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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
3章.広がる世界(主人公視点:サクヤ)

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#1-2.バトルマスターは絡め手に弱い

 黒猫の砦へと攻撃を仕掛けるドミニオンズのメンバーは、バトルマスター三人にソードマスターが一人という構成。

完全に攻撃特化。しかもバトルマスター三人が揃って重装備で、すごく強そうな厳つい人たちなのだ。

これはまずいかも。流石に負けちゃうんじゃないかなあ、なんて思ってしまう。


「いくぞ、目指すはクリスタルただ一つ! 古参ギルドの底力、見せてやれ!!」

「おぉぉぉっ」

「やってやる! やってやるぞ!!」

「黒猫なんざ叩き潰してやるぜぇ!!」


 リーダーはソードマスターらしくて、その掛け声に鼓舞されてバトルマスター達は武器を掲げ、声を張り上げる。

がちゃりがちゃりとした金属のこすれる重い音が、どこか軍隊チック。

砦の構造自体はさっきと同じ感じで、だけれど、ドミニオンズの前衛が立っていた場所には誰も居ない。

人数の差が、攻撃側にとって有利な運びとなってしまっていた。


 そうしてクリスタルのある部屋の手前。

ここにきて、ようやく立ちはだかる黒猫のメンバー。


「あっ、ローズさん……」

「あいつが防衛に回るなんて珍しいな。ドロシーめ、狙って(・・・)やったな?」


 攻撃の時は違うバトルマスターの人が立っていたけれど、防衛に回ってたなんて。

今までの対戦を見ていて、バトルマスターっていうのは攻撃サイドに出る事はあっても防衛サイドで出ることは全く無かったので、その辺り驚かされてしまう。

ドクさんは、それとは違うところで何か楽しげに笑っているけれど。


「ふふん、来たわね! 悪いけど、ここは通さないわよ!!」


 狭い通路での対峙。

ローズさんは左手に斧、右手にライトシールドという軽装で、重厚な黒鎧のバトルマスターたちを睨み付ける。

対して、相手方バトルマスターは三人で横並び。ソードマスターを守るつもりのようだった。


「ふん、攻撃に回っていなかったからまさかとは思ったが、本当に防衛で出てくるとはな!」

「お前もタクティクスでは名が知れてるだろうが、俺達だってちょいと名が知れてる」

「『ドミニオンズの黒壁』の力、味わわせてやるぜぇ!!」


 黒ずくめの戦士三人が、一斉にローズさんに襲い掛かる。

その隙にリーダーのソードマスターは声も無く走り、脇を抜けていこうとした。


「あっ――ぐげっ!?」


 しかし、それは叶わず。

相手方ソードマスターは、突然足に何かを受け、その場に転倒してしまった。


「なっ、これは――トラバサミ!?」

「ふふん、行かせないって言ったでしょ?」


 転倒したソードマスターに「してやったり」と言わんばかりの笑みを見せ、ローズさんは自身の前に立つ三人に集中する。

相手方は三人とも巨大な両手剣に、巨大なシールド持ち。

両手持ちの武器や盾を片手で持っているのだ。すごい怪力だと思う。

対してローズさんの武器は片手持ち用の斧一本。攻撃面では、どうしても不利に見えてしまう。


「ど、ドクさん、これ――」

「黙って見てな。こないだ俺が勝ったのが、どれだけすごい事だったのかってのが良く解る」


 心配してドクさんを見てしまうけれど、ドクさんは一切視線を逸らさず、じ、と、ローズさんを見続けていた。

私も、その雰囲気に呑まれ、視線を戻す。


「おりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

まず二人が襲い掛かる。

人と同じくらいに大きな両手剣が難なくフルスイングされて、ローズさんを狙うけれど、そこにはローズさんはいない。

「ふっ――」

小さく息を切り、ローズさんは男二人の懐、直近まで入り込んでその斬撃をかわすと、下段から斧をそして盾を、前に立つ二人に向けて突き出す。

「ぐべぇっ」

「ぐぅっ!?」

斧を受けそうになった右のバトルマスターは盾で防いだけれど、もう片方のバトルマスターは盾を顔面に受けてしまい、のけぞってしまう。

「――りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

そして、この二人に負けないくらいに大きな声で叫びながら、のけぞった方に向けて斧の一撃を叩き込んだ!

「――やらせるかよっ!!」

金属のはじける音。やった、と思ったタイミングでの割り込み。

残り一人が、盾を前に突き出しながらローズさんの一撃を受けきり、仲間の窮地を救っていた。


「ちぃっ……」

舌打ちしながら、ローズさんはそのまま迫ってきた盾をかわす為に一歩後ろへ飛び――腕の盾を放り投げた。

直後、腰にぶら下げた鞘から斧を抜き取り、二斧流(にふりゅう)に。

「ふん、攻撃特化装備にしたって無駄だ!」

「俺達のこの連携、付け焼刃と思うなよ!!」

「我らの連撃は、広い空間でも十分に活きるものだ。ここで勝利をもぎ取り、フリーバトルでもお前を倒してやる!!」

三人が三人とも、勝ちを確信しているように見えた。

ローズさんも頬に汗するけれど、表情そのものは崩さない。

「――馬鹿言わないでよ。もう勝った気でいるわけ?」

そして挑発。駆け出す。


「ふんっ、ならば受けてみるが良い!!」

「おりゃぁぁぁぁっ!!」

「ふんぬぁぁぁぁぁっ!!!」

巨大な黒い壁が、ローズさんを待ち受ける。

一人は盾を、そして二人は剣を前に、一気に近づいてきたローズさんに襲い掛かるのだ。

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

それを、一際大きなクライを発しながら、両手の斧で受け切るローズさん。

ぐぐ、ぐら、と、揺らぎ――そして、信じられない事に、一人の力でそれを押し返していく。

「ぬぐっ……そ、そんなっ」

「おおっ、女の力が、どうしてこんな――」

剣で押し返そうとする二人が、しかし驚愕の色を見せながら、徐々に押し返されていく自分の剣を見つめる。

「――馬鹿じゃないの。ここは理想の世界、『強くありたい』って願えば、どこまででも強くなれる!」

「おっ、俺達の努力がっ、お前に負けたって言うのかよ!?」

「努力なんて言葉使うな!! 好きなことやって強くなってるんだ! 笑ってやってみせて当たり前でしょ!!」

声のままに押し切り、そのまま片方に蹴りを見舞うローズさん。すごい、一人で二人分を押し切った!!

「ぐぬっ――く、くそがぁぁぁぁぁっ!!!」

だけれど、男の人三人相手なのだ。そう簡単には倒れてはくれない。

すぐに姿勢を戻して、ローズさんに再び。そう、再び襲い掛かるように見えた。

けれど、それは無理だったのだ。


「――いい加減に、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

頭上と右側面、双方向に振りかぶられたローズさんの斧が、一気に振り下ろされていく。

『エリアル――バッシュ!!』

斧による強打撃連携技。

直撃のインパクトをそのまま、ぶつけた反動で更に斧を振り上げ、次のインパクトへと繋げていく。

「ぐっ――ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!?」

一人がそれを受けてしまう。

構えたはずの盾が、身を守るはずの鎧が、一瞬でぐしゃぐしゃにひしゃげて、胸が、おなかが露になってしまう。

そしてその『無理矢理作られた弱点』に、強引に斧の一撃を叩き込んでいくのだ。

耐えられるはずも無い。一人はそれで倒された。


「――次っ!!」

「ちっ、ちくしょ――」

「よくもガディをっ!!」

一人がやられて、途端に顔色が変わる相手方のバトルマスター。

だけれど、ローズさんは構わず襲い掛かり、二人同時に繰り出された攻撃をまたも片手で受け切る。

「ワンパターンね? これしか練習してない?」

相手を押し込みながら、左足を軽くあげて――床に転がっていたライトシールドが踏みつけられ、真上へと跳ね飛ぶ。

「ふざっ――けっ!?」

下から煽られて歯軋りしながら力をこめようとした男の顎に、丁度シールドの縁の部分が直撃。

喋ろうとしていた所為で舌を噛んでしまい、悶絶するバトルマスター。

「くぉっ!?」

それによって片手に余裕が出来ると、その余力を、まだ受けたままだったもう片方へと回す。上手い。一対一に持ち込んだ。

「――終われっ!!」

容赦なく、横から斧が叩き込まれる。

一回、二回……相手も三回目までは耐えたけれど、それ以上は無理らしく、飛び退こうとする。

「がっ――あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

けれど、足下にはトラップ。

今気付いたけれど、砦の床のいたるところにトラップが設置されていた。

リーダーのソードマスターもそうだけれど、このバトルマスターも足を取られ、転倒してしまう。

「あがっ――ぎゃひっ!?」

更に運の悪い事に、このバトルマスターは倒れた拍子に別の罠にまで突っ込んでしまって……顔や腕に、トラバサミや飛んできた矢などが振りかかり、悲惨なことになってしまった。


 こうして、舌を噛んで悶絶していたバトルマスター以外は沈黙。

その一人も、未だに口元を押さえて動けずにいた。

「これで――ラスト!!」

「ぐびぇっ――」

構わずに振るわれる斧。防御姿勢すらとれずに、バトルマスターは驚愕の表情のまま喉元を切られて――そのまま消えた。


 けれど、まだゲームセットにはなっていない。

まだ一人残っているのだ。最初に罠を踏んだソードマスターが。


「ちくしょ――こ、ここさえ抜ければ、抜けられれば――」

皆の注意がバトルマスター同士の激しい戦いに向いていたので気付かなかったのだけれど、このソードマスター、なんとか罠を抜けてローズさんのところから離れたらしかった。

ソードマスターの対クリスタル攻撃力はかなり高いらしい。

突破されてしまうとかなりまずいことになるはずなのだけれど――ちら、と隣を見ると、ドクさんはやはり真剣な様子で会場を見ていた。


 そして、直後、歓声が上がった。

驚いて会場を見ると、画面には胸に矢の突き刺さった相手方ソードマスターの姿。


「なんでだ――なんで、ハンターが、タクティクスギルドに――」

画面には映っていないけれど、どうやら画面外から狙撃されたらしい相手方のソードマスターは、それがトドメとなって倒れ、消滅した。


『――ゲームセット。ブラックケットシー、防衛成功!! これにより三回戦突破は、ブラックケットシーに決定しました!!』


 司会の女の子がアナウンスすると、会場から一際大きな歓声があがる。

それが次第に波になって、私達のいる席にも襲い掛かってきた。

「わ、わあ……」

「ふふん、まあ、こんなもんだな」

勝利して片手を挙げるローズさんを見て、ぞくりと来る不思議な感覚。

ドクさんはというと、なんだか誇らしげで、口元なんかは優しく緩んでる。

あんなにローズさんの事を鬱陶しがってたのに、活躍するのは嬉しいみたいで。

なんとなく、この人は他の人のことを嫌いになりきれない人なのかな、なんて思えてしまった。



「すごい戦いでしたね……」

「中々面白かっただろう? 何せ公式イベントだからな、本気で参加してる奴も多いし、その分だけ迫力がある」

その日の対戦が全て終わり、余韻に浸りながらも会場を後に歩いていた私とドクさん。

ほう、と、お腹の中から力が抜けていくのを感じて、ちょっといい気持ちになってしまう。

「黒猫、次の対戦が準決勝なんですよね? 来月かあ……」

「見たいか?」

「見たいです! だって、すごく気になりますし!」


 すっかりあの迫力にハマってしまった気がする。

だってすごいのだ。すごいっていう言葉でしか言い表す事が出来ないのが勿体無いくらいに、活き活きとした、人と人との闘いというのがそこにあった。

ああいうのを真剣勝負って言うのかもしれない。

決着がついたあの瞬間、ドクさんの方をちらっとだけでも見てしまったのを後悔したくらいに、一瞬であっても目を離せない、そんなドキドキの瞬間が詰まった世界なのだ。


「そうか、ならまたドロシーに聞いておくか」

ぐぐ、と背伸びしながら、ドクさんはちょっと楽しそうに口元を緩める。

そういえば、今回私がタクティクス戦を見る事が出来たのも、ドクさんがチケットを貰ったから、という事なのだけれど。

「もしかして、今回ドクさんが貰ったチケットって――」

「ああ、ドロシーが『良かったらどうですか?』って寄越してきたからな。いつもならあんま興味ないから断ってたんだが、サクヤには色々知って欲しかったから今回だけのつもりで貰ったんだ」

「チケット……結構頻繁に貰ってたんですか?」

黒猫はシルフィードとは友好的な関係にあるらしいし、そういう事もあるのかな、位に思ったのだけれど。

でも、頻繁に貰ってたならこれからも見られるのかな、なんて、ちょっとだけ期待もしてしまう。

「あんまつまらん対戦相手の時は流石に寄越さないが、今回みたいに相手が強豪だとか、準決勝、決勝くらいになると見せ場だからな。そういう対戦の時は必ず招待してくれてたな」

「さっきので強豪だったんだ……」

黒猫相手にかなりコテンパンにされていたドミニオンズ。

確かにバトルマスターとかソードマスターとか、上位職の人ばかりで構成されていたけれど……そんなに強い人たちには見えなかったのは、それだけ黒猫が強かったからなのかな、なんて、ちょっと考えてしまう。

確かに、ローズさん一人で三人相手はすごかったけれど。

「ドミニオンズは毎回準決勝か決勝くらいまで上がってくる位には強い奴らだぞ? 黒猫相手以外なら勝率8割以上維持してる」

「そんな相手なのに、あんな一方的な展開になっちゃうんですね……」

「戦術がモノを言うイベントだからな。個々の質は当然重要だが、メンバーひとりひとりの装備一つに至るまで勝敗を大きく分ける鍵に成り得るから、ただ強い奴ばっか集めればいいってもんじゃないんだ」

そういえば、黒猫防衛の時にローズさんが守りに回ってて相手が驚いてたのを思い出す。

ドクさんも何か意味深な事を言ってたし、ああいうの(・・・・・)が勝敗を分ける鍵になるのかもしれない。

「ただ目の前の敵を倒してクリスタルを割るだけのイベントとかではなかったんですね……」

「ルール自体はシンプルだが、鉄板の構成みたいなのが存在しないからな。相手の構成や作戦次第で人数差や多少の質なんかが簡単に覆されちまうし覆せちまうから、結構頭使うらしいぜ?」

ドロシーの受け売りだが、と、ドクさんは説明してくれるのだけれど、それだけだとなんとなくすごく難しい気がする。

面白そうだとは思ったけれど、私にはまだ早いのかもしれない。

見ている分にはとても楽しく見られるのだけれど……


「ま、興味があるならドロシーが来た時にでも話を聞けば良いが、ただ対戦が見たいっていうだけなら次からはチケットもらっておく事にするか?」

「そうですね。お願いします!」

詳しく知るには私にはまだ色々足りなさ過ぎる気がする。

上位職の人たちの役割とか、スキルだとか、そういうのが詳しく解って来たらより楽しめる気がするし。

でも、それよりは今は、黒猫の人たちの活躍が見たいという気持ちの方が強いのだ。


 こうして、ただ漫然と過ごすだけだった日々に、待つのが楽しみになるイベントが追加された。



-Tips-

ドミニオンズ (ギルド)

ギルドマスター:レイド(ソードマスター)

カルナスに拠点を置くタクティクス系の大手ギルドの一角で、毎回決勝・準決勝まで上るほどの強豪ギルドである。


常に30人ほどのメンバーが常駐してるほか、協力・提携ギルドが複数存在し、ボス狩りや高難易度マップ等では数の暴力によって絶大な威力を誇る。

タクティクス戦においてはギルド内トップ3の実力を持つ三人のバトルマスター、通称『ドミニオンズの黒壁』による一点突破が得意戦術。


ギルドとしてはメンバー間の雰囲気重視であり、タクティクスギルドである事よりは大所帯の『仲間』の集まりである事を重視している為、メンバー間の仲は非常に良好であると言える。

新人や初心者には務めて優しく、丁寧に教えるため、新規加入者や希望者も多い優良ギルドであると言われている。


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