表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
14章.変異するネトゲ(主人公視点:ドク)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

515/663

#6-1.リアルサイド35―オオイてれぼ相談室―


「――そういえばセンセ、最近、ヒョウカさんに相談されたんですけど」


 リアル世界・自室にて、てれぼ中。

脳内会話の相手はサクラ。

現在は可愛らしいピンクのパジャマ姿でベッドに腰かけていた。


「相談された話を俺に聞かせて大丈夫なのか?」


 毎日という訳ではないが、こうして夜、大体八時くらいになるとかけてくるのだが、その時に会う約束をしたり、近況を伝えあったりしている。

会話内容的には雑談も多く、今もこうして、全く関係ないオガワラの話になっていた。


「『恥ずかしいのでナチバラさんにだけは言わないでくださいね』って言われましたから、ナチに言わなければ大丈夫かなって」

「なるほどな」


 人からの相談事を俺に聞かせるのはどうかと思ったが、駄目な相手が限定されているなら問題ないのだろうか。

いや、よく解らないが、まあオガワラの悩みを俺が聞いてもどうにもならないから別にいいのだが。

あくまで雑談のタネである。サクラ的にもそのくらいの認識なのだろう。


「それでですね、どうやらヒョウカさん、好きな人が出来たらしくって」

「コイバナだった訳か」

「はい。コイバナです」


 女子は本当に、この手の話が好きである。

サクラとの会話も、半分くらいはこれで占められる。

後はファッション関係とか、ドラマや流行の歌についてだとかが大半か。

それに関しても恋愛に絡められる事が多いので、年頃の乙女にとって最も強い関心事なのだろう。


「それで、私が『どんな相手なんですか?』って聞いたんですけど、中々言おうとしなくて」

「相談してきたのにそれを言わないのか」

「そうなんですよ、困ってしまって。だけど、ちょっと黙ってた後に、少しずつ話を聞かせてくれたんです。やっぱり、相談したいのは本当らしくって」

「ほほう」


 正直恋愛に関する話は俺にはあまり得意ではないので、必要が無ければ関わりたくはないが。

サクラとしては大切な友達の相談なので、それなりに真面目に対応しようとしたのだろう。

告白され、会うようになってから大分打ち解けてはいたが、本質的にこの娘は真面目な女の子なのだ。

だから、オガワラの言葉にも真摯に耳を傾けてたんじゃないかと思うんだが。


「ただ……その、ちょっと変化球だったと言いますか」

「変化球? アブノーマル的な?」

「うーん……やや、アブノーマル的な?」


 アブノーマルだったか、オガワラ。

真面目な奴ほどど変態だったりするらしいとは言うし、もしかしたらオガワラもそういう系の性愛に目覚めてしまっているのかもしれない。

いや、違うと思いたいが。

サクラもちょっと困ったように眉を下げながら頬をぽりぽり。

近くに置いてあったクッションを抱きしめながら口を開く。


「なんでも、そのお相手が……ゲーム世界での人らしいんですよね。どんなゲームかまでは聞かせてくれなかったんですけど、ゲーム世界で知り合って、その人に恋をしてしまったのだとか」

「ゲーム世界かー……リアルとはずいぶん勝手が違うよな」

「そうですよね……でも、ゲーム世界で好きになった人への想いが、現実世界でも残ってしまっているのって、ちょっと私には解らないなあって」


 サクラは、現実世界で好きな俺への想いを、ゲーム世界のドクというキャラには向けられないのだと言っていた。

それは解る。ゲーム世界での出会いも全く違うものだったし、そもそも別人として出会い、仲良くなったのだから、恐らくサクラの中での俺と、サクヤの中でのドクとでは、全く違う存在扱いになってしまっているのだろう。

だが、オガワラはそうではなかった。

そもそもの部分でサクラと食い違うので、サクラには対応が難しかったのかもしれない。


「難しい話だな。その、ゲーム世界での相手というのは、現実世界の知り合いか何かなのか?」

「いえ……そういう訳ではないみたいですよ? ただ、恋焦がれているというか……」

「じゃあ、ゲーム世界のオガワラのキャラの想いに、そのまま現実世界のオガワラが引きずられちゃってる感じなのか……」

「そうですね。こういう事って、結構あるんでしょうか?」


 俺は恋愛に関して経験が豊富とはいいがたいが、ゲーム知識としてなら、ある程度解る部分もあるとは思っている。

だが、ゲームと現実との乖離(かいり)については働く想像も、合致してしまっている事に関しては、あまりうまくは働かない。

少し考えるように額に手を当て、黙り込む。

サクラもしばし黙ったまま、クッションに口元を当て、じっと待っていた。


「これはあくまで仮説だが――」


 考えている間に頭の中で組み込んだ事を、言葉を選びながらに説明していく。

少女の恋愛に関わる問題である。適当には答えまい、という気持ちもあった。


「例えば、ゲーム世界で起きた嫌な事なんかは、現実世界でも『嫌な気分になった事』として記憶に残ったりするだろう?」

「あ……ええ、そうですね。記憶に残らない時も、『なんだかやだなあ』って気持ちになった事はありましたし」

「そう。そうなんだ。それと同じ感覚で恋をして、その人の事を想ったり恋焦がれたりした感覚が現実に残っていたら、段々と現実でもそれについて考えてしまったりするようになるんじゃないか?」

「あー……なるほど、私の逆になっていた訳ですね? 私は現実ではセンセが好きでしたけど、ゲーム世界でも好きーっていう気持ちはありましたし。ドクさん=センセだと思えなかったから、そっちには繋がらなかったですけど」

「まあな」


 ただ、この説を採用するなら、オガワラが相当単純な奴だったか、よほど長い期間を経てその考えに染まってしまっている必要があると思う。

俺はオガワラの事を深く知っている訳ではないが、サクラの話を間接的に聞く限りはそこまで単純な奴でもなさそうだし、だとしたら後者。

かなり長い事その恋は続いていて、そして、現実のオガワラに侵食している事になる。


「サクラから見て、オガワラは幸せそうだったか? それとも、辛そうだったのか?」


 もしその恋がオガワラにとって本意ならば、それは幸せそうに見えるだろう。

だが、リアルでのオガワラにとってその恋が苦痛でしかないのなら――それは、現実に侵食したゲーム世界でのオガワラの想いが、現実のオガワラにとって本意でない事にもなりうる。

俺から本人に聞くなんてことは絶対できないだろうから、もしこの問題に答えを出そうとするなら、本人がどう思っているのか、それを客観的に見て判断するくらいしかできないだろう。


 俺の問いに、サクラは「んー」と、口元に指を当て、ちょっと考え。


「そうですね。苦しそうにため息をついたり、胸を抑えてぎゅーっとしてしまったり、辛そうではありましたが――『この苦しさがとても幸せで』と言っていたので、本人的には幸せなんじゃないでしょうか?」


 本人的には幸せ。

だったらそれでいいんじゃないのかと思わなくもないんだが。


「そもそも、その相談ってどういう流れでサクラに来たんだ?」

「あ……実はですね、ナチと三人で、好きな人について話すような流れになってて~」 

「最初はナチバラも込みだったのか」

「そうなんですよ。それで、まだ三人とも恋人はいないけど、彼氏さんにするなら~っていう会話に代わって、その時は適当に流して終わったんですけど」

「ほう」


 こういう時、サクラは俺への想いを口にしたりはしないらしい。

友達にすら隠していた想い、というとかなり健気に思えるが、告白した後も隠している辺り、死ぬまでしまいこんだままでいるつもりなのか、それとも何かしらのきっかけがあれば話すつもりなのか。

いずれにしても、友達三人での恋の話は不毛なまま終わる事が多いという話を聞いていたので、今回もやはりそんな感じだったのだろう。


「ただ、その後にヒョウカさんから『ちょっとご相談が』とお呼ばれされまして。ヒョウカさんのお家に一人で遊びに行ったのって初めてだったから、ちょっと緊張してしまいました」

「結構金持ちって話だもんな」

「そうなんです。とっても大きなお家で、ナチのお家より大きいんですよね。ヒョウカさんって猫好きだから、家に沢山猫の絵や置物が置いてあって可愛かったです」


 猫好き仲間なんですよ、と、可愛らしく微笑む。

そういえば、イメージの中のサクラもよく猫のぬいぐるみや猫柄のクッションを抱いていたりする。

異世界の猫画像をよく見せてもらってるという話も聞くし、同好の士といった感じで高校になってから仲がどんどん深化していったのかもしれない。


「ただ、ヒョウカさん自身も、現実に居ない人に恋焦がれている事に、ちょっと不安を抱いているみたいなんですよね。『これって普通じゃないですよね』って、ちょっと心配そうで」

「サクラはなんて答えたんだ?」

「『恋をしているヒョウカさんはとっても素敵ですよ』って。だって、すごく綺麗でしたから」


 実際、友人がそんな風に『現実に会った事もない相手』を好きになったなんて聞かされたら、正気を疑うか不毛を説いて諦めさせる人が多いんじゃなかろうか。

肯定なんてしたら更に恋煩いが深くなってしまうかもしれないのだから、一見すればそれは悪手のように思えなくもないが。

だが、オガワラに関しては、サクラの対応で正しいと思う。


「不安に思ってるなら、下手に否定したらオガワラを追い込むことになりかねんからな。サクラがそれでいいと思ったなら、肯定もありだと思うぞ」

「本当ですか? えへへ……センセにそう思ってもらえるなら、良かったと思います」


 俺がどう思おうと、その時のサクラはそれが正しいと思ったからそう返したのだろうが。

サクラはサクラで、自分の選択が正しいかどうか、それを知りたかったのだろう。

こいつはこいつで、不安なのだ。

人はやはり、自分一人では自分の判断が正しいかの判別が付けられない事が多い。

それは、俺にも解る。


「相談っていうのは、解決を望んでしているとは限らんからな。不安な自分の気持ちを知ってほしかったり、辛い自分を慰めて欲しかったり……とにかく、人に関心を向けてもらいたいんだ」


 相談ごとの難しいところは、本人がどれだけ解決を望むような事を口にしていても、本心ではそう思っていない事もあるところだ。

そいつが本当に願っているのはどんな事なのか、それを考えなくては、問題の解決どころか、相談者とそれを受けた者との信頼関係が悪化する事すらある。


 今回の件も、オガワラは自分の恋愛を解決する妙案を聞きたかった訳ではなく、サクラにそれを知ってほしくて、肯定して欲しくて伝えたんじゃないかと俺は思う。

恋というのは人を不安にさせてしまうものだ。

それが叶うかどうかも分からないものなら、尚の事そうなる。

それに関しては、俺も経験者だから解るのだ。


「じゃあ、私の対応、間違ってなかったんですね?」

「多分な。オガワラが怒ったり泣きだしたりしてなければ、それでいいんだと思うが」

「ちょっと泣いちゃってましたけど、どちらかというと嬉しそうだったような……」

「なら、それでいい」


 確信など持っていい話ではないが。

こういう時は、自信を持って言い切ってしまった方が、相手が受ける安心感も強くなる。

オガワラがサクラの言葉で喜んでいた。それで十分だろう。


「これからも、相談には乗ってやるといい。サクラ自身も、心配なことがあったら相談してやればいい。互いに相談して、互いの弱みを知って、そして互いの為になれるように考えて……そうやって、君達は互いに深い関係になっていくんだからな」

「そうですね……これからも、オガワラさんの役に立てればと思います。勿論、ナチともだけど」

「そうだな。ナチバラも忘れずにな」


 親友がいて、そして親友になれるかもしれない友達がいる。

今のサクラは、とても恵まれているんじゃないだろうか。

昔の俺達(・・)の様な、そんな関係を上手く育めているのだから。


-Tips-

通信技術の改良に成功(ニュース)

公社情報局よりの耳寄りなお知らせです。

6年前から最上層~上層間で実施されていた『通信技術改良テスト』が無事成功に終わり、正式に全階層世界の各通信設備の機能が1ランクから3ランクアップしました。

このテスト成功による主な変更点は以下のようになります。


・てれぼの10階層世界内での利用が可能

・中層世界でのレーザー無線通信が量子通信に変更

・下層での電話が一部デジタル通信に変更

・異世界への直接通信手段の確立に成功

・異世界への脳内ネットワーク拡大技術の向上

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ