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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
16章.あーるぴーじー!(主人公視点:ドク)

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#1-1.待ち人の来た日


 広場にて、ただ人を待つ。

リーシア中央の広場は、今日も大盛況だ。


「今日もまたやってきました! トランクス一太郎です!」

「ブリーフ次郎だぜ!」

「マイルドソルト三郎太だ!」

「そこは打ち合わせ通りに『ボクサー三郎です!』だろ!」


 いつものように芸人グループが漫才を披露したり。


「私は~どこにいるの~? 今日も自分を探し~世界を旅する~♪」


 吟遊詩人気取りのプレイヤーが(あまり上手いとは言えない)自作の歌を披露していたり。


「ういうい亭の新作! 生抹茶アンパンの販売を行っていま~す♪」

「一休みのお時間に冷たい氷出しコーヒーはいかが?」

「カレーライス15ゴールドだぜー! 安いよ美味いよ腹にたまるよ~!!」


 食販系の商人達が商売に精を出していたり。

以前と違いがあると言えば、人がやたらと多くなったことがまず一番だろうか。

とにかくがやがやとやかましい。


「うえーん、ママーっ、どこにいるのー!?」

『迷い人を探しています、長い黒髪に赤眼のバーサーカーさん、相棒のエクソシストさんがお探しです。いらっしゃいましたら――』


 そうして、人混みの中仲間や家族とはぐれたり迷ってしまう奴もいて、しょっちゅう騒ぎになっている。

今では運営さんがアナウンスしたりして迷い人やはぐれた子供なんかを助けているが、最初にこうなったばかりの頃は街中が大混乱に陥っていた。

慣れというのは偉大である。

運営さんという自助組織が最初からあったおかげで、その混乱を乗り切れたとも言えるし、プレイヤーサイドがあらかじめ、初心者に対して救助したり協力したりする方向でまとまっていたからこそ、今のある程度の落ち着きがあるとも言えた。

無論、これから先更に増えたらどうなるかは解らないが……今のところ、平和そのものである。


「このお花綺麗ねぇ、なんていうの?」

「チョコレートミストですよ。育てるとチョコレートの実が付くんです。ちっちゃいですけど」

「あらまあいいわねえ。それじゃ、一つ戴こうかしら? おいくらになるの?」

「10ゴールドです。こちらの栄養剤とセットだと20ゴールドになりますが」

「あらあら、それじゃそちらもいただこうかしら」

「ありがとうございます♪」


「コーヒー三つ、アイスで!」

「毎度あり~、5ゴールドだよ~」


 変わったと言えば、金銭の扱いも変化した。

こうなる前は金貨〇枚だの銀貨〇枚だのと扱っていたのだが、それでは初心者に伝わりにくい、という事もあって、「それなら専用通貨にしてしまおう」と運営サイドが変化させたのだ。

割と本格的な貨幣と紙幣が導入され、通貨としての名称も『ゴールド』に統一。

これまでのプレイヤーの資産は等価値の通貨へと入れ替わった。

結果として商品の流通テンポが改善され、初心者もすぐにそれを受け入れられるようになったらしい。

この辺りは商人ではないので俺にはよく解らないが、ラムネ曰く「すごくお金の扱いが簡単になった」との事。

今まで銀貨金貨とでレートを分けて考えなければならなかったものが、単一で扱えるようになった事で恩恵が絶大らしい。


「すみませーん! この世界初めてなんですけど、どうしたらいいんですかー? 誰か指示してくださーい!!」


 離れたところで、いかにもな初心者の出で立ちをした男が、周りを見渡しながら大きな声を上げていた。

これもよく見るようになった光景の一つ。

初心者が何をしたらいいかわからず、指示待ちになってしまっているのだ。

だが、このゲームは待っていても何も指示が飛んでこない。義務らしい義務もない。

だから、何もできなくて混乱してしまう。


「あ、貴方初心者さんですね? まずチュートリアルに案内しますね~」


 すぐに運営さんが駆けつけ対処。

慣れたモノである。


 こんな感じで変化があるものの、街の中はまだ、平穏と言える。

マップに出てみても、俺がこのゲームを初めてプレイした頃と比べれば大分マシと言えるだろう。

確かに何も知らずに無茶な戦いを始める奴もいるにはいるが、そんなのは少数派で、ほとんどは『チュートリアルステージ』とやらを経験し、いっぱしの冒険者として動けるのだから。



「お待たせっ」


 のんびりとコーヒーでも飲みながら待つか、と思ったところで待ち人が現れた。

約束の30分前である。

プリエラにしては早い。


「随分早いな?」

「えへへ……待たせたら悪いかなあって……ドクさんはずっと待ってた?」

「広場で時間を潰すのは趣味みたいなもんだからな」


 俺は一時間前にはきていたが、人を待つには困らない場所だった。

マルタなんかはこの人混みを面倒がるが、俺にはこの賑わいこそが楽しい。

沢山の人々の、色んな感情がそこにあるからだ。

レゼボアでは見られなかった、人々の自由がそこにこそあると思えた。


「今日は何するんだ?」


 なんとなく待ち合わせて、なんとなく会った。

別に話すだけならたまり場でもできたし、待ち合わせなんてしなくても会うが。

プリエラが「デートしたいから」というのでこんな形になったのだ。

なので、予定などは特に決めていない。

勿論遊べそうな場所やいい景色の場所なんかの候補はいくつもあるし、何をするにしても困らない様なプランは頭の引き出しに収まっているが、まずはプリエラのやりたい事を聞きたかった。


「んーとね、とりあえず歩こうっ」

「おう、いいぜ」


 特にする事もないのかもしれない。

さほど考えずに歩き出したプリエラに、俺もすぐに隣り合う。

歩いているだけでも、話しているだけでもそれなりに楽しめるので、散策も悪くない。


「今日はねー、ドクさんと沢山遊びたい気分だったの!」

「それは何よりだ。なんでもいいぞ。ブティックでも散歩でも食べ歩きでもな」

「全部やりたいかも!」

「マジかよ今日のプリエラさんは欲張りだな」

「えへへ、そう。今日は欲張りなんだよ~♪」


 まあ、たまにはそれでもいいかと思う。

のんびりとした歩みではあるが、もうその時点ですごくいい笑顔になっているこいつの隣に居るのは、中々にいい気分だ。


「ね……ドクさんは、やりたいことはないの?」

「俺か?」


 不意に俺の前に立って、首を傾げながらに「うん?」と聞いてくる。

だからわざとそのまま歩き、止まらずに……


「ふわっ、わわっ、止まっ、ちょっ――」

「ふはははっ」


 プリエラと激突してみた。


「なんでっ? なんで止まらないのっ?」

「いや、なんとなくプリエラを困らせたかった」

「確かに困ったよ? 困ったけど意味不明過ぎる!」

「なら大成功だな」

「もーっ」


 確かに意味不明なんだが。

こうやるとプリエラが混乱するのが楽しい。

そう、なんとなく主導権を握らせたくなかったのだ。

俺はもしかしたら亭主関白な奴なのかもしれない。


「俺は急には止まらないんだぜ?」

「確かに止まらなかった……」

「それはそうとしてプリエラよ、今日は後ろ髪結んでるんだな?」


 それとなく気づいてはいたが、いつもと髪型が違うのでこのポイントで話題に出してみる。

決して素直に切り出すのが恥ずかしかったとかではない。

今出すのが都合がいいのだ。


「えっ? う、うん。たまにはどうかなーって。ストレートのままでもいいけど、こうすると背中もちょっと涼しいし……」

「アリだと思うぞ」

「そ、そう?」

「おう。アリだ」

「えへへー、そうかー、アリか~」


 プリエラは遠回しな誉め言葉とかはあんまり好まない。

ストレートに褒めてやる方が喜ぶ。

ただ、あんまりストレートすぎるとテレテレし過ぎてしまうので、ほどほどに。

何かの話の繋がり程度に混ぜるくらいで丁度いいのだ。


 そう、一緒に歩く時に、さりげなく話す程度でいい。


「でも髪型は簡単に変えられるが、髪の色は簡単にとはいかんよな、このゲーム」

「う……? そういえばそうだね。髪の色、もっと自由ならいい?」

「自由ならいいんじゃねぇかなあ。色々試したい奴とかいるだろ? 俺も金髪とかできたら試してみたいぞ?」

「金髪のドクさんは……うーん、見てみたいような、見たくない様な」

「超かっちょいいぜきっと。誰もが『兄貴』って呼びたくなると思う」

「その路線は誰得だなあ」

「マジかよ」


 俺の理想がプリエラの共感を得るにはほど遠いらしい。

いいと思うんだがな、金髪兄貴。

超イケてると思うんだが。駄目だろうか?


「だってサングラスかけるんでしょ?」

「かけるかける」

「超怖い人になりそう」

「怖くないって! 俺超きさくだよ?」

「気さくな人は気さくって自分で言わないと思う……ドクさんは気さくだけどさぁ」


 そもそもサングラスかけてるから怖いというのが今一よく解らない。

確かにマフィアの構成員なんかは掛けてるらしいとは聞くが、それとは別にお偉いさんのガードにつく人達だって掛けてるし、単に光に弱い人が掛ける事だってあるんだから、怖い事なんてほとんどないと思うんだが……

視線が見えないというのは、それだけで怖い印象を抱かせるんだろうか?


「私は、ドクさんだから別に掛けててもいいとは思うけどね。でも、それがあるから女の子とか小さい子には怖がられるんじゃないかなあとは思うよ?」

「サクヤやラムネはビビってないだろう?」

「サクヤは……だってサクヤだし。ラムネ君は初対面の時は怖がってたよ?」

「うぇ……俺、怖がられてた?」

「結構距離置かれてたと思う」


 シャイな奴だなと思ってはいたが、もしやあれは怖がられてたんだろうか。

だとしたら……俺にとってのカッコいいって一体。

というかサクヤはサクヤだからっていう言い回しはちょっと酷くは無かろうか。

まあ、確かにちょっと変な奴ではあるが。



-Tips-

パンツ友の会(ユニット名)

メンバー:ブリーフ次郎(リーダー)、トランクス一太郎(ネタ担当)、ボクサー三郎(カリスマ担当)

突如リーシアに降臨した三人のパンツマンで構成されるお笑いユニット。

パンツ以外はそれぞれ次郎がランニングシャツ、一太郎がTシャツにブラジャー、三郎がヘヴィアーマーといういでたちで、それぞれ独特のイントネーションで喋る事に定評がある。


基本的には三郎がボケメインで一太郎がツッコミメイン、次郎は状況によって動けるオールラウンダーという立ち回りをする為、漫才やコントによってフレキシブルな展開が楽しめる事からファンが多い。

先に広場デビューしたコントユニット『肌色三銃士』をライバル視しており、時折ライブコント対決をする事もある。

今のところの勝率は10戦2勝と「やや劣勢」(次郎曰く)らしい。



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