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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
プロローグ.シルフィード (主人公視点:ドク)
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#3-1.序盤の壁・マジックラビット

 マジックラビット狩り・完了。

一時間ほど掛かったがなんとか三人分(と思しき量)の『桜の花びら』を集める事ができた。

虐殺される羽目になったウサギたちには申し訳ないがこれもイベントの為である。

ついでにウサギ肉は貴重な食料となって俺たちの腹に収まるはずだ。

変な虫だの人型だのと違って腹が満たされる辺り実にプレイヤーに優しいモンスターであった。


「しかしなんだなドクさん」

「うん?」

さあそろそろ街に戻ろうかといったあたりで、一浪がなにやら感慨深げに森を見渡していた。

「こんだけ森を歩き回っても、可愛い初心者の女の子一人いやしねぇのな」

「……お前は狩場に何を求めてるんだよ」

「うーん……出会い?」

「パン屋の看板娘の胸を遠巻きに眺めてるだけの奴が――」

「もうそれはいいよ!!」

呆れた事に一浪は俺との狩り中に女の子の事ばかり考えていたらしい。

どうりで敵の攻撃もかわしきれずにダイレクトな一撃を喰らっていた訳だ。

戦闘中に敵を倒す以外の事を考えればそうなること位解っていただろうに。

「でもほんと、ドクさんみたいに狩場で女の子拾えないかなーって」

「もし見つけても襲うなよ?」

「襲わないって!! ちょっとその、名前と所属してるギルドとか、連絡先とか聞く位で――」

一浪は必死だった。

「お前……人の弱みに付け込んでナンパとかマジ最低な」

「じょ、冗談だって!! 俺だって倒れてる女の子見つけたら普通に助けるしっ」

本当かどうかは怪しい所だが、まあ、狩場で行き倒れ、それも女の子が、なんて事はそうそうあるものではない。

夢見ているところ可哀想だが、それは所詮夢でしかないのだ。



「あれ? なんかあっちの方で戦ってね?」

いい加減話も切り上げて――そう思ったあたりで、今度は後方から(やかま)しい音の羅列。

森に響き渡る音は良く聞き慣れたマジックラビットの水魔法のようだった。

「まあ、初心者用の狩場だからな。初心者がウサギと戦ってるのかもしれん」

「その割にはばしばしウォーターボール撃たれてるみたいだけどな。撃たれまくってるって事はこれ、近づけてないんじゃね?」

音だけでなんとなく劣勢なのが解るのが悲しいところだった。


 マジックラビットはプレイヤーに近づかれた際、距離を離すために水魔法『ウォーターボール』を使う。

ウォーターボールの殺傷力そのものは皆無に等しく、初心者でも喰らって死ぬことはまずない。

どちらかというと衝撃で足止め(ヒットストップ)される事の方が問題で、これによって延々距離を詰められないといつまで経っても倒す事ができないのだ。


 ウサギがウォーターボールを撃つ音が聞こえている以上は、対峙しているプレイヤーはウサギと距離を詰められずにいるという事になる。

基本的に初心者にとって初めて戦う、魔法を扱う敵となることが多い為、この意地悪この上ないモンスター相手に敵の習性や魔法の回避の仕方など、必要なことを文字通り骨身に染みさせ覚える事になる訳だが――


「……音、鳴りやまねぇな」

「ああ。不毛通り越して拷問みたいになってやがる」

――しばし様子を窺っていたが、ウォーターボールの音が止む気配はない。

それどころか、音を聞く限りより激しくなっている。

「なあドクさん、これ、何匹かいるんじゃねぇ? あのウサギにしちゃ魔法の発動間隔短すぎるぜ?」

「ああ、俺もそうなんじゃと思ってたところだ」


 マジックラビットは縄張り意識が強いため群れる事はそんなにないのだが、縄張りと縄張りの丁度境界線に立ってしまった場合、複数同時に攻撃を受けることも稀にだがある。

この森のモンスターは基本的に自衛の為攻撃するだけで、プレイヤーを本気で殺しに来る事はほぼ無いと言えるのだが、初心者の数少ない死因とも言えるのがこの『運悪く複数のマジックラビットを相手にしてしまった時』であった。

延々水魔法を喰らい続けると体温の急激な低下等で最終的に死に至ることもある、程度のもので、すぐに逃げ出せばそんなに危険も無いはずなのだが。


「とりあえず見に行くぞ」

あくまで音を聞いただけの判断だから何とも言えないが、死ぬ可能性があるのなら無視はできない。

その場にいるのもなんだからと、近くに行ってみることにした。

「あ、やっぱ助けるんだな」

「助けるべきかどうかは見てから決める」

一浪も逆らったりはせず、向かおうする俺の後ろについてくれた。なんだかんだこいつも良い奴なのだ。


-Tips-

マジックラビット(モンスター)

恐らくほとんどの冒険者が初心者時代、一番最初に遭遇する事になるであろう魔法系モンスター。

見た目は小さなウサギで愛らしいのだが、縄張り意識が強く、迂闊に近づいた者には容赦なく水魔法『ウォーターボール』を撃ってくる。

このウォーターボールを回避できるように成長する事がその後の冒険者としての活動をする上で重要になってくるので、『序盤の壁』『初級者のトラウマ』『始まりの森の先生』などと呼ばれている。


種族:動物 属性:水

備考:水属性耐性100%(無効化)

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