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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
13章.フリーライフゲーム(主人公視点:一浪)

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#4-1.教会の一室にて


「スマイル仮面の剣士、なあ」

「私は見た事はありませんが、そのような方がリーシア近辺にいる、というのは気になりますね……」


 教会の一室にて。

ベッドで静かに寝息を立てるミズーリさんを見ながら、ミゼルさんとカイゼルさんの二人と顔を突き合わせる。

幸いにもミズーリさんの怪我はハイプリエステスなら余裕で治せる程度の怪我だったらしく、今では出血も含めて回復し、体力的な問題で眠ってるだけらしい。

ただ身体を癒やすにも結構体力ってのは使うらしく、しばらくはこの状態が続くのではないかというのがミゼルさんの言だ。


 ミズーリさんをこんな目に合わせたあの男は放っておけないけど、とにかく大事が無くて一安心、といったところだ。

プリエラに教えられ駆けつけたカイゼルさんも、娘同然のギルメンが無事だったと知り、ほっとした様子でミゼルさんに感謝の言葉を向けたりしていた。

そうして一段落して、事の詳細を説明したのだ。


「腕利きらしいのは兄ちゃんの話で分かったけどよ、どうにも気になる点が多いよな、そいつ」

「そうなんだよね。俺も戦いながら思ってたんだけど……声とか、すごく俺っぽかったんだ。仮面越しだからその分いくらかくぐもってはいたけどさ。それに……なんだか、他人っていう気がしなくて」

「リアルでの一浪さんの知り合いか何か、という可能性は?」

「サクヤとエリーみたいな例もあるし、全くないと言い切れないのが怖いよな。兄弟とかはいないはずなんだけど」


 異世界の俺と対面、みたいな訳の分からん展開は想定外すぎてついていけないけど、流石にそんな展開はないと思いたい。

これでも今は慎ましやかに生きてるつもりなんだ。

リアルでもゲーム世界でもそれなりにのんびりと生きてて、幸せを掴もうとしてるだけで……

なのに、ちょっとした善意を見せたり、他人の悪意に反感を抱いただけで『偽善者』呼ばわりで戦いになるのはあんまりだと思う。


「まあ、善玉ギルドやってるとよ、中にはいるよな、やっかみで文句付けてくる奴とか」

「かつてのシルフィードの皆さんも、そのような方々に笑いものにされていた時期がありましたから……多かれ少なかれ、他者の善意や優しさというのを素直に受け取れない方、というのは居るのだと思いますが」


 その仮面の男が何者だったとしても、そいつ自身が他人の行為にケチをつけるような奴だった、というのは間違いない。

気に入らないけど、そういう奴は確かにいるものだから、罵られる事そのものは腹は立つけど理解はできた。

ふざけた野郎だなと思うけど、実害がなければ無視すればいいだけなんだから。

だけど、今回は訳が違う。


 ミズーリさんが傷つけられた。

俺も、戦った結果相手を傷つけたけど、それによってあいつは「ただじゃ済まさねぇ」と捨て台詞を吐いていった。

それそのものはいかにもな悪党の吐くセリフだけど、平然とならず者を切り捨てて嬲って遊んでた奴が言ったとなると、意味合いが大分変わってくるように思える。

二人もそれは解っているのか、難しそうな顔で小さく息をついた。


「ただのやっかみというならその都度蹴散らせば済む話ですが、そうではなく、何か悪意の様なものを一浪さんやミズーリさんに向けようとしたなら……今後が問題ですね」

「ああ。しばらくはミズーリには護衛を付けた方が良いかも知れんなあ。兄ちゃんも、一人歩きはしないようにしてくれな」

「解った。俺も一人だけじゃ、あいつには勝てないから……怖いのは、ギルメンが巻き添えになるかも知れないって事か」

「こればっかりはな。ただ、はやいところ問題が解決してくれりゃいいんだが、長期化すると負担がでかくなりそうだぜ」


 ギルメンへの負担が増えてしまうのは、本当に申し訳ないんだけど。

でも、あの頭のおかしい野郎が俺ではなくラムネやサクヤにその悪意を向けようとしていたら――そう考えると、背筋に嫌な痺れが走る。

大切な仲間が俺の所為で傷つくのは、それだけは回避しないといけない。


「とりあえず、俺はギルドに戻ってギルメンに注意喚起しとくからよ。兄ちゃんも自分とこの奴らに話しといた方が良いな。ミゼル、悪ぃけど少しの間ミズーリの事を頼んでいいかい?」

「勿論ですわ。ミズーリさんの御身は私が責任をもってお守りします」


 心強く頷いてくれるミゼルさん。

ハイプリエステスということもあるけど、責任感の塊のようなこの人がそう言ってくれるのは、なんともありがたかった。

この人も、俺なんかと比べ物にならないくらい善意に満ちた人だよなあ、としみじみ思う。



「あ……」


 奥の部屋から出て聖堂へ戻ると、何故かドアの前でこちらを眺めていたシスターと目が合う。

緑色髪の三つ編みの子。例の元シーフだった子だ。確かララミラとか言ったか。

真っ正面、眼をぱちくりさせた後「うわわっ」と後ずさりし、その辺に転がしてあった掃除道具をおもむろに拾って掃除を始める。

……これでなかったことにできると思ったのだろうか。

面白い子だとは思うけど、それは無理なんじゃないかなあと思う。


「ララミラ」

「はひぃっ!」


 案の定、すぐ後ろに立っていたミゼルさんが声をかけるや、びく、と背筋を伸ばして震え始める。

ミゼルさんは一体この子に何をしたんだろうか。

声を聞いただけで反射的にビクつくとか、恐怖の対象になってないかこれ。


「お掃除をしておくように、と言っておいたはずですが」

「あ、いや、その、違くて! サボりとかじゃなくって!」

「言い訳は後で聞きますわ。お客様がいらしていた時に貴方という人は本当に――さ、懺悔室に行きますよ。貴方のした行いをまずは懺悔なさい。その後は女神様の前でありがたいお話を聞いて改心するのです」

「うわああんっ、待って、待ってってばぁ! ほんとに違うのっ、ならず者と戦ったって聞いたから知り合いかと思って気になってただけで――っ」


 そのままミゼルに背を掴まれ、懺悔室へ引きずられ涙目になって言い訳を始めるララミラ。

いや、何か今……気になる事を言わなかったか?

ミゼルさんもぴた、と止まるし、やっぱり無視できなかったみたいだ。


「……知り合いかもしれない?」

「そ、そうだようっ、あたし、仲間の人達と一緒にいた時、他のグループと接触した事あったしっ! もしかしたら知ってる人なんじゃって――」

「ああ、その子が例のシーフだったって子だったのか。ミッシー達の結婚式の時も居たよなこの子」

「ええ、サクヤさんのおかげでこうしてシスターとして生きる道を選べた幸運な娘ですわ。ですが……そうですか、ララミラのシーフ時代の関わりも、役に立つことがあるかも知れませんね」


 役に立つ、なんて言いながらもどこか面白くなさそうに歯を噛むミゼルさん。

この人は真面目と言うか自分にも他人にも厳しい面がある人だから、シーフ時代という、ララミラが善くない行いばかりしてた頃の話は、あまり面白くないのかもしれない。

それでも必要な事だからと、先を促す程度には空気が読める人なんだろうけど。


-Tips-

バンディッド(職業)

シーフ系列の上位職の一つ。

ならず者として更に罪を重ねた結果墜ちた状態で、ここまでくると完全に贖罪し更生する事が不可能になる。


職業の特徴として、殺傷能力や擬態能力のあるスキルがメインで、視覚外からの奇襲や騙し討ちに高い適性を持っている事が窺える。

見た目上はシーフと大差ない為に区別ができないが、戦闘面での能力はこれらのスキルにより格段に上昇しており、ならず者の集団の中ではリーダー格や幹部に落ち着くことが多い。


反面、シーフ以上に罪業ポイントがたまっている為、些細な罪を犯すことによってもデリートされるリスクが高い。

凶悪な生き方をすればするほどバンディット化は早まるが、これが早ければ早いほど相対してデリートへの猶予も短くなる。


特徴的なスキルとしては、簡易的な罠や小威力の爆弾の扱いができるようになるスキル『ブービーマン』、

爆薬を仕込んだダガーナイフを投げつける事により爆発ダメージを与える事の出来るスキル『ダガークラッシュ』、

隠密状態でのみ使用できる奇襲スキル『ダストロード』、

より高度な隠密行動により気配を遮断したまま移動可能な、悪魔種族相手でも隠れる事の出来る隠密スキル『インビジブルウォーキング』などがある。


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