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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
12章.ネザーワールドガール(主人公視点:マルタ)

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#15-1.リアルサイド25―サクラ家へ行こう!―


 最上層一層の居住区間にて。

今日は朝から、サクラさんのお家で勉強会をする事になっていた。

ルリハと二人での訪問は二回目だけれど、友達の家に遊びに行くというのは、中々に緊張するもの。


「ミズホちゃん、大丈夫……?」


 インターホンを押そうとした手が震えていたのを目敏く見ていたのか、ルリハが笑いかけてくる。

からかいというよりは心配がないまぜの、柔らかな微笑み。

こんな些細な事でも緊張すると手先が震えてしまう事に不安を抱いていた私は、その笑顔のおかげで肩から力が抜けていくのを感じていた。


「ええ、大丈夫だわ」


 ノックではなく、インターホンという謎技術。

これはボタンを押す事で内部にいる人の知覚に作用し、来客があった事、それが誰でどのような用事でか、という細やかな情報まで相手に伝わるというものらしい。

こんな技術は最下層は当然として、中層にだって存在しないので、ルリハと二人で「どんな技術なのかしらね」と首を傾げたりしていたもの。

聞いてみてもサクラさんにもよく解らないらしいので、もしかしたら最上層でも特に高い技術が使われているのかもしれない。

ただボタンを押して音が鳴るだけのものなら、下層くらいでもあるのだけれど。


「……あの? 姉さんのお友達の方、ですよね……? お勉強会、ですか……?」

「あれ?」

「あら?」


 ほどなくしてドアが開き……出てきたのは、妹の方だった。

姉と同じように金髪碧眼の、だけれど姉と違って小柄な、サクラさんの妹。

部屋着と思われる私服は姉と違って大人びていて、凛とした雰囲気すら感じさせる。


 そんな妹が、私達の顔を見て不思議そうに首を傾げていた。

この首を傾げる仕草も、普通とは違っていて交互に傾げる癖のようなものがあって、これが小動物的で可愛らしい。


「えーっと、サクラさん――お姉さんと一緒にお勉強するっていう約束だったんだけど、お姉さんから聞いてない?」

「ええ、何も……でも、そうですか、姉さんが……ごめんなさい、ちょっと待っててくださいね」


 ルリハの説明を聞いて「えええ」とちょっと困惑に眉を下げた後、作り笑顔と解るような笑顔を前面に押し出して奥に引っ込んでしまう。

ドアは空けたままなので妹が奥の階段に向かっていくのは見えたのだけれど、どうやらサクラさんは妹に私達が来ることを伝えていなかったらしい。


「約束した時に『妹に聞いてみますね』って言ってたのにね~」

「サクラさんは天然が入ってるから……」


 サクラさんは、たまにやらかす。

とても賢くて運動以外は規格外に優秀な人なのだけれど、そんなだからかところどころ抜けたところがあるというか、私とは別の意味でズレているというか。

ほんわかした人なのでちょっとしたことで忘れてしまうのかもしれない。


『姉さん、お友達の人達が着てるけど、お勉強会、準備できてるの?』

『ええっ!? あっ、そ、そうだった、いけない早くお掃除しないとっ!』

『ああもう、やっぱり忘れてる……私も聞いてなかったよ!? 二度寝してる場合じゃないじゃん』

『ふえっ、あ、あれ? 言ってなかったっけ……? ご、ごめんミリィっ、忘れてた~!!』

『しょうがないなあ……とにかく外で待たせられないから、リビングに通すからね』

『あっ、うんお願いミリィっ、お姉ちゃんお掃除してるからっ』

『急いでね。それでいてちゃんと綺麗にするの。はあ、もう……』


 ドアが開かれているせいで聞こえてしまう姉妹の会話。

しっかりものの妹とダメダメな姉、という関係性が感じられるそれは、普段のサクラさんを見ている私達をして「家ではこんな感じなのね」とちょっとした驚きを感じずにはいられない。


「サクラさんって意外と家ではだらしがないのかしら……?」

「そうかも。でも妹ちゃんも結構ずばずば言うタイプなんだね。前見た時は大人しい子だと思ってたけど」

「姉妹だとそんな感じなのかしら? ルリハは家では兄弟とどうなの?」

「私は……うーん、確かに家族相手なら色々辛辣(しんらつ)な事も言うかもしれない」

「……想像しにくいわね」

「そう?」

「ええ」


 あまり話さないサクラさんの妹の事はともかく、こうして話していれば人に辛辣な事なんて言いそうにないルリハが兄弟に対してだけ辛辣に接する事もある、というのは中々に意外というか。

そうやって接しているところが今一イメージしにくい。

いつもニコニコ笑っているところしか浮かばないのだ。


「ほら、男どもってデリカシーないじゃん? 下着姿でそこらへんうろついたり、下手したら風呂上りとか、全裸で私の前に出てきたりするんだよ? それはちょっとねえ」

「……全裸で」


 何それ怖い。

うちの男連中はそんな事はしないけれど、確かにそれをやられると色々と常識が壊れるというか、異常すぎてパニックに陥ってしまうかもしれない。

だって、その、全裸とか、おかしいじゃない。


「パパもそうだけど、年頃の娘さんが家にいるっていうのをもうちょっと自覚して欲しいよねえ」

「それは……確かにあるかも知れないわね」


 デリカシーが無さ過ぎる家庭というのも、確かに困るもの。

私も父に時折ハラスじみた質問をされたりして不快な気分になる事もあるし、その辺りは理解できる事情だった。

そう考えると、私が父と距離を置くのと同じ感覚で、ルリハは兄弟とも距離を開けているのかもしれない。


 そんな事をルリハと話しているうちに、またこちらに妹が戻ってくるのが見えて、そちらへ意識を戻す。

ちょっと困ったような、申し訳なさそうな顔のまま、再び私達の前に立つ妹。


「あの、すみません。姉さん、ちょっと準備に時間がかかるらしいので……リビングで待っててもらっていいですか?」

「うん。解ったよ。ありがとう妹ちゃん」

「いえいえ。それでは、どうぞ」


 できた妹だった。

こういう気遣いの出来る妹がいると、姉というのはだらしがなくなっていくのかもしれない。

サクラさんがだらしがないとは思わないけれど、妹の前では気が抜けてしまっても不思議ではないのでは、なんて思う。


「ありがとう、ではお邪魔するわね」

「お邪魔しまーす」

「はい、リビングはこちらです」


 妹に案内される形でお邪魔する。

前に来た時はサクラさんの部屋に直行だったので、リビングは初めてだった。



「前に来た時も思ってたけど、綺麗な家だよねえ」

「ええ、掃除が行き届いているわ……ミノリに見せたいくらい」

「これを真似するのは大変そうだなあ……埃一つないし、キラキラだし」

「家の者が総動員でも真似できないでしょうね……最先端技術って偉大だわ」


 ご両親は仕事でほぼ居ない家で、姉妹二人だけで暮らしている、というのはカールハイツさんからも聞いていて知っていたのだけれど。

家は私の屋敷ほどではないにしろ二人で暮らすには過大なほど広く、ぱっと見の部屋数も多目で、初めから大家族が生活するのを前提にしたかのような構造になっている。

そして、リビングも広い。

ここだけで十人単位でパーティーできるんじゃないかという程にはスペースがあって、ソファも大きい。


 これほど大きな家で人手が少ないのだから掃除などの保守に手間が掛かるはずなのに、粗の見つけようもないくらいに掃除が行き届いていて、フローリングなどは新品の美しさすら感じさせる。

電気機器らしいものは何一つ存在せず、『無から有を生み出す技術』から必要な時に必要なモノを取り出す、といった先端技術が余すことなく使われていて、コンセントのような無粋なモノは存在すらしていない。

光や新鮮な空気すらそうやって生み出しているのだから、未知の世界とでも言う他ない。


「お茶淹れましたので、良かったらどうぞ。お茶菓子もありますので」

「あら、ありがとう」

「わざわざごめんねー、事前に来るって連絡入れておけばよかったね」

「いいえ、姉さんがちゃんと伝えてくれなかったのが悪いので……お二人には、お待たせしてしまって申し訳ないです」

「いえいえー」

「妹さんが気に病む必要はないわ。私達、待つのは好きだから」


 未知の世界というのは怖いモノ。

だけれど、同時に好奇心をくすぐられるというか、何を見ても楽しめるという利点もある。

私もルリハも、サクラ家は知らないことだらけで気になる事が多いので、ただ待っているだけでも結構楽しめたりする。

居間に飾ってある謎の生物のぬいぐるみとか、それぞれの層にいたのでは見られない品もあったりするし。


 そのまま「もうちょっとだけ待っててくださいね」と張り付いた笑顔で下がっていく妹。

そういえば、と思いながら妹の後姿を見て、思った事を口にする。


「妹さんって、あんまり笑わないわよね」

「あ、そだねー。初めて会った時も変なつくり笑顔だったし、歓迎されてないのかなーって思ってたけどサクラさんが言うには違う感じだし……笑うの苦手なのかな?」

「真面目な子なのかもしれないわ。釣り目がちだし、普段はキリっとしているのかも」

「なるほどー、ゆるふわ小動物系と委員長風小動物系の姉妹かー」

「どっちも小動物系なのがポイント高いわね」

「ほんとそう」


 いい姉妹だよねー、と笑うルリハに静かに同意しながら、サクラさんを待つ。

ソファの上に転がっているぬいぐるみなどを抱きしめながら、その柔らかな感触と未知の触感を楽しもうとして……なんだか、思った以上に心地よい感触で驚かされたり。

ルリハと取り留めのない雑談をしたり……そんな感じで「思ったより時間がかかるわね?」と思った辺りで、ようやくにして足音が聞こえ……サクラさんが現れた。


-Tips-

インターホン(施設)

レゼボア最上層にのみ存在する先端技術の一つ。

ボタンを押すことによって家主並びにそれに準じた住民として登録された人間に自動的に信号を発信し、訪問した者の詳細な情報や訪問した理由、果ては心理状況に至るまで伝える通信機器である。


この技術の開発によって、好ましくない訪問者に対する事前の対処や、訪問者による犯罪行為を事前に察し、通報したり反撃の準備を整えるなどの手段を講じやすくなっている。

また、このインターホンは設定によってガンカメラやタレットなどと同期機能化させることが可能な為、家人の設定次第では優秀な自動迎撃装置群の一端を担わせる事も可能である。


お値段はとても安価で、初等部児童のお小遣い程度でも買えるのが強みである。

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