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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
3章.広がる世界(主人公視点:サクヤ)

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#2-1.ノーコンのマルタ

 討伐目標:『いぬいぬねこいぬ』に生息するハウンドキメラ×40

リーシアの西、『始まりの森』の隣接地にあるこの『いぬいぬねこいぬ』は、その名の通り犬っぽいモンスターとネコっぽいモンスターで溢れている。

特に犬系モンスター『ハウンドキメラ』との遭遇率は結構なもので、一度に五頭、六頭同時に相手にする事もあるほど。

動きが素早く連携行動を取るハウンドキメラは、私一人だとまだ大変だけど、今回は一浪さんという心強い前衛がいるので、なんとかなっていた。


「サクヤ、これで討伐いくつだ?」

戦闘が終わり、ひとまずの休息。

森林地形なのでもたれかかる樹には困らず、二人、樹を背に座り込む。

「えーっと……今倒したので三十二頭ですね。後八頭です」

倒すたびに一頭一頭数えてはいたけれど、まとめておいた毛皮の数を調べたりして確認する。

ハウンドキメラの毛皮は結構薄いので、まとめてくるくると巻いて背負う事で持ち運びが簡単。

これだけで背後からの攻撃を受けてもちょっとだけ衝撃を吸収してくれるので、意外とお役立ちだったりする。

「後八頭か……意外と早く片付きそうだな?」

「そうですねー。一浪さんが前に立ってくれるから、ハウンドキメラの攻撃もほとんどこちらにはこないですし……」

たまり場ではいじられ役だったり、ちょっと情けないところもよく目にする人だけれど、前衛として前に立つ時の一浪さんはかなり機敏。

足が速いのもそうだけれど、二本の剣を使っての面制圧力が意外と高くて、ハウンドキメラが回り込むのを器用に防いでくれる。

「サクヤも結構強くなってんじゃん。最近は色んな狩場に足運んでるって聞いてたけど、範囲魔法使えるようになってるとは思わなかったぜ」

ニヤリと嬉しそうに笑いながら、一浪さんは私が胸元に抱いているステッキを指差す。

「ついこの間ようやく『クリスタル・シャワー』の魔術書(グリモア)を買えまして。練習はしてたんですけど、実戦で使うのは今日が初めてだったりします」

私も覚えたばかりの魔法が話に出て嬉しくなる。

そう、話題に出したくてうずうずしていたのだ。

「へぇ、そうなんだ。やっぱ範囲魔法って使うの大変なのか?」

一浪さんも話題に乗ってくれる。

手にはいつの間に取り出したのか、ういうい亭のもふもふパン。長話する気マンマンらしい。

「単体相手の魔法と違って、範囲魔法は発動までの計算がちょっと複雑なんですよね」

遠くにある樹に視線を移して、じーっと見つめる。

動かない目標に魔法を撃つのは、そんなに難しいことじゃなかったりする。

だけれど、これが動く目標となると途端に複雑化するし、更に追尾性能のない魔法なら先読みも必要になる。


「複数同時に狙いつけなきゃいけないんだろ? 剣でだって難しいのに、飛び道具や魔法でそれやるのはきつそうだよなあ」

「そうなんです。なので、私の場合は大まかにだけ考えてばら撒く感じで撃ってます。それが一番命中率高かったので」

色々試しで使ってみたけれど、複数の目標目掛けて飛んでいく魔法は、その分だけ考える時間が長くなってしまうという難点があるのはそれで思い知らされた。

だから、それを解消する為に、命中率が大味になるのを覚悟でばら撒く。

ばら撒くと全部当たる事はほぼなくなるから、その分だけ消耗するメンタルも激しくなるけど、狙って撃つよりも短時間で発動まで持っていけて、かつモンスター側にもかわしにくいようなので、それが強み。

ハウンドキメラくらいのモンスターだとばら撒いた魔法が一つでも当たればそれで倒れてくれるので、このばら撒きはかなり上手く行ってると思う。


「魔法も剣と同じで、ただ定型を覚えればいいってもんじゃないんだなあ」

はー、と、私の顔をじ、と見ながらにしきりに感心する一浪さん。

剣の道も、魔法と同じくらい大変みたい。

「でも、すごく楽しいですよ。魔法」

セシリアさんと会えた日なんかはもう、時間が許す限り魔法の話で盛り上がったりしてる位、私は『魔法』にハマっている。

この世界でしか使えない、現実では存在しないものなのだから、つい夢中になってしまう。

毎日の中で、少しずつ強くなっていく私。

これからどんな魔法を使えるようになるのかな、とか考えると、それだけで胸がいっぱいになる。

「そっか。サクヤが入る前に、プリエラが『あの子は心からこのゲームを楽しめる』とか言ってたけど、その見立ては間違ってなかったようだな!」

満足げに頷きながら立ち上がる一浪さん。

私も、ちょっとだけ照れくさく感じながら腰を上げる。

――そんなに前から、私の事を気に掛けてくれてたんだよね、この人たちは。

そう思うと、嬉しさだけじゃなくって、身体が熱くなってくるのを感じてしまうのだ。


「よーし、それじゃ、休憩も終わりにして、さっさと残りの八頭狩って帰ろうぜ! 酒場で報酬貰って、何か美味いもん食ってさ!」

「はいっ、頑張りましょう!!」


 なんだろう。このゲームの人たちって、皆優しい。



 依頼された分の討伐を終えて、街へと戻っての報告。

酒場は昼間から冒険職の人たちでいっぱい。

お酒を飲むのは勿論、(心が)大人になってからだけど、自分が通ってる狩場の情報とか、探索しているダンジョンや遺跡の話とかで盛り上がってる。

ここは、街の中でも職業に関係なく安定して依頼を受けたり貼ったりすることが出来る特別な場所で、今回私と一浪さんが依頼を受けたのもここから。

魔術書を買ってお金がかつかつになったので、手早くお金が稼げるような依頼を求めてたら、丁度一浪さんと会ったのだ。


「ありがとうねー、これ、報酬の金貨♪ また利用してねー」

カウンターの隅の方で依頼完了を受け付けてくれるお姉さんが、私達の提示した狩りの証拠『ハウンドキメラの毛皮』の枚数を数え終えて、報酬をどん、と、カウンターに置いてくれる。

「はい、ありがとうございます」

私はそれを受け取って、お礼を言ったら終わり。

運営さんとかと違って、あんまりお喋りとかはしない。


「一浪さん、これ、一浪さんの分の取り分です。付き合ってくれてありがとうございました!」

壁際のテーブルで待っていた一浪さんのところまでいって、受け取った報酬の半分を渡す。

あらかじめ半分こしようって決めてたのだ。

「おー、結構良い金になったなー。これで少しは美味いものが食えそうだな!」

「ふふっ、そうですね。一浪さんのおかげで助かっちゃいました」

一浪さんも上機嫌。私も上機嫌。

私一人だけで受けられる依頼と比べて、今回の依頼は結構割高。

二人で分けっこしても、そういうのを受けるよりずっと金銭効率が良い。

前衛のありがたさっていうのが良く解るなあ、と、しみじみ付き合ってくれた一浪さんに感謝する。


「ま、俺もソロばっかじゃ飽きるからな。たまにPT狩りやらないと、動き方忘れちまうし」

そのまま、打ち上げみたいな感じで二人、飲み物を頼む。

私はカフェオレ。一浪さんはジンジャーアワー。

「ドクさんが居れば俺が手伝う事もないと思ってたから遠慮してたけど、ドクさんも毎回面倒見るってわけにはいかないだろうからな。一人で厳しいところとかあったら、一声かけてくれれば付き合うぜ?」

ぐぐ、と、飲んでぷはー、と、二人してほっと一息。

一浪さんは楽しげに笑いながら、そんなありがたい申し出をしてくれる。

「はい。何かあったら、またお願いしますね」

頼りきりはよくないかなって思った事もあったけど、最近では、逆に頼らずに変なことして怪我して帰るほうが皆を心配させるんだってわかったので、困ったことがあったら素直に周りに頼る事にした。

今甘えてる分は、いつか一人前になった時に皆に頼られるようになって返せば良いんだっていう精神で。


「そういえば、一浪さんって結構フォロー上手かったですけど、色んな人と狩りに行ったりしてるんですか?」

普段はあんまり一浪さんと狩りにっていう事がないので忘れがちだったけれど、一浪さんはいつも一人でどこかに行ってるようなイメージがあったので、その辺り気になる。

「あー、一人だけだと飽きるから、前は頻繁にPT狩りしてたな。誰かって決めてるわけじゃなく、こことかで、なんとなく気があった奴と組んで遊んだりしてたぜ」

あれはあれで楽しかったな、と、思い出しながらに一浪さん。

なんていうか、結構一浪さんはコミュニティの幅広そうだと思ってしまった。

「でも最近はもっぱらギルドの人と狩りするのが中心かねぇ。ソロ以外だと」

「ギルドの……? ドクさんとかとですか?」

「ドクさんともたまにあるけど、一番多いのはセシリアとだな。俺、セシリアほどじゃないけど寝る時間がずれ込む事あってさ。そういう時はセシリアと組むんだ」

ちょっと意外に感じられたのは、普段あんまり話してる所を見ない組み合わせだからなのかもしれない。

「セシリアさんと狩り……いいなあ」

ちょっと憧れてしまう。戦うセシリアさんはかなりカッコいいから。また見たいなあ、なんて思ってしまう。

「あの人はほんと戦ってるところカッコいいからな。普段はぼーっとしてるけど、動くとサマになるっていうか。誤爆もまずしないし、頭使ってプレイしてるんだろうなっていうのは魔法よく知らん俺でもなんとなく解る」

「そうなんですよねー……範囲魔法とか、使い始めてセシリアさんがどれ位計算を瞬時にできてるのかとかが解ってしまって……はあ、いいなあ」

あんな感じになりたい。見た目も含めて。


「そういえば、マルタさんってどうなんですか? ハンターなのはわかるんですけど、私、ギルドに入って少ししたらいなくなっちゃったから、どういう狩り方をしてる人なのか気になります」

私が初めてあのたまり場にいった時も居たマルタさん。

話した事もほとんどなくって、実はどんな人なのか良く解ってないのだけれど、気になってはいたのだ。

「マルタか? マルタは……一言で言うなら『ノーコン』だ」

「の、ノーコン……?」

冗談かな、と思ったけれど、一浪さんは真面目な顔のままだった。本気らしい。本気らしい。

「なんか、弓構える時にいつも手が震えちまう悪い癖があるらしくて、あらぬ方向に矢が飛ぶことがすごく多いらしい」

「そ、それって……弓職(きゅうしょく)としてはかなり致命的なんじゃ」

ハンターっていうのはレンジャーの上位職。

レンジャーは弓を使うのが得意な職なので、ハンターも当然弓で戦うのがメイン……と聞いていたのだけれど。

では、その弓が扱えないマルタさんはどうやって狩りをしているのか、っていうのが全く想像できない。

「まあ、レンジャー時代は相当苦労したらしいけどな。ただ、ハンターって弓だけじゃなくてさ、ナイフとか罠とか色々なんでもありな面があるから、意外となんとかなってるらしいぜ?」

「は、はあ……罠ですか?」

「ああ、獣用の罠な。クマバサミとかトラバサミとかトカゲバサミとか色々あるけど、そういうの使うのが上手いって前にドクさんから聞いた」

罠って聞くとなんとなくすごく物騒な気もするけれど、獣相手にしか使わないのなら大丈夫なのかなって、無理矢理自分を納得させる。

たまり場にいたときも、そんなに剣呑な感じはしなかったし。

どちらかというと大人しい人っていう印象だった気がする。

「あいつ自身はノーコンって言うとすごく怒るから言わない方が良いけどな。言うと結構怖い事になる」

「怖い事……?」

「前に冗談でからかってたドクさんは、口の中にクマバサミ突っ込まれそうになって必死に抵抗してなんとか事なきを得ていた」

「う、うわあ……うわあ……」

想像以上にバイオレンスな怒り方だった!!

「ドクさんですら本気で焦る位にヤバいから、まあ、サクヤなら言う事は無いだろうけど、うっかり言おうとしてる奴がいたら上手く言わないようにフォローしてやってくれな?」

頼むぜ、と、爽やかにウィンクする。

一浪さん、こういう所は気遣い出来る人なんだなあって思えるのだけれど。

なんでこれが他の人の前だと上手く行かないのか不思議でしかなかった。


-Tips-

いぬいぬねこいぬ (場所)

リーシアの西二つ目の位置にある森林地形の初級~中級狩場マップ。

その名の通り犬系モンスターと猫系モンスターが生息している犬と猫の楽園である。


割合としては犬系7割猫系3割に偏っているが、モンスターの勢力としては猫系の方が強く、二種類とも性質が大人しいものの犬型モンスター二種よりも手ごわい。


全体的にモンスターがまとまった数出現する傾向が強いため、前衛・後衛共にソロプレイヤーにとっては難所である。

反面パーティープレイ初心者ばかりでもとりあえず複数人いれば対処可能なモンスターしかいないのと、どのモンスターもそれなりに価値のある毛皮を必ず落とす事もあり、初期のパーティー狩りの場所としては申し分ない。

主なモンスター:ハウンドキメラ、ストレイトドッグ、芋猫、マギカハット

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