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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
12章.ネザーワールドガール(主人公視点:マルタ)

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#15-2.リアルサイド25―お勉強頑張る―


「ご、ごめんなさいお二人ともっ! ちょっと二度……ああいえそのっ、お掃除に時間がかかってしまって!」

「大丈夫だよーサクラさん」

「私たち気にしてないわ」


 二度寝して準備を忘れた上に妹にも伝え忘れていたことははっきり伝わってるので、サクラさんがそれを隠そうとしていたのはちょっと微笑ましく思えてしまった。

ルリハなどはぽへら~とした笑顔で和やかな気持ちになっているのが見て取れる。

他の人なら苛立つ事でもサクラさんなら癒やされるという、この雰囲気の違い。

どこまでも寛容になってしまいそうで困る。困らない。


「あの、準備……できましたので、お部屋の方へ」

「うん、それじゃあお邪魔しよっかな。いこっかミズホちゃん」

「そうね。それではお邪魔するわ」

「は、はい……うぅ、二度目でも緊張するなあ……」


 妹と違って緊張気味でもいい笑顔なサクラさん。

私達を先導するようにリビングを出て、階段を上っていく。

途中、妹が降りてきて譲るように壁側に寄ってくれた。

どうやら掃除のお手伝いをしていたらしい。

すれ違い際「後でお茶とケーキを持っていくので」と例の作り笑顔で伝えられ、ルリハが期待に甲高い声で変な奇声をあげたりしていた。

サクラさんの妹のケーキは、とても美味しいのだ。

前に来た時に食べたあれは、味だけならば人生で一番美味しかったケーキかも知れない。

あれがまた食べられるというなら、私だって期待に胸が膨らんでしまうというもの。



「サクラさんのお部屋、相変わらず可愛い小物が多いね~」

「癒やされるわね……」

「あ、あんまり見られるのは恥ずかしいというか……」


 綺麗に整った部屋へと案内され、中心に置かれたテーブルの前に腰掛ける。

サクラさんは少女趣味というか、可愛いもの好きというか、そういうとても可愛らしい趣味をしている。

私服も桃色のひらひらとしたワンピースだし、小物も犬や猫の置物からぬいぐるみから……ペンに至るまでファンシーグッズで溢れていた。

私の私室は無駄なモノ一つ置かれていない寂しい部屋なので、こういう実用性無視で可愛さに走った部屋はちょっと……かなり憧れてしまう。


「……いい無駄さだわ。雑多としている訳でもなく、それでいて整理されきっていなくて落ち着くというか……」

「そ、そうですか? アヤノコウジさんがそういってくれるなら良かったです」

「ミズホちゃんこういう空間好きだもんねー。私の部屋とかじゃ汚くてとてもお通しできないよー」

「あら、別に汚くても招待してくれてもいいのよ……?」

「一緒にお掃除する?」

「それも悪くないわね」


 家事能力皆無な私が一体どこまで役に立つのか微妙だけれど。

ゲームなら料理くらいはといった感じだけれど、リアルとなるとどこまで通用するやら。

そんな事を考えていると、サクラさんが不思議そうに首を傾げながら私達を見ていた。

こんな時の仕草は妹と同じ。というより、私達にはこちらの方が見慣れている。

大きな小動物的仕草という矛盾したそれは、だけれどやはり愛らしい。

多分、私が真似してもそうは映らないだろうからこの姉妹特有なのだろうけれど。


「お二人は私より前からお友達だったのに、おうちに来た事はなかったんですか?」

「うん。私の家って男所帯だから、ミズホちゃん連れて行くと大変なことになりそうでさー、誘いたくても誘えなくて、タイミング計ってる間にサクラさんが来た感じ」

「男所帯なのは私の家も変わらないのだけれど……ただ、ルリハがタイミングを計っていたというのは初耳だわ。そんな事気にしなくてもいいのに」

「気にするよー、うちの男どもがデリカシーないのはさっきも話したでしょ? ミズホちゃんに変な事でも言われたら恥ずかしくなっちゃうもん」

「兄弟って大変なんですね……うちは妹がいると安心なくらいなのに」

「妹ちゃんはだって……しっかりしてるし」

「真面目そうだし、いい妹さんよね」

「……えへへぇ」


 ルリハの家庭事情に同情するも、妹を褒められてにへらっと表情が崩れてしまうサクラさん。

溺愛している妹が友達に褒められるというのは、姉としては嬉しくて仕方ないのでは。

サクラさんは自分が褒められると困惑するというか一歩引いてしまう感じだけれど、妹を褒められると素直に受け取れるあたり、本当に妹が大切なんだろうと思う。

……我が家で言うなら、ミノリと私の関係に近いのかもしれない。


「さてさて、雑談はともかくとしてお勉強しましょ~、なんたってテスト近いからねー」

「大変なルリハの為に頑張らないとね」

「微力ながらお手伝いしますね」

「あはは~、ありがとう二人ともっ! やっぱり持つべきものは友! ほんっと頼りにしてます二人ともっ」

「まずは何から始めるの?」

「数字学から始めてー、次に数学、科学、言語と進めればいいかなあって」


 ルリハは文系メインなので、理数系は壊滅的になりがち。

私は理数メインなのでその辺りはどうにかできるけれど、数字学だけはあまり得意ではない。

そこで活躍できるのがサクラさん。数字学は得意分野で、それ以外の分野も体育以外は私より点が取れる。

どちらかというと私もサクラさんも人に教えるのが上手くない事の方が問題なのだけれど、数字学は数式さえなんとかなれば基礎知識そのものは中層レベルの学問でも追いつける範囲なのでなんとかなる……はず。




「えーっと……1と0を操作する『数字化』を行う事によって、信号感溶体(しんごうかんようたい)っていう物質が作る事ができて……うーん」

「この設問、数字学と科学のハイブリットみたいですね……難易度が高いです」

「数字学が混ざると途端に訳が分からなくなるわね……サクラさんは?」

「なんとか解ると思います……上層に来る前の学校で教わってたので」


 これが最上層の高校で学ぶような内容。

それもサクラさんが上層に来る前というのだから、高校二年の段階で学ぶような事なのだろうか。

だとしたらその難易度の高さも納得いくというもの。

いくら聖カトレアが上層屈指の学校と言っても、この難易度の跳ね上がり様は異常とも思えた。

何せ出てくる言語が難解極まりない。


「数字学に関してはサクラさんだけが頼りだわ」

「私にはもうちんぷんかんぷんだよ……」

「あはは……が、頑張りますっ」


 やはりこういう時、元最上層の学校に通っていたサクラさんは頼りになる。

数字学はレゼボアの先端技術の基礎とも言われる程重要な学問ではあるけれど、難解過ぎて初歩の初歩すら追いつくのがやっとといった所。

それ+科学要素まで詰め込まれたら、お手上げになってしまう。

テスト範囲は授業で学んだけれど、想定されるテストの問題内容がこのレベルという事は、今回のテスト、かなり全体のふるい落としに掛かっている可能性があった。


 聖カトレアでは、たまにこういったふるい落としがあるのだ。

平均より上を取れればよし、あまりダメな様なら再教育と称して脳に直接情報を叩き込まれるという拷問まがいの行為が行使されるので、なんとか乗り越えなくてはならない。

感情の死んだ目をした、ただ生きているだけの親友なんて見たくはないのも勿論あった。


-Tips-

再教育装置(施設)

上層における教育機関が用いる教材の一つ。

公社により使用が認められている『脳内ネットワーク』を介した機材なのだが、その内容は特殊な波長の音を聞かせ続ける事により脳の思考力を奪い、無力化した脳に直接情報を流し続けるという人格完全無視の拷問まがいの強権行動である。


上層の教員はテスト時に原則、生徒に対し平均以上を取る事を求める為、著しく低い点数を取った生徒に対しては人間として扱わないきらいがある。

効率化が極限まで重視されている世界において人間が人間らしくある必要性など皆無な為、社会が回る為のパーツとみなされこのような扱い方が為される。

当然ながら人格は完全に破壊されて戻る事はほぼないので、この再教育が行われた生徒は以降は必ず平均点を取るようになるが、自己での思考は不可能になる。

ただし上層で生きるにあたって人間が自分で思考する必要性は皆無であると言われており、実際問題人格が破壊された生徒もレゼボア人として何ら問題なく生き続け、やがて死ぬ事になる。




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