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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
15章.反乱(主人公視点:???)

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#9-2.絶望の瞬間


「あっ――」


 世界は切り替わる。

まるで私に、必要以上の情報を与えたくないと言わんばかりの仕打ち。

突然切り替わった視点は誰のものだったか。

深い思考に陥っていたために、一瞬の記憶の混濁に溺れそうになる。

激しい頭痛。狂ったように耳裏に残るノイズ。

視界が焼き焦げたかのように琥珀色に染まり、風景が切り替わった。


 元の色に戻った時にはもう、全く別の風景が広がっていた。

そこは、リーシア南。『シルフィード』のたまり場。

いつものように彼女はそこで仲間達と語らい、そして、笑い合っていた。


 ギルメン全員が集まった、平和なはずの風景。

だけれど、平和はそこまでだった。


「ところでさ、俺思ったんだけど、ドクさんとプ――」


 それは、一浪さんが話している時に起きた。

話の流れからして、ドクさんとプリエラに何かを言おうとしてたんだと思う。

それが、突然消えたのだ。

話している最中に突然のログアウト。


「うん? どうしたんだ?」

「何か起きたんでしょうか?」


 他の人はそのまま。

何が起きたのか解らず首を傾げている人も居たけれど、誰にもその答えは解らない。


「ログアウトかな?」


 マスター・レナックスがそれらしい答えを口にするけれど、それにしては疑問も残る落ち方だった。

ログアウトする時というのは、大体プレイヤーが目を覚ます時。

よほど衝撃的な何かが無ければ、大体はプレイヤー本人が目覚めを自覚し、ログアウトする。

突然落ちるという事は、それだけ本体に何かしらのダメージが発生したか、あるいはよほど衝撃的な何かが起きたという事。

一瞬で覚醒したか……あるいは、一瞬で死んだかのどちらかしかないのだから。


「あの……これ……」


 最初にその可能性に気付いたのは、ミルフィーユちゃんだった。

いや、正確にはプリエラもドクさんも気づいていたんだと思うけれど、言及しようとしたのは彼女だったのだ。

楽しい雰囲気だったたまり場に、にわかに流れる重い空気。

他のメンバーの沈黙が「それ以上は言わないでくれ」と暗に示しているようで、ミルフィーユちゃんもそれ以上は言えず、ただただ顔を青くしていた。



「――いやあすまねえ。なんか急に落とされたぜ」


 沈黙が幾ばく続いた事か。

見ていながらに私自身も「どうなるのこれ」とハラハラしていたのだけれど、幸いと言うか、すぐに一浪さんは戻ってきた。

へらへらと笑いながら、特に変わった様子もなく。


「なんだ? 急に落ちたからびっくりしたぜ」

「突然落ちたから死んだのかと思ったわ」

「マ、マルタさん! そういう事はちょっと……」


 安心したように胸をなでおろすドクさん。

直球で言っちゃいけない事を口にするマルタさん。

ミルフィーユちゃんは……珍しくマルタさんの言動を注意していた。

マスターも、とりあえずは安心したようで、息を付いていたけれど。


「本当に大丈夫なのかい? 何か、調子が悪いとかは……?」

「ああ、大丈夫だぜ。特に何も問題はないよ。ちょっと、リアルの方で小さい子がダイブしてきてさ」

「なるほど」

「寝てる時に何かあると、びくっとしますもんねえ」

「ホントだぜ。マジで焦ったよ」


 特に何も問題ないと知るや、ギルメン達は元の楽しい雰囲気を戻そうと、口々に会話を続けようとする。

一浪さんも、一見何の変化もない様なので、本当にただログアウトしただけなのだろうと、みんなそう思ったのだ。




「――いやあ、参っちゃいました。皆さんの所に来ようと思ってたら突然ログアウトしちゃって~」


 そうかと思えば、運営さんもいつもの線目顔のまま現れる。


「おや運営さん」

「こんにちは」

「運営さんも落とされたのかい? なんか奇遇だなあ」

「えへへ~、リアルでお世話になってる人がいるんですけど、その人が突然ダイブしてきたみたいで。ホントビックリしちゃいましたよ~」

「夜這い?」

「そういうんじゃないみたいです。まあ、寝相が悪かったんじゃないですかねえ」

「俺もそんな感じだったよ。変な偶然だな」

「変な偶然ですねえ」


 運営さんも一浪さんと同じ理由。

これに疑問を覚えた人はどれくらいいただろうか。

私はそれ以上に、別の疑問を覚える。


「――プリエラ?」


 ふと、こちらを見て声をかけてくるマルタさん。

そう、プリエラに関しては、彼女が誰よりも真っ先に気づく。

たまり場ではいつも饒舌に話していたプリエラが、今に限って、一言も喋らなかったのだ。


「あ……ご、ごめん、ね」


 視界がにじむ。

何が起きているのか解らない。

ただ、下を向いてしまって、そして拳をきゅっと握りしめていた。

それだけでもう、何かが起きたのが解ってしまって、辛い。


「プリエラさん? どうしたんですか……?」

「何かあったのか? さっきまで普通に話してたと思ったんだが……」

「プリエラ? 顔色が――」


 皆が寄ってきて、プリエラを囲むようにして心配する。

けれど、彼女は立ち上がろうとして――立ち上がれなかった。

足が震えてしまっていた。違う……身体中、震えていたのだ。


「ごめ……わた、し……ログアウト、する、ね……?」


 無理矢理に笑おうとしたのだろうか。

滲んでいた世界が狭まり、そしてそれ以上に何かを言う間も無く、彼女はログアウトした。


-Tips-

下層世界終了のお報せ(告知)

下層世界はこれで終わりよ。

住民は避難する余裕もなかったから、最下層と違って生存者はいないわ。

データが消えてなくなって困ってしまう女の子はもういないの。良かったわね。

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