#3-1.褌戦隊マッスルグラディエーターズ
とにもかくにも、水着に着替えなくては話にならない。
潮干狩りと言えば精々が膝下までの海水と相場は決まっているが、転倒したときなどを考えれば服を着たままというのはやはりあまりよろしくないのだ。
というより、暑い。焼け付くようなじわじわとした熱気が空から砂浜から、服を着た俺達を蒸し焼きにしていくのを感じる。
このまま動くというのは、正直無理なのだ。
「……はあ」
そして、ここでもため息をつく。
脱ぐもの脱いでさっさと着替えて終わりなのだが、着替え終わった俺の前に待っていたのはむくつけき男達のふんどし姿である。
「おうドクさん。相変わらずサングラスだけは外さないんだな?」
ふんどし親父カイゼルがビール片手に笑いかけてくる。相変わらず酒好きな奴だった。
「意外と鍛えられてるんだな。端から見るとちょいとひょろいアニキに見えてたぜ」
ふんどし二号のひげもじゃが、何か得体の知れない串焼きを食いながら笑っていた。こいついつも何か喰ってるな。
「いやぁん、水着姿もす、て、き☆ もっとお近づきになりたいわぁん☆」
そしてオネエ口調のふんどし三号が俺ににじり寄ってくる。やめろ、それ以上近づくな。
「なんで俺、お前らと組んでるんだろうな……」
途方に暮れてしまう。周りを見れば恋人同士でキャッキャウフフしてる奴らもいるというのに。
まあ、モテない奴は皆男同士組んでるようだが。
「あれ? ドクさんだ。こんな所で何してるの?」
近場でキャッキャウフフしてる奴らを眺めていた中不意に後ろから声をかけられ、振り向けば見慣れた茶髪がいた。プリエラだ。
うんざりするほど筋肉パラダイスな現状、本気で天使なんじゃないかと思ってしまうほどにその存在は瑞々しかった。
「うむ。なんか、な。油モノばかりで目が淀みかけてたから潤そうとしてたんだ。本能的に」
「あはは、何言ってんのかわかんない」
自分でも良く解らなかったが、「他のやつらが羨ましかったんだ」等とは口が裂けても言うまい。
カイゼルたちは楽しそうにしているのだ。俺だって愛想でも楽しくしてみせにゃならんだろう、と、思ったあたりでプリエラの水着姿が目に入る。
「……なんだ、去年と違う水着なのか」
「うん。ドクさんってば急に海に行くって言い出すんだもん。今日急いで買ったんだよー。どう? どう? イケてる!?」
あんまり見るのもなんだと思ったものだが、プリエラのほうから聞いてくるスタイルであった。
苦笑いしながら、遠慮なく上から下まで眺めさせてもらった。
「いいんじゃないか? 去年のあれはフリフリしてたからあんま似合わなかったが、今度のはよく似合ってると思うぞ?」
紺色と白のストライプが入ったビキニは、プリエラのように背が高く凹凸のはっきりしている奴にはよく似合っていると言えた。
これが去年のモノとなると、フリフリの少女趣味っぽいハイレグだったので、つい鼻で笑ってしまい機嫌を損ねた物だが――
「ほんと!? えへへー、ありがとね♪」
すごく嬉しそうににやけるプリエラ。なんとなくこっちまで気恥ずかしくなるが、プリエラはニコニコ顔で去っていった。
――よくよく思えば眼福であった。良く揺れていたのだ。
「今の、ドクさんのとこの娘かい? ミズーリと組んだプリエステスだよな?」
腕を組み満足しながらプリエラの後姿を眺めていると、カイゼルが横から話しかけてくる。
「ああ。うちのギルドの奴だ。プリエラっていう」
「……ほう。ドクさんとはいい関係なのか?」
「どちらかと言えば相棒だな。ギルドでペア狩りする頻度ではあいつと一緒が一番だしな」
カイゼルとしては何か含みを持たせていたつもりらしいが、実際問題プリエラとは特別に繋がりなどはないのだ。
たまーにプリエラが妙に機嫌がよくてべったりくっついてくる事もあるが、あいつは基本、誰に対してもそういう所があるのであいつ自身がどう思っているのかもはっきりとは解らない。
「相棒かあ……プリ同士で組むってのも珍しいが、ドクさんが他人と相棒っていう関係になってるのも珍しいな」
「まあ……俺も変わるさ。最近は随分落ち着いちまった」
「そのようだなあ。いや、いい事だって! 俺だって昔と比べりゃ、随分大人しくなったもんだ」
二人、しみじみとため息をつく。こんな事は古参でもなければ解らないことだが。
こいつとも中々に長い付き合いなのだ。勝手が解ってるだけ楽でいい。
「よーし、いくぞーっ!! 準備を終えた奴から海に入れーっ! あんまり遠くまで行って流されるなよーっ」
カイゼルの号令と共に浜辺でわいわいしていたメンバー達が一人、また一人と海へ入っていく。
俺達も足を入れていくのだが……指先がこそばゆかった。
「なんつーか……慣れないよなあ、この感覚」
「解る気がするぜ。なんか、指の先から砂が抜けていく感覚がよう……こう、ぞくっとくるっていうか」
「くすぐったいんだよなあ」
「あはん☆ ちょっと気持ち良いかも……?」
思うところはあるものの、概ね皆そんな感じらしい。
近くではオネエじゃない本物の女子の黄色い声が聞こえてきたりするし、萎えかけていた気分も少しずつ回復してきた。
「よし、遠くに行くぞ。こんな近場じゃそんなでかいのは見つけにくいからな」
「あいよ。ドクさんが言わなきゃ俺が言う所だったぜ」
カイゼルも「あまり遠くに行くな」とは言ったものの、自分は奥まで向かう気マンマンだったらしい。
この辺りこいつも抜け目ない。
近ければ近いほど人が多いのだ。遠いほうがでかいのが残っている比率は増える。ならば往くしかあるまい、という事だ。
「――随分遠くまで来ちまったなあ」
四人、膝の上辺りまで浸かる位の場所に着てしまった。
ちょっとした波が足腰にクる位で、素人にはお勧めできない危険水域だ。
「おっ、ドクさん、こっちにでかいのいるぞ!!」
さっきから食い物ばかり喰ってた髭もじゃが、少し離れた水面を指差す。
人間一人がすっぽり入るくらいのでかい『ムーンシェル』。
ひたひたと殻が水面から出たり消えたりしていた。
中々に期待できそうだ。
「よし、開けるぞー」
「おーっ」
大の四人が貝の周りに集まり、その貝殻に向け拳を堅く閉める。
そうして――コンコンコン、と、ドアをノックするのと同じ要領で、四人で殻に拳を軽く打ちつけていった。
するとどうだろう、まるでドアを開くかのようにパカリと殻が開かれ、中のキラキラと光る真珠がお目見えとなるではないか。
おお、と歓声が上がるが、そこにあったのは『月真珠』。
ムーンシェルから取れるアイテムの中ではダントツに確率が高いノーマルドロップ的なアイテムで、これ自体は需要があるものの、目当ての銀真珠とは天と地ほどの差がある。
「まあ、いきなり手に入るようなもんでもないな」
「だなあ」
「簡単に手に入るようじゃやりがいってもんがないぜ」
「お楽しみは後の方にとっておかないとねぇ」
苦笑いしながら、俺が月真珠を手に取り、貝から離れる。
中身を抜き取られた貝はすぐに身体を震わせ水底へと埋もれていく。
そうして砂中で再び核となる何がしかを生成し、それが出来上がると再び目に見える場所まで上がってくるという生態だ。
何の為にわざわざ見える場所に上がってくるのかは解らないが、目に見える場所にいる貝だけを探せばいい辺りは現実の潮干狩りと大きく違う点だろうか。
-Tips-
潮干狩り(概念)
常夏の海洋マップで行う事の出来る採集・狩猟活動。
浅瀬でムーンシェルやランドシェルなどの貝の中に納まっているアイテムを採集したり、イセガニ、タナカなどの魚介を狩猟したりする行為を指す。
貝から手に入るアイテムは真珠などの鉱物、かんしゃく玉などの爆発物、貝殻ピアスなどのレア装備のほか、出来損ないの真珠核やナマザカナなどの蒐集品などがある。
中でも銀真珠や白宝玉などのレア鉱石は希少かつ需要が高く、非常に有用である。
このため、潮干狩りのみで生計を立てる冒険者もいるほどで、その身入りはかなり優秀であると言われている。
このように非常に財布に優しい採集・狩猟活動のように見える潮干狩りだが、注意点が一つある。
浅瀬に関しては基本、アクティブモンスターは存在しておらず安全だが、深みにわずかでも近づくとそこは途端に水棲系モンスターの棲家となっており、迂闊に足を踏み入れたら最後、これらの餌食になってしまう事となる。
このため、最悪の事態になった際に撃退する事が可能なように、必ず潮干狩りセット(最低でも熊手は必須)を持っていたほうが良いだろう。
尚、潮干狩りセットは海の家でもサービス価格で売られている。




