#11-2.その後無茶苦茶からかわれた
「そもそも、なんで貴方は私達を騙そうとしたのかしら?」
意外と騙せていなかった事実に気付かされ、ちょっとプリエラ顔が崩れてきている偽者に、マルタの追求が続く。
これに関しては俺も知りたかったし、余計な口は挟まない。
偽者も「ううん」とちょっと答えにくそうにはしていたが、それでも答える気はあるらしい。
「単純に、本物さんを返す気が無い……というより、返せないからよ」
「返せない?」
「そう。本物の人はね、今運営サイド的に……ちょっと無視できない存在になっちゃってて。私達で『保護』している状態なの」
「それは、何かプリエラが問題に巻き込まれたとか、そういう?」
「どちらかというと、あの人の存在そのものが問題なのよ、運営サイド的には」
プリエラがしない顔をしながら、プリエラ顔の偽者は言葉を選びつつもマルタの問いかけに答えていく。
もう演技を続ける気もないのだろう。
素が出ていると、やはりプリエラの顔をしただけの全くの別人だった。
「別にデリートする訳ではないわ。でも、運営上支障がなくなるまではこちらで預かるつもりだから、貴方達の元にはしばらく戻れない訳」
「それと貴方がその振りをする意味は繋がっているの? 理由を説明すれば私達だって納得はできなくとも理解はできたわ」
「それは……貴方達を、悲しませたくなかったというか、やってる事は理不尽なメンバー引き抜きも同然だからね。何かしらの補填はしてあげたかったの。私が」
少なくとも本物と偽物の対話の中で語られたことは嘘ではなかったと言う事か。
流石にあの時に話していた事そのものに触れる訳にはいかないのだろうが、それでもここまで素直に説明してくれたのは意外だった。
俺達なんて、こいつから見たら何一つ事情を知らない部外者なのだから、いくらでも嘘をついて騙せるだろうに。
「それで」
「……?」
「貴方は何者な訳? プリエラの振りをしているのは分かるし、運営サイドの人なんでしょうけど……」
「正体を知りたいの? 運営サイドの人間って解っただけで十分だとは思わないの?」
「思わないわ。だって」
「だって?」
「こんなにいじり甲斐のある相手がいて変な娘なんだもの。誰か知りたいじゃない?」
「へ、変!?」
マルタとしては面白いおもちゃを見つけた気分なのだろう。
その気持ちは分からないでもないが、いくらなんでもストレートすぎやしないか。
おかげで偽者は盛大にショックを受けている。
偽者とバレた時以上のショックのご様子だ。
変人に変人呼ばわりされるのは……そりゃ確かにショックだとは思うが。
「確かに変わった奴ではあるが」
「変わった!? ドクさんもそんな風に思ってたの!?」
「まあ普通に考えたらこんなことしないからな……」
「彼氏持ちの相手に成りすますなんてハイリスク過ぎて普通やらないわよね。ある意味チャレンジャーと言うか」
「そ、そっちなの……?」
「だって宿に連れ込んだら全力で拒否するし」
あれはまあ、プリエラでも苦笑いしながら「もうちょっと雰囲気とか作ってよ」と苦言を呈するかもしれないが、あいつなら宿の前で大泣きしたりはしなかっただろうし、なんだかんだ受け入れてくれるんじゃないかという信頼はある。
だからこそ、それを泣きながら拒否ったこいつはどこまでも偽者以上にはなれないのだ。
「そんなのっ……だ、だって、いきなりデートで宿に連れ込もうとするとかおかしいし!?」
「ドクさんならそれくらいいつもやってたと思ってたわ」
おのれマルタめ。そんな目で俺を見ていたのか。
いくらプリエラ相手だって流石にそんな事はしないというのに。
むしろちゃんとデートデートしたデートして身も心も「ドクさん大好き!」ってなってもらってから連れ込むはずだきっと。
でもアイツの場合最初からその辺カンストしてる気もするからどうだろうか?
案外本物に対しても同じような事をしてしまうかもしれない。
やばい自信が無くなってきた。
「ドクさんってそんな人だったの……? 私、別視点で見ていた時はあんなことしない人だと思ってたのに」
「いや、しない人だぞ? そっち方面で信じてくれていいからな?」
だが、この偽者が俺の事を誤解(?)したままでいるのは旨くない。
マルタにはいくら誤解されてもそこまで気にならんが、このシャイな娘さんを傷つけたままというのはちょっと良心が痛む。
「でも、連れ込もうとしたし……」
「面白そうだったからな」
「やっぱりドクさん酷い人じゃない! 女の子宿に連れ込もうとして泣かせて楽しむなんて酷いよ!!」
また涙目になる。
だからその顔はやめてくれ、本当にめちゃくちゃ好みなんだ。
「プリエラの泣き顔は見ているととても楽しいから……」
「楽しい!?」
「嗜虐心そそられるよな」
「嗜虐心って!? うぅっ、もうやだっ、このギルドやだよぉっ!!」
折角大人しくなっていたのにまた泣き出してしまった。
泣き方そのものはプリエラとは全く違うが、これはこれで良いというか……アリな気がしてきたから困る。
「ドクさんは女の子を泣かせて喜ぶ変態だから……」
「変態扱いは流石に傷つくぞ」
「……そうかしら?」
「ああ、流石にな」
そして俺以上にプリエラをからかって遊ぶ事の多いマルタがそれを言うのは納得いかなかった。
変人に変態呼ばわりされるのはちょっとどころじゃなく傷つく。
俺はただサドなだけだろうに。
そういう一面を持っているだけだろうに。
「でも、この娘ももしかしたらいじったら面白くなるかもしれないわよ?」
「面白いおもちゃ扱いはやめてやれよ」
「でもプリエラは返してくれないのでしょう?」
「返してくれないんだろうなあ」
「ならここにいる間はプリエラの代わりになってくれないと」
「お前の中のプリエラ、マジで面白いおもちゃなのな」
否定はしきれないが。マルタは否定する気すらないが。
確かにプリエラのギルド内の立ち位置は愛すべき駄犬である。
その役割を演じるつもりなら……マルタに弄り倒されるのは避けて通れない道なのかもしれない。
「頑張れよ偽者」
「えっ?」
「これからもよろしくね偽者さん」
「ちょっ、なんで私残る事前提なの!? バレたら流石に戻るわよ!?」
「マジかよ」
「え、嘘……」
「なんでそんな二人して『帰るとは思わなかった』みたいな顔してるの!? 帰るよ!!」
この切り返しの的確さ。新鮮である。
ある意味一浪を越えたかもしれない。
中の人が例のトップアイドルなのだというのも納得である。
「大体! あの人だってこんなひどい扱いされてて嬉しい訳ないでしょ! おかしいわよこのギルド!! 皆おかしい!!」
「マジかよ俺らおかしかったのか」
「傷つくわ……」
今現在のうちのギルドに対しての本音での感想を伝えたつもりなのだろうが。
ここまで来ると最早この偽者。存在そのものがネタでしかない。
俺もそうだが、マルタも弄り倒す気満々である。
「あっ、そ、その、そういう意味じゃ……傷つけるつもりはなくてっ」
そして偽者は俺達の態度に勘違いしておろおろしてしまう。
俺達をだまそうとしても、プリエラを捕らえたままにしていても、本心では他者を傷つけられない娘なのかもしれない。
いや、そんなこと考えられるほどに経験が無いのかもしれない。
何せ、あのアイドルはまだ15歳かそこらのお子様だ。
善意と善良さが、悪意と悪辣さに勝っているのだ、まだ。
「貴方はいい娘ね」
「えっ?」
「すごくいい奴だよな。俺達騙そうとはしてたけど」
「あっ、そ、それは……っ」
プリエラとは別方向だが、別軸だが。
これはこれで癒されるというか、ほっこりするというか。
多分すごく頭いいだろうしすごく優秀なんだろうけど、人間的な経験値の低さがそれを薄れさせてしまうというか。
すごくダメな娘っぽくて好感すら覚えるというか。
仮にこいつが全ての黒幕でしたなんて言われても「そっかー」と盛大に流してしまいそうだった。
そういう意味ではゲームマスターによく似ているというか、方向性が同じだった。
「と、とにかくっ! 偽者ってバレたなら私はもう戻るしっ! その、今まで誤魔化しててごめんなさい!」
「それで、次はいつ来るんだ?」
「もう来ないわよ!?」
「いつ来てもいいのよ?」
「来ないったら!!」
本当に来てくれてもいいんだが。
偽者は偽者として面白い奴だから割と歓迎なんだが。
来ないなら来ないでそれはそれで残念である。
「うぅ、それじゃ、さようならっ」
「さようなら」
「またなー」
まるで親友が自分の家に帰るのを見送るが如く、俺達は去っていく偽者に手をフリフリ、そう悪くない顔で見送ってやった。
本人としてはバツが悪いことこの上ないのだろう。
心底やりにくそうな顔で転移していったが。
正直もうちょっと話したかった気にもなるから不思議である。
-Tips-
総開発責任者からの手紙(手紙)
喜びなさい伯爵。貴方の苦労が報われる時は近いわ。
専念できているおかげで比較的スムーズに創造できているの。
この分ならそう掛からず面白いことになると思うわ。
そういえばそちらからの問い合わせで調べた結果だけれど、例のトップアイドルさんが一枚噛んでるみたいなの。
バグでIDがゲームマスターの片割れと同じになってるから本物と同一人物扱いよ。
つまり本物に恋人がいたら付き合った覚えもない恋人と恋人同士になってる設定な訳。最高に面白いわよね。
作った覚えのない娘達に付きまとわれてる貴方には割かしタイムリーじゃない?
追伸
再構築が終わったら演算処理は元に戻すけど特に通知とかはしなくてもいいわよね? いいことにしたからよろしく。




