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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
13章.フリーライフゲーム(主人公視点:一浪)

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#20-1.楽第との戦闘にて


 斬撃は……俺の左肩で押しとどめていた。


「……痛ぅ」

「一浪さんっ!?」


 咄嗟に守ろうとして深く抱き込んだおかげで、ミズーリさんには傷一つついていない。

だが、おかげで左肩から下が動かなくなっていた。


――ミズーリさんを狙った?


 咄嗟に庇おうと判断できたのは、奴の剣先が、ミズーリさんに向いていたから。

多分俺に向いていたら、俺は反応が間に合わず斬り捨てられていただろう。

今まで俺を真っ先に狙っていたこいつが、何故急にミズーリさんを狙ったのか。


「ちぃっ、一撃で仕留めてやるつもりが、余計な真似をっ!!」


 悔しがる楽第を見て、俺に庇わせるつもりでミズーリさんに仕掛けたのではなく、初めからミズーリさん狙いだったのがはっきりする。

こいつの狙いが、解らない。

解らないが、放っておけなかった。


『ヒーリング!!』

「ぐっ……ありがとっ」


 すぐにミズーリさんの奇跡が俺の左肩を癒やす。

感覚が甦ると共に痛みが引き、奥歯にギリ、と力を込める。


「うらぁぁぁっ!!」

「あっ――」

「ちぃっ、このっ、やらせるかっ」


 追撃もやはりミズーリさん狙い。

間一髪、突き飛ばして攻撃が当たるのを防ぐと、勢いがつきすぎたのか、楽第はバランスを崩し足を滑らせそうになっていた。


「とっと……くそがっ、邪魔しやがって!」


 ようやく隙が出来たので、武器を取り出して構える。

守るようにミズーリさんの前に立ち、楽第の攻撃が届かないように気を払う。


「ミズーリさん、空間斬りが来るかもしれないから、離れた場所に逃げて」

「でも……」

「俺なら大丈夫だから」

「……解ったわ」


 躊躇していたようだけど、俺の言葉を信じてくれたのか、歯噛みしながらも頷いてくれる。

以前の俺は楽第相手に押されてたから心配なんだろうけど、今の俺は……あの時よりも強くなっているんだ!


「折角てめぇの幸せを祝ってやろうとしたのによぉ! 邪魔すんじゃねぇよ一浪!!」


 意味の解らない事をのたまいながら、高速で駆け寄ってくる楽第。

その一撃、やはり速い。


「――らぁっ!!」

「なっ!?」


《ギャキィン》


 吹き飛ばすようにギースハンダーの腹で俺の腕を狙おうとした一撃を、腰の入った一撃で受け、はじき返す。

驚愕する楽第。まさか弾かれるとは思ってなかったんだろう。

当然だ、少し前の俺だったら、楽第の攻撃には反応が追い付かなかったはずだ。

……これも鍛錬のおかげだろうか。


「ちったぁ強くなったって事か。くそっ、くそがっ」

「もう、お前の好きにはやらせないぞ!!」


 こいつにどんな事情があるのか解らない。

だけど、こいつはミズーリさんを狙った。

赦すつもりなんて微塵もない。

俺は襲われた側だ。徹底的に――叩き潰す!!


「ふんっ――」


 楽第はこちらの反撃を回避し、一歩下がる。

鼻息荒く左足をじりじりと前に出すと、腰を軽く落とした。

背中後ろに構えられたギースハンダー――『空間斬り』のモーションだ。


「――てめぇに用はねぇんだよ!!」


 がなりながら、ギースハンダーを直線に振り下ろす。


(またかっ!)


 縦の斬撃が、俺を通り抜け、後ろを狙っていた。

それに気づけたからこそ、バックステップが間に合う。


「えっ!?」

「うおぉぉぉぉぉっ!!」


《ギシィッ》


 バランスを崩しながらも、空間斬りを剣の腹で受けきる。

……なんとか守れた。


「い、一浪さん!?」

「ごめんっ、ミズーリさんが狙われてるみたいだから、早く逃げてっ」


 あいつの狙いがこの人なら、この人が離れられれば勝利条件は満たせる。

そのあと俺が狙われるかもしれないけど、今の俺なら、一人でもこいつ相手でしのぐくらいはできるはずだ。


『――グロリアス・エンゲージ!!』


 俺の身体に降りかかる支援の奇跡。

今まで詠唱込みで唱えていたものが、無詠唱で使われていた。


「ミズーリさんっ」

「私も、頑張ってるから……強くなってるんだから、先に死なないでっ!!」

「……勿論さ!!」

 

 こんなところで死ぬつもりはない。

やっと結婚出来るんだ。やっと好きな人と結ばれたんだ。

こんなところで、こんな奴に、殺されるつもりも、殺させるつもりもない。


「見せつけやがって糞がクソがくそがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

(ひが)むんじゃねぇよ馬鹿がっ!!」


《ガッシィン》


 走り出すミズーリさんを守っての、ギースハンダー同士のぶつかり合い。

つばぜり合いになり、押し合いになる。

こいつの攻撃は、もうミズーリさんには届かせない。


「はぁっ!!」

「うぉっ!?」


 支援の効果は絶大だ。

以前でようやく互角だった状況も、今の俺なら、優位に立てる!


「お前なんかに、俺の幸せの邪魔をさせるかよっ!!」

「俺の幸せの邪魔をし続けたてめぇが、何言ってやがるんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 楽第も楽第で、何か想う所があるのかもしれないが。

その心は、どこか理不尽な怒りに駆られているように思えて、理解しがたい。

多分聞かされても理解できないだろう。

だから、蹴散らす。蹴散らすしかないんだ。こういう奴は。


――まずは黙らせてから、言いたい事があるなら聞いてやる。


「ソードバッシュ!」

「――スパイラルソード!!」


 斬撃と刺突。

互いの技が、噛み合わずに互いの腕を掠める。


「ちぃっ!」

「うぐっ……くそっ」


 左腕から盛大に血が噴き出る俺と、軽く右腕の皮膚を切った程度の楽第。

見た目のダメージは、俺の方が大きい。

動きの面では俺の方が優位だったけど、スキルでは……やはり上位職の方が圧倒的に有利だ。

俺の持っていないスキルを使えるこいつは、手の内の全てを知られている俺よりも遥かに上なのだ。

動きで勝っていても、スキルで負けていては、倒しきる事が出来ない。


「今すぐてめぇを倒して、あのプリをぶっ殺してやる!! そうすればてめぇは……てめぇは本当にてめぇの事を想ってくれてる女を、その手にできるってのによぉぉぉぉ!!」

「訳解んない事言ってんじゃねぇよ!」


 《ギシィッ》


 何度目かの叩き付け合いだろうか。

ぶつかり合うギースハンダーが、火花を散らしせめぎ合う。

支援効果はまだ続いている。威力は俺の方が上だ。

だけど、楽第は一歩も引かない。

歯を食いしばるように「ぐぐぐ」と(うな)りながら、息を落ち着かせようとしていた。


「――やらせるかっ!」

「うおぉっ!?」


 まだ、落ち着かせる訳にはいかない。

冷静になられれば、支援切れまでの時間稼ぎに走られる恐れがあった。

こいつは激情家のようだけど、冷静になれば上位プレイヤー相応に状況判断ができてしまえる奴だ。

何に焦っているのか解らないけど、焦ったままでいてくれた方が俺にとって有利には違いない。

だから、落ち着かせる訳にはいかなかった。


 一気に仕掛ける。

せめぎ合いを力押しで制し、そのまま連撃を叩き込んでいく。


「はぁっ、うりゃぁぁぁっ!! うおぉぉりぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ぐぉっ、くそっ、ち、ちくしょうがぁぁぁっ!!」


 剣技だけなら、まだ楽第の方が上かもしれない。

だけど、今の俺は以前より踏み込みが深くなっている分、一撃一撃の威力はずっと増しているはずだった。

俺の欠点の一つ。反撃を恐れるあまりに前に出るのを躊躇ってしまう所。

これが、ドクさんに一番徹底的に矯正された部分だ。


「負ける訳には、いかねぇんだよぉぉぉぉっ!」

「それは俺だって同じだっ! 自分だけが特別だって思うなぁぁぁぁっ!!」


 それでも尚踏ん張ろうとする楽第に、追撃の一撃を加える。

まだ、ガードが利いている。恐らく突き破れない。

楽第は、自分の正面にギースハンダーを構え、両手持ちでこれを受け、跳ね返すつもりなのだろう。

膝が曲がっている。衝撃を受けきるつもりなのだ。


「――これならっ!」

「――うぉぉぉ……はぁっ!?」


 だから、その前提を覆してやった。

正面からの一撃を、斜めからの一撃に切り替えたのだ。

その場で足をズサりながら、無理矢理に姿勢を変え、斜めから叩き付ける。


「ぐぁぁっ!?」


――クリティカルヒット。


 斜めからの一撃は受けきれなかったようで、押し込んだ分だけ、楽第の肩口に剣が突き刺さる。


「うぐっ、ぐぅっ……」

「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁ!!」

「調子に乗ってんじゃ……ねぇぞくそがぁぁぁぁ!!!」


 血を流しふらつく楽第に、更なる一撃を喰らわせるつもりだった。

だけど、楽第は俺の攻撃をかわそうとすもせず、下段から剣を振り上げてくる。

これは――心臓狙いの一撃だ。


 やばい。かわせそうにない。

剣を振り下ろそうとしていた俺には、勢いが付いてしまったこの身体は、その一撃をかわせず――


「――だめだっ」


 しかし、何故か(・・・)剣先がヒュン、とそれ、わきの下をくぐる形で外れていた。

今のは、殺せたはずだ。

殺せたはずの一撃を、わざわざこいつは外したのだ。


「……っ」


 俺も、手が止まってしまっていた。

こいつに加減されたからじゃない。


「え……一浪、さん?」



-Tips-

グロリアス・エンゲージ(スキル)

プリエステス/プリーストが扱う事の出来る奇跡の一つ。

最も基本的とされる奇跡で、多くのプリエステス/プリーストになったプレイヤーがこれを真っ先に覚えると言われている。


効果は自分の周囲の任意のプレイヤーに対し身体能力がブーストされるもので、スタミナ・筋力・反射神経・バランス感覚・自然治癒能力などが、お祈りの頻度と使用者の練度に応じた効果と時間の間だけ向上する。

覚えたてのプレイヤーが使った場合でもプレイヤーの能力を1.5倍程度には引き上げられるのだが、熟練したプレイヤーが扱うこの奇跡は、実に2倍強まで引き上げると言われており、本来飛び越えられない様な高さの壁を容易に飛び越えたり、長時間のダッシュに耐えられるようになったり、装備との組み合わせ次第では治癒の奇跡並の自然回復が一分ごとに発生したりするようになる。


効果が分かりやすく、支援の奇跡としてはとても使い勝手がいい為、辻支援としても『セント・バレスティナ』と共に使われる事が多い。



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