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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
13章.フリーライフゲーム(主人公視点:一浪)

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#18-2.イベント告知会場にて


 カルナス港部の入り口には、既に色んな人が集まっていた。

こちらでは雨が降っていなかったのか、地面も濡れていないし、傘を持ってる人の姿もない。


「はーい、そんな訳で今回のアップデートでは、今まで未実装状態だった『ダオスの迷宮最下層』が実装されました! これは上位PT向けの湧きの多いマップでして、強力な『マシンロード』や『デュラハン』、『エレクトリックトードス』といったモンスターが出現します! 特にデュラハンは今まで出現地域が限定されていましたが、このマップはそれらのマップよりも出現数が多く設定されています! 美味しいですよ!!」


「アルケミストのみなさーん! こちらのブースでは新実装されたアイテムの作成講習を行っていまーす! 興味のある方は是非、是非集まってくださいねー! 石化対策薬や魔物化防止薬などの予防薬がメインとなっていまーす!!」


「初心者の皆さんの為に、新しく実装された『初心者修練所』のご案内をしていまーす!! このゲームについてまだ詳しくないと思った方も、是非いらしてくださいねー!!」


 どうやら結婚だけじゃなく、他にもいろんなことが実装されたらしく、それの告知イベントという形で開いているらしい。

黒服の公式さん達が説明を繰り返す中、人だかりもいたるところでできていて、ぱっと見でどこが結婚イベントの受付なのかが分かりにくかった。


「すみません、ちょっと聞きたいんですけど」


 仕方ないので近くで周囲を見渡している公式さんに聞いてみることにした。

魔法使い風の衣装の、ちょっと目立った格好の女の子だ。


「はいはい、なんでしょうか?」


 声をかけてみると、透き通った声。

笑顔で反応してくれる辺り、運営サイドの中でも黒服の人達は大分、人当たりがいいと思える。

雨でびしょぬれになったままの俺を見て眉一つひそめないのだから本物だ。


「結婚イベントの会場に行きたいんですけど、どこでやってますか?」

「ああ、それでしたら15番の船着き場前でやってますよ~」

「15番か、ありがとうございます」

「いえいえ~、お気をつけて~」


 愛想よく手で示してくれたので、方向はすぐに分かった。

お礼もそこそこに走り出す。

支援効果がまだ続いていたのか、足は軽い。

後ろから聞こえてくる声が、やはり優しさに満ちていた。




 カルナスの港は全部で20の船着き場があるけど、15番から20番までは大型客船用のスペースで、港の端の方にある。

港の入り口と同じように、船着き場ごとにそれぞれ異なった分野のブースが設置されているらしく、集まる人の数もそれによって分かれていた。

その中でも、特に人が集まっていない船着き場。

それが15番だった。


「すみません、ここ、結婚イベントの会場であってますか?」


 一人、ぽつんと所在なく椅子に腰かけていた聖職者風の男の黒服さんに聞いてみる。

他の所は忙しそうに、それでいて楽しげに説明していたりするのに、ここだけ「何もする事が無くて暇」みたいなしょんぼりした顔をしていたんたけど、声をかけた途端ぱぁっと明るくなっていた。


「あ、はい! そうです、そうなんですよ! いやあ、ここに来てくれた人、今日で三人目で――あの、ここでは今回実装される結婚イベントについて、説明をさせていただいていまして!!」


 眼鏡をかけたその黒服さん。

ようやく自分の仕事を果たせると思ったのか、早口で説明を始めようとしたので、「いや、ちょっと」と、手を前に出してそれを止める。


「あの、俺、結婚イベントの『ボスを倒す』っていうの、やってきたんだけど」

「あ、そうだったんですね! 貴方には説明をしていなかったと思いましたが、人づてに聞いたという事でしょうか――それでは早速、確認させていただきますね。ちょっとデータログを失礼」


 肝心の説明ができなかったので、ちょっと寂しそうではあったが、これはこれで仕事らしく、すぐに俺のデータログを開き始める。

運営サイドというだけあって、個人データを覗くのも俺の確認を取る必要もないらしい。


「ほうほう、キャラクターデータ『一浪』さん、確かに指定されたボス『水神プリズムノーツ』を撃破したようですね。おめでとうございます! 貴方が一番乗りですよ!!」

「一番……ほんとですか!? やった!!」

「説明は聞いているかもしれませんが、一応私からも説明させていただきますね」


 こほん、と前置きしてから咳を突き、椅子から立ち上がる。

ちょっと足が震えていたけど、ずっと座っていて足に力が入らないとかなんだろうか。


「えー、最初に討伐を完了させた貴方には、結婚イベントで一番最初に結婚式を挙げる権利を差し上げます。一番最初の結婚式を挙げる方には、特典としてゲームマスター自らが式を進行し、祝福を授けてくださるという事ですので、とてもお得ですよ!!」

「げ、ゲームマスターが、式を進めてくれるの?」

「はい! これは全ゲームプレイヤーでも、各始まりの街で一組ずつという事ですので、貴方はとても貴重な体験ができることになります! その他、挙式の為の費用も今回は無料という事になります!」

「す、すげぇ……なんか、すごいことになってきたなあ」


 何から何まで想定外というか、思いもしなかったことがいくつも舞い込んできて、浮かれてしまいそうになる。

だけど、ここまで聞いて「はっ」と我に返る。

権利は貰えた。だけど、絶対にそれが通るとは限らない。

プロポーズは既にしてるが、返事を聞くのがまだだったのだ。

今度こそ色よい返事をもらえるんじゃないかと、特に根拠もなく思っていたけど、まだ結婚式に関しては何も言ってないのだ。


 そもそも、延期になると言われたから「まだ少し猶予があるんだろうな」と思って油断していた所にこれである。


「あの、俺、予約は欲しかったけど、まだ相手からオーケー貰えてなくて……これから返事を聞く予定なんですけど」

「ほうほう、つまり、貰えるつもりでイベントに挑んだ、という事ですね?」

「そういう事で。だから、日程とかはまだ……」

「大丈夫ですよ! 結婚式そのものはまだ実装されていませんので……今回は『こういう風に変わりますよ』という意味での告知ですので、実際の実装は来週からになります」

「あ、そうなんだ」


 今すぐに結婚式を、なんて言われたらどうしようかと思ったけど、まだ時間的な猶予はあるらしかった。

ちょっとだけホッとする反面、猶予がはっきりと決まってしまったのが不安要素でもある。

それまでの間に、ミズーリさんにオーケーを貰わないといけないのだ。


「それでは、オーケーをいただいた場合の為に、実際の手続きをお伝えしますね」

「あ、はいっ」


 特に文句もないらしく、眼鏡をくい、と直しながら説明を始めようとする公式さん。

どうやらこのくらいの事は想定の範囲内らしい。


「相手の方の同意を得られましたら、お二人でもう一度、こちらへお越しください。そこで最終的な確認をさせていただきます。その上で了承いただけるようなら、めでたくお二人の結婚式が執り行われることになります。式の実装は来週ですので、その時までに必ず一度、こちらに来るようにしてください」

「分かりました」

「会場は通常、聖堂教会ですが、今回の結婚イベントに限り、リーシアの王城で行われることになります。先程も言いましたように、挙式にかかる費用は無料になりますが、別途食事会などを開きたい場合は、その会場に合わせた費用が別途必要になりますので、そちらは自前でお願いします」

「二次会とかは自前で、か。まあ当たり前と言えば当たり前かな」

「そう受け取ってもらえれば幸いです。会場が王城ですので、沢山の方のご来場にも対応できます。強制ではありませんが、ご友人やギルメンなど、多く誘って盛り上げていただければ、このシステムを利用しようという方も増えると思います」

「俺達の結婚式が、運営サイドにとってはプロモーションみたいなものな訳か」

「そうなりますね」


 その分、ギャラリーも増えるということだろうか。

ミッシーさん達の結婚式の時もやはり、多くの部外者が教会の外に集まっていたから、実装直後の結婚式なら、まず間違いなく沢山の人が見に来る事だろう。

ひっそりと、静かな結婚式を挙げたい、という人には辛いかも知れないから、その辺りの確認も込みで説明しているのかもしれない。


(俺は問題ないけど、ミズーリさんはどうなんだろう)


 勝手に話を進めてしまっているけど、ミズーリさんがそういうのが無理なら、例えプロポーズがオーケーだったとしても、今回の結婚式はキャンセルになってしまうのではないだろうか。

その辺りも聞こうと思ったんだけど、聞く前にまた公式さんが口を開いた。


「それと一応、何らかの事情でキャンセルの場合は、三日前までにお伝えて頂ければ無料のままキャンセルが可能です。ですが、今回のシステム実装と同時に、予約者が土壇場でのキャンセルを行う事を防ぐため、キャンセル料を徴収させていただくことになります」

「具体的にはどれくらいなの?」

「式場準備や会場の使用料などもろもろの費用プラス、関係者への迷惑料という事で、二日前でしたら大体500kくらいと見ていただければ。前日でしたらより慌ただしくなるため700kいただきます。当日その場で……という事はほぼないとは思うのですが、もし発生した場合、取り返しがつかないので1Mいただきます」

「普通に払えない額なんですが」

「ご安心ください。同時期に実装予定の『借金システム』により、データログ上に借金額として設定され、貴方が何らかの収入を得る度に5割程度引かれる形で支払っていただきます」


 なんて意味不明な実装をしてくれるんだ運営サイドは。

天引きシステムとか他のゲームじゃ見た事もない。

データログに乗る借金とかいろいろと怖いんだけど、不具合とか起きないんだろうか。

バグって借金した覚えないのに借金扱いになってたり、ちゃんと返したのに延々収入が削られ続けるとかなったら恐怖でしかないんだけど。


「まあ、まだ一週間ありますし、急かす訳ではありませんが、あまり時間は掛けられないものと思っていただければ……」

「タイムリミット、ますます縮まった訳ですね」

「ははは、ご武運をお祈りいたします」


 他人事だからか、とても爽やかな笑顔で祈るの姿勢を見せる公式さん。

まあ、プレイヤーの結婚式なんて、ゲームサイドから見ればただの個人イベントみたいなものだろうし。

今回はプロモーションに使えるからバックアップしてくれるだけで、そうでなければ割とどうでもいいのかもしれない。


 だけど、より明確にタイムリミットがはっきりしたので、これ以上迷う事はなさそうだった。

もう、後には引けない。

協力してくれた人達の為にも、そして俺自身の為にも、ミズーリさんに今の気持ちを伝えなくちゃいけない。


-Tips-

エレクトリックトードス(モンスター)

上位の植物種族モンスターで、『まるキノコ』の亜種。

黄色いカサの巨大キノコで、カサの部分から細やかな胞子をばら撒いて攻撃する。

この胞子は強力な電撃ダメージを伴うもので、不用意に触ると感電死させられたり麻痺する恐れもあるので注意が必要である。


このような危険極まりないモンスターではあるが、ノンアクティブの上に上位職プレイヤーならば攻撃が当たりさえすれば一撃で倒せる程度に脆い為、実際にはあまり危険視されていない。

このモンスターによる死亡例はない訳ではないが、その多くは調子に乗って胞子にダイブしたり、よく知らずにカサの部分を撫でまわして胞子と触れてしまったりといったパターンがほとんどである。


種族:植物 属性:雷

備考:雷耐性100%(無効化)、地耐性40%、水耐性20%、炎耐性-50%


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