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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
11章.ブレイク・スフィア(主人公視点 表:セシリア 裏:ドク)

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#5-3裏.疑惑のイベントダンジョン


 イベント会場のメイジ大学。大盛況。

運営サイドによるアナウンス効果が絶大な効果を発揮したらしく、今さっきの話だったにも関わらず、入り口には多数のプレイヤーが詰めかけていた。

既に突入したプレイヤーも多いらしく、がやがやと賑わっている。

「これは……すごいことになってますねえ」

「ああ、思った以上にたくさん集まったなー」

上位職と思しき高級装備に身を付けた連中もいれば、初心者っぽい奴らもちらほら見かけ、この手の公式イベント特有のカオスさがよく表れていた。

「とりあえず、入るか」

「そうだね。準備は大丈夫かい?」

「私は大丈夫ですよ。それじゃ、早速――」

攻略、開始。

俺はまだ校内に入ってないので解らないが、この分なら一階部分はかなりの部分一般参加組に制圧されているのではないだろうか。

そういった期待も込めながら、一気に駆け出した。



「この扉を抜けたら、そっからがスタートラインだよ。死ぬとそっから先の記憶が全部消えちまう。後から言われても思い出せないから、重要な事を知ったら迷わず逃げを選択するべきだろうね」

先導するのはアノーリア。

二階のかなりの部分探索し、運営さんがそれをマッピングデータとしてまとめたという話だから、それを聞いたこいつに任せるのが妥当だと判断した結果だった。

「その辺りはさっき聞いたとおりな訳か。今回はばらけずにまとまってた方がよさそうだな」

「そうですね……事前の調査で一階には何もないのを確認してますから、二階へ急ぎましょう」

「ならこっちだよ、ついてきな!」


 大振りの斧を片手に、何の問題にもなっていないかのように走るアノーリア。

重装を身に着けず武器による一点突破を、というスタイルはローズを思わせるが、ローズと違って筋肉質な分、素早く動いているのを見ると余計意外に感じてしまう。

結構足が速いのだ。なるほど、魔法を苦手とするはずのバトルマスターでも、このタイプならある程度魔法職と渡り合えるに違いない。


『クピュラ、ケペペペッ』

「おらぁっ! 邪魔だよっ!!」

『グピッ』


 進行ルート上に立っていたパペットを、足も止めず粉砕していくアノーリア。

強い。この肉弾、勢いが止まる事がない。

「やりますね」

「はんっ、あんな雑魚を吹っ飛ばしたくらいで褒められてもねえ!」

セキに褒められるも、あくまで正面を向いて気にもしない、というスタンスを維持する。

だが俺は見た。褒められて前を向く前に、ちょっとだけ頬を赤くしていたのを。

意外と照れ屋なのかもしれない。


『うぽあ』

『はぷぷ……ボワァ』


 更に現れる、二つの黒い影。

近づくにつれ、それは形を成し……泥の人形『マッドゴーレム』としての姿を現した。

「――退きなさいっ」

これに関しては、セキが先手を打ってゴーレムが動き出す前に魔法を撃ち込んでいた。

置き魔法とでも言うのか、現れたばかりのゴーレムが、予め撒かれていた炎に巻かれ、そのままボロボロと崩れ去ってゆく。

多少の炎ならレンガとなって却って堅くなるはずだが、許容量を超えた炎には脆いらしい。

「大したもんだ」

「どういたしまして」

消滅してゆくゴーレムの脇を駆け抜けてゆく合間、今度はアノーリアがセキを褒める。

セキは照れたりせず、むしろどや顔でその称賛を受けていた。

この辺り、調子に乗りやすい奴なのかもしれない。


「こっから上が二階だよ! 結界とやらは大丈夫かい?」

「ん……問題ないですね。ばりばり吸い取れてます」

二階への階段前にて。

まずはセキが箒を突き出し、結界の効果を軽減させる。

箒を中心に、淀んだ空気がずいずいと吸い取られてゆくのが見て取れた。

中々の吸引力。だが、それだけ大量の魔力が、校内に流れていたという事にもなるだろう。

「これでよし……進んでみましょう。アノーリアさん、ここからは魔法職のプレイヤーもいたはずですね?」

「そうみたいだねえ。前回きた時の事は忘れちまったけど、運営さんはそう言ってた」

ただのでかい的でしかないゴーレムやパペットと比べて、幾分上等な相手が出る、という事。

プレイヤー同士の戦いになると聞けば、気合の入れどころはここから、という事になるだろう。

一階に関しては、あちらこちらで他のプレイヤーも戦っていたので緊張感も薄かったが、ここから先はそうもいくまい。

「私とエリスさんも二階は調査してましたが、箱の事ばかり気を取られていたので……他のプレイヤーに関しては、エリスさんがいたから気にもならなかったですし、ね」

俺から見ればセキは半端ないくらい強いはずだが、そのセキをして、エリスは別格らしい事が窺えた。

いや、エリスだけではなくアリスもやばいのだろう。

双子だし、あの団長の娘なのだからそう(・・)であっても不思議ではなかった。

「んじゃあ、ま、頑張ってみるか」

道中は一般参加組の奮戦やアノーリアとセキの強さもあって、俺が戦う事は全くなかったのだ。

ただ走っていただけ。「こいつら強ぇなあ」と思いながらその後ろについてきただけ。

さすがに情けなく思えてきたので、そろそろ戦いたいと思っていた。

折角新しいスキル覚えたし。試す相手が居ないでは虚しくなってしまう。


「ここからは、俺に任せな!」


 なので、啖呵(たんか)を切って一番に駆けのぼった。


『――侵入者め覚悟っ! グランドパニッシャー!!』

「うぉぁっ!?」


 そして、待ち伏せの置き魔法を喰らって見事に階段から転落していった。


「うぐ……いってぇ……」

「……惨めですねードクさん」

「いや、目立ちたいって気持ちは解るけどよ……階段って格好の待ち伏せポイントだろ?」


 階段から転落して女二人からジト目で呆れられる経験、プライスレス。

いや、金を貰ったって欲しいものかこんな経験。

「ちくしょうがっ」

「あっはっはっはっ! この階段は私の陣地よ! 防御に徹するメイジに勝てるかしら?」

大魔法の発動によって穴だらけになった階段上、どや顔で薄い胸を張りながら挑発する女メイジがいた。

『いでよスケルトン! 私を守るのよ!!』

更に杖を振り、取り巻きのスケルトンまで召喚し始める始末である。鬱陶しい。

そのドヤ顔に若干ながら腹が立ったので、思い知らせてやることにした。

手には不死鳥の杖。狙うは一撃必殺のみ。


「――勝ってやるよ」

「はっ!? いつの間に目の前に――バトプリかぁっ!」


 瞬時にテレポート。すぐに察する辺り勘が鋭いのか頭の回転が速いのか。

いずれにしても油断していた分の時間は取り戻せない。腕は振り上げられた。

『メイジ舐めんな! チェインライトニング!!!』

「ぐぉぉぉぉっ!」

肉薄するや、自爆覚悟の雷属性魔法を浴びるが、構わず腕を振り降ろす。

「甘いん、だよぉ!!」

「あっ――」

確かに痛いが、痛いだけだった。

殺せなくては意味がない。殺せなくては、防げないのだから。

振り上げられた杖の先端を女メイジの顔面に叩き付け、そのままはるか先の床まで吹っ飛ばす。

「う……うぅっ」

それでもまだ死んではいない辺り、魔法職としてはかなりしぶとい。

一撃必殺が一撃必殺にならないのが、今の上位プレイヤーとの戦いというものらしい。

「油断、したわ……でも、でもまだなんだからぁぁぁぁぁ~~~~っ!!」

がなり立てながらなんとか歯を食いしばり立ち上がろうとするメイジ。

正直メイジにしておくのがもったいないくらいに根性がある。

魔法の威力は大したことないがそこは本当にすげぇ。

ただまあ、何をしでかすか解らないのだから、再起などさせるつもりもなかった。

スケルトンも俺の方に寄ってきている。鬱陶しい。

「悪いな、油断してなきゃ敵でもねぇ」

「――ぐぇっ」

当然、追撃は欠かさない。

息の根が止まるまでは殺し続けるのが鉄則だ。その辺り、責任はきちんと持つ。

女メイジにとどめを刺せば、スケルトンはそのままがらりと崩れ落ち、消滅していった。


「まあ、こんなもんですかね」

「結構しぶとい方だったけどなあ、今の奴も」

消え去っていった女メイジを見ながら、セキとアノーリアもゆったりとした様子でついてくる。

「肉薄した時に使われたのがスタンロッドだったら、ドクさんが負けてたと思いますが」

「バトルメイジじゃなくてよかったよな」

中々に辛らつな意見である。思わず苦笑した。

「お前らな……折角勝ったんだから、少しは褒めろっての」

女同士ではキャッキャッと褒め合ってたのに、俺が勝った時には皮肉を向けてくるのだからたまらない。

「いやだって……あれくらいは余裕で倒せて当たり前ですし」

「レッドラインじゃ通用しないレベルだよ、あれは」

こいつらの要求ラインが高すぎるのが問題らしい。おのれ魔族と攻略組。


「とりあえず二階へ急ぎましょう」

「門番も倒した訳だし、上からぞろぞろ増援がくるかもしんないからね。急いだほうがよさそうだ」


 話もそこそこに、奥の方から騒がしくなっていく音が聞こえ、二人は武器を構えて先を見据える。

確かに、こんなところでおしゃべりもないだろう。

楽しいイベント攻略の時間は、ここからが本番なのだから。


(しかし……)


 一階ががやがや遊べる場所として用意されたとして、二階、三階と進むにつれ難易度が上がるのだとすれば。 

今の階段上の『門番』のように、随所に似たような上位プレイヤーや、強力なモンスターなどが用意されているのかもしれない。

だが、それではまるでゲームのようで。

女神様と話していた時に聞いた、レクトの不可解な行動が、妙にプレイヤーサイドに偏っているように思えてならなかった。

そう、本当にただのイベントのように思えてしまったのだ。

何も知らなければ、そう(・・)と思わなければ。


 もしかして俺達は、今までもこんな感じで、知らず知らずのうちに『誰かの企てた謀略』を、イベントと言う形で攻略させられていたんじゃないだろうか。

そんな疑問を今更のように抱き、『今はそれどころじゃないから』と、そっとしまい込む。

戦わなければならない。攻略しなければならない。

それは強迫観念なのか、プレイヤーとしてこの世界に降り立った者の本能なのか。


 抗い切れないその性に、俺もまた、飲み込まれそうになっていた。


-Tips-

チェインライトニング(スキル)

メイジ・ウィザードの扱う雷属性魔法。

対象一体に対し雷撃を加えた後、その雷撃を周囲の他の対象に向け共有させるという特性を持った魔法で、対象には術者本人も含めあらゆる生物・オブジェクトなどが含まれる。

雷属性の為発生までの速度が速く、感電による麻痺・即死判定も狙えるなど非常に強力な追加効果を持っているが、聖職者や魔法職などの魔法抵抗の高い職業に対してはこれらのバッドステータスが付与されず、魔法そのものの威力もそこまで高くはない為、相手によっては決定力に欠ける魔法となっている。


また、近接状態で用いるともれなく術者本人が感電する事になる為、使い勝手も今一という微妙この上ない扱いになっているのだが、スキルとしての拡張性が高く、対象拡大や射程距離伸長などオリジナル要素を加味する事によって優れた魔法に化ける事でも知られている。


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