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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
12章.ネザーワールドガール(主人公視点:マルタ)

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#5-3.策士・エルフガール


 そのままここでお別れ、という流れでもいいのだけれど、気になった事があったのを思い出したので、そのまま聞いてみる事にする。


「それはそうと運営さん、最初の頃に巨大なヘヴィランサー……のような動物を見かけたのだけれど、何かご存知?」

「巨大なヘヴィランサー……ああ、『ヘヴィラム』ですかね? 見かけたんですか?」

「見かけたというか、一度それによって殺されかけたというか」

「うわ……よく生きてましたね。あれ、文句なしに超一等級の狩猟動物ですよ」

「生きていたのはお守りのおかげだけれど……そう、やはりあれは超大物……」

「はい。今のところ狩れた人がいない、という情報までついてきてます。生半可な弓矢では弾かれるくらいに堅いらしいですし」


 つまり、真っ当に戦うべきではないレベルの強敵、という事。

こういうのは(から)め手が弱点と相場は決まっているけれど、果たしてあの化け物相手には、その搦め手ですらどこまで通じる事か……思考の余地があるので楽しめそうではある。


「そっかー、ヘヴィラムがここにいるんだぁ……うーん、ちょっと気になっちゃったなあ」

「でも運営さんは帰るのでしょう?」


 少し暴れたら帰ると言っていたのに、ヘヴィラムの話を聞いた途端これである。

エルフという種族にも、ハンター同様に狩猟本能が芽生えているという事だろうか。

今では悩ましげに胸の下で腕を組んでうんうん呻っていた。


「迷っちゃいますねえ……帰るは帰ります、けど……あーでもなあ、超大物ってどんなのか、すごく気になる……!」

「気持ちはわからないでもないわ」


 この子と同調する事があるなんて夢にも思わなかったけれど、実際、超大物と聞けば恐怖心よりは好奇心が優先されてしまうのは、私達(・・)の中では何も不思議なことではない。

それが未だ誰にも狩られたことの無い化け物だというなら、尚の事一度は見てみたい、できれば自身の手で仕留めたいと、そう願ってしまうのも無理はないはずだった。


「と、とにかく、準備もないので今日は帰りますし、明日はたまり場回りもしないといけないので無理ですけど……でも、もし、もしそれ以降も生きてるようなら、戻ってくる……かも!」

「そう。その間に狩られていないと良いわね」

「うぅぅ……気になる。気になるなあ」


 そんな状態になっても一応は運営さんとしての立ち位置を優先する辺り、本当に職務には忠実な人だった。

でも、私自身、ヘヴィラムという化け物を倒せる状況をイメージする事すらできていないけれど、これで運営さんは遠からずまたこのマップに現れ、ヘヴィラムを捜すようになるはず。

真上からの誤射には気を付けないといけないかもしれない。


「あ、そうだ、一つだけ言い忘れてました」

「……?」


 離す事も話したし、これでもう終わりかしら、と別れを感じていたのだけれど。

運営さんも運営さんで言い忘れがあったらしく、ぴ、と手を前に出し、そして真顔になって一言。


「来週の話になりますけど、結婚システムが正式実装されるらしいんです。テストから実装まで一月も掛からないなんて、すごいですよね」

「結婚……システム?」

「はい。ドクさんがゲームマスターに掛け合って実装してもらう事になったっていうアレですね」

「ああ、そんな話もあったわね……」


 セシリアさんも巻き込まれたメイジ大学の一件。

アレの解決時にドクさんがゲームマスター・パンドラと出会い、願いを叶える事を約束されたのだとか。

その内の一つが、正式に運営サイドによるアップデートが起きた際に、プレイヤーに伝わるように告知する事。

これは既に実装されていて、リーシアなど主要な都市や集落の中心部には逐一アップデート内容を伝える掲示板が設置されている。


 もう一つ、ドクさんが願ったのが、今回の『システムとして実装された結婚式』、という話になるのだけれど。

今一、運営さんがそれを私に伝えてきた理由が解らない。

解らないので待っていると、ドヤ顔で説明を始めてくれる。相変わらず便利な子だった。


「それで、実装直後、一番最初に結婚する予約を、なんと一浪さんが獲得したらしいのです!」


 一番ですよ一番、と、テンション高めに語ってくれる。

いや、確かにすごいのだけれど。

すごいのだけれど「一浪君何やってんの」という気持ちも湧いてしまう。


「ミズーリさん、まだ返事してなかったわよね?」

「えーっと、そうなんでしたっけ? えへへ、その辺の事情は解んないですけどぉ、一浪さんが『予約取れたぞー』ってはしゃいでいたのはたまり場で見ました」

「……一浪君は成長しないわねぇ」


 ため息が漏れる。

これはアレだろうか。またミズーリさんが拒絶反応を示して、一浪君が絶望の淵に立たされたかのような顔をするのだろうか。

あれはたまり場の雰囲気が悪くなるだけだからやめて欲しいのだけれど。

一浪君はたまにこうやって相手の気持ちを考えずに暴走してしまう悪癖をどうにかすべきだと思う。


「再会できたときにプロポーズして保留にされたままだったのに、なんで保留されているのかも考えられないなんて、困った人だわ」

「そうだったんですか? 私、てっきりミズーリさんがプロポーズをお受けしてそうなったのかと……」

「何か変化が起きたとかではない限りはね……まあ、それはおいおい解るとして」


 来週の話というなら、たまり場に戻った時にでもそれとなく話で聞けるようになるはず。

戻った時に一浪君の表情が明るければ結婚はそのまま進むという事になるし、打ちのめされたような顔をしていたならきっとそういう事。

どちらでも楽しめると思えば悪い事でもない気がする。

後者だった場合、きっとプリエラやドクさんが骨を折る事になるのだろうけれど。


「それなら尚の事、来週までには片を付けないといけないわね」


 元々一週間の滞在予定だったけれど、これで確実なものとなる。

あと数日、その内にあの化け物を狩れるか否か。

場合によっては死ぬかもしれない可能性も考えて、色々とイメージする必要が出てきた。


「マルタさんも狩るつもりなんですね? ヘヴィラムを」

「……そんな気がしてきたわ。運営さんに焚きつけられたかしら?」

「うぇぇ、焚き付けてはいませんよぉ。人聞き悪いですねえ」


 線目になりながら「うふふふ」と笑いだす辺り本心はどこにあるのか怪しいものだけれど、まあ、いい。

運営さんも狙うつもりだろうし、中々に楽しい狩猟期間になりそうだった。



-Tips-

精密射撃(スキル)

エルフやアーチャー系最上位職のプレイヤーなどが習得する事の出来るスキル。

数秒の間命中精度を大幅に引き上げる事が可能となっている。

長距離射撃や狙撃、速射などとも相性が良く、連続して狙いを一点に絞る事もできる。

スナイパーの『コンセントレーション』と併用する事で更に高い効果を狙う事も可能。


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