#1-3.猛進・ミノタウロス狩り!
飯を食い終わった後はドクさんと別れて狩りの時間だった。
ミズーリさんと付き合うようになってから、狩りに行く時間というのが結構減ったので、一人になった時は大体狩りばかりしている。
ミズーリさんと狩りに行くこともあるけど、まだプリエステスとのペア狩りとかその辺の連携は上手くできないので、サクヤとかエミリオに付き合ってもらって四人での狩りになる事が多い。
ミズーリさんにはミズーリさんの、ギルド内で良く組むPTというのがあるらしいので、恐らくは今でもそちら中心で狩りをしているだろうし、そこはまだ、かみ合わないのが現状だ。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
ダオスの迷宮・二層にて。
今回狩っているのはミノタウロス・赤。
巨大な戦斧を手に暴れ回る危険なモンスターだけど、速度はそんなでもないので剣士系なら余裕で立ち回れる。
今もまた、二匹相手に攻撃をかわしながら、側面や後ろからの斬撃でダメージを稼いでいる最中だった。
『ブモォォォォォォッ!!』
『オォォォォォッ! ブモォァッ!!』
二匹揃ってばらばらな方向に斧をぶん回すけど、そんな程度ののろまな動きじゃ俺の動きを止めることはできない。
身の丈は俺の1.5倍はある。そこから繰り出される一撃は、軽鎧なら一瞬でひしゃげるくらいに強い。
盾を使っても膂力の無いプレイヤーだと吹き飛ばされるくらいには馬鹿力のモンスターだ。
体力も高い。致命を狙える急所の位置が高い為、一撃狙いで瞬殺する事も難しかったけど……足狙いなら、いける。
『ブギャァァァァァァァッ!!!』
執拗に足への攻撃を繰り返して、一匹を転倒させる。
その間にもう一匹が俺の後ろから攻撃しようとしていたけど、これをサイドステップで避けて、斧が地面に叩きつけられたところでその腕を足場代わりに、頭部に蹴りをかます。
「オ――ラァッ!!」
『ブグゥッ!? ゴバァァッ!!』
グラつきはしたもののその程度で倒れる訳でもなく。
すぐさま反撃しようと俺の身体を掴もうとする。
それをかわしながら、身体の後ろに剣を振り、足腰に力を込めて――横なぎの一撃を振りかぶる。
「しず――っめぇ!!」
ズクン、と鈍い音と共に、肉が絶ち斬れる。
『ウォ……? ブッ、ブブッ――』
何が起きたのか理解できないまま、腰から上と下がズレ始め……崩れ落ちる上半身と、立ったままになる下半身。
上半身はそれでもビクンビクンと痙攣していたけど、そのまま動かなくなった。
――勝利。圧倒的な勝利だった。
(まあ、雑魚モンスターだしなあ)
そんなに感傷に耽るような何かではない。
毎日のように狩っているような雑魚モンスターなので、狩れて当たり前の相手だった。
特別希少な訳でもなく、ちょっと待ってればすぐに横湧きしてくるような豊富なポップがウリの稼ぎ用モンスターだ。
ドロップした牛肉と鉛のブレスレッドを拾い集め、また別の場所へと移動する。
「おつかれさまでーす」
「やあ、おつかれー」
『この健やかなる隣人に女神のご加護を~、セント・バレスティナ!』
「ありがとうな」
「いえいえ~それでは~」
いい感じのピンク髪のプリエステスさんがすれ違い際に辻支援を掛けてくれたので、更に楽になる。
背は低いけどニコニコ顔で手をブンブン振ってくれるのがちょっとコミカルで可愛い子だった。
こういう些細な出会いもあるのがこのゲームのいいところだと思う。
『ブブゥ……』
そうかと思えば、またミノタウロスが三匹、横湧きしてくる。
この『ダオスの迷宮』、二層で湧いてくるのはほとんどミノタウロスとマミーバンディッドくらいなので、さっきのプリさんみたいにマミー狩りの人とミノタウロス狩りの俺みたいな剣士系とで二極化されがちだったりする。
マミー狩りの人は大体プリかバトプリなので、気のいい人なんかだと辻支援も期待できる良狩場。
俺が出会う人がそういう人ばかりなのもあって、プリ系って善人が多い気がする。
聖職者だから当たり前っちゃ当たり前なのかもしれないけども。
「おりゃぁぁぁぁぁっ!!」
まずは直近に沸いた奴に一撃。
湧いた直後の硬直時間中に仕掛けたので反応も鈍く、下半身に向けての大振りの一撃で倒せる。
強い。波に乗れてる。今ならいける。
そんな自信に突き動かされ、更に一撃。
深い上段突きが近くにいたミノタウロスの腹に決まり、ようやく動き出したその巨体から大量の鮮血を噴出させる。
『ブハァッ! ブモォォォォォォッ!!』
「おぉっ!?」
直後、ズドン、と、武器を持たない方の拳が頭へと叩き付けられる。
洒落にならないカウンター。
普段なら死を覚悟しなきゃいけないほどの強力な一撃だったが、今なら喰らっても気にならない。
ノーダメージだ。奇跡すげぇ。
「――へっ」
『グモッ!?』
どうして、と、理解できなかったのかもしれない。
ミノタウロスは一瞬固まり、その一瞬の硬直が致命的過ぎる大きな隙となった。
突き刺したままの剣をグリン、と回転させ、足を一方後ろへ下げ、そのまま引き抜く。
「落ちろぉっ!」
そのまま、戻って来た剣の重さと勢いを利用して軸足をくるりとずらし、回転斬り。
『――ッ!!』
踏み込みと同時に腹に決まる一撃に、ミノタウロスは声も挙げられないまま絶命する。
鋼だって切り裂く一撃だ。これをまともに受けて無事に済む奴なんて、そうはいない。
『ブモァッ!!』
「――ラァッ!!」
最後の一匹。これの攻撃も正面から受けきり、飛び掛かりながら正中線に沿って身体を縦に斬りつける。
隙の多いジャンプ斬りだけど、トドメ狙いに使うなら有効な一撃になる。
ミノタウロスの巨体も、威力の十分に乗った斬り掛かりには耐えきれず、裂けたチーズのように崩れていった。
「……ふー、奇跡、いいなあやっぱ」
セント・バレスティナという防護の奇跡は、それだけで敵の攻撃を一定時間無効化できる効果がある。
体感で数分間は保つので、大体一回分の戦闘で防御を一切考えずに戦闘できるようになる。
戦士系と違い、剣士系にとって、敵からの攻撃の被弾は=ピンチに繋がりかねない危険なもの。
ミノタウロスくらいなら装備が整ってれば即死する事はないにしたって、一撃をまともに喰らえば骨の一本二本は持っていかれる。
当たりどころが悪く首や頭なんかがやられれば、意識を失ってそのまま殺される事もあるだろう。
そうじゃなくても、いくらポーションやなんかで回復できるといっても、でかいダメージを受ければこっちも隙ができてしまったり精神錯乱に陥る事だってあるんだから、馬鹿にならない。
こういう風に支援が貰えてればそれを気にせずに済むんだから、効率を考えなくてもその安心感はかなり大きいのだ。
(ミズーリさんともっと上手く狩りできるようになれば、毎回支援ありで狩りできるんだろうけどなあ……)
俺とミズーリさんとでかみ合わないのは、ミズーリさんが組むPTメンバーにガードがいるから。
ガードは防御特化なので、基本この人が攻撃を受けて、その間にアタッカーが敵に攻撃する形になる。
ミズーリさんはこのガード優先で支援をかけて、余裕があったらアタッカーにも支援を、というのが基本形らしい。
この関係もあって、ガードに掛ける回復系のスキルは高速詠唱できるんだけど、優先度の低い速度増加系のスキルとか防御系のスキルなんかはあんまり得意ではない……らしいと聞いた。
後は、俺の動きが早すぎるから支援を振りかけるタイミングが中々掴めないのもあるらしい。
基本、止まっている時に支援を掛けるスタイルらしいので、常時動いている俺とは連携が難しい、というのが目下の課題か。
俺も俺で、支援を掛けてもらうタイミングを計って足を止めるとか、そういう事ができるようになれればミズーリさんの負担も減るんだと思うけど、今のところはまだそれができていない。
そんな感じで、二人だけだと空気が微妙になるのでサクヤやエミリオに来てもらってる訳で……でも、二人だけで来られるならその方が良いに違いなかった。
アタッカーが多ければその分火力も増えるし大物も狩れるようになるけど、俺もミズーリさんもそこまで収入には固執してないし、ペア狩りで二人でイチャイチャできればその分関係だって進展するだろうし……結婚だって、オーケーしてもらいやすくなるはずだし。
(はー、考え過ぎてるなあ、なんか考えちゃうんだよなあ)
昔から、考え過ぎなきらいはあった。
駄目だとは思っていても、なんか知らないうちに考え事ばかりしてしまうのだ。
それで上手く行くならいいんだけど、失敗する事も多いのが問題というか。
(前の上司も言ってたもんなー。『お前は考え過ぎて暴走しやすいから気をつけろよ』って。ほんと、これもなんとかしなくちゃなあ)
俺自身はそんなに悪いことだと思ってなかったけど、ミズーリさん絡みの一連の失敗を思えば、その忠告も頷けるというもの。
少しは自重しないといけない。自重しないといけないと思っているけど……気が付いたらやらかしてたりするから手に負えない。
昔は『まだ若いから』って言い訳できたけど、流石にいい加減大人にならなきゃいけないんだと思う。
ミズーリさんだって、子供っぽい奴が好きな訳じゃないだろうし。
「……よし、やるか!」
頬をパァンと叩き、気合を入れ直す。
今日の目標は100匹討伐。
大したレアは望めない敵だけど、通常ドロップだけで結構な金が稼げるはずだった。
ここでの収入は貯金して、結婚後遊んだりするのに使うつもりなのだ。
俺は努力する男。目標の為ならいくらでも頑張れる自信があった。
愛剣を手に、ループまみれの迷宮を駆けだした。
-Tips-
ミノタウロス・赤(モンスター)
『うしにくの迷宮』『ダオスの迷宮』などに生息する牛頭半人の姿をしたモンスター。
オークなどと違い人間的な知性は存在しておらず、あくまで欲望のまま生きる生物である。
多くの場合2m~3mほどの体躯を誇り、巨大な戦斧を振り回したり、姿勢を低くしての突進で頭部の角による突き刺しを狙ったりする。
優れた筋力を誇り、巨体な為振り下ろしによる一撃の威力は相当なものとなっている。
反面動きが鈍く、角が邪魔して人間以上に視野が狭い為、剣士系などの足回りに優れるプレイヤーには絶好のカモとなっている。
また、炎属性攻撃にとことん弱く、特に魔法に対しては耐性の低さもあって受けるとかなり簡単に沈む。
レアドロップアイテムは『金の腕輪』だが確率が低く、通常ドロップの『鉛の腕輪』が主なプレイヤーの収入源となる。
また、準レアドロップとして『牛肉ロース』があり、食材としても需要が高い。
同種のモンスターとして巨大なハンマーを持つ青い者もいるのだが、こちらはこの赤い者とは比べ物にならないほど強力なモンスターとなっている為、注意が必要である。
種族:動物 属性:地
備考:地耐性50%、水耐性-10%、炎耐性-100%




