表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
14章.変異するネトゲ(主人公視点:ドク)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

536/663

#13-3.茜との対話にて


「はー……疲れた」


 館から出て、ほっと一息。

この後二人がどんな風になるのかは知らんが、恐らく今までと大差ない状態のまま続くのだろう。

ドロシーは、マルコスの想いを『自分への恋愛感情』ではなく『マスターへの思慕』と誤解したまま。

マルコスは、それを伝えたいと思いながらも、どれだけ伝えても結局想いが伝わらないのを実感した筈だ。


「――いい笑顔ですね?」


 不意に、声を掛けられる。

見れば茜が目の前に立っていた。

夕暮れ時、にっこりとした笑顔。


「笑ってたか?」

「ええ、とても愉しそうに」


 満面の笑みの中、かすかに感じる殺気の様なものに、わずかばかり構えそうになるが。


《シュビッ》


 直後、槍が俺の頬を掠め、風が吹いた。


「動じませんね?」

「何のつもりだ?」

「脅したつもりでした」

「そうか」

「ええ」


 脅し。脅迫。

どういった意図なのかも伝えず、突然の攻撃で怯えさせようとしたのだろうか?

いや、そうではないのだろう。

意図は俺が解っていると考えた上で、いや、伝えずとも理解したと考えた上で、このような手段を取ったのではないか。


「ドクさんって、割と怖い人ですよね?」

「そうか?」

「ええ。前々から思ってました」

「前々?」


 いつからだ、と思っていた矢先、槍が引っ込む。

そうして、くるりと茜の背後に消えた。

――消えたように見えた直後、今度は俺の顔面目掛けそれが放たれる。


「コーラル村の一件の時から。私はドクさんとはその時が初対面でしたけど、ただモノじゃないように感じました」

「よく言われる」


 ただモノじゃない。普通じゃない。おかしい。変人だ。狂ってる。壊れてる。

俺の戦い方を見た奴からよく言われる感想だった。

俺自身はそんな風に思った事は無いが、多くの人が目にして覚える、そんな戦い方なのだろうという認識はしていた。


 そう、今の俺のように(・・・・・・・)

回避すらせず、目の前で止まる槍の穂先をにやついた顔で見ているような奴は、確かに他人視点ではイカレテいるのだろう。


「貴方は、善意とか悪意とか、そういうの(・・・・・)からかけ離れてますよね? 私、ずっとそう思ってたんです」

「うん?」


 だが、茜の感想は、今までに聞いたどれとも当てはまらないものだった。

強いて言うなら、ゲームマスターに近いだろうか。

だが、どこかズレているようにも聞こえる。


「人が傷つこうとも、人が喜ぼうとも、あまり関係ないんです。目的が果たせて、自分が納得できればそれでいいだけ」

「ああ、独善家とか、そういうアレか?」


 それも一時期よく聞いた感想だった。

どちらかといえば、それは俺自身ではなく、ギルドに対しての……シルフィードと言うギルドの在り方に対しての皮肉だったと思うが。

だが、茜はこれに対しても首を横に振る。


「……それとも違う気がします。だって、独善に必須の『何が正しいか』とかも貴方は持ってないんでしょうから」

「新鮮な感想だな」

「茶化さないでくれますか?」


 また、槍が引っ込む。


「貴方は、マスターの気持ちも知っていて、マルコスさんの気持ちもわかっていて、それでも遊んでますよね?」

「遊んでるつもりはないぞ? 俺はいつだって真剣だ」

「でも、貴方のそれ(・・)で二人が苦しんでも、お構いなしですよね?」

「そんな事は無いさ」


 構わない訳じゃない。

マルコスが苦しめば俺だって嫌な気持ちになる。

ドロシーが辛い気持ちになるのは、見ていてとても悲しい。

だから、何も感じないわけではない。


――だが。


「だったら、なんでそんなに愉しそうな顔をしているんですか? 弄んで、いじくり回して。ギルドマスターとサブマスターの関係がぎくしゃくしたら、タクティクスギルドにとってかなり致命的な事になるのに、貴方は平気でそれをしましたよね!?」


 ああ、こいつが怒っているのは、そういう理由からか。

つまり茜は、その所為でギルドが不安定になるのを恐れていたのだ。

俺という不確定要素が余計な事をしたせいで、安定していたギルドが崩れるのを、恐れているのだ。

その気持ちは、とてもよくわかる。


「貴方は何も解ってないですよ! 自分にとってそう思い込んでるだけで、何が大切なのかとか、大切なモノをどうすれば守れるのかとか、何も考えてない!!」

「随分とまあ、はっきりというじゃないか」


 仮にも友好ギルドのサブマスターに対してのこの物言い。

茜的には確信あってのものなのかもしれないが、実際にはそんなものはどこにもない。

俺が一言「それは誤解だ」と言えば、一気に露と消える儚いものだ。


「茜」

「――っ」


 名を呼べば、びくん、と、その身を震わせる。

構わず、歩き出し、その横を抜けようとした。

こいつは、俺が何なのかを知っている。

俺は、確かにシルフィードのサブマスターで、色んな奴を助けて、色んな奴と関わったりはしているが。


「まだっ――」

「それまでにしておけよ」


 三度、槍がうなり声をあげ、今度こそ俺の頭を狙う。

だが、遅すぎる。


「はっ……くっ!」

「お前は決して弱くはないが。俺の相手をするには足りなさ過ぎる」


 タクティクスなら通用するのだろう。

ボスモンスターくらいなら怯ませられるかもしれない。

だが、古参相手にはやらない方がいい拙速の攻撃だった。

拙速でも巧遅でも駄目だ。巧速でなくては、古参には意味がない。


 容易に槍を掴み取り。

掴んだ槍を適当に引っ張る。


「ふぁっ!?」


 それだけで崩れるバランス。

決して茜の足腰が弱い訳ではない。

抵抗はしていた。

だが、人体のバランスとはテコである。

力点さえわかれば、そしてそのずらし方を心得ているなら、いくらでも容易に崩せてしまう。


《ずざぁっ》


 そのまま顔面に膝を撃ち込めば、一撃で昏倒させられただろう。

首を狙えば即死もいけた。

だが、こんな馬鹿らしいところで殺すつもりは微塵もない。

倒れるに任せ、滑らせるに任せた。


「なあ茜」

「ひっ……」


 驚きの後の青ざめた顔を見て、「昔はよく見たなあ」と、初期の頃に絡んできた不良プレイヤーを思い出す。

茜は善良だが、悪党でも善人でも、死を感じた時は同じ顔をするのだ。


「俺は別に、他人をぎくしゃくさせて喜ぶような趣味はしてねぇよ」


 元より、本意ではない。

俺の所為でドロシーがおかしくなるというなら、マルコスが苛立つというなら、俺などはこのギルドには顔を出さない方がいいはずだ。

だが、そうではないのだ。


「でも、貴方が来るたびに、マスターは……それに、マルコスさんだって、おかしくなるんですっ」

「知ってる」

「知ってるのに、なんでっ!」

「そうなるのは、あいつらがそう(・・)だからだ。ドロシーもマルコスも、自分の中の気持ちを自覚して、浮ついたり、勝手に自分に苛立ったりしてるだけだ」


 ドロシーは、恐らく俺に対しての気持ちには自覚しているのだろう。

だが、それを伝えられない。

伝えたら壊れてしまうからだ。

俺自身もドロシーは気に入っているし、恐らくプリエラと出会わなければ、そして今でも故あれば、進展もあったのかもしれないが。

だが、ドロシー自身もそれを恐れる気持ちはあるのだ。


-Tips-

セイントパイク(武器)

聖属性が付与された聖職者の為の手槍。

現状ではモンクとパラディンにしか扱えない武器で、対アンデッド・対霊・対魔族武器としては一級の攻撃力を誇る。


武器としては普通の槍と大差ない取り回しが可能だが、対人戦においては悪人に特効ダメージを与え、善人にはダメージ減少するという特性があり、対象の善性次第では無効化されてしまうという欠点がある。

その分、誤解によって傷つけてしまうリスクが減る為、尋問など、相手を試す際に用いる武器として有用である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ