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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
プロローグ.シルフィード (主人公視点:ドク)
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#2-2.上級者と中級者による容赦なき乱獲

「――なあドクさん。俺思ったんだけどさ」

二人、装備を整えリーシア西の森へ。

初心者でも安心安全な狩りマップに到着した訳だが、一浪は早速何事か気になる様子だった。

「その格好は何なんだ?」

どうやら俺のファッションが気になるらしい。

「何って、短パンにアロハシャツ着てサングラスつけて釘バット持ってるだけだぞ?」

「意味わかんねーよ!?」

どうやら一浪には俺の崇高なファッション感覚が理解できないらしい。

「あんたバトルプリーストだろ!? 聖職者ジョブだよな!? 司祭だよな!?」

「ははは、何を言ってるんだ兄弟。どこからどうみてもイカした司祭だろう?」

「イカレたおっさんにしかみえねーよ!」

一浪は辛辣(しんらつ)だった。おっさんって。おっさんて。

「ていうか狩場でその装備はどうなんだよ……いくら初心者マップっつったって、殴られりゃ痛いんだぞ?」

かくいう一浪はこんなマップで軽鎧、膝当(ひざあ)てやグリーブまで装備していた。厳重すぎる。

「お前こそ初心者マップで何狩るつもりなんだよ。運営さんの依頼じゃあるまいし」

俺からしてみれば一浪の方がビビリに見えて仕方が無い。

「喰らったら痛いだろ。本当ならバックラーも欲しい位だ」

「攻撃なんて喰らわなきゃいいんだよ。お前だってここの敵の攻撃位余裕でかわせるだろ?」


 当たれば確かにどんな雑魚の攻撃でも痛い。

他のゲームで言う1ダメージ相当でも場所によっては悶絶するほど痛かったりする。

このゲームにおいてプレイヤー本人のしぶとさなどほとんど何の意味も無い。

重要なのは敵の攻撃を確実にはじける強度の防具か、敵の攻撃を確実にかわせる反射神経だ。


 まあ、そんなものは当たらなければいいだけの話で何をこんなに騒いでいるのか。やれやれ、と。

余裕ぶっこいていた俺の顔に、いや、その後ろに向け、一浪はただならぬ様子で指差す。

「――ドクさん後ろっ!!」

「――どりゃぁっ!!」

確認もせずバットを振り回す。鈍い打撃音。

『ピギッ――』

丁度真後ろ、背中の辺りにでかい蝶が襲い掛かろうとしていた。

まあ、釘バットの一撃を受け遠い彼方へと吹き飛んでいったが。

「ふはははっ、俺様大勝利っ」

勝ち誇る俺。

「ゴーストモルフィン位で調子にのんなよ上級者……」

じと眼で距離を空ける一浪。二人の間に流れた空気が寒かった。



「相変わらず反射速度鋭いよなぁ。でも、今ので後ろに居たのが人間だったらどうするつもりだ?」

そのままのんびりと狩りを開始。

幸先良くウサギを一羽仕留めた所で、一浪が足を止めた。

「む? それは決まってるだろ」

もし間違って人間をぶん殴ってしまえば、当然相手は死ぬ。

こう見えて俺は強い。今の一撃は立ち位置的に見ても人間の頭に直でぶちあたるような振り方だった。

ここから一浪の質問に対し答えを導くとするなら――

「まずは埋めるための穴をだな――」

「証拠隠滅するなよ。助けろよ司祭」

一浪は呆れ顔だった。墓場を用意するくらいでは許してくれないらしい。

「俺は回復を使えないんだ。というか奇跡を使えないんだ」

俺には無理なのだ。他の聖職者達のように傷つき倒れた人を癒すこともできなければ、気絶した人を起こすことすらできない。

ただ指をしゃぶって見ているのが俺の役割なのだ。理解して欲しい。

「いいから教会いけよ! あんた何の為に聖職者やってんだよ!?」

「……意外性があるから?」

「今すぐ転職しろ! バトルマスターとかソードマスターとか、あんたならすぐに上位職いけるだろ!!」

「いけるかもしれんがつまらんだろ。俺は聖職者で上を目指したいんだ」

思い切り胸を張ってやった。今の俺はきっとかっこいいはずだ。すごくいい事を言った気がする!!

「……ドクさんと狩りしてると疲れるぜ」

一浪はというと、やけにぐんにょりした様子でため息を吐きながら歩き出してしまう。

自分から話かけた割には身勝手な奴だった。



「まあ冗談はおいといて、ちょっと楽しいじゃんよ。そういう『人のやらない事をやるの』って」

狩りは続くよどこまでも。まとめて五羽のウサギを仕留め、今度は俺が足を止めた。

「解らないでもないぜ。素直に定められた通りに生きるのなんて、リアルだけで十分だしな」

一浪もそれは解ってくれるのか、顔こそあわせようとしないが同意はしてくれた。


 この世界ならロックに生きるのも自由だった。

俺たちには自由がある。何をやっても良いという自由が。

その責任を自分の意思で背負えるという自由が、確かにここにあるのだ。


「俺もリアルじゃちょー真面目だけど、こっちの世界では名うてのプレイボーイ目指してるしな!」

一浪は『ズビシィ』とでも効果音が出そうな位勢い良く親指を立てているが。

「――パン屋の看板娘の尻を遠目に眺めてるだけの奴がプレイボーイとは世の中も変わったもんだな」

「むぐっ――」

俺には一浪は、どちらかというと芸人とか三枚目役の方が似合うと思うのだ。

少なくともこいつがモテている所は想像できなかった。別に顔が悪い訳ではないのだが。

「パン屋の看板娘の尻を遠目に眺めてるだけの奴が――」

「何度も言うなよ! 解ってるよ!! あくまで理想だよっ、良いだろ夢位見たって!!」

一浪は涙目だった。割と本気で夢を見ていたらしい。

なんだかとても申し訳ない気持ちになってしまった。申し訳ないながら笑えてしまった。

「強く生きろよ。夢は……いつかきっとかなうさ!!」

「何良い事言ったみたいな顔してるんだよ!? ちくしょー今に見てろよ!? 超絶美人な女の子彼女にして自慢してやるかんな!!」

儚い希望だった。それが一浪の原動力になるというなら、それもいいだろうと。

俺は素直に頷いてやった。

「ああ、がんばれよっ」

「うわむかつく! すげぇむかつくわその顔っ!! 何笑うの我慢してるんだよ!! いっそ笑えよ!!」

どうやら笑いをこらえていたのがバレバレだったらしい。



 二十羽目を倒したあたりで小腹がすいたので休憩になった。

この間俺の被弾数0。

一浪はぐちぐちと文句を言いながら三回くらい森の雑魚モンスターの一撃を喰らって悶絶していた。

「しかしなんだ、一浪よ。毎度毎度股間にダイレクトアタックとはお前もついてないな」

「うるへー……ほっといてくれ……」

この世の終わりのような顔で跳びまわったり真っ青な顔になってその場で崩れ落ちたりと、その都度全く違う反応を見せてくれたリアクション芸人――もとい一浪であったが、三発目でいよいよ悟りが(ひら)けてしまったらしい。

「明日から一子ちゃんと呼ぶか?」

「つぶれてねーよ!! まだ男だよ!!」

いつもの調子に戻る。どうやらまだ無事だったらしい。つまらん。


「それで……ドクさん、もう討伐二十くらい行っただろ? いくつ集まった?」

「十五個だな。ドロップ率自体は高めなんだが遭遇率が低めなのがネックだな」

「やっぱ数少ないよな。このままイベント突入して、本当にウサギ狩りになっちまったら乱獲されて初心者は狩りどころじゃなくなっちまいそうだけど」

一浪の懸念も良く解る。

運営サイド主宰のイベントともなれば、この地方のプレイヤーの多くが参加しようとするだろう。

何が手に入るのかは解らないが、『もらえるものならもらっておけ』の精神で混ざりたがるはずだ。

「ま、何か対策考えてあるだろ。専用マップ用意するとか、他のモンスターもドロップするようになるとか、色々な」

俺達でもやっててすぐ思いつきそうな難点だ。何かと目聡い運営サイドが気づかないとも思えなかった。

「だといいけどなー。まあ、でもこのまま三十分も狩りすればとりあえずの分は集まりそうだな」

「ああ。さっさと終わらせてプリエラを弄ろう」

「賛成。プリエラからかって遊ぼう」

我らが癒しの天使さまは格好の玩具であった。


-Tips-

始まりの森(場所)

リーシア西にある初心者向けの森林狩場マップ。

生息するモンスターの危険度が低く、初心者が防具無しの素手でうろついても死ぬほうが難しい程度の難易度の為、一日を通して狩りに励む初心者の姿を見る事が出来る。

主なモンスター:ミニワーム、まるキノコ、ゴーストモルフィン、マジックラビット

ボスモンスター:ワイルドロップイヤー

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