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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
3章.広がる世界(主人公視点:サクヤ)

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#1-1.タクティクス・ギルド

 月末の夜は、熱狂が待っていた――


『――では、三回戦、ブラックケットシーVSドミニオンズ、ブラックケットシー先行で始まります――』

自分の顔よりも大きな拡張機のようなものを手に、司会進行役の女の子がイベントを進めていく。


「やれぇぇぇっ、リーシア最強の力を見せてやれぇぇぇぇっ!!!」

「頑張れよドミニオンズ! 俺はお前らに金貨百枚賭けてるんだ!!」

「やっちまえドミニオンズの黒壁ども!!」

「黒猫さんがんばれぇぇぇっ」


――声援もすごい。

観客席の両脇から、波打ったように大きな声が会場へと向けられる。

そんな観客の人たちの視線は、試合会場となっている砦に釘付けになっていた。

勿論私もそちらばかり見てしまう。


 タクティクス会場となっている砦はこのイベントの為に特別に用意されたもので、それぞれ最奥に『オブジェクトクリスタル』という緑色の巨大な結晶石が設置されている。

これを壊すのが『タクティクス戦』っていう、つまり私たちが見ている定期イベントの主な概要なのだと、私の隣に座るドクさんは説明してくれた。

スポーツ感覚で、だけれど真剣勝負でプレイヤー同士が、ギルド同士が戦う、手に汗握るイベントだった。


 参加ギルドは攻撃フェイズと防衛フェイズに分かれて、それぞれ先攻・後攻で割り振られた順番に相手の砦を攻撃する。

タクティクスには人数制限があって、更に攻撃・防衛どちらかに参加したメンバーはもう片方には参加できないような仕組み。

防衛側はクリスタルを破壊されたり防衛メンバーが全滅したら防衛失敗で負け。

攻撃側を全滅させたり、二十分間クリスタルを守りきれれば防衛成功で勝利。

攻撃側はクリスタル破壊成功や相手の全滅で勝利、攻撃メンバーの全滅や制限時間内でのクリスタル破壊失敗が敗北要件となる。

お互いのギルドの勝ち負けの数の多さで競い、同数だった場合は障害物が一切無くなった『フリーマップ』での正面対決にて決着をつける事になるのだとか。



 司会の子が言っていた通り、まずは黒猫の先行らしく、狭い通路と障害物だらけの砦の中を黒猫の人たちが走っていく。

その中にはこの間たまり場にきていたドロシーさんもいて、相変わらず黒猫耳と猫尻尾をつけた格好のまま他のメンバーと一緒に駆けていたのを見て、ちょっと吹きそうになってしまった。

流石に黒猫とは言っても、ギルドの人全員がそんな格好をしている訳じゃないのはちょっと安心したのだけれど。


「アーチェ、突撃準備」

「お任せください!!」

「デアボリカ、マルシコフ、五分耐えて頂戴」

「お任せあれ」

「ふふっ、耐えるどころか蹴散らしてご覧に入れよう」

「マリーとゲラフはアーチェが敵の陣形を崩してる間に突入。一瞬の隙に備えて頂戴」

「あいよー」

「ギルドマスターの命であれば!!」


 参加者たちの声は、会場にも響くようになっている。

今のはドロシーさんの声。

相手のクリスタル部屋前に陣取っていた敵を前に、攻撃役の五人に即座に指示を飛ばし、ドロシーさん自身はその場に立ち止まる。

だけれどただ見ているわけではなくて、指示を出すと同時に他の五人の身体にきらきらと光る何かが振りかかっていたので、多分奇跡を展開させたんだと思う。

一度に五人分。しかもほとんどタイムロスなしでと考えると、ドクさんやプリエラさんが使う奇跡と比べても、かなり効果が高いように感じる。


「――突撃!!」


 手に持った杖をピシリと敵陣に向けると、それまで並走していた五人が一気にばらけ、縦列になる。


「うお――んどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 最前列に立つのは青を基調とした鎧を身にまとったバトルマスター。金髪のお姉さん。

巨大な(つち)を手に、相手方最前列のガードナイト達が突き出した巨大な盾に向け振りかぶり――思い切り叩き付けた。


「ぐぁっ!? なっ、なん――」


 これを受けたガードナイトの一人が、盾を持つ手の衝撃に耐え切れず、姿勢を崩してしまう。

これに向けて金髪のバトルマスターが体当たりし、相手方の隊列に隙間を作った。


「――今ですっ!!」


 二撃目を放とうとしながらも、声は後ろの仲間へと向けられる。


「よっしゃもらいぃっ!!」

「ぬるい、温すぎるぞドミニオンズ!!」


 バトルマスターの声を合図に、その真後ろから二人、ソードマスターが飛び出て崩れた相手方前列をすり抜けていく。


「こ、このっ!!」

「いかせるかぁっ!!」

「おおっと邪魔はさせねぇぜ!!」

「てめぇらの相手は俺達だぜ。一緒に泥沼しようぜぇ?」


 敵にすり抜けられた事に気付いて必死に妨害しようとする相手方ガードナイトたち。

だけれど、それに追いすがる事も妨害する事も出来ず、黒猫のガードナイトによって組み付かれ、盾職同士での泥沼の戦いが繰り広げられる。


 そうこうしている間に先に駆けて行ったソードマスター二人が、クリスタルのある部屋へとたどり着く。

ここで残った相手方防衛役二名との対峙となる。

防衛側二名の内、一名がソードマスター。もう一名がプリエステス。


「くそっ、もうここまできたのかよ!!」

「女神よ、我らが敵に天罰を!! 我らが友に御心(みこころ)を!!」


 防衛役のソードマスターが二本のショートソードを手に、駆ける。

それを後方からプリエステスが支援。奇跡を発動させてソードマスターに何かの補助をかけたらしかった。


「ふふん、クリスタルは譲ってやるよ」

「ありがとうゲラフ。任せたわよっ」


 黒猫のソードマスター、一人が大剣を手に相手方ソードマスターと激しくぶつかり合う。

もう一人はというと、少しだけその場で様子を見て、ぶつかり合っている方の人がプリエステスの展開した奇跡の直撃を受けているのを見てからその場を走り抜けていった。

「おりゃぁぁぁぁぁっ」

「――うげぁっ」

直後、ぶつかりあっていた黒猫のソードマスターは姿勢を崩し、斬り捨てられてしまう。

その場に倒れ、どこかへと消え去っていくソードマスター。

「ジェシーっ、クリスタルがっ!」

「やめろぉぉぉっ――」

「――もらったわ!!」

二人の攻撃の間隙(かんげき)を縫ってクリスタルへと取り付いたソードマスターは、上段に構えた大剣を一気に振りかぶり――クリスタルを一撃で粉砕した。



『――ゲームセット。ブラックケットシー、攻撃成功!!』


 直後、表示されていた砦の画面が消え去り、司会の声が会場に響く。

ほとんど止まる事無く進んでのクリスタル破壊。

他のギルドの戦いなんかだともっと防衛側も攻撃側ものたのたとして時間がかかるものなのに、黒猫の戦いはテンポが速く、見ていて爽快にすら感じてしまう。


 思わず「ほう」と息をついてしまう。黒猫、強い。


「大したもんだろ。リーシア最強タクティクス系ギルドの腕前ってもんは」


 隣に腰掛けるドクさん。どこか嬉しそうだった。

うんうんと頷きながら、私の方も見ずに黒猫の人たちを見て笑っていたのだ。


「本当、すごいです。かっこいいなあ」


 私も素直に頷く。人間同士の戦いなんてちょっとやだなあって思ってたけど、スポーツとしてみるととてもカッコいいのだ。

倒された人は消えてしまうけれど、画面外に飛ばされるだけで別に死ぬ訳ではないらしいし、その辺りも安心できる。



「さ、後半戦だ。今度は黒猫が守り手側だな」

「人数制限を考えると、防衛側に回るとちょっと不利なんですよね、黒猫……」


 後半戦は、黒猫の防衛している砦に、相手方のギルド『ドミニオンズ』が攻め込む番。

黒猫は攻撃時に六人出してしまっている。全体の人数は八人までと制限されているので、後二人しか出せない計算。

対してドミニオンズは、防衛に四名、つまり攻撃側にも四人出せる計算。


「ま、あいつらならなんとかなるだろ?」

「はあ……そうなんですか?」

「そうなのだ」


 黒猫は、倍の人数相手に立ち回らなければいけないことになるのだけれど。

大丈夫かなあ、と心配している私を他所に、ドクさんはどこか自信満々な様子で腕を組んでふんぞり返っていた。

それ以上何か聞くのもなんなので、私も会場に向き直る。

後半戦が、始まる。


-Tips-

タクティクス戦 (イベント)

『えむえむおー』世界内で月に一度繰り広げられる公式イベント。

『ギルド戦』『タクティクス』などと呼ばれる事が多く、これに参加するギルドは一般的に『タクティクス系』と呼ばれる。


基本的にイベントはトーナメント形式で行われており、各参加ギルドは一試合ずつを月一で行っている。

ギルドシステム実装と共に実装されたイベントで、それなりに伝統のある、定番のイベントとして、参加者・非参加者ともにこれを楽しみにするプレイヤーも多く、度々発生する白熱した試合は人々を熱狂させる。


試合形式ギルド対ギルドの一対一で行われ、対戦者双方のギルドにあてがわれた砦を活用してのクリスタルへの攻撃・防衛それぞれのフェイズにて、勝ち点を多く取った方の勝利となる。

参加可能な最大人数は八人であるが、一方のギルドが攻撃をしている間はもう一方は防衛参加者のみが参加できる仕組みで、攻撃に参加した者は防衛に参加できず、またその逆も同じである。

これによって決着がつかなかった場合、障害物0、参加者全員配置で正面からぶつかり合う『フリーバトル』へと移行し、残った方が勝利となる。


尚、優勝以下三位までのギルドメンバーは公式より特別マップ(南の島・公式特製超高難易度ダンジョン・異世界風の街などからランダム)へ期間限定で強制的に転送されるほか、特別参加賞が進呈される。

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