表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
13章.フリーライフゲーム(主人公視点:一浪)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

487/663

#18-1.混沌の嵐、回復


「――起きろ一浪!!」


《パァン》


 強烈な衝撃が頬に走り、視界が不意に切り替わる。

さっきまで、ずっと上司としていた会話を見ていたはずなのに。

今目の前に立っていたのは、ドクさんだった。


「……あれ? ドクさん、俺」

「戦闘中だぞ! しっかりしろ!!」

「戦闘中って……ああ!?」


 そう、戦闘中のはずだった。

突然意識が切り替わったというか、変な光景が広がった所為で、何が何だか分からなくなっていたのだ。

だけど、見てみればプリズムノーツは未だ健在。

紫のジョウロみたいだったツールの姿が白い(さかずき)のような形に変わっている辺り、いくらかの時間が経過したのかもしれない。

確か、杯は聖属性だったはず。


『うぅっ、ヒーリング! セントバレスティナ!!』


 そのプリズムノーツも、涙目になりながらボロボロになった身体を癒やすべく奇跡を使用し、更にバリアも展開してゆく。

……放置すると不味いんじゃないだろうか。


「うぐっ、くそっ、くそぉっ! ドロシー!! なんで俺をもっと見てくれねぇんだぁぁぁぁ!!」

「お、落ち着いてマルコス! 大丈夫だからっ、私、ギルメンの事はちゃんと見てるからっ」

「そうじゃないんだよくそぉぉぉぉぁぁぁぁっ!!!」

「うわああっ、マルコスさんいい加減にしてください~~~!!」


 見れば、マルコスさんが斧をぶん回しながら絶叫していたり。


「あはははっ、見て、見てみて? 私こんな魔法を使えるようになったんですよエリーシャ叔母様! トルテ様も、お母様も見てください!」

「ひ、姫様……」

「幻覚を、見ておられるのか……?」


 エリーが、とても無邪気に笑いながら、涙をぽろぽろと流して意味不明な事を言い続けたり。

とにかく目に見えておかしくなっていた。

それを説得しようとしたり、守ろうとした周りの人達も、困惑の色を隠せない。


「そうか、パニックストーム……」


 そこまできて、ようやく自分の身に起きた事を思い出した。

精神破壊魔法『パニックストーム』。

人間の理性の要である精神に直にダメージを与え、発狂させたりトラウマによって戦意喪失させたりする魔法だ。

今は姿を変えているけど、プリズムノーツの紫のジョウロから発せられたパニックストームで、俺達はおかしくなってしまっていたんだろう。


「お前がすぐに戻ってくれてよかったぜ。最悪、気絶させないといかんからな」

「……耐えられたのは最上位職組と、聖職者の人だけか」


 俺を叩き起こしてくれたドクさん、マルコスさんの相手をしている黒猫さんや茜、エリーを心配そうに見つめながら守ろうとするロイヤルガード隊、それと……


『ただ休ませておくわけにはいかんな! ソードアゾット!! ブラッディクロウ!!』

『ひぃっ!? やめてやめてやめてぇっ!!』

「大きな隙だね。まるで突いてくれと言わんばかりだ」

『ひぎゃぁぁぁぁっ!!! ヒーリングヒーリングヒーリングぅっ!!』


 プリズムノーツに果敢に攻撃を仕掛けるハイアットとマスター。

これが無事だった面子らしい。

後は離れた場所にいるミッシー夫妻も無事なはず。

パニックストームはそんなに射程の長い魔法ではないので、50メートルも離れれば安全圏と言える。

……と、そこまで考えてちょっとした違和感を覚えた。


「ていうか、プリズムノーツってパニックストームなんて使ったっけ?」

「使わんはずなんだがな……使ってくると解ってたなら耐性装備位つけてたぞ」

「だよなあ」


 ドクさんと二人、プリズムノーツの不審な挙動に首をかしげていた。

戦況的にはまだ全然優位。

奇跡を頻繁に使うようになったようだけど、超火力のハイアットと超速攻撃のマスターとにガリガリ削られている。

そう掛からず、倒せるはずだった。

だからこそ安心して見てられるんだけど、そうじゃなかったらこの隙に大打撃を被って、ボス狩りどころじゃなくなっていた可能性すらある。

この辺り、奇跡が厄介ではあるけど地属性や風属性のように即死攻撃を連発してこない聖属性に当たったのはラッキーだったと言える。

相手もまた、回復させたり防御に専念しないと立て直せないと思うくらいのダメージだったのだろう。


「とりあえず、戦えるか?」

「……ああ、大丈夫だよ」


 無防備な状態で辛い過去を穿り返された感はあるが、戦えないほどのダメージではない。

パニックストームの威力は使用者の純粋な魔力と受ける側の精神耐性に直結して変化するらしいが、あまり心が強くなさそうな俺でもすぐに復帰できる程度の威力に収まっている辺り、プリズムノーツの魔力はかなり激減していると言える。


「ただ、エリーとマルコスは戦えそうにないな」

「腹に抱えてるものがでかいとそれだけダメージがでかくなるからな……まあ、そっちはいいとしよう」


 マルコスさんもエリーも、ギルメンが相手をしているので全体への被害を出すような状態にはなっていないのが幸いだ。

酷いと何かに突き動かされたかのようにPTメンバーを殺そうとしたり、自分で喉や心臓に刃物をぶっ刺して自殺してしまうケースもあるというから、精神へのダイレクトアタックは洒落にならない。


「とにかく、また同じことをされても困るから、今のうちに叩くぞ」

「オーケー」


 今回ここに来た目的は、結婚のために、ボスモンスターを倒す事。

俺がちゃんと戦えるのが救いだ。

俺がプリズムノーツを倒しさえすれば、この戦いは終わるのだから。





『――う、うぅっ、ううううー!! もう二度とこないんだから馬鹿ぁぁぁっ!!』


 すごく可愛い負け犬の遠吠えを聞きながら、俺達はキラキラと舞う虹色の残滓(ざんし)を見つめていた。

勝利。とどめもきっちり俺が刺した。

ドロップは通常ドロップばかりでレアは一つもないけど、目的が目的なので、充実感や達成感は大きい。


「いやあ、プリズムノーツは強敵だったね」

「ふははははっ! このメンバーがいて負ける事などないとは思ったが、思いのほか手間取らされた感はあるな!!」


 なんとも白々しい『苦しい戦いだった感』を出そうとするマスターと、雨に打たれながらハイテンションのまま「ふはははは」と高笑いするハイアット。

まあ、勝利は勝利である。


「なんとか終わったみたいですね。良かったです」


 やれやれ、とその場で休み始める人も居る中、サクヤが俺の前に出てきて「お疲れさまでした」とお辞儀する。

相変わらず礼儀正しいというか、でもその仕草はちょっと小動物的にも見えて可愛い。

性的な目で見る系ではなく、プリエラが見たら喜ぶ系の可愛さなのがとても無害でいい感じだ。


「サクヤ。前に出て来たって事は、エリーは……」

「……ええ、まあ、その……『今は誰とも話したくない』と」

「そっか。サクヤもだけど、エリーにもありがとうって伝えておいてくれるかい?」

「解りましたっ」


 今は無理だろうけど、後でそれが伝わればいいな、なんて思いながら、サクヤを見やる。

テレテレと頬をちょっと赤らめて笑顔になっていた。

この表情の豊かさがこの子の魅力の一つなんだと思う。

PTに一人にいると、それだけで場が明るくなるというか。楽しくなるのだ。

基本的に狩りに同行する事が無いプリエラと違って、狩場でもそういう役目を果たせるのは大きい気がする。


「皆も、おかげでボスを討伐できたよ! ありがとう!!」


 最初こそ、「こんな雨の中でボス狩りなんて」と思ったが、実際にはとても有意義な時間だったと思える。

何より……そう、何よりも、俺の為に集まってくれる人が、こんなにいたというのが嬉しかった。


「一浪。早速イベント会場に行ってこいよ」

「イベント会場って……結婚イベントの?」

「ああ。場所はカルナスな。港で今だけ公式さんが出現してるんだ。早い者勝ちだ。急げよ」

「ありがとうドクさん。カルナスか……」

「ポータル、出しますよ」


 ドクさんからイベント会場の場所を聞くや、黒猫さんがポータルを出してくれた。

情報とそこに行くまでの足があるのは、すごく助かる。

港なら何度か利用してるから、カルナスに着きさえすれば問題ないはず。


「ありがとう皆! このお礼は、いつか必ずするからっ」


 他の人達へのお礼もそこそこに、迷わず出されたポータルに飛び込んだ。


-Tips-

パニックストーム(スキル)

魔法職系上位職到達者が扱う事の出来る闇属性破壊魔法の一つ。

肉体ではなく精神に直接ダメージを与える破壊魔法で、これを受けた者は高確率で精神にダメージを受け、それによる精神錯乱や精神崩壊に陥る。


あくまで破壊魔法の為、幻惑魔法と異なり闇属性に対しての耐性をつけていたり、魔法耐性装備を付ける事によって威力の軽減や無効化が可能である。

また、精神耐性そのものが高いことによってダメージを極小に抑える事も可能で、特にそれらが高い聖職者にはレジストされる事が多い。


効果としては幻覚を見せ錯乱状態に追いやる幻惑魔法『クリムゾンナイト』と似ているようにも見えるが、パニックストームの場合魔法そのものは不可視の為、無詠唱で発動される事で全く予見できず、精神に直接ダメージを与える事から、しばしば不可逆的なトラウマを植え付けたり、精神が崩壊したまま戻らなくなるケースが多くみられる。

この為、タクティクスを含め対人戦で使う事を禁止されている魔法でもあり、現状、モンスター以外がこれを使ってくることはないとされている。

モンスターが使用する場合は、モンスターごとに設定された独特のエフェクトが発生する事が多く、これにより魔法の発動を予見したり察知する事が可能な為、比較的対処しやすくなっている。


魔法の範囲としてはそれほど効果範囲は広くないが一応範囲魔法扱いで、通常の破壊魔法と異なり建物などの影響は一切受ける事が無い。

この為壁越しなどでおおまかな目標の位置を把握していれば、直接対峙せずともその効果を受けさせることが可能となっている。

特に対魔族用としては強力な効果を発揮するが、奇跡などで反射された場合、その分だけ自分が取り返しのつかない事になるリスクも秘めている為、失敗時のリスクが高いという意味で高難易度魔法に分類されている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ