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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
13章.フリーライフゲーム(主人公視点:一浪)

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#9-1.ご法度


 絶望が、目の前に広がっていた。

ヤタマノオロチによって呼び出された、大量の魔物の群れ。

これが城跡の周囲を包囲し、俺達に襲い掛かってきたのだ。

マップの聖域指定というのは、どうやら魔法とか奇跡とか、そういう類のものと同じだったらしく。

俺達を守ってくれていたはずの聖域は、ヤタマノオロチの放った『ディスペルベルン』によって儚く効果を失った。

後に残るのは、殺戮の嵐。


 まず真っ先に危機に陥ったのは、聖域で道を封じていた人達だ。

俺がマルコスさんを抱えたまま戻った直後、大量の取り巻きがそこに召喚され、聖域が消え去った事に気づく。

混乱のまま応戦しようとした人もいたけど、そこはレッドラインのモンスター達だ。

俺達なんかでは為す術もなく蹴散らされ、多くの人が、逃げる間もなく死んでいった。

人形達も俺達を助けるように戦ってくれたけど、相手にもならないレベルで一蹴されていたのが悲しかった。


 マルコスさんは、助けられなかった。

俺自身が生き延びるのに必死で、とてもじゃないけど治療するどころじゃなくて。

戦って戦って、何とか安全な場所に逃げ込んだと思った時に、ようやくマルコスさんの事を思い出して、見てみたらもう、消える寸前だった。

意識もなかったのが救いだろうか。もし意識があったら、俺の事を「薄情者」とののしったかもしれない。

いっそ、その方がましなくらい後悔したんだけど。

でも、それどころじゃないくらいにヤバい状況が続く。


 聖域がもう駄目になったので、俺達はもう、マップの中央付近に逃げ込むしかなかった。

そこでモンスターの群れをやりすごし、転送アイテムで帰還する。

それ以外にもう、生き延びる方法はないんじゃないかと思ったのだ。

だけど、そこでまた、酷い光景を目にする。


 ヤタマノオロチに頭を掴まれたまま、ピクリとも動かなくなったドクさんの姿。

見てしまったのだ、もう事切れる寸前の、生気のなくなったドクさんの表情を。

いつも不敵に笑ってる人の無表情が、こんなにも悲しいモノだったなんて。


 叫ぶ事も出来ず、ただ唖然としたままの俺達に向けて、ヤタマノオロチは「動かなくなったから返しますわ」と、ドクさんを投げつけてきたのだ。

そうして、その投げつけられた一撃でカイゼルさんが死んだ。

折り重なるように壁に叩き付けられて、そのまま終わり。

あれだけ強かった古参の人達がゴミのように片付けられていくのを見て、「ああ、これもう駄目だわ」と諦めの領域に達した。


 抗うのをやめた俺達を、ヤタマノオロチはつまらないモノを見るように見下ろして、一人ずつ屠殺(とさつ)していく。

一人、また一人、理不尽な暴力の中で倒されて……やがて、その目標が俺になった時、俺は……俺は、何もできなくなっていた。

怖かったんじゃない。ただただ、自分が無力だと、そう思い知らされたんだ。

俺なんかにできる事なんて何もない。そう、何もなかったのだと。


 胸を貫かれる重い衝撃。

痛みよりもそのショックの強さで一杯になって……目の前が、赤く白く点滅していく。

終わった。俺のゲームは、もう終わりだ。


(でも、最後に……会いたかったな)


 ミズーリさんの事を思い出しながら、不意に明るくなっていく何かを見て――俺は――



「――おい。おい一浪、いつまで寝てるんだ。そろそろ起きろ!」


《げしっ》


「ぐぇっ!?」


 脇腹に突き刺さる鈍い痛み。

朦朧とする意識をフル稼働させて見てみると、誰かの指先が右わき腹にモロに入っていた。痛い。


「……あれっ? ドクさん?」

「おう、ドクさんだぞ」


 誰かと思えば、死んだはずのドクさんがそこにいた。

サングラスをかけてて、全然服もそのまま、五体満足っぽい。

何事? ていうか、死んだはずの人がなんで?


――ああそうか、俺も死んだのか。だから――


 そんな事を考えた矢先、周りに立っていたメンバー……カイゼルさんや運営さんを見て、涙が込み上げる。

酷い戦いだったけど、皆と一緒にいられるならまだマシかもしれない、なんて。

そんな、変な安心感がそこにあったのだ。


 だけど、そんな俺を見て皆が不思議そうに首をかしげていた。

それから、ちょっと可哀想なものを見るような眼になってる人もいる。

……うん?


「一浪さん、何か嫌な夢でも見たんですか?」

「彼女に振られる夢でも見たんじゃねえの? なんか寝言で『ミズーリさん』とか言ってたし」

「なるほど、それは辛い……」

「縁起でもねえ! そんな事より、ほれ、早く立ちなよ兄ちゃん! ならず者狩り、まだ終わってないんだからよ!」


 それぞれ違う反応。

ドクさんなんかは結構酷いけど、他の人は割合優しいというか……ならず者狩り? 夢? うん?

どうにも何かがおかしいような……というか、色々とおかしかった(・・・・・・)ような気がしてならない。


「なあドクさん、ヤタマノオロチってみた事ある?」

「あん? 何言ってんだ。そんなのレッドラインにしかいねぇだろ。見ようと思ったって見られるもんじゃねーよ」

「……だよなあ」


 ああ、うん。はっきりした。

夢だ。俺、夢見てたんだ。そうとしか説明がつかない。

良かった、酷い目に遭った人なんて一人もいなかったんだ……死んだ仲間なんて、誰もいなかった。


「おいおい、また目元押さえて……ほんと、どうしたんだ一浪?」


 さっきまでと違って、本当に心配そうに肩に手を置いてくれるドクさん。

だけど、これが本当にうれしくて……「ああよかった」と、涙がつい溢れてしまったのだ。

凄く馬鹿らしいけど、でも、本当に夢で良かった。


「ごめんよ。ほんとなんでも――ちょっと嫌な夢を見てさ」

「やっぱそうなのか」

「でも、なんでもないぜ。さ、行こう! さっさとならず者を対峙しないと!」

「おう、そうだな。折角運営さんが私服をばらしてまで(・・・・・・・・・)人形用の布地を作ってくれたんだから、頑張って頭目を蹴らさないとな! その調子だぜ兄ちゃん!」

「……ああ!」

「そうですよそうですよぉ。まさか着ていた服をばらす羽目になるなんて……その場にサクヤさんがいてくれてよかったです!」

「私はエミリオさんの付き添いで来ただけなんですけどね……」

「いやあ、あたしら着いてきてよかったよねえ、ほんと」


 今更な事だけど、サクヤとエミリオがいたおかげで運営さんは生着替えを男連中に見せる羽目にならずに済んだのだ。

ちょっと残念な様な……いや、とにかく人形達も布地を気に入ってくれたし、後は頭目を蹴散らすだけなのだ。

……何か、ちょっと違ってる様な。まあいいか。


「よーし、いくぞ!!」

「お、気合入ってるな。その調子だぞ一浪!」

「ぐはははっ、ここからは競争だぞ! 頭目を探し出してぶっつぶーす!!」


 一斉に駆け出す仲間達。

そう、後は消化試合みたいなものなのだから。


-Tips-

聖域(概念)

マップに存在する、モンスターが絶対に立ち入る事、攻撃する事の出来ない領域の事。

全てのマップに存在する訳ではないが、プレイヤーが休息したり、負傷した際に傷を癒やしたり、狩りの前の準備をしたり、集合場所として利用したりと、様々な使い方がされている。

大体の場合、複数のPTが一度に休息できる程度の広さがあり、マップによっては長期間の狩りの拠点としてテントやキャンプ地が設営される事もある。


基本、この聖域内に対してはモンスターは攻撃行動がとれず、侵入もできないが、聖域からもモンスターに対しての直接攻撃は不可能である。

例外的に魔法に関しては、魔法そのもののダメージを与えることはできないが、魔法が発生する事によって起きたプラズマ現象や地殻変動、空間の凍てつきなどの自然現象はダメージと成り得る為、これを活用して安全圏から魔法を撃ち続ける『聖域狩り』が一部マップで利用されている事もある。


似た様な『聖域指定』の効果を持つハイプリエステス/ハイプリーストのスキル『サンクチュアリ』は奇跡の為、この聖域の存在もコマンド的な要素によって存在しているのでは、という説が上がった事もあるが、運営サイドはこれを否定しており、秘密裏にマップを構成する上での要素の一つでしかない事、聖域を『ディスペルベルン』や地形破壊によって消滅させることはできない事などが確認されているが、これらの情報はまだプレイヤーサイドには伝わっていない。


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