#10-2.リアルサイド15-現実世界デート2-
歩く速度は同じくらい。
背丈の差は、足の長さの差。歩くリーチの差。
当然気を遣いながら、サクラの歩調に合わせて歩く。
「先生もスーツ姿、素敵だと思います」
まだ話は繋がっているらしく、サクラが俺を見上げながら、にっこりと微笑む。
身長差、大体40cm。
この笑顔は、正面か真隣か、俺の方を向いていてくれるからこそ見える笑顔だ。
独占するのは中々にいい気分になれそうなサクラスマイル。
だが、やはりというか、帽子が邪魔な気がする。
「サクラは、前に外で会った時も帽子を被ってたが……結構帽子好きなのか?」
ゲームの中では被ってなかったよな、なんて思いながら、折角の金髪を隠す大き目の帽子を指でつん、と突っつく。
「はぅっ……ぼ、帽子は、被ってないと、髪が隠れないので……」
「隠したいのか? もったいないな。折角綺麗なのにな」
「……はぅ」
勿論顔だけでも十分美少女だが。
天然の金髪という、他にはまず見ないであろう最強の武器を持っているのに、それを隠したがるのがもったいなく感じる。
俺にはまだ欲求の対象としては見られないがそれでも、さらさらとした金髪は、サクラにはとても似合っていると思っていたのだ。
「まあ、隠したいなら仕方ないな。無理させたい訳でもないし」
帽子だけで隠しきれる長さではないと思ったが、どうやら帽子に細工があるらしく、あれだけ長い髪が、全く見えなくなっている。
それだけ、人目に付かせたくないものだったのだろう。
ハーフとして生まれると、その容姿自体が目立ちすぎて、それに苦労させられる日々を送ると聞く。
サクラもきっと、それを気にして隠そうとしていたんだろうと察して、それ以上は気にしない事にしようと思った……のだが。
「……先生は、金髪の方が、好きです……?」
「うん?」
「あ、いえその……高校になったし、無理に帽子を被るのも好きではないので……いっそ、髪を染めてしまおうかな、とか思ったり……」
「ふむ。それはそれでいいんじゃないか? 俺は金髪にこだわりはないから、サクラが何色でも態度変えたりとかはしないが」
「何色なら、好きですか?」
「特別好きな色は無いな。ただ、サクラには金髪の方が似合うと思うが」
本人にとってはとても大切な問題かもしれないが、俺にしてみれば、サクラはやはり金髪の方が似合っていると思えた。
色を変えるという事は、髪だけでなく眼の方もカラーなどを入れるつもりなのだろうが、もしそうやって色を変えたとしても、顔だちの方が少々、不似合いに思えるのだ。
サクラはやはり、金髪碧眼の方が顔の造りにマッチしている。
異世界の美少女風の、そんな雰囲気を感じてしまうような整った顔立ちをしていたのだ。
これが仮に、サクヤのようにもっと子供っぽい顔立ちなら違ったのかもしれないが。
「……私に似合うのは、やっぱり金髪ですか……はぁ」
「いや、好きな色でいいとは思うけどな。俺の事なんて気にせずに、自分で似合うと思う色にしろよ」
「……そうなんですが」
少し困ったように立ち止まり、視線をショーウィンドウへ。
鮮やかな服の並ぶ中、サクラの視線が向くのは……ガラスに映し出された自分の姿だった。
「試しに、黒髪にしてみようかなって思ってシミュレートしてみたんです。憧れだったんですよ、黒髪」
「ああ、ゲームでもそうだったもんな。そうか、あれがサクラの憧れだったのか」
「ナチみたいになりたいなあって、ずっと思ってたんです……だけど、これが思いのほか自分に似合ってなくて……はぅ」
一応実行に移す前にシミュレートする辺り、サクラの真面目さが良く表れていると思う。
これが適当な奴ならそのまま勢いで特に考えもなく自分の好きな色に染めてしまうのだろうが、きちんと利用できるモノは利用して、変わった後の自分を検討できる冷静さが、サクラにはあったのだ。
「眼がいけないのかなあ」
「輪郭の問題だと思うがな」
「……整形しないと?」
「いやぁ、流石にそれはどうかと思うが」
「ですよねえ」
少女の悩みは尽きないらしい。
どんなに違う色合いに憧れても、肝心の自分の顔がそれに似合っていないのでは、ショックも大きいだろう。
顔か髪、どちらかしらに折り合いをつけないといけないのだ。
勿論整形という手段もない訳ではないが、折角の希少な異世界風美少女顔がどこにでもいるようなレゼボア風の顔になってしまうのは、サクラにとっても周囲にとってもとんでもない損失に思えた。
幸い、そこに至る前に踏みとどまってくれているようだが。
「せめて、先生が可愛いなあって思ってくれるなら、金髪も少しは……好きになれるかもしれないのですが」
「可愛いぞ」
「えっ」
「可愛いぞ。めっちゃ可愛い。金髪最高だ」
とりあえず少女の悩みを少しでも和らげられるならと、俺は自分の趣味を変えた。
サクラは可愛い。金髪は最高だし、無茶苦茶好みだ。
そう言う事にした。
「~~~っ、そうはっきり可愛い可愛い言われると、すごく照れるというか」
「好きになったか? 金髪」
「……先生が好きでい続けてくれるなら」
「金髪最高」
「ん……ちょっとだけ好きになりました」
「それは何より」
頬を赤く染めながらも何かに納得したのか、ぱさりと、帽子を手に取る。
ふわ、としたいい香りと共に、隠されていた鮮やかな長い金髪が露わになった。
それまで全く表に出てこなかった、金糸のように輝くサクラのトレードマーク。
手で押さえるその仕草込みで、間違いなくサクラが綺麗だと思えるような、強烈な個性。
まだそれを見て胸が高鳴る事はないが、確かにそれは、俺が好きなサクラらしさであるように思えた。
「行くか」
「はいっ」
先ほどよりは軽い足取りで歩き出すサクラ。
ずっと気にしていたのかもしれないが、それがこのやり取りで少しでも軽くなったなら、デートの効能という奴は中々に有意義なものなのかもしれない。
いつもサトウの奴に連れられている時は「面倒くせぇな」と思ってはいたが。
サクラとのデートは、そんな感情微塵も湧かないくらいに、足がすぐ動いてくれた。
-Tips-
インビジブルハット(アイテム・服飾)
レゼボア最上層の高い技術力によって開発された『任意の部位を隠すことができる帽子』。
帽子で覆われている部分と接触している部位(髪や耳など)が帽子のインビジブル効果によって透過され、
地肌のみが見えるようにしたり、髪の一部分のみが見えるようにすることが可能になるものである。
また、それらとは逆に無いはずの髪を見せたり、長く装わせる事も出来る。
髪の色を隠したい異世界人とのハーフや異世界人、脱毛症や白髪などに悩む者の為に『NOOT.』が個人的に気まぐれで開発したもので、
低価格ながら公社開発局では開発できない水準の技術が用いられている。
デザインは女性向けの可愛らしいモノや男性向けのシルクハット型、スポーツハット型など多岐に渡り、オーダーメイドも可能である。




