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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
11章.ブレイク・スフィア(主人公視点 表:セシリア 裏:ドク)

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#6-1裏.進撃する強者達


 メイジ大学の二階での戦いは、熾烈(しれつ)を極めていた。

一階までとは明らかに異なる密度で湧きだすモンスター達。

これを蹴散らせば、次にはモンスターを取り巻きにしたメイジやウィザードといった魔法使い系のプレイヤーが壁となって立ちはだかる。

その多くが顔色を悪くしているプレイヤーばかりだったが、自分までもがレクトの餌にされている事には気づいていないらしく、健気にも俺達を足止めしようと全力で阻んでくるのだ。


「いくよっ、オーレリア!」

「任せてください!」


 少し広くなっていた、本来なら休憩所として使われていたであろう二階中央の広場。

ここで対峙したのは、ウィザードの男と女メイジのコンビだった。


『いでよゴーレム! 私の大切な人を護って頂戴!!』


 立ち位置的には、前衛のウィザードと後衛のメイジ、といった配置。

これに更にメイジの召喚によってストーンゴーレムが三体、ウィザードの護衛として現れた。


「オーレリアは僕が護る!! いくぞ、侵入者の人達!!」


 まだ少年の面持ちを残すウィザードは、手に持った水晶剣をかざしながら、俺達をきっ、と睨みつけていた。

中々の気迫。どうやらこいつはメイジの魔法詠唱の間の壁となるつもりらしかった。


「んじゃ、ウィザードは俺がひきつけとくわ」

「私はゴーレムを蹴散らしましょう。物理攻撃では若干手間取るでしょうから」

「そんじゃ、あたしは隙を見てメイジを片すとするよ」


 役割分担は即座に決まる。

この辺り、三人が三人とも戦い慣れてる分、迷いはなかった。

適材適所。

搦め手メインのウィザード相手にバトルマスターでは翻弄されてしまいかねないし、セキなら圧倒できるかもしれないが、俺とアノーリアではゴーレムに手間取る。

転移が使えればメイジなんて瞬殺できるが、流石に校内二階の座標なんてメモってないのでそれは難しい。


……まあ、合理的な配分と言えよう。

敵もPTプレイをしてくるなら、こちらもPTプレイで圧倒してやるだけだった。

決めることが決まれば、後は攻撃に移るだけ。

一気に駆け出す。


「オーレリアには指一本――触れさせるかぁっ!」


 既に闇魔法を付与させていたらしい水晶剣を構え、ウィザードが距離を詰めた俺へと攻撃を開始する。

動きはそれなりに速い。だが、振り下ろされた一撃をかわしてみれば、そこまで重い攻撃ではなさそうなのが見て取れた。


「――軽量武器じゃ必殺攻撃にならないぜ?」

『黙れよっ、ブラックサイス!!』

「ぬんっ!」


 至近距離から放たれる幾重もの闇の刃。

耐性の低い前衛職ならまともに喰らえばショットガンのように多段ヒットしてそれなりのダメージとなるだろうが、聖職者は魔法耐性が高いので、このくらいは気合で耐えられる。

つまり、真っ正面からのごり押しが可能だった。


『バジリスク――う、うわあっ!?』

「ははははっ! 悪いな少年! 俺を足止めするには火力が足りねぇ!」

『ち、ちくしょうっ、バインド!!』

「遅いぜっ!」


 かわすなり下がるなりを期待して別の魔法を使おうとしていたらしく、俺が突っ込んできたのに驚き慌てて魔法をキャンセルし、バインドで拘束しようとしていた。

メンタルダメージも受けるだろうに、その思い切りの良さは大したものだ。

だが、これも構わず突っ込む。

どうせ一撃で沈める。拘束されようが問題ないはずだった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「あばよ!」


 不死鳥の杖をそのまま深く構え、槍を突き出すが如くウィザードの喉元を抉る。

ぱき、と、軽妙な音が鳴り、悲鳴を上げていたウィザードはその場にがくり、膝をついてそのまま消えていった。

遅れて俺の身体を拘束し始めたバインドも、使用者が消えると共にあっさり解除される。

最初に使った魔法がバインドだったなら、また違った結果になったのだろうが。


「そんなっ、ルナール!?」

「おらぁっ、よそ見してる暇なんてないんだよ!!」


 こちらの戦いが決着したのを見て、メイジも驚きの声を上げていたが。

アノーリア相手にそんな余裕などないはずで、すぐに目の前の相手に必死の形相となっていた。

わずかな隙の間に肉薄してきたバトルマスターに、しかしオーレリアと呼ばれていたメイジは、恐れを見せない。


『よくもルナールを! ウォーターリング!』

「うおっ!?」


 眼を見開きながらの水魔法。

高速回転する水の輪がアノーリアの左足に絡まり、その進撃を妨害する。

突然の足元への攻撃に姿勢を崩してしまうアノーリア。

そこへ、メイジの追撃が加わるのだ。


『沈めぇ! ライトニング!!』

「うげっ――あああああああああああああああっ!!?」


 水に濡れた脚部を狙っての電撃魔法。

姿勢を崩したアノーリアにはかわせるはずもなく、脚部を中心に、一気に感電してしまう。

傍から見ていて「これはやばいか?」と心配になってしまったが、幸い即死はしなかったらしく、倒れそうになりながらもその場に踏ん張っていたのが見えた。

プスプスと煙を上げながらも、アノーリアは確かにその場に立っていたのだ。


「……へへっ」

「えぇっ!? そ、そんな、対人では必勝コンボだったはずなのに!?」

「そんなもんが必勝なのかい? レッドラインじゃ、雷の雨が降る事だって珍しくないってのに。サンダーストームを浴びたって生きられる胆力がなきゃ、あそこでは一歩も前に進めないんだよ!!」


 口から黒い煙を吐きながらも、にたりと笑って人間離れした事を言ってのける。

メイジが驚いているが、別にこれは彼女じゃなくても驚きだろう。

普通、人間は水なんて浴びてなくても電撃を喰らったら死ぬか瀕死になるのだから。


「――かわさなきゃ、死ぬぜ?」

「えっ……?」


 そうして、客観的に見て、もう勝負はついていた。

アノーリアの手には、斧が見当たらない。

ではその斧がどこにあるのか言えば――メイジの真後ろに、弧を描きながら飛んでいるのだから。

だが、メイジはそれに気づけない。


「――あぐっ!?」


 ああ、気づけなかった。直撃するまで。直撃して尚、何が起きたのか解らないまま。

どうして、と、意味が解らないとばかりに視線をうろうろとさせ、女メイジ・オーレリアはその場に崩れ落ちて動かなくなった。



「お二人とも、どうしてわざわざ喰らったんですか? かわせなかったんです?」


 アノーリアが勝利の余韻に浸る暇もなく、セキがため息混じりに問いかけてくる。

俺達が戦っている間、セキが何をしていたのかと言えば……俺がウィザードを倒すより早く、ほぼ一撃でゴーレムを蹴散らし、傍観していたのだ。

流石はあの団長の弟子というだけはあって、魔法耐性がないとはいえ、巨体を誇るストーンゴーレムを箒の一振りで瞬殺するその様は圧巻であった。

そんな天才ウィッチ殿には、俺達がわざわざ攻撃を喰らいに行ったのが不思議でならないらしい。


「決まってるじゃないか、『相手の必殺の一撃を真っ正面から受けて耐える』。これが一番勝った気になれる勝ち方だろ? なあ?」

「いかにも『圧倒しました』って感じになるもんな。不安要素が無ければ誰相手でもやるぞ」

「……慢心って言いませんかそれ? まあ、貴方がたは強いからいいんでしょうけど、相手が実力隠してたら痛い目に遭いますよ?」

「相手の強さが推し計れないようじゃ、まだまだって事さね」

「戦う前の時点である程度は察せないとな」


 セキは呆れるが、なんとなくでも相手の力量が測れて『手を抜ける相手じゃないな』と解れば、そんなバカげたことはやらないのだ。

これはあくまでちょっと意地の悪い自己満足でしかない。

ほんのちょっとの「俺はお前より強いんだぞ」というアピールをしたいが為の我が侭なのだ。見逃して欲しい。


「まあ、いいですけど……この先が階段ですかね」

「ああ、運営さんのマップデータ見た限りそんな感じらしいね。となると……」

「また何か(・・)いるんだろうな。今度は気を付けないとな」

「本当そうですよ。ドクさんは気を付けてくださいね」

「ははは。解ってる解ってる」


 流石に俺も二度三度同じことを繰り返すのは馬鹿だけだとは思うので、今回は慎重に上る事にする。

二階への階段は大したダメージにならなかったが、次の待ち伏せで即死しないとは限らないのだから。

それこそマンイーターでも設置されていたら洒落にならない。


-Tips-

ウォーターリング(スキル)

メイジ・バトルメイジの扱う水属性補助魔法。

攻撃能力は皆無の為これによるダメージはほとんど狙えないが、触れた相手を拘束する特性を持ち、これによる行動阻害を狙ってコンボに組み込む魔法使いは多い。

主には水属性による通電性強化を狙っての雷属性魔法での耐性無視コンボ『水雷コンボ』か、凍結によって完全に身動きを封じてしまう封殺狙いのコンボ『水氷コンボ』が好まれる。



ライトニング(スキル)

魔法使い系全般が扱う事の出来る雷属性の中級破壊魔法。

下位職でも努力次第では扱う事の出来る魔法で、下位職の扱える中では最強クラスの攻撃性能を誇る。

雷属性の為耐性の無い相手ならば即死ないし瀕死に陥らせることも可能。

反面術者自身も巻き添えになる恐れもある為近接状態での使用は厳禁となっており、使いどころは意外と制限される。


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