がクリスタルを削り斬る。

流石に一撃では割れない。


「壊れないか! タクティクスならこれで一撃なんだがなっ」

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 いい感じに正面から斬り付けられたが、それでも一撃では無理か、と思ったところで、耳をつんざくような絶叫(クライ)をあげながらローズが突撃していく。


「だっ――しゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


《ゴィンッ》


 手に持った両手持ちのバトルアックスを勢いのまま叩き付け、クリスタルにぴしりと大きなヒビを走らせる。

だが、まだ割れるには至らない。


「ちぃっ――」

『グゴァァァァァッ!!!!』


 流石に戸惑っているばかりではいてくれないのか、サイクロプスがハンマーを振り上げ、ローズの元へと駆け出す。

ただ駆けてるだけだが地面はぐらりと揺れ、その一踏み一踏みが脅威の威力ともなる、そんな巨人の攻撃である。

ローズも危機を感じたのかクリスタルから離れようとするが、思いの外斧がクリスタルに食い込んでいたのか、なかなか抜けずに焦る。


「――やらせないよ!」


 だが、サイクロプスの攻撃がローズに達する前に、レプラのナイフが三本、サイクロプスの目に突き刺さった。


『グゴッ……フガァァァァァァァッ!? アガッ! フギャァァァァッ!!』


 潰された目を抑えながら、しかしその勢いは完全に止まり。

目の痛みに耐えかねてか、その場でじたばたと地団太を踏んだサイクロプスは、もはや完全に攻撃どころではなくなっていた。

それを好機とみてか、ソードマスターもローズもサイクロプスには目もくれず、クリスタルへの攻撃を繰り返す。


「これで……どうだっ」

「うりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 サイクロプス以外にも敵陣にはモンスターが居た。

そいつらがこちらに気付く事も、こちらへと駆け寄ってくる事も、そして俺達をターゲッティングして魔法を撃とうとしているのも、解っていた。


《カシャッ――》


 だが、それらが到達するより早くクリスタルは壊れる。

一つ目。一つ目の破壊成功である。


「っしゃ、ポータル!」

「いけぇぇぇっ」

「おーっ」

「逃げるが勝ちってね!」


 そして、直後転送。

実のところ、俺の役割はこれがメインである。

敵陣のモンスターが俺達を包囲し、攻撃を始めるより前に、クリスタルを破壊し逃げるための足代わり。

クリスタルさえ破壊すれば後は戦わずとも、モンスターを蹴散らさずともいいのなら、そして転移する事が出来るのなら、この方法がベストに違いなかった。



 二つ目のクリスタルも同じ要領で破壊。

こちらはクリスタルの目の前に強力な魔族『ガードナイト』が控えていたが、レプラの足止めスキルが上手く決まって時間稼ぎしている間にクリスタル破壊に成功。

壊せてしまえばもうモンスターは消滅するので、最初のクリスタル破壊時よりも安心安全だった。



「おーす、そっちはどうだった?」

「皆さんお帰りなさい。こちらは16人全員生存です」


 中央に戻れば、防衛担当の奴らが笑顔で迎えてくれた。


「おー強襲班おつかれー! 作戦通りいってよかったぜ」

「言われた通りにして正解だったわね。やっぱり一度でも二度でもやった事ある人いると安心できていいわぁ」

「ブラックドラゴンが突っ込んできたときは流石に死を覚悟したけどな」

「短期決戦じゃなかったらあれが時間いっぱいまで続くんだろ? やべぇよなこのイベント」


 幸い参加者全員が生還できたらしい。

口々に「よかったよかった」と互いの健闘をたたえ合い、そして窮地に陥った時の話などを語り合っている。

全員ポイント獲得できたのも嬉しいが、こうやって皆が笑顔になり、和気あいあいとなれるのはそれ以上の宝のように思えた。

こうやって見ず知らずの奴らと協力しあえるのは、本当に楽しいのだ。


「俺達の完勝だな!」

「はい!」

「おぉぉぉぉっ! 俺達でも、このイベントクリアできるって解ったんだ、作戦の勝利だぜ!!」

「次からも頑張りましょうね! いぇーいっ!!」


 色んな声が上がる。

皆が楽しんでいる。

難易度はアホ程高いが、攻略できる道筋はできた。

それが仕様なのか運営サイドのミスなのかは解らないが、今はこの勝利を喜びたい。


-Tips-

サイクロプス(モンスター)

10メートルを超す巨体と、顔の大半にもなる巨大な一つ目の巨人。

巨大なこん棒やメイス、ハンマーなどを武器として用いる他、その巨大さを生かした格闘や踏みつけ、岩石投げなども得意としている。


一撃一撃がガードし損なえば大ダメージ、酷ければ即死も十分にあり得る強力な物ばかりだが、動きは緩慢で、しかも搦め手となる幻惑魔法などに対しての耐性が全くないことから、魔法職の絶好のカモとされる。

また、同時に複数人から攻撃を受けるとどれを攻撃したらいいか解らなくなる、いわゆるコカトリスタイプの思考ルーチンの為、同時攻撃によって混乱してしまう事がある。


攻撃能力の高さやタフネスに対して知性はあまり高くなく、基本的に賢い行動がとれない為、一応は上級モンスターとされているものの、同じマップに出現する他のモンスターと比べればモンスターとしての脅威度は格段に低いとされている。


通常ドロップは基本的にゴミ同然だが、レアドロップの『不屈のメイス』は、これが装備できる前衛職にとっては有用な為にそれなりに需要があり、狩りやすさから乱獲される事が多い。


種族:悪魔 属性:地

備考:水属性耐性80%、地属性耐性50%、風属性耐性50%、聖属性耐性20%、雷属性耐性-80%、即死無効化(必ず二度耐える)


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