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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
13章.フリーライフゲーム(主人公視点:一浪)

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#15-2.リアルサイド30―締め上げられる胃―


「炭酸しかなかったけどいいよな?」

「炭酸飲料?」

「そう。オレンジとジンジャー、どっちがいい?」

「……オレンジで」

「どうぞ」


 飲み物といっても、そんなに洒落たものはない。

冷蔵庫の中に入っていたのは缶の炭酸飲料と瓶ビールくらいで、炭酸にしたってサオリが飲む用のオレンジジュースと、俺用のジンジャーエールの二種類だけだ。

この子が何が好きなのかなんて知らないから、もし気に入らないなら水でも飲んでくれとしか言えない。

まあ、オレンジジュースを選んでくれたからよしとしよう。


「……?」


 だが、手渡した缶をマジマジと見つめ、一向に開ける様子が無い。


「どうかした?」

「これは、どうすれば?」

「うん? ああ、開け方?」

「ええ」


 そういえば、と、彼女の疑問に思い当る。

当たり前のように慣れてはいたけど、缶飲料なんて下層世界くらいでしか存在していない代物だ。

中層上層なら『マジックポット』という容器で飲みたい飲み物が自在に取り出せるし、最上層なら無から飲み物を自在に取り出せる技術が存在しているからやはり缶なんて非合理的な物体は存在していない。

保存という概念が必要なのは、この下層だけなのだから。


 この子の住んでいた世界には、そんなものは存在していなかったのだろう。

だから知らないのだ。開け方から教えないといけない。


「こうやっと指をひっかけて、テコの原理で開けるんだ」


《プシュ》


 小気味いい音を立て、ジンジャーエールが小さな飛沫(しぶき)を立てながら開封される。

同時に部屋にわずかに広がる、生姜の風味。


「……こう?」


 ミズホも真似る。

俺がやったように、細い指がタブに引っ掛かり、そのまま引こうとして……引けずにいた。


「ん」


 引こうとはしている。

だが、開かない。


「ん」


 一応力を籠めようとはしているらしい。

だが、声には全く力が籠っていないし、何より開く様子が見られない。


「んんん……」


 気合を込めたつもりなのかもしれないが、全く開かない。

――非力ってレベルじゃねぇぞ?


「力が入らないわ」

「缶ジュース開けられない子を見たの初めてだよ」

「力が入らないの」

「そうみたいだね」


 若干言い訳がましいがそのままでは埒が明かないので、ミズホから缶を受け取る。


《プシュッ》


 すぐに小気味いい音が鳴り、開封された。

タブから若干の温もりの様なものを感じたのは、まあ、気にしないでおこう。


 それにしても、力が入らないとはいえこれが開けられないとは。

サオリでも余裕で開けられるくらいの軽さなんだが。

少なくとも缶ジュース持てないほど力が無い訳でもないようだし、そうなるとこれは、要領の問題だろうか?


「とりあえず、どうぞ」

「ありがとう」


 開けてくれたことのお礼なのか、ジュースをくれた事へのお礼なのか。

今一解らないもののきちんとお礼を言えるのはいいことだと思う。

だが、受け取ってからしばし俺の顔を見ていたので「まさか飲み方も知らないのか?」と別の不安に駆られそうになってしまった。


「流石に飲み方は解るわよ?」

「解ってなかったらどうしようかと思ったよ」


 俺の考えを先読むするかのような一言に、若干の安堵と「だったらなんで迷ってたんだ」という疑問が同居していた。

話せば話すほど解らなくなる。

それがミズホクオリティなのかもしれない。


「……けほっ」


 そして一口飲むだけでむせていた。

何なんだこの希少生物。

まさか炭酸飲料が初めてとかそういう口なのか。


「……炭酸が強いわ」

「喉が弱いのか?」

「炭酸が強過ぎるだけよ」

「そ、そうか」


 お子様でも余裕で飲める微炭酸ジュースのはずなんだが。

サオリですら一気に飲んで「ぷはーっ」とビールを飲んだ時の俺の真似をするくらいだというのに。

……今更だが、判断基準にサオリを置くのは間違いな気がしてきた。

一体どうしたものか。


「飲めなさそうなら水になるけど」

「水よりは……ううん、でも……いえ、やはりこれでいいわ」

「迷うくらいには微妙なのか炭酸飲料」

「あまり飲まないから……でも、慣れれば大丈夫だと思うわ」


 慣れが必要なほどハードルが高い飲み物ではないと思うんだが。

それとも他の層ではそこまで飲むものに違いがあったんだろうか?

少なくとも最上層では普通に飲まれていたと思うんだが。


「大丈夫、飲めるわ」


 二口、三口と少しずつ飲み下してゆく。

その度に「う」と眉をしかめるが、むせる事はなくなったらしい。

今更ながら、ここまで無表情だったのが炭酸飲料で表情が変わるというのはちょっと面白いポイントかも知れない。

他の飲み物でも試してみたくなる欲求に駆られそうになるが、ひとまず置いておいて。



-Tips-

オレンジジュース(食品)

最上層から下層まで、どこの層にでも存在するポピュラーな飲み物の一つ。

オレンジ果汁100%の高級品から、オレンジ成分100%の廉価品、水で薄めただけの安物など、価格帯によって濃さや作り方が異なるものの、どれも等しくオレンジジュースと扱われている。


その他、無炭酸、微炭酸、強炭酸の三種類が存在し、子供向けのジュースは無炭酸か微炭酸が勧められる傾向が強い。

果物系のジュースとしては比較的飲みやすい反面酸味が幾分含まれており、気分が悪い時に飲むと余計に悪化する事もあるなど、注意が必要である。


尚、流動性気管腫瘍などの病気にかかっている者がこれを飲むと、症状が劇的に悪化するケースもある為、注意が必要である。


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