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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
14章.変異するネトゲ(主人公視点:ドク)

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#2-1.結婚式・直前


 結婚式。

それは、一つの区切りであり、一つの覚悟でもある。

愛する相手との、これからの人生を共にするという覚悟。

相手をずっと、いつまで思い続けるという気持ちを確認し、宣言する為の場。

そうして、その覚悟を、多くの人に見せる為の場でもあった。


「よう、新郎二人で並ぶっていうのも、中々奇妙な光景だな」


 王城の一室にて。

新郎の控室として用意されたこの部屋で、一浪と楽第を訪ねた。

式の準備が整うまでまだいくばくか。

最後にその心境を聞いておきたいと、そう思ったのだ。

「ドクさん。やあ」

「……ふん。わざわざ訪ねてくるとは、暇な奴だ」

緊張した様子の両者は、和解した今でもあまり親しく話すといった事は出来ないようで、座っている場所も部屋の両隅。

見事に離れたままだったが、俺が現れた瞬間に同じタイミングで俺の方を見て、同じタイミングで俺に反応する。

……仲がいい訳ではないのだろうが、面持ちが似ているせいか、まるで双子の様な印象を受けてしまった。

ただ、服装は真逆で、黒いタキシード姿の楽第に対し、一浪はホワイトカラーのスーツを着ていた。

「いや、これから結婚する奴らがどんな顔してるのかなって思ってな」

「こんな顔だよ。満足か?」

「まあ、こいつと二人で一か所にっていうのは、ちょっと複雑な気分だけどね……」

二人そろって、互いに同じ場所に押し込められたことが不服らしい。

まあ、本来はカップル一組、その片割れだけで待っているところを、急遽二組の新郎がこの部屋を使う事になったのだ。

互いに相性が悪そうな相手というのが難儀だが、これは仕方ないとしか言いようが無かった。

「それはそうとお前ら、式の打ち合わせは大丈夫か? 互いに足引っ張り合ったりすんなよ?」

俺がここに来たのは、様子見も勿論だが、こいつら自身の緊張をほぐす意味もあった。

一世一代の見せ場で恥をかかせるのは流石に避けたいところだ。

それをネタに笑いが取れるようになれるなら別だが、一浪も楽第も、そういった事は不向きに見える。

恐らくは一生抱え込むトラウマになるに違いないから、今のうちに緊張から来るミスだけは取り除いてやりたいと思ったのだ。


 だが、そんな俺の想いとは関係なしに、楽第はというと、腕を組みながらに不服そうに睨みつけてくる。

「する訳ねーだろ。一浪がミスらねぇ限り俺は万全だよ」

そしてそんな反応に、一浪もむっとした顔で楽第を睨んだ。

「嘘つけ、さっきから文言の練習して噛み噛みだったじゃないかよ」

「うぐっ……うるせーよてめぇはっ! ほっとけってんだ!!」

……どうやら互いに互いの事は意識している分、相手の粗はよく見えるらしい。

「お前ら、仲良しになれれば互いの弱点補い合えそうなのになあ」

「こんな奴と仲良しなんて死んでもならねーよ!」

「俺もこいつとは御免だなあ……」

とても残念ながら、ゴールドタッグとはならないらしい。

本当、そりが合わないのさえなんとかなれば、最高のコンビになれそうな二人なのだが。


 その後も、適当に雑談をしたりして二人の様子を見ていたが、話しているうちに段々と普段の調子に戻ってきたようなので、適当なところで切り上げて招待客用の待機室に戻ることにした。

緊張はほぐしてやりたかったが、あまりにほぐれすぎて口論でも始めたら目も当てられないのだから、ほどほどが一番である。

まあ、幸い和解できた程度には互いの事を認め合えているようなので、誰かが焚き付けでもしなければ掴みあいになるような事はもうないはずだ。



「おうドクさん。どこ行ってたんだ?」

待機室では、カイゼルの奴がメモ紙片手に出迎えてくれた。

というより、入り口の真ん前に立ってて邪魔になっていた。

王城の広間を借りているだけあって部屋自体は広いのだが、入り口はこいつの巨体の所為で塞がれてしまっている。

「マスター、邪魔になってますよ」

「おおうすまねぇっ、うろうろしてたら入り口の前陣取ってたか!」

ギルメンに指摘されてようやく気付いたらしい。

……こいつも緊張してた口か。

「カイゼル。もしかしてそれ、スピーチのメモか?」

「あ、ああ……ミズーリとあの兄ちゃん……一浪から頼まれてよ」

「なるほどな」

どうやら今回のスピーチ役はカイゼルになったらしい。

まあ、割と急に決まった事なので、スピーチの内容なんてものもそう簡単にまとめられる訳もなく。

結果として、当日になってからうろうろする羽目になったんだろう。


「いやあ、式のスピーチなんて今までしたことなくてよぉ。色々、考えちゃあいたんだが……実際に、人前でそれを話す、となると、なんか急に落ち着かなくなっちまって」

「マスターはマスターらしくどかっと座っててくれたらいいんですけどねえ」

「もっと落ち着いてほしいっていうか。他に来てくれた人達もいるんですから」


 ギルメン達に笑われ「参ったなこりゃ」と頭を掻くカイゼル。

緊張はしているだろうが、こいつらとしては嬉しい緊張なのだろう。

大変そうではあるが、大いに頑張ってほしいところである。

「そういえば、ミッシーの結婚式の時は、ドクさんがスピーチの練習してたような」

「忘れろ」

「いやでも、実際にはスピーチとか無くて」

「忘れろ」

「そ、そうかい?」

……なかったことにしたい過去をこんな時に掘り返さなくてもいいのだ。

折角これから若い(?)四人が幸せになろうって時なのに、俺のいたたまれない失敗談など思い出すもんじゃあない。


 待機室を見渡してみれば、部屋に居るのはミルクいちごの面々ばかり。

それも男しかいない。

うちのギルドの連中も含め、招待客、特に女が居ないのは不思議だった。

俺が出る前にはいたのだが。

「居ない人は、結婚式に着る衣装を借りに行ったみたいですよ。ここでて右の部屋なんですけど」

「丁度ドクさんが出ていった後に貸衣装の特設実装アナウンスが流れたんです」

不思議がっていた俺に、ミルクいちごの若いのが教えてくれる。

衣装の貸し出し。どうやら狙ってこのタイミングでの実装らしい。

ご都合的にもほどがあるが、運営サイドも今回の結婚イベント、かなり力を入れていると見える。


「俺達はギルド狩りとかで稼いだお金プールして全員分の衣装用意できたけど、そうじゃない人達には式向けの衣装なんて手が出せない人も多いだろうしなあ」

「そうそう、こういう時、ギルドに入ってない人なんかは大変だよなあ」


 若い連中が口々に語るのを聞き、運営サイドの心意気とやらを実感する。

運営的にも、折角の結婚イベント、どうせなら華々しく飾りたいのだろう。

その為には、参列者一人一人が着飾る必要がある。

流石にだらしがない格好で参加する奴はいないだろうが、それでも懐の問題で狩り装備しか用意できない奴や、安物の服しか持っていない奴もいるだろう。

仕方ないのだ。服は高い。

品質の良いもの、格好いいもの、人気のデザイナーが仕立てた品なんかはとことんまで値が張る。

結婚式に着ていけるような、スーツ一式やドレス一式なんてものは、上級程度の冒険者なら数回狩りをすれば手が届くだろうが、中級にも届かない連中には手を出すのに勇気が要る出費にもなりうる。

日々の生活が懸かっている奴らに、無理な出費はさせられまい。


 その点、貸衣装があるというなら、その辺りの無理はかなり軽減できるだろう。

何せ服に金が掛からない。

その分だけアクセサリーやなんかに金を回せるだろうし、それが無理でも見た目そこまで酷いことにはなるまい。

この辺り、かなり懐に優しい仕様と言えよう。

できれば今回に限らず、ずっと実装していてほしいものだ。


「まあ、俺もちょっくら見てくるかね」

なんとなく気が向いたので、今一度待機室から出る事にする。

このまま待ってればほどなく式は始まるんだろうが、それでも気になるのだ。

「お、ドクさんも衣装借りに行くのか? それで十分じゃねえか?」

後ろからカイゼルの声が聞こえるが、手だけ上げ、足は止めない。

「どんなのがあるのか気になるからな。まあ、次回の参考にでも」

「まるで次回の予定があるようだな?」

「さあ、それはどうだかな」

次回の予定。

なんとなしに口にはしたが、別にそんなものはない。

ギルメンで、他に結婚しそうな奴らなんていないし、知り合いにもそれらしい奴はいないし。

……ただ、なんとなくカイゼルに言われて相方の顔が浮かんだのは黙っておくことにした。


-Tips-

結婚イベント開催のお知らせ(そのほか)

本日ゲーム内時間13時より、結婚イベントの開催をお知らせします。

この結婚イベントは、公式イベントとして実装された『結婚システム』実装を祝してのものです

このため運営サイドも総力を挙げて開催していきたいと思いますので、幸せな恋人達を見たいという方、結婚式の見学をしたいという方もどうぞ奮ってご参加ください!!


会場はリーシア王城、大広間です。

一般の方の参加も受け付けていますので、皆で祝ってあげてくださいね!!


尚、結婚が成立した際にはゲームマスターよりリーシアより10マップ以内の全てのプレイヤーに、祝福が授けられます。

どんなものかはその時のお楽しみに。

これからも運営サイドのイベントを、どうぞお楽しみください!!

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