#2-2.タイムリープ・メイズ
こうして、新たに私の意見を元に、彼が工夫を凝らして作った結界が、大学の内部に張り巡らされた。
・『侵入者』は死亡した場合、それまでに校内で得た記憶やアイテムなどを失い、入り口に戻される。
・守り手のプレイヤーが死亡した場合、記憶は維持したままだが一定時間校内に戻る事が出来ない。
・侵入者は、誰かしら一人でも校内に囚われたままのNPCや『パンドラの箱』、何がしか学長の野心に関わる証拠品などを持ったまま脱出することが出来れば勝利条件達成となる。
侵入から一時間以内に目的を果たせなければ強制的に敗北扱いとなる。
・守り手は、侵入者が全ていなくなるまで防衛対象を守り続けられれば勝利。いずれかの対象を持ったまま侵入者の脱出を許した時点で敗北が決定する。
・侵入者・守り手双方とも、校内での殺人は『えむえむおー』ゲーム内での殺人行為にはカウントされない。
こういったルールの元編み込まれた結界は、夜間の間だけスイッチが起動し、発動される。
夜の間だけ別のゲームになるという事。
勿論、侵入者にとっては意味不明の現象に悩まされるでしょうけど、こちらもあちらも実質死のリスクが0になるし、お互い全力で戦えるのであながち悪い事ばかりでもないと思う。
ルールの存在については、私とレクト以外の人には自力で気づいてもらう事になるでしょうけど。
夜が近づくにつれ、学徒たちが去ってゆく。
校内は次第に薄暗くなってゆき、結界のスイッチが切り替わる。
――ゲームが、変異していった。
「はぁっ、はぁっ――くそっ!」
レクトの語った通り、運営サイドの回し者と思わしきプレイヤーが侵入してきたのは、その晩からだった。
動きの素早い剣士系と思しきプレイヤーが、一階の監視球に姿を照らし出され、その存在を主へと伝える。
すぐに守り手が出現し、これを迎撃。戦闘が始まった。
「――追い回されてばかりだと思うんじゃねぇぞ!」
対峙するや、剣士はすぐに踏み込み、剣を抜きながらに距離を詰める。
一撃必殺の剣筋。その動きの迷いの無さから、中々の腕前だと見受けられたけれど。
「――グヤァ」
赤黒いローブを身に纏った守り手は、その剣を腕で受けながら、ニタリと笑っていた。
痛覚など存在しないかのような無茶苦茶な防御に、剣士は戦慄する。
そうして、守り手が腕を振り上げるや離れようとしたのだけれど、足には既に、泥の様なぬめった呪いが足枷のように食いついていたのだ。
「ひっ、あっ――なんだ、これ、なんなんだっ、お前らは一体――」
「イェグァッ」
ぱしゃりと、水の弾けるような音が鳴り、剣士の叫びはそこで終わった。
後にはザクロのようになった元人間の姿と、ローブからこぼれ出た、泥人形のような顔の守り手の姿。
「――まあ、並の侵入者程度ならこのくらいの『ゴーレム』で十分だな」
「そのようね」
映像魔法の前で、事の成り行きを見守っていた私達は、戦闘の終了と共に映像への興味を失くしていた。
空気状に張り巡らされ身体を束縛する魔素の結界。
校内の至る所に照明として設置されているサーチウェイブによる監視網。
そして監視カメラとして定点監視するスパイボット。
守り手の数を補うべく、泥の巨人『マッドゴーレム』や木工人形『パペット』を用いてこれを定点防衛の要としている。
――パンドラの箱を用いた応用技術と、それまでのメイジ大学の技術の粋を集めた多重防衛システムが、ここにあった。
「これで、今のところ校内に侵入しているのは、後四人」
「単独行動が二人、残りの二人は……一緒に動いているのかしら、ね?」
「恐らくな。だが、動きが最も拙いのもこの二人のようだ」
サーチウェイブが認識している侵入者の配置図は、小さな『点』として表示される為、誰が侵入してきたのかまではスパイボットが捕捉するまで解らない。
ただ、動きの速さや移動時の物陰への隠れ方などを見る限りで、とりあえずの侵入者の『冒険者としての熟練度』がそれとなく読めてくる。
そういった考えの元見ると、二人で行動している人達はのろのろと、あまり隠れたりせずに歩いているように見えたのだ。
「最優先目標は最も動きの速いAか。だが足が速いだけではこの三階にたどり着くことはできまい」
「二階にはゴーレムやパペットだけでなく、プレイヤーも守り手として配置されているものね」
「うむ。魔法耐性がなければそこで終了だ。仮に抜けられたとして、二階と三階との間には『門番』も設置してある。守りは完璧さ」
そうこう話しているうちに、二階に上ってすぐの場所で目標Aの反応が消失。
直後に入り口にAの点が生まれたので、これにより彼は死亡したことが確認された。
Bはというと、定点監視に映り、姿を確認する事が出来た。
ブルマを履いていたので恐らくはモンク。
二階への階段前の通路でマッドゴーレム三体を相手取り善戦していたものの、不利を悟るや引き返していった。
「引き返すだけの判断力があるという事か」
「優秀な冒険者のようね」
戦闘において重要なのは、何も勝利する事だけに限らない。
彼らのように、『目的を果たして帰還すること』が目的なら、目先の勝利に釣られて負傷などしては本末転倒となる。
無理に戦って傷を負うくらいなら、すぐに「これは手間取る」と判断して逃げてしまった方が賢い判断といえた。
何せ、ゴーレムもパペットも、あまり足は速くないのだから。
「……CとDは、さっきから一階部分ばかり回っているようだな。道に迷っているのか……?」
「確かに、そんな風にも見えるわね……何をしているのかしら?」
不思議なのが、ずっと一階をあっちいったりこっちいったりしている二人組。
動きはのろのろとしていたし、物陰に隠れる気もあまりないらしく、のんきに歩き回っているように見えた。
「一応、入り口には『夜間進入禁止』と張り紙をしてあるのだが……もしや、ただ迷い込んだだけの生徒なのだろうか? だとしたら迎撃するのも気が引けるのだが」
運営サイドに対しての反乱なんて企んでいる割には、彼は学長として良心的過ぎた。
NPCに対しては容赦なく実験台にしているのに、人間相手にはそれができず、躊躇しているところからも窺えたけれど。
「ううん……とりあえず、様子を見てきましょうか?」
「うむ。頼む」
彼はいささか、人が好すぎる。
とはいえ、確かに無関係の人が偶然迷い込んでゴーレムやパペットの犠牲に、というのは例え死なないにしても後味が悪いので、とりあえずの確認と忠告、それから退去を促す事には賛成だった。
-Tips-
パペット(モンスター)
『木工人形』という、高位の魔族や魔法職系のプレイヤーが創造する事の出来る魔導人形の一種。
製造者の設定した場所に配置する事で侵入者を迎撃したり、製造者と共にモンスターに攻撃をしたりする。
使用される木材によって性能が大きく変わり、術者が製造の際に用いる魔力によって耐久性が大幅に変化する。
そして製造者が込める想いの強さによっては自我が芽生える事もあり、製造者に対しての愛着や思慕、あるいは恐れなどを抱くようになる。
使い捨ての防衛兵器として用いられる場合、造形は人型であればさほど拘られず、雑な造りになっていることがほとんどである。
スケルトンなどの召喚モンスターと比べて対衝撃耐性が高く、斬撃もある程度は耐えられる。
部位欠損にも強く、関節がもがれた程度では自力で付け直すことができ、首を切断されても全く動きに支障が無い。むしろ頭を投げつけてくる事すらある。
反面木材の為どうしても炎に弱く、多少の火ならば自力で鎮火できるものの、それが不可能なほどの炎に包まれるとあっさり焼失される。
水に対しても耐性が高い訳ではなく、大量の水を浴びる事によって水を吸い過ぎて自重が重くなり、身動きが取れなくなることもある。
また、聖属性にはめっぽう弱く、攻性奇跡や聖属性魔法の前にはなすすべもなく溶け落ちるなど弱点が多い。
一方で、工芸品として愛されるケースもあり、『生きた人形』として作られるこれらの品は戦闘用のパペットと異なり非常に愛らしく造形されており、人々に愛でられ長く存在することができる事も多い。
このような用途を目的として作られたパペットも戦闘用として用いることはできるが、この場合どちらかというと製造者にとっては守るべき者、もしくは愛すべき相棒として掛け替えのない存在となっており、パペット自身も少しでも主人が楽に戦えるようにと、パペットらしからぬ高い知性を見せる事もあると言われている。
種族:無機物 属性:地
備考:聖耐性-200%(即死)、炎耐性-100%、水耐性-20%、打撃耐性40%、斬撃耐性30%




