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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
3章.広がる世界(主人公視点:サクヤ)

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#8-2.リアルサイド4-姉、サクラ ミルクレープ-

「暗くなってきましたし、そろそろ……」

「あ、もうそんな時間? 足止めしちゃってごめんなさいね。また、いつでも来てくださいね」

「またねーサクラちゃん」

「おつかれー」

「おつかれさまでした先輩」


 外も暗くなってきたので、と、そろそろお(いとま)する事にしたのだけれど。

生徒会の人たちは皆にこにこと見送るばかりで、一人も立ち上がる様子がない。

一人位は「じゃあ私も」って言って帰るのかと思ったのだけれど、ちょっと意外な反応で戸惑う。

「……あのー、もうすぐ、校門、しまっちゃいますけど?」

出なくて良いんですか、と、一応確認。

でも、生徒会長さんは自信ありげに胸を張っていた。

惜しい、ナチよりちょっとだけ小さい。


「ふふ、大丈夫ですよ。私達、今夜はお泊りですから」

「もうすぐ三年は卒業だからねー。思い出作りのお泊り会です!」

「ちゃんと顧問のワタライ先生にも許可取ってるから安心していいですよ! 先生も後から来るそうですし!!」

「サクラさんも泊まってく? 女しかいないし体操着か~……なんなら下着でもおっけーだよ!?」

「いえいえ! 用事があるので、折角ですけど……それじゃ、さようなら」


 誘ってくれたのは嬉しいけれど、なんとなくとんでもない方向に巻き込まれそうなので逃げることにした。

役員さんたちはちょっと残念そうに笑ってたけれど、それ以上は声もなしに解放してくれた。



 そうして、転移装置を使って家へと帰宅……したところで、家の前で姉さんが座り込んでいるのが目に入る。

なんか、膝を抱えて子供みたいに丸くなってるのがちょっと……妹として恥ずかしい。

「姉さん? どうしたのそんなところで……?」

くすんくすんと泣き出しそうになっていたので、すぐに声をかける。

『玄関先で姉妹喧嘩してる』とかご近所で噂されても嫌だし。

「あ……ミリィ。帰り遅い……二時間くらい待ってたよ?」

「二時間もこんなところで!? ていうか、姉さん、鍵持ってたはずでしょ? どうしたの?」

私の存在に気付くや変な事を言い始めた姉さんに驚かされながらも、とりあえずスカートのポケットから鍵を取り出して、玄関を開ける。

「鍵……盗まれたの」

「……また?」


 普通の人なら驚くような事なんだろうけど、姉さんに関してはそんなに驚きでもなかった。

私物、かなりの割合で盗まれるのだ。

姉さんに限らず、私も結構被害にあったりしてる。

ものはその時によって変わるけれど、身につけてるもの、身近に置いてるものほど狙われやすい。

犯人は誰か解らないけど、ある時を境に盗まれなくなったので、多分やった人はやりすぎてデリートされたんだと思うけれど……姉さんは今でもちょくちょく被害を受けるらしい。


「うぅ、もうやだ。学校休む……」

「はぁ……とりあえず、鍵を変えとくね」

二人、家に入ってからドアの内側を操作して、鍵を作り変える。

セキュリティは万全のはずだけど、そう何度も人の私物を盗むような人なら、怖い事にもなるかもしれないし。

両親が滅多に帰ってこない以上、家を守るのは私達なのだ。きちんと意識しないといけない。

「転校して、ようやくまともな生活が出来ると思ったのに……なんで私って、こう……」

「別に、姉さんが悪い訳でもないんだろうけどね……」

「友達が探してくれるって言ってたけど……なんか、もう嫌だわ。辛い。悲しい。ミリィ慰めてー」

「あーはいはい……とりあえずホットミルクでも作るから、座って待っててよ」

「うぐぅ……ありがとう、ミリィ。お姉ちゃんミリィと姉妹でよかったよぉ」

こういう時の姉さんは、鬱陶しいくらいに落ち込んでいるので、あんまり構いたくないのだけれど。

いつまでもグスグスと泣かれててもそれはそれでこちらのテンションが駄々下がりになるので、好物のホットミルクを作ってなだめる。


 私も姉さんも、金髪碧眼という容姿の所為か、やたら他人の眼を惹く。

そしてそれは、好意という方向で人を惹き寄せる事もあれば、逆に、悪意や好奇という、歓迎しかねる感情を持った人までも惹き付けてしまう事に他ならない。

子供の頃から、男子に嫌がらせをされたりは日常茶飯事だったし、外見の所為でナチ以外の友達が出来なかった時期もあって落ち込んだりもした。

姉さんにいたっては中等部に入ってからが一番酷い時期で、高等部に入った今もたまにこうして嫌がらせを受けて、あんまり酷い時はそれを理由に転校したりもしている。

ナチという強くて賢い友達が子供の頃からいた私は、かなり恵まれていると言えるかもしれない。

姉さんにはそれがなかったから、家の外で守ってくれる人なんてどこにもいなくて、されるがままだったのだから。


「んん……でも、姉さん、もう友達ができたんだ?」

ある意味、今の姉さんを見るのも慣れたもの。

温めたミルクをコーヒーカップに移して差し出すと、姉さんはちょっとだけ機嫌を直した様子で、ふう、ふう、と子供みたいに何回も吐息を吹きかけて冷まそうとする。猫舌なのだ。

「ふぅ、美味し……うん。アヤノコウジさんっていう子と、ヒメギシさんっていう子なんだけど……アヤノコウジさんはね、すごい美人さんなの! なんていうか、いかにも『お嬢様』みたいな感じで!」

そして、ひとしきりミルクで温まった辺りから途端に饒舌になる。

ようやくいつものテンションに戻ってきたらしい。

「ヒメギシさんはアヤノコウジさんといつも一緒にいる子でね? すごくテンション高いんだけど、いつもアヤノコウジさんにツッコミを入れられてて……そう! 二人ともお嬢様っぽいのに漫才コンビみたいで面白いの!!」

「へぇ……姉さんの学校って女子高だったっけ?」

「うん、そうよ。聖カトレア女学院。初等部から大学までエスカレートの」

なんだかんだ、楽しそうにお喋りできる位にはいいお友達ができたらしい。よきかなよきかな。

姉さんはこれで人前だとあんまり社交的になれない人なのか、お友達を作るのが上手じゃないので、お友達ができたっていうお話は聞いてて安心できる。

……想像の中のお友達とかじゃなければいいのだけれど。


「転校してからすぐの事なんだけどね? いきなりターミナルに二人が現れて、それで、『迎えにきたわ』って。私、訳も解らなかったけれど、手を引かれてそのまま学校案内までされて、驚いたまま、気がついたら二人と同じ教室で、隣り合って座ってたの」

「お嬢様校ってそんな感じなの?」

姉さんの話は時々誇張されるから鵜呑みには出来ないけれど、それでも私には解らない『お嬢様学校の常識』みたいなのがあるような気がしてしまう。

「うーん……解んないわ。どうなのかしらね?」

当の姉さんにもよく解らないらしい。お手上げだった。



「あ、それはそうとミリィ。明日は病院行く日でしょ? 一人で大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。流石に付き添いがないと通えない歳でもないし……」

子供の頃は病院にいくのが変に怖くて一人じゃ嫌だったけれど、流石に今はそんな事無く普通に通っている。

それでも、こうやって前日になると姉さんが聞いてくるあたり、姉さんは心配性。

今までだって特別変な病気になってたことはないし、検査の結果入院~なんて事態になった事も無い。

特別、怖がるような事でもなく、これも私達の日常のひと欠片なのだから。

「まあ、それならいいんだけど……」

「それより姉さん。今夜は姉さんがご飯作る番じゃない?」

とりあえず落ち着いたようなので、姉さんにご飯を作らせないといけなかった。

もういい時間だし、私はてっきり姉さんがご飯を作って待ってるものと思ってたから、結構お腹が空いてたりする。

チーズケーキとかお茶菓子とか食べたはずだけど、そんなのはどこかに消えた。別腹別腹。

「あっ――ご、ごめんミリィ。ご飯……その、材料、買い忘れてて……」

「……えっ」

「あう……鍵がないからってパニクっちゃって、ご飯の事忘れてたよぉ……」

――姉さん、おっちょこちょいすぎ!!

「笑えない。それは笑えない……」

途端に落ち込む姉さんだけど、私も脱力してしまう。お腹が空いたのだ。

「うぅ……ご飯、出前で良い?」

「姉さんのおごりね。私カレーがいい」

「はぅぅ……今月の生活費、ギリギリなのに……」

お財布を開いて中を確認する姉さん。

嘆きが哀しみに変わっていた。


 親がいない家庭では、学生の生活費は各自学校に通ったりバイトをする事でまかなうのが基本。

私はバイトをしてないけど、自分の生活費は学校に通ってある程度の成績を修めることでカバーしてて、姉さんは足りない分をバイトでまかなっている。

まかなえてるはず……なのだけれど。私と比べても大分余裕があるはずなのだけれど。


「何に無駄遣いしたの……?」

きっとくだらないことにお金を使っちゃったんだろうなあ、と思ったら、もう黙ってられない。

私だってお洒落とか美味しいもの食べたりするのに使いたいのを我慢する事はあるのに、姉さんはどうにもそのあたりの自制が苦手過ぎる気がするのだ。

「えっ? な、何のことかなー?」

そして棒読みで返す姉さん。わざとらしすぎる。

「じー……」

「うぅっ、あ、新しい服と、下着一式買い換えただけよー。別にそんな、無駄遣いじゃないし……」

盛大な出費をやらかしていた。何それ自分だけお洒落とかずるい。

「ほんの二月前にも服とか下着とか買ってたじゃない」

「……入らなくなったの」

「えっ?」

「胸のサイズが……また大幅に増えてしまいまして」

嘆かわしげに胸に手をあてぐぐ、と押し込む動作。

柔らかく凹んだ胸はしかし、手を離した途端に弾力豊かに元の形へと戻っていく。たゆん、と。ぷるん、と。

「……また、ですか?」

「……また、なのです」

二月前にも同じことを言っていた気がする。その前は半年前。

ただでさえ豊かだった姉さんの胸が、ここにきて急成長。

「姉さん、初等部の時点で今の私より大きかったよね?」

「……うん」

「何食べたらそんなになるの?」

「ミリィと同じものかなあ……」

同じ親から生まれてほぼ同じ環境で育ってきたのにこの差である。納得行かない。

別にそこまで胸のサイズにこだわりがある訳じゃないけど、明確に目の前にこう、ばいん、と、姉の身体の一部として存在感を示されると、時としてイラッとしてしまう事があるのはどうしようもないと思う。

まあ、そもそものところ、背丈からして私と姉さんでは頭一つ分以上開きがあるのだけれど。


「背丈も無駄にあるし……私、ミリィみたいにちっちゃくて可愛くなりたかったなあ」

心底羨ましげに指をくわえながら見つめてくる姉さんに、ため息混じりに一言返す。

「私の背丈になったら多分、すごく後悔すると思うよ……?」

姉さんには解らないのだ。

成長期なのに全然身長が伸びる様子の無いこの焦りが!


 私的には、背丈の話は、髪と眼の色、家族関係の次位には言われたくない、出して欲しくない話題だったりする。

同世代の女の子を見上げるのは、結構辛いのだ。

後輩の女の子に物理的に見下ろされるのって、かなり悲しい。

なので、背が高い人は心底羨ましいと思うし、背が高いからこそ解らないであろう悩みを無視して「いいなあ」とか言ってる人を見るとちょっと腹立たしく感じてしまう。


――私の背が伸びないの、病院で調べてもらおうかなあ。


 ただなんとなしに病院に通っていたけれど、もののついてで用事が生まれた気がした。


-Tips-

報奨金制度(概念)

レゼボアに生活する全ての人類は、公社に定められた活動を行う事によって得られる報奨金と、それ以外の個別に選択した業務を行う事によって得られる給金を生活の糧としている。


多くが公社の定めた人生を歩むレゼボア人は、原則この報奨金によって生活しており、足りない面をアルバイトなどによって給金を得て満たす事が多い。

自営業者やそれに従事する者などを除けば、学生も含め全ての人類が報奨金を得る為に活動しており、これは彼らの数少ない本能的な行動原理の一つである。


この報奨金は、例えば学生であれば成績優秀者や組織の役員などに就く事で上がり、成績が低ければ相応に減額される、といったように、その組織での活動成果が大きく影響する。

また、モラルリストも影響するため、善行を重ねれば相応に増額され、悪行を行えばたとえ軽微であっても大幅な減額をされる事となる。

尚、行為の善悪>挙げた成果 となる為、悪行を重ねてでも成果を挙げる事によるメリットはない。


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