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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
13章.フリーライフゲーム(主人公視点:一浪)

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#7-1.頭目を探せ……ない


 こちら側にいるならず者の掃討が終わった事で、いったん休憩。

その間に運営さんが、他の方面がどうなってるのかの確認を、運営さんがとる事になった。

運営さんは運営さん同士で離れていても会話ができる機能を持っているらしいんだけど、これってプレイヤーでも実装できたらいいのになあ。


「――ええ、そうなんです。ええ、はい。なるほどぉ、では東側も西側も問題なく……はい、はい――」


 傍から見ると何もない空間に向けて喋ってるように見えて、丁度エリーに話しかけてるサクヤみたいな状態になってる。

便利だけど、このままの形で実装されるとちょっと恥ずかしいかも知れない。


「よう兄ちゃん、さっきはよくやってくれたな。おかげでリーダー格を逃がさずに済んだぜ」


 隅っこに座ったもののする事もなく、ジュースを飲みながら運営さんを眺めていると、カイゼルさんがそんな事を言いながら隣に腰かける。

大柄な人だ、隣に腰かけただけでどん、と、振動が走った。


「焦って足音鳴らしてくれましたからね。あの状態でも慎重に動かれてたら、気づけなかったかもしれないですよ」


 少なくとも、最初にインビジブル状態になった時には発見する事が出来なかった。

二度目に見つける事が出来たのは、あくまであいつの足音と濃密すぎる気配のおかげ。

やった事がないからハイディング系のスキルの仕様は正確には解らないけど、本来は姿を消したうえで、自身の気配も少しずつ薄くしていく、そんな感じのスキルなんだと思う。

だから、隠れた直後はあまり気配を隠し切れてないし、焦って早足になったり走ったりすれば、その位置はそれとなくでも解るようになってしまうんだろう。

まあ、そんな弱点があってもならず者が持つには驚異的過ぎるスキルなんだけども。


「謙遜するねえ。ま、それくらい謙虚になれるなら心配はいらねぇな。運営さんが今どうするか確認してるけどよ、頭目がまだ見つかってないんじゃないかって、今ドクさんと話してた所なんだ」

「頭目が……?」

「ああ。運営さんが集めた情報だと、頭目の女がいるはずなんだと。だけどほれ、今話してた運営さんの話を聞く限り、東も西もそれらしい奴らは出てこなかったって」

「北にいなければ、城の中にいるかもしれない、って事ですか?」

「可能性はあるわな。ただ、そうなると……」


 ここまで話して、カイゼルさんがちら、と、聖域の外を見やる。


『うふふ、あはははっ』

『いっちとーりにとーりさんとーりよんつーり♪』

『首狩り首吊り楽しいな~♪』


 相変わらず、人形の群れは聖域の外に山のように集っている。

さっきまでじっとこちらばかり見ていたが、飽きたのか今では人形同士で謎の歌を歌ったり手遊びを始めていた。

これだけ見る限りだと人畜無害そうで可愛いんだけど……


「あの中を突破するのはちょっとなあ」

「ああ、うん。魔法無しガード系無しであの中突き進むのはかなり勇気が要るね」


 ここに集まった人達は、俺を除けばいずれも腕に覚えアリのツワモノばかりだろう。

だけど、そんな人達でもあの人形の群れはできれば避けたい存在らしい。

ならず者を狩るのはなんでもなくとも、人形相手は嫌なのだ。


「マリオネットだけなら突破力さえありゃなんとかなるんだがなあ。テリブラーが居たらもう、魔法の使えないこのマップじゃどうにもならねぇぜ」

「せめてフラッシュメモリでも持ってれば違ったんですけどねえ」

「まさかならず者相手にそんなもん使う事になるとは誰も思わんしなあ」


 魔法職が配置不可能というこのエルヒライゼンのマップ特性が、人形達の高物理耐性と噛み合って辛い。

これがない他の出現マップなら、範囲破壊魔法なり幻惑魔法なりで取り巻きを無力化させてテリブラーさえ倒せれば、後はどうにでもなるかもしれないんだが。

ついでに、聖域のすぐ外に溜まってる、というのもまずい。

聖域外からこっちには攻撃が届かないけど、聖域内からあちらへも攻撃が通らないシステムの所為で、一度聖域外に出て攻撃しないとダメージにならないのだ。

だが、すぐ外がモンハウ。

一歩でも外に出れば袋叩き、しかも一撃必殺の雨である。どうにもならない。


「……ま、北側が頭目を倒してる事を祈るしかねえわな」

「そっすね」


 楽しそうに遊んでいる人形達を眺めながら、カイゼルさんと二人、小さくため息をつく。

ままならないものを感じながら、人形ばかり眺めていても鬱になるので周りを見渡す。

疲れた様子で「やれやれ」と息を抜く人達もいるし、自分が倒した盗賊の話を楽しそうに語ってる人もいる。

そうかと思えば、ドクさんとマルコスさんが何やら向かい合って座り込んでるのも見えた。


「――だからってお前、付けもしない猫耳を懐にいれとくってのはどうかと思うんだが」

「うるっせぇな! いいんだよ別に。マスターがくれたもんなんだから、持ってたっていいじゃねーか!」

「別にダメとは言わねえけどよ。一つ二つならともかくくれる度に懐に入れて肌身離さずってのは――」

「てめぇには関係ねぇだろうがっ! 俺がどんなアイテムを懐に忍ばせてようがどうでもいいだろ!?」

「アイテム制限きついって話してたんじゃないのか?」

「うぐ……」


 何やら意味の解らない会話だった。

マルコスさんの所持アイテムの話だろうか。

よく見れば手元に猫耳が三つくらい並んでる。

まあ、確かに装備する訳でもない装備アイテムを複数持っているのは、ただ邪魔でしかないけども。

それにしても猫耳。さすが黒猫の人だけあって猫耳好きなんだろうか。つけてるのは見た事ないけど。


「あ、あー、皆さん、きいてくださーい」


 何やってるんだあの人達、みたいにちょっと興味が惹かれた中で、運営さんの声が響き渡る。

聖域の中央。両手をワタワタ広げながら立っている。

人形達もこっちに「なになに?」って感じで注目していた。


「他の方面の人達の話も聞きましたが、ならず者たちの頭目がまだ撃破できていない事が確認されました。なので各方面、城跡内部で探索しよう、という事になったのですが――」


 よろしいですか、という確認をしようとしたのかもしれないが。

そんな話を聞いたら黙ってはいられないのか、討伐隊のメンバーからブーイングが上がり始める。


「ちょっとそれは危な過ぎないか?」

「そもそも目の前の人形達すら無傷じゃ抜けられないぜ?」

「俺達、圧勝して無傷で帰るっていう前提で来たんだろ? そんな無茶する必要あるのか?」


 ならず者相手なら豪気な人達でも、これは受け入れがたいらしい。

いや、他の人達が言ってるからわざわざ言わないだけで、俺だってあの人形の群れを突破しろって言われたら嫌だと言う。

死にたくないし。誰かを助ける為ならともかく、こんな事で怪我とかしたくないし。

運営さんも来ると解ってて言ったらしく「うわーやっぱりきたー」と困ったような顔で両手を前に出す。


「ま、待って。待ってください。解ってます。解ってますってば! 無理に突破しようとは思いません。というか、ここから抜けるのはちょっとどころじゃなく難しいですし……」

「じゃあどうするんだ? 他の入り口から入るのか?」

「それともここで封鎖して網にかかるのを待つのか?」

「長期戦になっちまうのもちょっとな……」


 頭目を倒さないといつまでたっても同じことの繰り返しなのはわかっている。

だけど、その為に無茶はしたくない。時間もあまりかけたくない。

皆本音ではそんな感じで、「運営さんなんとかしろ」っていう言外の重圧を運営さんに向けていた。


「――なので、ちょっと考え方を変えましょう。人形達を倒すのではなく、人形達に味方になってもらえばいいんですよ」


 どうです、と、人差し指をぴ、と立てながら反応を窺う運営さん。

いや、まあ、言いたいことは解るんだけど。

人形を味方に付ける? というのは、つまり――


「運営さん、人形用の服とか持ってるのか?」

「あ、いえ、私は持ってないんですけど、ミルフィーユ姫が『私のドレスを裁断すれば材料になりますよ』と――」

「あのお姫様のドレスか……確かに布製品としては高級っぽいからいいかもしれんが」

「テリブラーはこっちにいるんだよなあ」


 人形を味方にする、という考え自体は決して悪い方向性じゃなかった。

テリブラードールを始め、この城に出る人形型モンスターは人形用の布や糸、服なんかを与えると大いに喜び、場合によっては敵対をやめたり加勢してくれたりするようになる。

特にテリブラードールは人形達のリーダーなので、その懐柔が上手くいけばマップ中の人形が敵対をやめてくれるようになり、それだけで探索の難易度が激減するはず。


「ていうか、ドレスの裁断って、あのお姫様替え着持ってるのか? 持ってなかったらパンツ丸出しになっちまうぜ……?」

「あ、えーっと、それは……大丈夫みたいです! うん、大丈夫って言ってたらしいです!」


 運営さんの様子から、多分脱いだ後にサクヤに変わればオッケーみたいな感じで深い考えがあった訳じゃないんだろうなあとは思うけど。

テリブラーがこっちにいる事が最大の問題になりそうだ。


「城の外側から回り込んで合流するしかないな。そんで、その布プレゼントして上手く懐柔……できればいいんだが」

「このままこのお城を探索するのは避けたいですから、これ以上の方法は現状無いかと……どなたか、いい案あります?」

「いや、ないな」

「それじゃ、しばらく待ちって事か……」

「あんまり長時間かかる様なら悪いが俺達は抜けさせてもらいたいんだが……」

「あ、もちろんです。ここまでのご協力だけでも感謝ですよ。無理なさらずに」


 何人かは、時間の都合もあってここでお別れらしかった。

まあ、一番人数が必要だった大人数相手の討伐は終わって、後は行方知れずのままの頭目と、居ても少数の取り巻きくらいという話なので、残った人数でも十分対応できるだろう。

長丁場が決まった事で残った人の中にも「今のうちにゆっくり休んでおくか」と、横になったり携帯食料を食べる人もいた。


-Tips-

猫耳(アクセサリ)

モフモフとした猫の耳を模したアクセサリ。

頭に着けることによって自動的に感情を感知し、猫そのままに感情表現する。

黒猫耳同様防具としての性能や特殊効果は一切期待できないが、見た目が愛らしい為猫好き・可愛い物好きな女性プレイヤーには人気が高い。

自力での作成には『ヘルハウンドの毛皮』『コカトリスの骨』『金獅子のたてがみ』などのアイテムが必要となっている。

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