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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
15章.反乱(主人公視点:???)

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#5-2.プリエラのなんでもない一日(後)


 結局その話はお互いに面白くない事になりそうなので、ちょっとした沈黙を挟んですぐに別の話題が振られていく。

例えば、最近のドロシーの動向や狩場での成功話。

他のメンバーの恋愛模様や街で見かけた変な人の噂など、それこそ方向性も一致していない、適当な話題振り。

そんな中、意外にもローズが一番関心を示したのは、最近結婚した一浪君についてだった。


「一浪君ねー、結婚した途端妙に大人っぽくなっちゃったっていうか。心に余裕が生まれた感じ? あのお姉さんと付き合うようになってから、随分と変わったなーって思ってたんだけど~」

「ふむふむ。男の人って、結婚すると余裕ができるのね……だからウチのサブマスターはいつも余裕がないのか」

「ああ、あの人はそうだよねえ。やっぱり好きな人がいると余裕なくなっちゃうんじゃない? 男の人ってそういう部分あると思う」


 お互い、自分に関係しない部分で発生している恋愛模様には興味・関心が強いらしく、割とノリノリにそんな話が進んでいく。

あくまで自分の事は度外視した上で。

自分の恋愛事情については語ったりせず、周りの人の恋愛話で盛り上がっちゃうのだ。


「私のリアルでもね? お世話になっている人の……女の人なんだけど、その人がもう一人の人の事を好きらしくて」

「お姉さんの方? もう一人の人って、眼鏡の人だっけ? さっきも話してたよね」

「そうそう! その眼鏡の人ね、最近私のお友達にー、ってすごく綺麗な子を連れてきて……私も前々から見かけてはいたんだけど、事情があって話しかけられなくって。そんな子なんだけど……この子が、すごく可愛くて綺麗な人なんだけど、やっぱり眼鏡の人を好きみたいで」

「ええっ! それじゃなに? 三角関係的な!?」

「そうそう! まさにそんな感じなのよ! 見ててすごくやきもきするでしょ!? 私もう、どうしたものかとハラハラしちゃって」

「それはハラハラしちゃうよねえ」


 先ほど自分の置かれた辛い環境を語っていた時とは裏腹に、自分の周囲の人について語る時はウキウキと語っていた。

特にこの恋愛模様については、ローズにとっては憧れもあってのものらしく、『最強のバトルマスター』なんていう通り名がついてる子とは思えないほど、乙女チックに目を輝かせていた。

まあ、恋に関しては確かに憧れてしまうのも無理はないと思うけれど。


「でも……ちょっと綺麗な子の方が優勢、みたいな感じになってる」

「ふええ……やっぱり綺麗な子は強いんだなあ」

「そりゃもう、最強でしょうよ。私だって、見てて『いいなあ』って思っちゃったくらいだし」


 ゲームでは女性プレイヤーの大半が理想に伴って美化されているので美女美少女ばかりだれど、流石にリアルではそうはいかないので、残念な顔の人とかも当たり前にいる。

やはり、顔が良いというのはそれだけで強力な武器なのだろう。

お姉さんの方も割と美人らしいけど、わざわざローズがその部分を強調して居る辺り、後から来た女の子はよほどの美女か美少女か。

いずれにしても、それだけでアドバンテージを握れるほどの美形に違いなかった。


 何せ、レゼボアという世界において、ほとんどの才能は求められていない。

知性0の生き物でも惰性で暮らせるほど『便利』に特化されたオートメーション世界で、『何かができる』というのはそれほど重要なモノでもないのだ。

一応学校があって、勉強はある程度できる事を求められるけれど、社会に出てそれらが活かされる事はほとんどない。

だって、ほとんどの大人は、同じことしかしない毎日を過ごすだけで、才能など活かしようがないのだから。


 それは家庭の中でも同じことで、家事の大半は希望しない限りは自動化されているし、それこそ家事能力0の人間でも極めて快適に、清潔かつ理想的な日常を送れてしまえるのだから、『裁縫が得意』だとか『料理が上手い』だとかの能力は恋愛において何のアドバンテージにもならない。


 そういった事情がある中で、特にレゼボアの男性間で重要視されるのは『顔やスタイルの良さ』と『性格の合う合わない』の二つだという話を、何かで聞いた事がある。

容姿に関わる部分は毎日目にするし、スキンシップを取る際にも影響が大きいので重要だし、性格の合う合わないは付き合い始めてから結婚までの共同生活を送る際に重要な要素になるという事で、やはりこれも重視される。

後の人生の200年以上を一緒に過ごす事を考えるなら、やはりある程度の性格の相性は重要なのだ。


 何より、わざわざ眼鏡の人が紹介したという事からもうかがえる親しさ。

距離的に近い間柄で美形と来れば、男性としてはもうそれだけでくらくらなのではないだろうか。

ローズのリアル周りの話に関しては飛び飛びに聞く程度なのではっきりとは分からないけれど、てれびでたまに流れるドラマより面白い人生を送っているので聞くだけで楽しいから困る。

他人の人生って、案外こんな感じに傍から見ると面白い物なのだろうか。

それとも、ローズの周りの人達が特に面白い生き方をしているからなのだろうか。

いずれにしても続きが気になってしまうのは、私が乙女だからなのかもしれない。



「そういえば、さ」

「うん?」


 周囲の人の話は二人としても中々に楽しめたらしく、にこやかあな雰囲気になってはたけれど。

ふと、プリエラの胸のあたりを見ながら、ローズは自分の胸に手を当てていた。


「リアルの私って、あんまり胸とかないんだけど……どうやったらプリエラみたいに大きくなるのかな?」

「胸? ああ、うーん……どうやったら大きくなるんだろうなあ」


 プロポーションに関しての悩みか。

それとも、何かそれに付随する話題なのか。

プリエラは迷っているのか、はぐらかすつもりか、はっきりとは言及せず、自分の胸をさわさわする。


 確かにプリエラの胸は大きい。

初めてこの人の視点になった時、リアルでもここまで大きい人いないんじゃないかなあと思ったくらいには、この胸の大きさは衝撃だった。

歩いているだけでユサユサして、走ったりすると衝撃が走りそうなくらいに大きく揺れて、跳ねるのだ。

胸が跳ねる。それはかなり胸が大きくないと起きない現象。

見ているだけなので計れないのが残念だけど、計測しなくとも100cm以上はありそう。

そして当たり前のように肩こりになるらしい。

たまに自分の肩にヒーリングしているのを見て「肩こりってヒーリングで治るんだ」と変な関心をしてしまったほどである。


 ゲームをしていても、プリエラくらいに巨乳な人はなかなかお目に掛からない。

いや、単に大きい人はいるにはいるけど、プリエラほどではないというか、多分理想図であってもそこまでのサイズはイメージできないからそうなってるんじゃないかと思う。

プリエラのサイズは、元々リアルでも巨乳なのか、あるいはある程度大きくてこのサイズのバストがイメージ出来る人なんだと思う。

そう考えるとこの人のリアルは欲深すぎるんじゃないだろうか。

段々と怒りが込み上げてきた。


「胸に限らないけど、睡眠時間が大切だとはよく聞くよね。人って、寝てる間に成長するらしいよ?」

「寝てる間に……? つまり、眠れば眠るだけ大きくなるってこと?」

「理論的にはね。成長する機会がそれだけあるって事だろうから、実際に成長できるだけの栄養とか、そもそもの身体の素養とか? そういうのが無いと、どれだけ寝ても大きくはならないだろうけど」

「そっか……うん、まあ、そうだよね。ちゃんとしたものを食べないと、大きくなれないもんね……」


 どこか哀愁の籠った瞳。

ローズのリアルではそれが望めないという事か。

あるいは、『素養』の方に思う所があるのかもしれない。

ローズのリアル環境はかなり特殊な様で、自由がない為好きなものを食べたりもなかなかできないらしいし、眠る時間の方も結構制限を受けるのかもしれない。

そう考えると、プリエラが答えにくそうにするのも解る気がする。

下手な返答は、ローズを傷つける事にもなりかねないから。

多分、それが怖いんじゃないかなって思うんだけども。


「……お姉さんの方は、それなりに大人の女の人って感じのスタイルなんだよねぇ。私も大人になったら……なれたら、大人びた身体になるのかなあって、ちょっと思ってたんだけどさ」

「いつかはなれるといいね」

「うん。プリエラほどじゃなくともさ。マスターくらいになれれば満足なんだけどねえ……なんなら、この身体そのままみたいな体型でもいいしさぁ」


 ふにふにと自分の胸を触りながら、にへらっと笑う。

ローズがどのような理想を願ったのかは解らないけれど、この身体はその理想の果てにあるもの。

ローズの理想を体現したこの身体ならば、ローズ的には満足なのかもしれない。

せめてそうなれればいいなあとは私も思うけれど。

この時のプリエラが何を思っているのかまでは、私にはまだ解らなかった。




 ローズとのお喋りは三時間近く続き、他のギルメンの子が来て昼食の時間を伝えてくれたので、ここにキリを見て退出し、再び街をうろつく。

そのままご馳走になってもよかったようだけれど、プリエラは「用事があるのを思い出したのでー」と適当に返して出てきたのだ。

実際には用事がある訳ではないらしく、再び散策をするに至る。


 昼食は彼女お気に入りの『もふもふパン』を売ってくれる人気のパン屋『ういうい亭』にて購入。

おまけでつけてくれたいちごジャム入りのコッペパンがなんとも美味しそうで、夢を見ているだけの私までお腹が鳴ってしまいそうな、そんな幻想に駆られる。

とにかくここのパンは美味しそうなのだ。

甘いパンは勿論の事、総菜系のパンも各種取り揃えてあって、それがもう、本当にモフモフふわふわ、それでいてたまらない食感らしくて……ああもう、食べてみたい!


 人がご飯を食べているのを見るだけというのは、私にとって拷問でしかない。

普段食べているのがゼリーばかりなので、食べ物を噛んで飲み下すという動作をしているだけですごく美味しい物を食べているように見えるのだ。

視点だけ借り物で食感も味も楽しめる訳ではないので、彼女の言う「おいしー」とか「はふはふ」とかとにかく食に関する発言を聞くたびにゾクゾクと耳の奥が痒くなるような感覚を覚えてしまう。

お腹が……お腹が悲鳴を上げてしまいそうになるのです。



 そんな辛い拷問タイムを終え、午後からは労働の時間が待っていた。

本日の労働はレストラン『プリムローズ』のウェイトレス。

店主の趣味で作られた専用のコスチュームに身を包み、笑顔を振りまき明るい声で接客対応。

コミュ能力重視のプレイヤーにはうってつけの仕事と言えるかもしれない。


「今日の衣装は……聖職者風?」

「うふふふふ……修道服にベレー帽って似合うと思わない? 更にエプロンもつけてセット効果狙いってすんぽーよ!!」


 このお店、多くの店員がこのお店の可愛い衣装に惹かれて集まった人達で、自分で可愛い服を買えない人や、とにかくなんでもいいから可愛い服を着たいという人なんかが多いらしい。

店主はデザイナーも兼業していて、時たま過激な衣装を作っては店員から大不評を買う事もあるらしいけれど、定期的に給料とは別扱いで店員好みの私服を作ってくれる事があるので、概ね店員からは好かれている。


 今回の衣装は、修道服を基調に、裾をちょっと広めにしてひらひらさせ、更に大胆なスリットを入れる事で色気も強化した感じの衣装。

一見すると清楚な感じで、それでいて実は……みたいな感じのコンセプトなんだろうか。

プリエラは元々聖職者なので、こういった衣装でもさほど違和感はない。

ただ、エプロンをつけた修道服っぽい服を着た女の子が多数目に入る店内は、ぱっと見では中々違和感溢れる光景に映る。


 店員の女の子達もあんまり良い表情をしていない辺り、今回は外れ衣装らしい。

修道服とか司祭服とかは一般には出回らない物なので着たいという人はいるかもしれないけれど、それはそれとしてレストランにこの格好は似合わないよね、といった感じか。

ここの店主は基本思い付きでそれを作り着させるため、実際にお店にマッチしているかどうかは度外視である。

欲望中心と言うか、とても自分に素直な感性の持ち主であると言える。

変人にお金と技術を持たせるとろくなことにならないという典型かもしれない。

まあ、客層も含め女の子ばかりの職場なので、この修道服っぽい服のおかげもあって衛生的には見えるかもしれないけれど。




「はあ……疲れた~」

「お疲れ様。これ、今日のバイト代ね~」

「うん。お疲れ、またねー」

「ええ、またお願いね! いい服縫っとくからさ」


 夜更けになる辺りで仕事が終わり、解放される。

店主からその日の日当を受け取り、別れを告げてお店から歩き出し……近くの広場でベンチに腰掛け、一休みする。

静かな夜。だけれど虫の音が心地よく聞こえてきて、そして風が疲れた身体を優しく包み込むような、そんな夜。


「はあ……っ」


 この後は、お風呂に入って休むだけ。

数日分の生活費を手に入れたので、とりあえずは安心、と言ったところだろうか。

体力そのものは冒険職をやってるだけあってその辺のタウンワーカーとは比較にならないけれど、それでも疲れるものは疲れるらしく、少しの間、虫の音や風に身を任せているようだった。


「――お? 何やってんだこんなところで?」


 不意に聞こえる、男の人の声。

視点がものすごい勢いで振り回され、そして目に入る、見慣れたサングラスの人。

ドクさんだった。司祭服のポケットに手を突っ込み、不思議そうに首をかしげている。

その仕草、まるでマフィアの幹部のようで威圧感があるけれど、この人のこれはデフォ。

元々外見に難があるというか、不細工ではないのだけれど悪相というか。

とにかく、ぱっと見では優しい人とは思えない格好をしているのだ。

一番の原因はサングラスだと思うのだけれど。

周りの人が何度指摘しても直さない辺り、変なこだわりがあるんだと思う。


「ドクさんっ」


 そんな相手だけど、プリエラにとっては何より大切な人の一人らしい。

声を掛けられてから反応するまでがものすごい反応速度だったし、声もウキウキしているようだった。


「あのね、今バイト帰りなの。ドクさんは?」

「俺は冒険者酒場行ってたんだ。たまには野良PTでもと思ってな」


 にや、と口元を歪めながら前に立つドクさん。

プリエラもそのままぱ、と立ち上がり、自然と歩き出す。

この辺り、年季の入ったカップルのようにも見えて、それでいて気の知れた相棒のようにも感じられて格好いいと思う。

だって、こんな自然な仕草、どうやったらできるのかも解らないし。


「そうなんだ。なんだかドクさんの帰りを待ってるみたいになっちゃったね? 『ひゅぷのす』行くの?」

「ああ。お前もか? バイト帰りだもんな」

「うん。ちょっと疲れちゃったから休んでたんだ~。一緒に行こ?」

「そだな」


 行先は今決めた。

とりあえず歩き出すか、みたいな感じで歩き始めてから、行き先が決まる。

この流れがなんというか、格好いい。

ドラマで見るかのような恋人同士の流れみたいで、すごくいい。

やっぱり、私の夢の中で一番いいと思えるのは、プリエラ視点で、ドクさんと一緒にいる瞬間だと思う。

この、意外と短い時間がとにかく尊い。

そして、この二人がいちゃいちゃしているのを見るのは何故か夢見が良い。

正当なカップルが当たり前のようにいちゃいちゃしてるのが良いのだろうか。

逆にドロシーが入ってくると空気が悪くなるので、カップル的な意味ではドロシーはお邪魔虫な気がする。



 結局この日は、お風呂の時間を除いてログアウトの瞬間までドクさんと楽しく過ごすことになり、プリエラ的には実に充実した時間となった。


-Tips-

レゼボア人の恋人関係から夫婦関係の構築、流れについて(概念)

現実世界レゼボアにおいては、恋人関係から夫婦間の関係への流れというものはある程度固定化されている。

レゼボアでは恋愛とは結婚と子供を作る事を前提としたものであり、恋人同士になるという事はそれに同意したことに他ならない。

この為、恋人同士になったカップルはまず最初の目標として結婚に至る為の子作りをする事が多い。


無事女性側が妊娠し、あるいは同性間で科学的に製造が可能と判明した時点で法的な意味での結婚が社会的に認められるようになるため、この際には速やかに結婚し夫婦関係へと移行する。

レゼボアの法の定めた夫婦関係とは、子供を生み増やし続ける事を何より重視される為、夫婦は子供の育成はほどほどに、二人目、三人目の子作りが始まる事になる。


結婚しようと子供が生まれようと夫婦両者が仕事を辞める事は許されず、死ぬまで双方働き続ける事になるが、これはレゼボア市民全員に共通の義務の為、これに反感を抱く者は少ない。

子育ても中層以上の層であればほぼオートメーションで行えるため、レゼボア人の大半は育児に関心を持たず、持ってもあまり実のある子育ては行えない。


夫婦関係は200年以上続くことになる為、生活しているうちにマンネリ気味になったりする事もあるが、悪感情やストレスなどは数字化処理によっていくらでも解消できるため、レゼボアの時代ごとの離婚率は0%か、高くても1%未満である。

反面、夫や妻が犯罪行為の被害にあって死亡したり、犯罪を犯す事によって死刑やデリートされる事による死別は全体の3割ほどで起きていると言われ、即死さえ避けられれば長命確定なレゼボアにおいても深刻な社会問題になりつつある。


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