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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
13章.フリーライフゲーム(主人公視点:一浪)

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#9-2.堕ち果てた先に


余裕で頭目を蹴散らして、たまり場に帰るだけのゲーム。

だからみんな、軽い気持ちで探索に当たり――


「うそっ、なんであんたたちがこんなところに!?」

「ひ、ひぃっ、アイリン、もう駄目だ! 俺達もう――」


――そうして見つけたのは、口元を布で隠した女アサシンと、もう一人……ボロボロの服を着たバンディッドっぽい男の二人だった。

マップ中央の部屋の隅っこでインビジブル状態で隠れていたのを、偶然転んだエミリオのハタキがクリティカルヒットして発見できた。

流石に想定外すぎたのか、こいつらもだけど、俺達も一瞬固まってしまった。


「……うん? あれ? お前ら……」

「ひぃっ、こ、こないでよ! さ、さささ、触ったら殺すわよ! この猛毒ナイフで!!」

「それ、毒効果打ち消すセイントナイフじゃないか……?」

「えっ、そ、そんなっ!?」


 こいつらに何か思い当りがあるのか、ドクさんは首を傾げたままだったけど。

相方から『アイリン』と呼ばれた女アサシンは、手に持ったナイフで俺達を脅そうとして……そのナイフが何なのかも解らなかったという墓穴を掘っていた。

ナイフをメイン武器に使う職の人なら、多少なりとも知ってて当然の武器知識だと思ってたけど……


「あっ! 思い出したぞ! お前ら、エメラルドフォースのプリと剣士だろ!? 確かマイケルとアイリンとかいう――」

「マイクだよ馬鹿野郎! てめえ、誰かと思えばこの間のバトプリ野郎じゃねぇか!」

「知り合いなのかドクさん?」

「おう、狩場で俺とプリエラにモンスター擦り付けた挙句罵倒してきて所属ギルドから追放喰らった奴らだよ」

「ああ、あの……例の一件のですね」


 思い出したように頷く運営さんを見て、「そういえばそんなこともあったっけ」と記憶を探る。

確か、以前そんな事があったから気をつけろとか言われた気がする。

どうやらこのアサシンとバンディッド、その当事者の二人らしい。


「こういう人達だったんですね……」

「サクヤ、あんまり見ちゃだめだよ? こういうのは見てると眼が穢れるから」


 普段お人好しを絵にかいたようなサクヤだけど、流石にギルメンを罵倒した奴相手には厳しい視線を向けていた。

というか、エミリオに促されるまま視線を逸らしてる辺り、本当に侮蔑してるんだと思う。

まあ、気持ちもわかるというか、そんな奴らをまともに扱いたくないよね、というのはある。


「うぐぐ……一度ならず、二度までもお前らに居場所を奪われるなんて……!」

「あたしらの楽園が……う、うぅっ、マイクっ、あたしの事を愛してるなら、こんな奴ら蹴散らしちゃってよ!!」

「えっ!?」


 突然のアイリンの無茶ぶりに、一緒になって悔しがってたはずのマイクまで目を白黒させている。

どうやったって無理だろうに。


「じょ、冗談じゃねぇよ! こんな奴ら相手に勝てる訳ないだろ? 多勢に無勢って奴だ!」

「何言ってんのよ! それでも男なの!? 大体あたしがこんなところにいるのだって、あんたがヘマをしたからで――」

「男かどうかなんて関係ねーだろ! それにお前はお頭に媚び売って股開いて取り立ててもらっただけじゃねーか! 俺の事鼻で笑いながら足舐めさせてたの、忘れてねーかんな!!」

「なによ! 頭が外で死んだんだからあたしが次のお頭に決まってるでしょ? お頭の言う事は聞くのが筋ってものでしょ! ほーらー、早く一人で百人くらい殺してきなさいよお!!」

「できるかっ!」

「このヘタレ! 甲斐性無し! 短小!」

「短小は関係ねぇだろうがてめぇぇぇぇぇっ!!!」


 酷く低レベルな責任のなすりつけ合いが始まっていた。

正直無視して斬り捨てたいんだけど、なんで俺達、こんな漫才見せられてるんだろう。


「……? 短小ってどういう意味?」

「さあ……」


 純粋なエミリオとサクヤは首を傾げたまま。


「嫌がってるって事は、酷い意味なんでしょうか? ドクさん解りますかぁ?」

「何故俺に聞く」

「いや、なんとなく」

「……なんとなくって」


 運営さんが天然なのかわざとなのかを知りたい。

この人はいつも裏で色々企んでそうだけど、時々すごく間抜けな姿曝したりするからどっちか解らないんだよなあ。

本当に知らないとかならちょっと意外かもしれない。

いや、案外女の人だと解らないものなのだろうか。


「なんていうか、ロクでもねぇ奴らだけど、女にあんだけボロカスに言われてるの見ると、ちょっと同情しちまうなあ」

「ああ、うん、ドクさんみたいに直接被害に遭ってたらそうでもないのかもしれないけど、俺にもそんな風に見えちゃうなあ」


 カイゼルさんと二人して「女って」と途方に暮れそうになる。

ミズーリさんみたいにすごく気立ての良い人もいれば、このアイリンみたいにどうしようもなくダメな女もいるというのだから、世の中は広すぎる。

……ダメな方もいくらか見てきたけどさ。

その分だけ、ミズーリさんがどれだけいい女なのかが解るっていうか。


「――ま、お前が頭目っていうなら、お前を倒せばOKってことだな?」


 しばらく馬鹿らしい漫才の所為で手を出す気にもなれなかったけど、ドクさんが武器を構えた事で、他のメンバーも同じように武器を構える。

どう見ても多勢に無勢。だけど、相手はならず者だから容赦してやる義理はない。

表情を変えた俺達を見て、マイクたちは更に蒼白になる。


「ま、待ってくれよ! 俺っ、別にならず者になりたくてなった訳じゃ――」

「み、見逃す気はない? 今見逃してくれたら、ほら、イイコト沢山してあげるし!!」


 どうしようもなく糞みたいな命乞いをしようとする二人に同情する奴は、誰一人いない。

サクヤやエミリオですら、嫌なモノを見るような眼だ。

まあ、悪い事散々やって好き放題生きてきて今更「助けて」もないだろう。

これに関しては、入り口で蹴散らした奴らと同じだ。

助ける義理もなければ、助けたいと思える要素もない。


「誰も見逃す気はないみたいだぜ? まあ、そんな訳だから――」

「ちょっ、まっ、待ってくれ! そ、それじゃ一つだけ! 一つだけ話を聞いてくれ!!」

「あん?」


 もういいだろ、と攻撃に入ろうとしたドクさんに、マイクが手を前に出しながら大きな声を上げる。

どこまでも観念しない奴。

どうしようもない奴だと思いながら、呆れながらにそれを見ていた俺達。


「あ、あのさあ――」

「なんだよ、言いたい事があるならさっさと言え」


 馬鹿らしい、と思いながらも耳を傾けるドクさん。

この辺はドクさんらしいというか、『最後に』と言われたら無視できないのだろう。

だけど、ふら、とその場で揺れたマイクは、その一瞬の隙を見て大きく――そう、大きくグラついた。

低くなる姿勢。誰かが「あっ」と声を上げた直後、マイクは一気にドクさんへと距離をつめ、手に持った得物(・・)でドクさんを狙う。


「――ふんっ!!」

「うぐぇっ!?」


 ばきり、と、小気味いい音が鳴り響いた。

不意打ちにも動じず、冷静に一歩下がっての受払い。

不死鳥の杖がマイクの腕を圧し折りながら、ナイフの一撃を弾いていたのだ。


「ぎっ!? あああああああっ!! 腕がっ、いだっ、いだいよぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「二度目はないぜ? マイク」

「ひっ、ひぃっ!?」


 絶叫しながらその場で転がり回るマイクを見て、呆れ果てるドクさん。

そのまま杖を振りかぶり――怯えたように声をあげるマイクへ追撃する。


「……っ」

「ま、マイク……」


 目を見開きながら声もあげられなくなったマイクは、そのまま消えていった。

アイリンも少しは思う所があるのか、その名を呟かずにはいられなかったようだけど。

次は自分なのだと察したのか、胸元を開いてさらけ出した。

たわわに揺れる胸は、確かに普段ならドキリとさせられたのかもしれないけど。

……こんな女の胸なんて見ても、こんなシーンじゃぴくりともこないんだよなあ。


「あっ、あのっ、私別に悪い事なんて何もしてなくてっ! お願いっ、ねえ助けて? 抵抗もしない! 何ならこの場の全員()を咥えてあげたって! それにほらっ、私っ、結構上手いってみんなに言われてたしっ!」

「殺される前にハラスで消えてしまいそうですねえ、貴方」

「ひぃっ!」


 たった一人で自分を殺そうとする人間に囲まれると、こんなにまで人間はみっともなくなるというのか。

ある意味人間の真の姿を見せられたというか、嫌なモノを見てしまったというか。

命乞いの内容まで色に関わる事で、サクヤやエミリオも心底嫌そうな顔をしていた。

運営さんに至っては嫌悪感丸出しだ。いつもニヨニヨ不穏に笑ってる人なのに、全く笑ってないのがヤバい。


「最低……」

「死ぬなら潔く死ねばいいのに。それが好き放題生きた奴らの末路なんだからさ」


 女の子二人からの刺すような言葉を受け、アイリンもぎり、と歯を噛む。


「う、うるさいわよ! 私は生きるのっ! 生きたいの! その為なら何だってする! 折角このゲームで綺麗な顔を手に入れたのに、こんなところで死にたくない!!」


 必死になって自分の願望を語る。

この場で助かる為なら、本当に何だってするつもりなのかもしれない。

だけど、今こいつを助けてもこいつが更生するイメージが全然浮かばない。

ララミラのようにまともになるならともかく、そうならない奴を助けても何のメリットもないだろう。


「もういいぜ、黙ってろよ、みっともねえ。すぐに終わるからよ」

「あっ、あっ――そ、そう、殺すのね。あたしを殺すの。殺しちゃうんだ……この、人でなしどもがあっ!」

「貴方が言っていいセリフじゃないですねえ」


 もう終わりだ。馬鹿らしい。付き合ってられない。

カイゼルさんが絶叫するアイリンに武器を振りかぶる。

――なんか、胸元に手突っ込んでなかったかアイリン?


「死にたくない死にたくない死にたくないっ――!!」

「逃がすかよ!」

「終わりだぜぇ!!」

「あぐっ!?」


 ちょっとした疑問を感じた直後。


 脱兎のように逃げ出そうとしたアイリンは、ドクさん、カイゼルさん双方の攻撃を喰らってその場に崩れ落ちた。

逃げるには遅すぎた。

いくらアサシンが素早い動きができる職だって言っても、至近距離から逃げ出せるほどドクさん達の反射神経は鈍くない。

そのままぴくり、ぴくりと身体を痙攣させていたアイリンは、まだ消えないのか、震えさせながら腕を動かす。

掌には、小さな銀色の指輪。


「あ、痛い、よぉ……あたしに、んな――どい事、するやつらなんて……えちゃえ」


 見覚えのある光景だった。

震える指先に指輪をはめようとする女アサシン。

ドクさんはそれを見て、近くに立ってた俺に「手首ごと斬り落とせ」と言ってきて。

――言われるより早く、足が動いていた。


「えっ!?」


 指先に入るより早く、ぽーん、と跳んでいく指輪。

唖然としたアイリンを余所に、指輪は壁に当り、跳ね返ってコロコロと転がっていった。


「ったく、往生際の悪い女だぜぇ……兄ちゃんナイスだ!」

「よくやった一浪。アイリン、もう終わりだよ」

「あっ、ああっ……そ、んな……」


 冷や汗ものだった。

夢は夢だと思ってたのに、現実は夢と違ってたはずなのに、夢と同じ光景が目の前に広がったのだ。

なんとか身体が動いた。なんとか対処できた。

ヤタマノオロチは、召喚されていない。

夢は、夢のまま終わった。


 絶望してくたっとなったアイリンに、ドクさんはトドメとばかりに杖を振り上げ……躊躇なく叩き付ける。

最後の最後、アイリンがあげた断末魔は『ぐうぇっ』という、綺麗な顔には不似合いな、だけどその腐った性根にはよく似合った、潰れたカエルのようなものだった。



「いやあ、まさか最後の最後で災厄の指輪を使ってくるとは思いもしなかったぜ! 兄ちゃんやるなぁ!」

「一浪さんお手柄ですね!」

「あの咄嗟にケリを入れたところはちょっとカッコよかったよ!」


 消えていくアイリンを誰一人顧みることなく、皆は俺を囲んでくる。

口々に賞賛。それだけ皆、あの一瞬でヒヤリとしたんだと思う。

あの夢が無かったら、動けなかったかもしれない。

そう思うと、あんな悪夢でも、無いよりはよかったと思える。


「……」

「どうかしたのか運営さん?」

「ドクさん……いえ……ちょっと」


 指輪を拾った運営さんは、何か思うところあるのか、じ、と指輪を眺めていた。

ドクさんが話しかけるも、すぐにまたいつもの線目でにっこりと笑い「なんでもありませんよ」と、指輪を仕舞い込む。

レアな品だから珍しがった、というよりは、指輪そのものに何かがありそうな感じ。

だけど、これをその場で語っても仕方ないという事なのだろう。

なんにしろ、目的は達成したのだ。

俺達の討伐クエストは、これで終わった。



-Tips-

セイントナイフ(武器)

緑色の刃を持った、強力な聖属性を持つアーティファクト。

レアモンスター『イービルセイント』のレアドロップだが、稀に公式イベントなどで賞品になっていることもある。


闇属性や悪魔種族に対しての特効を持つと同時に、各種毒や低位の呪いを解除する効果もあり、刃に触れただけで容易にこれらのバッドステータスを打ち消すことができる為、これらの状態異常が予見されるマップにおいては解毒剤代わりに重宝される。


あくまで闇属性・悪魔種族特効を持つことと副次的なバッドステータス解除効果が優秀なだけで、単純な武器としての攻撃力は高位の『バリツダガー』や『パピヨンダイ』などより数段落ちる。

これらの要素から使いどころは意外と限定されてしまい、万能向きよりは特化型という扱いを受けている。


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