#2-1.スーパー潮干狩りタイム!
かくして、俺達の夏が始まった。
訪れたのは潮の音が耳に居座る名も無き海の村。
カルナスから船を経由して二週間ほどの場所にあるこの村だが、利用客も多いので基本、転送屋を介して一瞬で到着が可能であった。
恐らくカイゼル達も同じ手段で来るはずだが、集合場所の村の入り口には人っ子一人いない。
「夏だっ! 海だっ!! 水着だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そしてやたらテンションの高い一浪。リーシアから既に水着である。
「おお~……」
海を見て感嘆しているサクヤ。浮き輪持参。
「すごいねえっ、海ってこんななんだ……」
その隣で同じく驚き感動している……えーっと、サクヤの友達。
「な、なんで一浪君、こんなにテンション高いのかな……?」
一浪のテンションに困惑するプリエラ。良くも悪くも普段どおり。
「なんで僕、こんなところにいるんだろう……」
そして俺が強引に連れてきたラムネ。途方に暮れていた。
そして海らしくアロハシャツにサングラスでキメている俺、と。
うちのギルドからはこの面子が参加メンバーである。
因みにサクヤの友達はたまり場でサクヤと駄弁ってたので誘拐してきた。
「よーし、んじゃ、向こうの連中と合流前に、実際に何をやるのか説明するぞー」
「はーい先生、潮干狩りって言ってましたけど、初心者でもできるんですかー?」
説明しようとしていたところで、サクヤの友達が手をあげ質問してくる。
中々に良い質問だ。リアルでもこれくらい素直に解らない事を質問してくれる生徒がいると嬉しいのだが。
「初心者でも問題ないぞー。お前たちがこれからやるのは、でっかい貝を開いてその中にある真珠を集める作業だ」
「し、真珠集め……ですか? なんか、想像してた潮干狩りと大分違うような……」
サクヤは想定外に弱いのか、予想外の事が起きるとすぐに不安そうな顔をするのがよくない癖な気がする。
これは楽しいイベントなのだ。汗いっぱいかいてくたくたになるまで遊びまわって欲しいものだが……
「このゲームで言う『潮干狩り』っていうのは、浅瀬に生息している貝類から真珠などのアイテムを回収する事を指すのだ。現実とはちょっと違うが、いわば宝探しみたいなもんだな」
広大な浅瀬を見れば、ちらほらと潮干狩りに精を出すプレイヤーの姿が見える。
彼らが探すのは砂の中に潜む貝類。
ただし、どれもが真珠のような希少かつ高価なアイテムを持っているとは限らない。
中にはゴミのようなドロップを咥えこんでいたり、ただのガラス玉を生成する貝だったりと、様々なのだ。
貝のサイズは大小さまざまだが、大き目の貝の方が経験上良いものが入っている可能性が高い印象がある。
大きければそれだけ探すのも大変だが、人数が用意できるのなら量より質を重視するほうがいいだろうとは思う。
「サクヤ達がお世話になったギルドの人たちとするんでしょ? もしかして、その人たちが使うものなの?」
プリエラがとても良い質問をした。
「ああ、銀真珠が必要らしい。お守りの材料に使うらしいから、いくつあっても足りない位なんだと」
「銀真珠とはまた……途方も無いな」
「ねー」
一浪もプリエラも銀真珠と聞いて苦笑い。流石にその希少さはよく解っているらしい。
「銀真珠ってなんなんですか……?」
サクヤが手をあげながら質問。初心者にはそこから教えなくてはならないのは想定の上だ。
だからこそ、こうやって早めにきて事前に勉強会を開いている。
「貝の中に入ってるアイテムの中ではダントツでレアな物だよ。それ単体だと珍しい宝石くらいのものでしかないけど、ドクさんが言ってたように魔よけのお守りの材料に使ったり、溶かして銀製品にしたり、アクセサリーの材料にもなるね」
そう、一浪の説明する通り、銀真珠はとても利便性、拡張性の高い品なのだ。
銀そのものは鉱山で採掘したり、他のモンスターのドロップで手に入るからそこまででもないのだが、貝から取れる銀真珠には特殊な力が備わっていて、これを用いて加工される様々な品は強力な対魔・対霊効果を発揮するようになる。
上位の狩場に挑戦する際、まず確実に遭遇する魔族や上級アンデッドに対抗する為には、これらの品が必須とも言われている。
「当然、簡単には手に入らないけど、大人数で一気にわーっとやれば、一日に十個位は出るかもしれないね」
「そ、そんなに出にくいんですか……大変そう」
確かに、効率最優先で目標物のみ限定しようとするなら、これはかなり苦痛な作業に他ならない。
いつ出るか解らないレアアイテムの為に延々はずれを引かされるだけの作業なんてのはしんどいだけだろう。
だが、その考えには真っ向から「違う」と言ってやりたい。
「サクヤよ、確かに目標として銀真珠を集めて欲しいとは思うが、それ以外のものは全部自分の懐に入れて構わんぞ」
「えっ? いいんですか?」
「そりゃそうだろう。あいつらが必要としてるのは銀真珠だけだが、その過程で出たものをどうこうするのは手に入れた奴の自由だぜ?」
その辺り、サクヤはまだ考えてもいなかったらしい。
いや、そもそものところどんなものが出るのかよく解ってないのだから仕方ないが。
だが、どうだろう。銀真珠以外は自分のモノに出来ると聞いたサクヤは、友達と顔を見合わせてぱあっと明るく笑っている。
上手いところ、やる気を引き出せたらしい。
「そういう事ならがんばれそうです! 助けてくれた人たちにも協力したいですし!」
「よーしサクヤ、ここで一発稼ぎまくってやろう!」
「はいっ」
二人、意気投合している。相棒というのは、やはりいいものだ。
あんなに大人しかったサクヤが、こんなに希望一杯の笑顔になるのだから。
-Tips-
名も無き海の島(場所)
カルナスから船で行く事の出来るタウンマップ。
現時点ではただの観光地であり、周囲の浅瀬で潮干狩りや海水浴ができる事と、海洋ダンジョンが付近の島にある事以外に特筆すべき点はない。
その他、主要施設として以下の物がある。
・宿泊施設『ホテルアオヤギ』
・海鮮リストランテ『プリッツ』
・海の家『ボルシチ』
・その他土産物屋複数




