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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
2章.取り巻く世界(主人公視点:ドク)

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#5-1.バイト天使プリエラ

 日々の現実を終え、ゲーム世界へのログイン。

真っ暗闇から、眩く目を刺す太陽の下へと降り立った俺は、しばしその空気を身に感じながらも、ボーっと立っていた。

別に、そうしようと思ってそうしているのではない。


これは身体が完全にゲーム世界と接続しきっていない状態。意識だけがゲーム世界に飛んでいる状態だ。

これが数秒間続き、完全に身体の方がこちらに接続し終わると、ようやく動けるようになる。

この『意識のゲーム世界への移動時』は他のプレイヤーやモンスターからは俺という存在を認識できず、他プレイヤー視点では身体がこちらに接続された時点でようやく視覚的に認識できるようになる、らしい。

このタイムラグが実はかなりの曲者で、何かの間違いで狩場でログアウトした場合、次回ログイン時に周りがモンスターハウスでした、なんて事になってて絶望してから、対策を考えたり完全に状況を把握しきる前に身体の方がモンスターに認識されるようになったりするため、一部プレイヤーからは『絶望感だけを味わう酷い要素』という扱いを受けている。

とはいえ、気が付いたらボコられてました、とかよりはよほどマシだと俺は思うが。


「あ、ドクさんじゃん。おはー」

「おは」

たまり場には、一浪とラムネ。珍しくも男ばかりであった。

「よう。なんていうか、色気もへったくれもねぇな」

見事なまでにむさくるしい。

「気があうな、俺達もそう思ってたところだ」

「僕は別に……」

皮肉げに返してくる一浪と、さほど興味もなさそうにそっぽを向くラムネ。

相変わらず協調性のない奴らだった。

とりあえずいつもの岩の上に腰掛けようとしたところ、ふと思いつき、それをやめる。

「どうしたんだ?」

「座らないの?」

それが妙に見えたらしく、二人して聞いてくる。

こんな時は揃ってる辺り、よく解らん奴らだ。

「気が変わったんだ。なあ一浪、こないだお前が話してた店に行こうぜ」

「俺が話してた店……? ああ、『プリムローズ』の事か?」


そう、なんとなしに思い出したのだ。

可愛い女の子が一杯いるのだというファミリーレストラン。

一月ほど前に開店したのだと一浪が話していて、その時は適当に聞き流していたが、今になって気が向いた。


「うむ。それに行こう、勿論三人でな」

「マジかよ」

「僕やだよ……」

流石に突然すぎたからか、一浪もラムネも露骨に視線を逸らす。

心の準備とやらができていないらしい。

「お前ら、行った事あるのか?」

「いや、ないけどな? なんか、逆に勇気が要るっていうか、入り口からしてピンクっぽくってさ……」

「僕も外から見たことあるけど、店の中も女の子ばっかりですごく入りにくそうだったよ」

我がギルドの男連中はチキン揃いだった。

なんとも嘆かわしい。こんな事でやっていけるのかと心配になってしまう。

「よし、それなら行くぞ。なあに、なんてことはない。俺がついてる。俺に任せておけ!」

女だらけの楽園如き俺には慣れたモノだ。

下手に触れなければハラスにならんだけ、ゲーム世界の方がよほどハードルが低いというものだった。

「まあ、ドクさんがそこまで言うならな……俺もちょっとだけ興味あったし」

「僕は遠――」

「よーしでは多数決で決定だ、いくぞっ」

否定的な意見など耳に入れない。

この場合男に必要なのは慎重さではない、勢いなのだ!!

「おうよっ」

「わわっ」

引き込んだ一浪と共に、ラムネの手を引き走り出す。

軽い。小童(こわっぱ)一人、大の男二人がかりならなんと軽い事か!

「ふははははっ」

「はははははっ」

「わ、わーーーーっ」

気がつけばラムネも少し楽しそうにしていた。

こういうの、結構やられる側も楽しいんだよな。



「さて、到着だ」

「ああ、着いたな」

「着いちゃったね」

プリムローズ・到着。

リーシア東の通りに開店したこの店は、周りにこれといって目立つランドマークがない為、瞬く間に東通りの象徴となっていた。

見た感じから伝わるピンキーな雰囲気。

いかにも「男の人お断りですよ」と言った感じの空気がぴしぴしと伝わり、男には入ることはおろか、近づく事すら勇気が要る物件となっている。

星型のファンシーな木造建築にピンク色の塗装。

看板の文字まで可愛らしい丸文字と、かなり女の子向けを意識した店構えとなっていた。

正直、異世界チックなこの世界観にはかなり不似合いというか、浮いている。

「……よし、入るぞ」

「お、おう」

「……ごくり」

とりあえず、入らないことには始まらない。

気合を入れ、二人の先頭に立ってドアのノブを絞り……引いた。


「ぐぉぉぉっ」

「う、うわぁっ」

「あ、あああ……」

俺達の眼に飛び込んできたのは、キラキラと輝くピンク色の世界。

眩しすぎる。恥ずかしすぎる。逃げたい。

歴戦を戦い抜いたはずの俺でも、これは耐え難い!


「いらっしゃいませ~」

しかし、逃げようにもすぐ後ろには一浪達が立っているし、ドアを開けた俺の前には既に店員が控えていて、にこやかあに出迎えてくれていた。

黒いフリフリのミニスカート、絶対領域映える白いサイハイソックス。

胸元を慎ましく隠す白いブラウスに黒のエプロン。だが隠しきれていない。

首もとの黒いチョーカーが首輪のように見えて背徳的に感じてしまうのは狙っているのか。

そして肝心の顔は――


「……ドクさんじゃん。何やってんの?」


――とてもよく見慣れたギルドメンバーであった。

「プリエラ、お前こそ何をしている」

一瞬我を失いそうになっていた俺達だが、見慣れたその顔のおかげで落ち着くことができた。

プリエラさまさまというか、逃げる機会を失ったというか。目が辛い。

「私はバイト――あっ、一浪君とラムネ君もいるんだね。おはーっ」

「あ、ああ、おは……」

「おはよ」

まさかのバイトだった。しかも結構慣れてる様子だ。

見れば一浪もラムネも居心地悪そうにしていた。このままでは逃げ出しかねない。

「三名だ。案内してくれ」

とりあえず逃げ道を潰しておく。俺一人で捕まったままでいられるか。

男三人、死ぬ時は一蓮托生(いちれんたくしょう)だ。

「うん、解ったよ。三名様ごあんないで~す」

よく通る声で奥の方へそう告げると、プリエラはどこからか水差しを手に、にこにこ顔で前を歩く。

「ついてきてね」

ぱちりとウィンク。中々の攻撃力だった。

「うむ……」

俺はそれなりに見慣れてるので致命傷で済んだ。

「かはっ」

一浪、直撃を受けたらしく瀕死の重傷。

「……」

ラムネは視線を逸らすことで器用に回避したらしい。中々見所のある奴だ。



 席へと案内され、着席。

一浪が窓側の席に、俺がその隣に座り、ラムネが俺の対面に座る。

「しかしなんだな、お前がバイトしてるとは思いもしなかったぞ。コーヒーゼリーとコーヒー、ブラックな」

渡されたメニューを見て注文を告げる。

特にこれといって代わり映えのあるメニューはなかったので、無難なものを選んだ。コーヒー万歳。

「ちょっと生活費が苦しくなってきたからねー。できる範囲でなんとか頑張らないと。コーヒーゼリーとコーヒーのブラックですねー」

「その制服、すごく似合ってると思うぜ……?」

一浪、妙に落ち着かない様子でチラチラとプリエラのスカートを見る。ある意味ブレない奴だ。

「ほんと? ありがとー。うれしいなーえへへー」

「ホットミルクとホットケーキ。チョコレートがけで」

「ホットミルクとホットケーキのチョコレートがけですねー。かしこまりましたー。一浪君は?」

俺とラムネが注文を終えたのに対し、一浪はプリエラの制服をチラ見するので精一杯らしかった。

メニューなんて眼中にねぇ。思春期かこいつは、と。少し呆れてしまう。

だが気がつけば俺もスカートに釘付けだった。俺はまだ思春期真っ只中なのかもしれない。

「うえっ? え、えーっと……こ、これ! これをくれ!」

一浪、名指しされて慌ててメニューを開いて、ロクに見もせずに適当なものを指差す。

「え……う、うん。解りましたー。イチゴ練乳焼きうどんですねー」

「えぇっ!?」

ぎこちなく首をかしげながらも指差されたメニューを繰り返すプリエラ。

それを聞いて仰天する一浪。コントだった。

「罰ゲームメニューか」

「自分から選ぶなんて果敢だね」

俺もラムネも助けてやることはできなかった。

自分で選んだ道だ。死ぬほかあるまい。


「――それじゃ、ご注文の品が来るまでお待ちくださいませー。またー」

ニコニコ笑顔のまま注文を取り終えて去っていくプリエラ。

口調はともかく愛想はかなり良いし、制服姿は確かに似合っていた。

ミニスカートなのが特に良い。膝上何センチなのかがちょっと気になってしまった。

「……良い店だな」

「一浪さん、鼻の下伸びすぎだよ」

珍しくラムネが突っ込みに回っている。貴重な光景だった。

だが、そうなる気持ちも解らんでもない。確かに今の一浪はちょっと恥ずかしい。

「あんまチラチラと周り見るなよ。他の客から見られてるぞ」

「えっ?」


「このお店に男のお客なんて珍しいわねぇ」

「でもなんかやらしー感じー。店員さんのスカートばっかり見てたよ?」

「落ち着いてお茶できるお店なのに、変な勘違いした男っていやよねー」

「パンツが見たければ自分で履けば良いのに」

「ていうか司祭服にサングラスは悪趣味よね。マスターもそう思わない?」

「えっ、私は結構良いと……いいえ、なんでもありませんわ」

「あの小さい男の子かわいいなあ」

「かわいいよねー。おもちかえりしたい」


……一部、俺に対しての風評被害もあったのは聞かなかった事にする。

ていうかラムネ、年上にモテモテだな。


「でも、なんていうか、アレだよな。女って、こういう空間でお喋りしながらお茶してるんだよな……」

ようやく落ち着いてきたのか、頬をぽりぽり掻きながらに一浪が感想を話す。

確かに一浪の言うとおり、メニューを見る限りは(一部料理除いて)普通のレストランと大差ないのだが、ちらりと周りを見ても、デザートやお茶を楽しんでる客はいても、料理を食ってる客はほとんどいない。

女友達同士でお茶をする為の店、という立ち位置なのだろうか。

さほど茶の種類がある訳でも、デザートが豊富な訳でもないのだが、店舗の造りがそういった雰囲気にマッチしているのかもしれない。

「でも、やっぱり僕たちには居心地悪いね……?」

ぽそぽそと呟きながら、ラムネがメニュー脇に置かれていたガラスのコップに水を注いでいく。

「女ばっかの場所には慣れてるつもりだったが、意外としんどいな」

それを受け取りながら、俺も素直に今の気持ちを吐露する。

「でも、確かに店員の女の子のレベル高ぇよなあ」

ぽーっと通り過ぎていく店員を見て呟く一浪。

通り過ぎた店員が苦笑していた辺り、その視線の向く先もバレバレなのだろう。

まあ、多くは言うまい。


-Tips-

食文化(概念)

『えむえむおー』世界においては、多種多様な食文化も特徴の一つとなっている。


基本的な部分ではレゼボアの文化基準に則った食材・料理・加工品などが存在しているが、モンスターなどのゲーム世界固有の生物より獲得した食材を活用する事により、ゲーム世界でしか味わう事の出来ないオリジナリティ溢れる料理を作る事も可能となっている。


また、『えむえむおー』世界では異世界の食文化も存在しており、栄養摂取効率優先のレゼボア料理と比べこれらの需要は非常に高い。

ゲーム世界で生きていくためには欠かせない食料品であるが、そういった分野においてもゲーム世界では嗜好重視の波が押し寄せていると言える。

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