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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
3章.広がる世界(主人公視点:サクヤ)

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#8-1.リアルサイド4-生徒会室にて-

 廊下を歩くだけで、私は人目を惹いて――そして避けられる。


「よいしょ……」

放課後。緑リノウムの廊下を歩く。

手にはプリントの山。

これは、風紀委員会でまとめた議事録や、活動報告書、予算関係書類などの割とお堅い書類ばかりで形成されているお堅い山。

今日の会議終了後、サトウ先生から頼まれて運んでいるのだけれど、これが中々大変だった。

後一人、誰かいれば楽なんだけど……こんな時に限ってナチとか通りがからない。


「なんだサクラ。一人でそんな書類の山」

「ひゃっ――ああっ!?」 

背後からの声に、思わずびくりと震え、書類の束を崩してしまう。

ばさりと飛び散った書類の山。泣きたくなる瞬間だった。

「あー……なんか、その、すまん」

後ろに立っていたのは、オオイ先生。

泣きたくなるというかちょっと涙目になってたけれど、潤んだ視界の中でもはっきりとその姿だけは解った。

なんか、ちょっと申し訳なさそうに頬をぽりぽり掻いてる。

「あっ、い、いえ、その――」

――変な所見せたくない!!

一瞬で気持ちを切り替えて、散らばった書類をかき集めようとする。

だけど、いかんせん量が多すぎる。サトウ先生、溜め込みすぎ!!

「手伝うぞ」

わたわたと集めていた私の隣にしゃがみこんで、オオイ先生が私の落とした書類を集めだす。

なんだかとても申し訳なく感じてしまうけれど、ちょっとだけ嬉しい瞬間だった。


「――これで全部だな?」

「あ、は、はい……ありがとうございました」

ほどなく集め終わって、書類の半分を先生から渡してもらおうとする。

集めてる途中に手が触れたらどうしようとか舞い上がってたけれど、そんな事は全く無かった。残念。

「これ、生徒会に提出する書類か? 随分量があるな?」

「あ、ええ……その、サトウ先生が、提出するのを忘れたまま溜め込んでいたみたいでして」

「……それで君がこの書類の山を運んでるのか。なんというか……」

どこか呆れたような、途方に暮れたような顔をしながら窓の外を見始める先生。

「どうせ生徒会に提出するような書類だ、大したものではないんだから、断っても良いんだぞ? 生徒は教師の小間使いじゃないからな」

「いや、その……あれっ?」

そうかと思えば、ため息混じりにこちらを向いて、私に戻した書類をまた、半分持っていってしまう。

かなり自然な動作で、一瞬気付けなかった。

「全く……女子に持たせる量じゃないぞ。サトウめ、さては飲み会のセッティングの為にばっくれやがったな」

ぶつぶつと言いながらそのまま持っていってしまう。

「あ、あのっ」

私も追いかけるけれど、意外と先生の足は速い。

背が高いだけあって、私よりリーチが長いのだ。

「気にするな。生徒会室まで持っていけば良いんだろう?」

「あっ……はい、そうなんですけど……」

私の返答なんて知った上で、構わず進んでいってしまう。

どうやら持っていってくれるらしい。

先生の何がこんな行動を取らせたのか解らないけれど、私としては役得。

断る理由も無いので、そのまま隣に並んで歩いた。



 この学園の生徒会は、一応、生徒達の自治を目標に設立された校内組織、という名目のもと運営されている。

生徒達の代表として選出された生徒会メンバー達は、表向きは生徒達の為、各委員会や部活をまとめたり活動への予算を割り振ったりしている。

こういうのがあるおかげか、何も知らない生徒からは『学校を牛耳る巨大組織』みたいに思われがちな生徒会。

私の風紀委員も似たような感じで無闇に怖がられているけれど、風紀委員も生徒会も、ただの有志生徒によるクラブ活動の延長みたいなもので、実際にはそこまでの権限はない。

基本的には顧問の先生に指示を仰いで言われる通りのことをこなすだけ。

後はまあ、会議という名の雑談をしたり、お茶を飲んだりする位。


 そんな訳で、私達の運んでる書類も、実のところはそんな重要なものではなくて、溜め込んでもそんなに問題なかったりする。

予算関係の書類みたいにお金の関わるものにしても、実際には活動した時点で使われた額が自動的に記録されているので、わざわざ書類なんてアナログな方法を取るまでもなく、必要ならいくらでも確認が出来てしまえる。

諸活動の記録なんかも同じ。基本、私達生徒の行動は校内で構築されているネットワークのログに残るので、これら書類そのものの価値はないに等しい。


 では何故書類なんて作って提出するのか。

実は、『それっぽく見えるから』というのが一番大きかったりする。

一般の生徒から見て、すごくお仕事をしてるように見える。

非効率的に感じてしまうけれど、意外とそう見えるようにするには回りくどい手段が最適だったりするのだ。

生徒会や委員会という名の、あまり必要性の無い組織の維持の為には、このような一見無駄な作業も必要、という事。



「あ、サクラさんじゃない! それに……オ、オオイ先生もいらしたんですね~」

「はうあっ!?」

生徒会室に入るや、生徒会長さんはじめ生徒会メンバーの人たちが慌しく起立して、それぞれのデスクへと戻っていく。

腰掛けていたソファは座った跡が中々消えない。

テーブルの上にはお茶菓子の包装が置かれたままだし、結構長いこと休憩してたんじゃないかなって思う。

「……」

生徒会長さん達が視線を向けるのは、やっぱりというか、オオイ先生。

基本的に生徒しかこない生徒会室に教師がいるというのは、やっぱり違和感がすごいんだと思う。

それも、顧問ならまだしも全く関係の無い科学教師となれば、尚の事。

「書類はここでいいのか?」

「あ、はい。ありがとうございました」

「うむ。ではな」

当のオオイ先生はというと、淡々と書類をテーブルの上に置いて、一言かわしてそのまま出て行ってしまった。

生徒会の人たちはそわそわと視線を向けていたけれど、先生は気にした様子も無かった。



 そしてオオイ先生がいなくなった途端、ほう、と皆してため息をつく。

なんていうか、ちょっと失礼な気がするけれど、気持ちも解るから難しい。

「サクラさん、すごいですねえ。オオイ先生に手伝わせるなんて」

生徒会長さんの一言が皮切りに、生徒会役員の人たちが「うんうん」と、しきりに感心したように私に視線を向ける。

ちょっと恥ずかしい。


「さすがサクラさんだわ! 同志として鼻が高いです!!」

「どうやってオオイ先生をテイムしたんですか?」

「怖くないんです? 私オオイ先生って苦手でー」

「あっ、お茶菓子どぞー。座って座って」

口々に話し始める。我が校の生徒会って、いつもこんな感じ。皆女の子なので、結構賑やか。

促されるままにソファに座らされて、お茶菓子を出されて、お茶までいれてもらってしまう。

すごい歓迎のされようだけど、特に代わり映えも無く、いつもの事。


 こんな華やかな人たちだけど、それを知らない生徒からはかなり怖がられている。

特に何かやった訳でもなく、生徒から見ての生徒会は怖い組織扱い。

これに関しては私の風紀委員会も同じで、そんな関係から、実態は全然そんな事ないのに妙に怖がられてる組織同士で、とても仲がいい。

私の前の風紀委員長さんも、この人たちの前の生徒会役員さん達と仲良しだったのだとか。

生徒会長さんなんてしょっちゅう同志同志呼んでくる。

押しが強い人で、初対面からこんな感じで持ち上げてくる人だったのでもう慣れた。


 ある意味ここは、私にとってこの学校で一番居心地がいい場所と言える。

何せ、変な眼で見られる事もないし、変に怖がられる事もないし。

皆お友達みたいなものだから、ある程度気心も知れている。

クラスにいればナチをはじめ友達もいくらかはいるけど、常に誰かの視線に晒されてるのであんまり楽しくない。

風紀委員にいればそれはそれで、先輩として、風紀委員長として、それなりに注目されたりするので、あんまり目立つのが好きじゃない私にはちょっと重く感じてしまうこともある。

そういう重みに、ちょっと辛くなった時にここに来ると「ああ、辛いのは私だけじゃないんだなあ」って思えてしまう。

生徒会とはそういう、ちょっとネガティブな集まりだった。


 ニコニコ顔で私を囲んで座り始める生徒会役員の人たち。

皆美人さんだけど、ここで真面目に働いてるところは見たことがない。

「ミルフィーユちゃんって、彼氏もういるの?」

「いませんよ。あと下の名前で呼ぶのはやめて欲しいです」

突然の剛速球を全力で回避。

下の名前で呼ばれるのは訳あって好きじゃなかったのでそちらも釘を刺しておくのを忘れない。


「サクラさん、チーズケーキ作ってきたんだけど食べるー? レアチーズだよー」

「あ、いただきます。いつもすみません」

甘いものには目がないので笑顔をもって迎え入れる。

レアチーズ、大好き。


「今度の日曜、っていうか明日なんだけどさ。生徒会で五層のテーマパーク行こうと思うんだよー、サクラさんも来ない?」

「ごめんなさい。明日は病院にいかないとなので……」

とっても魅力的なお誘いだけれど、残念ながら予定が合わなかった。

他の週ならいけたのに……後悔しちゃいそう。


「先輩、ここの問題わかりますか? 授業中に出されたんだけどまるでわかんなくて」

「んー……Aは『SSS(シャルムシャリーストーク)』。Bは『AgR(アルゲンリーゼ)』、Cは『FN(ファルネック)』だと思うけれど。なんで、生徒会長さんがいるのに私に?」

生徒会長さんは常時学年二位の才媛。とっても優秀な人なのだ。

因みに常時首位はナチ。二人はライバル。

「だってサクラ先輩の方が真面目に答えてくれるし……」

「真面目に答えたら宿題にならないじゃないですか。サクラさんも、乗せられて答え教えちゃダメですよ?」

め、と、そんなに怒った様子もないけれど怒られてしまう。

なるほど、宿題だったのなら答えたのはまずかったかもしれない。余計な事をしてしまった。反省。

「はい、すみません。これからは心を鬼にする事にしますね」

「うへぇ、サクラ先輩だけは女神様だと思ってたのにぃ」

おどけた様子で返すけれど、この後輩の子は割と本気だったらしい。

――生徒会役員さん、それでいいの……?


-Tips-

モラルリスト(概念)

レゼボアでは、全人類の管轄の為、様々なリストが公社によって管理されている。

このモラルリストで管理しているのは、各個人が今まで生きた中でどのような行動を取ったかのログやそこから割り出されるモラルの割合、減点数などであり、これは賞罰、ひいては実生活の中で公社から割り振られる生活資金にも関係する重要項目である。


一般に定められた規範から逸脱すればその分だけ減点され、減点が一定数を超えるとどこかのタイミングで『報奨金減額』『転居処分』『下位層への降格』『地位と財産の没収』など減点数に準じた処分が科せられ、重くなるに従って死刑やデリート(レゼボアからの永久消滅追放処分)などが科せられる事になる。


この中でも特に重いとされているのが『役人による全ての犯罪』『繰り返し行われる犯罪』『故意に行われる犯罪の中で特に悪質なもの』の三つである。

多くの場合これらの要素が二つ以上重なると、それぞれがどれだけ軽微な犯罪であっても死刑、ないしデリート処分となるが、公に告知されている訳ではないので民衆でこれを知る者も多くはない。


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